「僕にとっては、日本にビジョンがあった時代」。平成が終わる今、ある写真家が昭和のシンボル『団地』に注目する理由

Text: Yuki Kanaitsuka

Photography: STORM LUU unless otherwise stated.

2018.12.28

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2018年の5月。清澄白河にある工場跡のギャラリーで一風変わった写真展が開催された。「DANCHI DREAMS 団地の夢」というタイトル通り、どこか幻想的な夜の団地の風景が会場に並ぶ。主催者は、フリーランスのアートディレクターでフォトグラファーのCody Ellingham(コーディー・エリンガム)。「DANCHI DREAMS」は個展開催後、 世界最大のクラウドファンディングプラットフォームKickstarterで、国内外の200名近くから180万円を超える支援を集めて、10月には写真集が完成した。ニュージーランド人であるCodyは何故、日本の夜の団地を撮るのか、そこにはどんな思いが込められているのか。話を聞いてみた。

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Cody Ellingham

団地には日本が元気で希望に満ちていた時代に見た夢がつまっている

ニュージーランドで生まれ育ったCodyは大学時代に留学生として初めて日本に来た。卒業後は、移住のために日本のデザイン会社に就職。日本に興味を持った理由を聞くと「インスピレーションだよ。ある時、そうだ日本に行こうとひらめいたんだ」と答えが返ってきた。

留学していた際には、寺山修司、三島由紀夫など昭和の日本の文学に夢中になった。「留学というより、遊学かな」。流暢な日本語で冗談交じりに話す彼だが、文学に留まらず、映画や音楽、演劇など日本の文化にかなり詳しい。とにかく昭和のものが好きだという彼が、本格的に写真を撮り始めたのは社会人になってからだ。デザイン会社に勤めていた頃に、夜な夜な人がいなくなった東京の街を撮り歩く活動を始めた。その後、団地の写真を撮ることになったのは偶然の出会いがきっかけだった。

ある夜、たまたま東京の水道橋近くの団地を撮ったことがあったんだけど、出来上がった写真を見て、そこにストーリーがあると感じたんだ。それからだね、団地を撮り続けるようになったのは。

初めはなんとなく魅かれて撮った団地。興味を持って歴史や背景を調べるうちに、どんどんテーマが深まっていったそうだ。個展と写真集のタイトルになっている「DANCHI DREAMS」にはどんな意味が込められているのだろうか。

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DANCHI DREAMS 
Photography: Cody Ellingham

実はタイトルには複数の意味を込めてるんだ。ひとつは、日本で団地が輝いていた60年代に生まれた子どもたちが夢見た未来。今よりもっと豊かな国。ニュージャパン。もうひとつは、みんなが寝静まった夜、姿の見えない団地の人たちがみている夢。そんなふたつの意味がある。写真の構図も夢の中で空を飛びながら見ている視点、色味もこの世のものじゃないような雰囲気を意識して撮ってるんだ。

写真集を手に取ると、冒頭に空を見上げる子どもの銅像の写真がある。かつて誰もが豊かな未来を信じていた時代が、輝く未来を夢見る子ども達の姿と重なる。その後のページに並ぶのは、Codyが日本全国を旅する過程で撮りためた夜の団地の風景。ページをめくっていると何故か懐かしい気持ちになる。

日本人は少し上の世代だと多くの人たちが子どもの頃に団地に住んでたから懐かしさを感じるのかも。ただの建物ではなくて、多くの人が生まれ育った場所だから、人の心と深く結びついている場所だと思ってる。僕は住んだことがないから直接関係はないのだけど、だからこそよくある日本人の視点とは違った、客観的な視点で他人の懐かしさを撮りたいと思った。

写真集の中にはたくさんの団地が登場するが、どこにも地名や団地名が入っておらず、どこか架空の世界のような印象を受ける。最後のページは夜明け前の白みがかった空を背にした団地の写真だった。ひとつの大きな団地を真夜中から夜明けまで散歩しているイメージで編集したという。60年代から現在まで約50年間の時代の流れを一晩で、日本全国の団地をひとつの場所として表現しているのだ。

夢から醒めた後、社会にビジョンのない時代を私たちはどう生きるか

1960年代。団地族という言葉が流行した当時、団地は都会的な新しいライフスタイルの象徴で、羨望の的だった。今はどうだろうか。「DANCHI DREAMS」で、かつての日本が夢見た未来と現在の姿を重ねたCodyに、今の日本についてはどう思っているか尋ねてみた。

今の日本はみんな迷っているよね。平成はずっと先が見えない状態。どういう人生を送れば幸せになれるか答えを持ってない人が多い。社会がビジョンを描けていないよね。

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社会が大きなビジョンを描いて、みんなが一丸となって同じ目標に突き進む時代はもう終わったのかもしれない。でも、Codyは、そんな時代だからこそ、みんなで過去を振り返って、これから先、新しい時代のビジョンをひとりひとりが考えていくべきではないかと問いかける。

今は時代が大きく変わるタイミングだよね。平成の終わりと2020の東京オリンピック。その後、社会がどうなるかは誰にも分からない。僕にとって団地は、社会にビジョンがあった時代、昭和のシンボル。昔は凄く輝いていた。でも、今は廃れてしまっている。だからみんなにも団地を通して、「あなたの人生どうしますか?」って考えるきっかけをつくりたいと思った。でも僕は、答えは持ってないから。ただ問いかけているだけなんだけどね。

すぐそばに迫った2020年東京オリンピック。前回の東京オリンピックが開催されたのは約半世紀前の1964年。日本が高度経済成長期真っただ中で、豊かな国、明るい未来に向かって突き進んでいた時代だった。Codyは2020年を60年代の団地が輝いていた頃に日本が見た夢の終わりだと考えている。叶わなかった未来の末路。その先の時代をどう生きるかはひとりひとりにゆだねられている。

過去と未来を訪ねて街の物語を探す旅

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Codyに今後の活動の展望を尋ねるとこんな答えが返って来た。

僕はずっと、地図を持たず、事前に計画も立てずに、夜から明け方まで街をぷらぷら歩いて、気になった街の写真を撮る「Derive(ディライブ)」という活動を続けているんだけど、今後はさらにこの活動を発展させていきたいと思ってる。

Deriveとは「漂う」「漂流する」「由来をたずねる」などの意味を持つ言葉。Codyは「僕の目は、レコードの針で、街はレコード盤。街を歩きながら、そこにどんな歴史や物語があるか探っていくような感覚」と話す。DANCHI DREAMSもこの活動から生まれた作品だ。

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Derive Wonderer Magazine #2 Ikebukuro 
Photography:Cody Ellingham

目の前にあるものを見て終わりではなく、過去の歴史を知ることで、そこにしかない物語や、その先に未来が見えてくる。

今後はこの活動を通して撮った写真やそこで出会った物語をまとめてDerive Wonderer Magazine(ディライブワンダラーマガジン)という雑誌を作って年4回刊行する。第一弾は台北。第二弾は池袋。活動の拠点は海外にも広げていく予定だ。

世界中の街でDeriveをしてみたい。あとは、メンバーを募って、もっといろんな方法で、表現活動をしていきたいな。最終的にはDeriveを大きなムーブメントできたらいいなと思ってる。これからも、街のリアルストーリーを探し続けていきたい。

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2020年東京オリンピック、2025年大阪万博。日本はどこか、まだかつて見た夢の続きを引きずっているのかもしれない。

東京の街では今日も、再来年に迫ったオリンピックに向けて、目まぐるしいスピードで再開発が進んでいる。久々に訪れた街に真新しい建物が建っていても、そこには前に何があったのかを思い出せないことが多い。

取材中、Codyがふと漏らした「今の人達は歩いててもあまり街を見ていないよね。みんなスマートフォン経由で世界を見ている気がする」という言葉が頭から離れない。世界的に有名な日本画家東山魁夷(ヒガシヤマカイイ)はかつて「古い建物のない街は、思い出のない人間と同じ」という言葉を遺した。私たちは、これから先の未来を考えるために、今こそ過去を振り返って、かつての社会が夢見た未来の末路と向き合うべきなのかもしれない。

Codyは繰り返し「僕は答えを持ってない。ただ問いかけているだけ」と言っていた。この問いは日本で暮らす全ての人に向けられている気がした。

DANCHI DREAMS

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DERIVE What is DERIVE Wanderer Magazine

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Cody Ellingham

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