「未来はもっとおもしろくなる」アーティスト・filip custicが描く資本主義と人間の現在地。アイデンティティを多様化できるインターネットの無限な可能性<SPONSORED>

Text: Takahiro Kanazawa

Photography: Elena Iwata unless otherwise stated.

Edit: Noemi Minami

2023.5.9

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「ダイバーシティ」をテーマにした企画『PRIDE』が昨年に引き続き、2023年4月21日(金)より渋谷PARCOで3日間開催された。レインボーカラーが館内外のあちこちにあしらわれ、あらゆるボーダーから自由に、一人一人の自分らしさに目を向けるイベントや展覧会が行われている。
 4月23日(日)には10階イベントスペース「ComMunE」で、新宿2丁目を拠点に定期的に開催され、今年で19年目を迎える 「fancyHIM」が一夜限りのスペシャルイベント「fancyHIM presents 愛とFOR YOUR RIGHT!」を開催。人種・性別・年齢も関係なく、誰もがキラキラ輝いて生きることができる世界の大切さに賛同するアーティストたちが最先端な音楽や、ショウビズ、カルチャーを発信した。また、オープンマインドな全ての人に開かれたクィア・レイブ「SLICK」も4月21日(金)に開催され、今回が初来日のフランス人 DJ/プロデューサーのAmor Satyrをゲストに迎えた。2022年に始動したカルチャーフェスティバル「あいとあいまい」も今年も開催。今回は「raw_live」をテーマとして、写真家・森栄喜氏の作品展示や本屋・twililightによる選書販売などの常設展示に加えて、演劇、舞踏、落語などさまざまなジャンルの身体表現を会場に招き入れ表現者と鑑賞者が一体となるようなカーニバル空間を創出した。さらに「LOEWE」は、昨年に続き今年も東京レインボープライド2023に協賛。
「LOVE STEPS UP」をテーマに、あらゆるジェンダー・セクシュアリティの人々がそれぞれの“LOVE”を表現できる“STEP(階段)”として、アーティストTORAJIROの作品とともに、2023年5月28日まで渋谷PARCO1階ロエベストア横の階段をレインボーに彩っている。

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Photography: PARCO Shibuya

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fancyHIM
Photography: PARCO Shibuya

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SLICK
Photography: Toshiyuki Tsujimura

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あいとあいまい

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あいとあいまい 森栄喜による朗読

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渋谷PARCOロエベストア横。アーティストTORAJIROの作品とともにレインボーに彩られた階段。
Photo by LOEWE

 あらゆる個性に触れ、多様性の尊重や、自分らしく生きることについて考えるきっかけが盛りだくさんなこの企画に今年は、「スマートフォンのOS(オペレーティングシステム)のように、自分自身のアイデンティティをアップデートすることは自然なこと」だと語るスペイン・クロアチア人のアーティストfilip custic(フィリップ・クスティック)が参加した。

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filip custic

 アメリカのラッパー・リル・ナズ・Xやコーチェラでのパフォーマンスが記憶に新しいスペインのアーティスト・ロザリアらとのコラボレーションでも注目を浴びたfilipの展覧会「human product」では、「body(身体)、mind(精神)、technoogy(テクノロジー)」の繋がりを探求する作品が展示された。4月21日(金)に展示会場であるPARCO MUSEUM TOKYOでパフォーマンス「human product performance, 2023」を行った直後のfilipに、展示に込めた思いを伺った。

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4月21日(金)に開催された「human product performance,2023」の様子

資本主義と人間の関係性。アーカイブとしての役割も意識した作品作り

 「資本主義がどのように私たちのアイデンティティに影響するのか」そんな疑問から「human product」のアイデアは生まれたという。資本主義は私たち個人の存在さえも「商品化」するのではないか?そんな現状を肯定するわけでもなく、否定するわけでもなくただ目の前にある現象として捉え、アートを通して対話を生むきっかけをfilipは作る。

「社会は、『より利益を生める人がより価値のある人間だ』と言います。今は自分自身のアーティストのフェーズとして利益を生めるようにならなければならないときです。だから、それがいいとか悪いとかではなく、ありのまま表現しています」

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Photos: TAKAMURADAISUKE

 目を見張るほど発達したテクノロジーや資本主義など、私たちの生活の現在地に深く関わるものを俯瞰し、それらが互いにどう作用し合うか、そして私たちにどう影響するのか、そんな関係性をfilipは作品を通して見つめている。しかし資本主義を題材にするfilipの視点が捉えているのは現在だけではない。

「未来の人間が今この時代を振り返ったときのアーカイブになるように、自分の目に映る景色を残しておきたいんです。もしかしたら来年資本主義が崩壊するかもしれない。資本主義にとって変わる仕組みが生まれたら、間違いなくそれも私にとってインスピレーションになると思います」

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 filipはファッションフォトグラファーとしてアーティストキャリアをスタートさせた。だが、商業的な目的の写真表現には制限もあるため限界を感じ、自由に創造できるアート業界に身を置き始めたところ、独特の世界観や視点が瞬く間に注目をあび、現在に至る。写真から、彫刻や3Dプリントなど興味を惹かれるものに積極的に触れていくうちに、アーティストとしての姿勢に変化があったそうだ。

「同じ仕事を一生やり遂げるという考えが以前は普通だったかもしれませんが、今は10年後に同じ仕事をやっている保証はないし、来年さえ全然違うことをやっているかもしれない。私自身の活動もカメラから始まりましたが、違う表現方法を常に模索して挑戦してアップデートされてきました」

セルフィーを投稿せずにはいられないナルシスティックな時代に身体が持つ可能性

 filipの作品を見ると、「身体」が多く題材になっていることが分かる。「私たちが生きてるこの時代はとてもナルシスティックだとも思うんです」と語るfilipは、作品作りにおけるキャンバスとしての「身体」の可能性について話す。

「私たち人間は互いに鏡のような存在だと思っているのではないでしょうか。自分と似たようなものを見たときに共感したり、自分が投影されていると感じたりする。それにセルフィーを撮ったり周囲の目線を気にしたりしてしまうような、自己中心的な視点は現代的だと思っていて。絵より身体の方がそんな時代にはふさわしいキャンバスな気がするし、作品を見てくれる人もより共感してくれると思います」

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 また、filipの作品の多くには何らかの形で繋がり合う“複数の人間”が描かれているのが特徴的だ。

「インド哲学の輪廻では、自分の魂全てが来世の生き物にそのまま移るのではなくて、分散していろんな生き物の一部になるということをPinterestで見たことがあって。自分の魂がそのまま他の生き物になるという考え方も人間の『エゴ』だと感じ、それをモチーフにいくつかの作品を作りました」

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Photos: TAKAMURADAISUKE

インターネットが生む、多様性の無限な可能性

 SNSが台頭し、若者のメンタルヘルスへの悪影響が問題となったり、フェイクニュースやヘイトスピーチが横行するなどネガティブな側面も存在するインターネットだが、「それは人間の使い方次第だ」と考えるfilipは必ずしもインターネットの将来に悲観的ではない。インターネットが生む「多様性」の可能性を信じているからだ。

「オンラインの仮想世界では、何にも縛られないでいられます。自分のアイデンティティを自由にアバターを通して表現できます。でも現実世界ではまだそうじゃない。私たちが着る服は少なからずトレンドに左右されたものだし、誰かが決めた狭い『美しさ』の基準に捉われている人も少なくないと思います。それでも、オンラインでは体の一部が花になったり動物になるフィルターのようなテクノロジーがあれば、もっと枠に捉われず先進的なアイデンティティを持った人が増えるきっかけになると信じています。今はまだ既存の価値観を変えようとしている段階ですが、未来はもっとおもしろくなると思います」

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filip custic(フィリップ・クスティック)

Website / Instagram

フィリップ・クスティックは、1993年にテネリフェ島サンタクルス(スペイン)に生まれました。作品は、MdbK Leipzig(ドイツ)、Palazzo Giustinian Lolin in Venezia(イタリア)、Colección SOLO(マドリッド、スペイン)、Art Basel Miami(アメリカ)、Caixaforum(バルセロナ、スペイン)、OMM(トルコ)など世界中で展示されています。
また、RosalíaやLil Nas Xなど、世界的に著名な歌手とのコラボレーションも行ってきました。2022年から、フィリップ・クスティックはSOLOの芸術支援プログラムであるOnkaosの一員として活動しています。2023年、フィリップ・クスティックはスペインのマドリードに位置する国際的な現代美術の拠点であるColección SOLOの芸術支援プログラムであるOnkaosと共同で、PARCO MUSEUM TOKYOで日本初の個展を開催するに至りました。

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