「規格外の野菜」が棄てられる日本で、オルタナティヴな販路“青山ファーマーズマーケット”が必要な理由

Text: Mitsufumi Obara

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2018.3.12

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スーパーで販売されている野菜の値段が、どのようにして決められているか考えたことはあるだろうか。一つ数百円のジャガイモも、5個入りで300円のニンジンも、農家の方が汗水流して作った産物。そのどれもが、天候に恵まれなければ実らないかもしれないリスクを背負い、決められた規格通りに栽培しなければ商品にならないという過酷な環境で作られている。

しかし私たちは、野菜を購入するときに値段の安さに固執し、生産過程の苦労も知らずに文句をつける。傷んでいようものなら、お店にクレームを入れるだろう。そしてその野菜は、捨てられてしまう。スーパーに入った時点で、お金を払う時点で、あたかも自分が上の立場にいるかのような振る舞いをしてしまうのだ。

2009年に開始した、表参道駅を出てすぐの青山通り沿いで野菜を販売する「ファーマーズマーケット」では、農家さんが自分で作った野菜に自分で値段をつける。「家族を養うためにこの価格設定にしています」、「これだけ情熱をかけて作ったのでこの値段にしています」と自由な売買が行われている。

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そんな「ファーマーズマーケット」を持続可能な取り組みにしようと立ち上がったのが、「Re-think Food Delivery(リシンクフードデリバリー)」だ。

プロジェクトの立ち上げ人・拝原 宏高(はいばら ひろたか)さんは「Re-think Food Deliveryをビジネスにしようとは思っていない」と語る。原体験にあるのは、生産者の苦労を目の当たりにし、「野菜一つに1,000円払ってもいい」と考えたことだそう。農業とは無縁の都市・青山で野菜市場を開く取り組みを取材した。

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「Re-think Food Delivery」立ち上げ人の拝原さん

農薬を使わないと、野菜が売れない。農業は“真面目な人がバカを見る”

農家のビジネスを悩ませる一つの種が「物流の規格」。農家の主な販路である農協に商品を卸すには、農作物を一定のサイズで栽培する必要があるからだ。規定の数を専用の箱に入れて出荷するためには、一つ一つのサイズが同じでなくてはならない。

自然の中で育つ野菜は、天候や土地の特性によってサイズが異なる。そのため、農協を主な販路にする農家は、農薬を使って「決められた通り」に栽培しなければならない。そうでなければ、ビジネスが成り立たない。

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農協は全国の農家から野菜を買い取ることで多くのビジネス機会を提供しました。僕自身、農協の仕組みは素晴らしいものだと思っています。ただ、一方で、農薬を使わないこだわりの野菜を作りたいなら、自ら販路を開拓しなければいけない現状があります。ある種、“真面目な人がバカを見る”ことも少なくないのです。

ファーマーズマーケットは、そうした信念を持って野菜作りに取り組む農家を応援する取り組みです。青山の土地を安価で貸し出し、オルタナティブな販路を提供。新鮮な野菜を求める消費者と、新鮮な野菜を届けたい生産者をつないでいます。

価値ある活動ですが、されど商売。どれだけ新鮮な野菜でも、すべてが消費者の手に届くわけではない。もちろん安価な野菜で済ませたい消費者も多く、売れ残ってしまうこともしばしば。するとファーマーズマーケットに参加している農家の方たちは、残ってしまった野菜を運営事務局に寄付して帰るそうだ。

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ファーマーズマーケットが終わる午後4時になると、農家さんたちは「捨てちゃうから食べて」と野菜を届けてくれます。捨てる野菜とはいえ、スーパーに並んでいるどんな野菜よりも新鮮です。僕自身、その野菜を食べて健康になりました。苦労してこだわりの野菜を育てている過程も知っているので、「1,000円払う価値がある」とも思いました。

需要のミスマッチというだけで、この野菜が無価値になるなんておかしい。そこで、他のファーマーズマーケットの運営メンバーや、黒崎さん(ファーマーズマーケットを運営する会社「メディアサーフ」の代表)からのサポートをしてもらい、「Re-think Food Delivery」を立ち上げました。

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“新鮮な野菜が食べられることは奇跡” 価値ある活動を支援する「Re-think Food Delivery」

「Re-think Food Delivery」は、ファーマーズマーケット内で売れ残ってしまった新鮮な野菜を買い取り、周辺レストランに配送する新たな取り組み。スーパーで売られているものよりも新鮮で、なおかつ信念を持って作られたこだわりの野菜を食べる機会を提供している。

参加するレストランは、運営事務局に事前にお金を預けることになっている。どんな野菜が届くか分からないのにこの仕組みが成り立つ理由は、「シェフの考えと生産者の考え、消費者の考えが一致しているから」。現在は渋谷区から15店舗のレストランが参加している。

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農家さんだけが大変だとは思いません。ただ、私たちの生活は、企業や保険によって守られています。でも考えてみてください。農家さんは、野菜が育たなければ収入が一切ない。タネを植えても、雨で流されたら生活ができないんです。

そんな過酷な環境下で育った野菜は、もうそれだけで奇跡なんです。ましてや、農薬を使わずに育てた新鮮な野菜なんて、どれだけ価値があるものか。頑張っている人の努力が報われないのは、あまりに残念なことです。本当に価値ある活動は、応援しなければならいと、使命感を持ちました。

私たちはわざわざ高いお金を払って外食することもあるが、味や見た目が優れていても、農薬まみれの野菜で作られた料理が食べたいとは思っていない。また、シェフたちもそんな野菜を使ってお客さんに料理を提供したいわけがない。こだわりを持つ三者の思いが一致し、「Re-think Food Delivery」は成り立っているのだ。

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都市に“顔の見える人間関係”を取り戻す。ファーマーズマーケットが目指す“人間関係のハブ”

都市とは違い農家が多い地方では、損得感情のない人間関係をよく見かける。たとえば、近所の農家がとれたての野菜を「よかったら食べて」と届けてくれることも少なくない。そうしたコミュニケーションが生まれるのは、常日頃から密なやりとりがなされているからこそ。顔の見える関係性が重要なのである。

ファーマーズマーケットは、単に新鮮な野菜の販路になるだけではなく、都市に少ない“心の豊かさ”を育む取り組みともいえる。

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新しい出会いであっても、お互いのことを思いあえるような関係性を築くきっかけになれば嬉しいです。都市は、顔の見えるやりとりが少なくない。ファーマーズマーケットに足を運んでいただいた方々に、野菜を相対して買うことで、コミュニケーションの価値を感じてもらえたらなと思っています。

たとえばスーパーで買った野菜が痛んでいたら、とりあえずレジの店員さんにクレームを入れるじゃないですか。でも、店員さんは悪くない。もしそこに生産者の方がいたら、やみくもに怒ることはないと思うんです。この矛盾に気づいてくれたら、心が豊かになるのではないでしょうか。

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拝原さんは、「Re-think Food Delivery」のシステムを全国に広げようと奮闘中


。「新鮮な野菜を新鮮なまま提供したい」という考えから、参加店舗は渋谷区内に限っているが、仕入先の農家はエリアを拡大しつつある。想いを持って農作物を育てる農家を応援し、ファーマーズマーケットの価値を最大化しようと挑戦中だ。

たとえば今の時期だと、愛媛県で柑橘類のフードロスが問題になります。春になれば、山形でさくらんぼが大量に廃棄される。高価な値段のつく高級品も、実は信じられないほどロスがあるんです。

農家さんたちは気づいていないかもしれませんが、食べたくても食べられない人がたくさんいます。これからは、僕たちがその問題に歯止めをかける存在になりたい。全国の生産者と消費者をつなぐハブになれたらと思っています。

残念なことに、私たちはご飯が食べれることを当たり前だと思っている。お金を払えば野菜が買えることに何の疑問も持っていない。拝原さんの話を聞いて、ハッとした人も多いのではないだろうか。

「過酷な環境下で育った野菜は、もうそれだけで奇跡」。スーパーで売られている野菜も、誰かが汗水流して一生懸命作ったもの。もちろん野菜だけではなく、身の回りにあるすべてのものがそうだ。

 ファーマーズマーケットは、私たちに「当たり前」のありがたさを教えてくれる。「ありがとう、いただきます」、そんな気持ちを忘れずに、毎日を過ごせる人間でありたい。

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Farmer’s Market @ UNU

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Farmer’s Market @ UNU は農と都市生活を結びつけるプラットフォームです。
私たちは以下の活動を通じて、都市に暮らす人々の生活に貢献することを目指します。

– 農家と私たちの間の対話を生み出し、健康的な食べ物とその源に対する理解を促進する。
– 農家と人々を直接結びつけ、相互理解によるコミュニティをつくることで、農家がより質の高い農業を継続できるよう支援する。
– 生活者である私たちが“マイファーマー”と言えるほど信頼できる農家から、新鮮で健康的な食べ物を買う楽しみをつくる。
– 私たち生活者も農業のプロセスに関わり、営みを理解するきっかけを提供する。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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