「グラビア」と聞いたとき、「男性のためのもの」「卑猥」というイメージを連想する人は多いだろう。そのため特に女性にとって、その多くが嫌悪の対象になってきた。
この現状を変え、女性にとってポジティブなグラビアを届けようとしているのが、女の子のためのグラビア写真集「がるびあ~Girls Gravure~」だ。
Photo via がるびあ~Girls Gravure~
そもそもなぜ、「女性にとってポジティブなグラビア」を発信する必要があるのか。
その背景にあるモデルたちの本音や、撮影現場にはびこる違和感を、同誌の発案者であり制作チームを統括する吉田みおさんと、クリエイティブディレクターとしてビジュアルで世界観を構成するNAMIさんのお二人に聞いてきた。
ゼミ室生まれ、創刊1年。160万円の制作費をクラウドファンディングで調達
昨年3月に、「女性だけで作る、女性目線のグラビア写真集」として創刊され、今月初旬に都内の書店で3号目が発売された「がるびあ~Girls Gravure~(以下、がるびあ)」。
その始まりは、吉田さんが通う大学のゼミ活動にあった。
吉田さん:最初はあくまでゼミ活動の一環だったので、発刊を継続する予定じゃなかったんです。でも1号目の反応が予想以上によかったから、「じゃあ2号目も出そうか」となって今に至ります。
でも最初は苦労しました。協賛企業を探すにしてもキャスティングにしても、いきなり来た大学生の話を聞いて、「ぜひお願いします」なんてことにはなりませんから
そんな手探りの制作過程を経て届けられた1号目が評判を呼び、2号目の制作に取り掛かった段階で制作チームに加わったのが、以前から吉田さんと親交のあったNAMIさんだった。
NAMIさん:みおから「デザインの知識が全くないから助けて!」と言われて参加しました。私は当時からグラフィックデザイナーとアートディレクターをフリーランスでやっていたので、今はクリエイティブ関連の統括役として、がるびあの世界観を視覚化する役割を担っています
この2号目から制作チームの骨子が固まり、現在はお二人のほか、カメラマンのヨシノハナさんと平岡花さんを加えた4人を中心にがるびあは作られている。
Photo via がるびあ~Girls Gravure~
Photo via がるびあ~Girls Gravure~
創刊から約1年、写真集は着実に支持を集め、3号目の制作費を募ったクラウドファンディングでは160万円が集まった。
アイドル業界内では知名度が高まりつつあり、アイドルグループのジャケットカバーのアートディレクションを「ぜひがるびあ制作チームで」と依頼されるなど、仕事の幅を広げている。
なぜ「女の子のため」のグラビア写真集が生まれたのか?
もともとご自身もアイドルとして活動していた過去があり、業界の撮影現場に違和感を感じていたという吉田さん。モデルの素顔を切り取るグラビアを、「女性の真の美しさ」を表現する一番の方法だと思いつつも、心の中には葛藤があった。
吉田さん:グラビアって「あ、本当に楽しいんだな」って思わせる写真が多いから私は好きなんです。でも、すべての撮影現場がそういう素晴らしい写真を撮れる環境ではないんですね。
モデルが着替えるスペースに男性がいたり、撮影前に聞かされていた衣装と現場に用意されてる衣装が違ったり。長時間借りたスタジオで、流れ作業で何人も撮影していくなんてこともあります。
私はそれを知って、こんなことしていいのかな、みんな本当にやりたいのかなって思ってしまって。だから私に何かできないかなという気持ちで、がるびあを作りました
「誰もが気持ち良くグラビア活動をできる場所を作る」、「出演モデルの女性支持率のアップ」を目的に、女性だけで作られているがるびあ。撮影現場も女性しかいないという。
吉田さん:現場に女の子しかいないので、撮影中も雰囲気が明るいんですよ。みんなでピザを食べたりモデルさんが持ってきてくれたお菓子を食べたりしながら撮影してて。
制作チームもモデルさんもみんなで和気藹々って感じです。普通はカメラマンがいてモデルさんがいて黙々と撮影、みたいな感じなんですけど、がるびあは現場にいるみんなで一つの作品を作っていくイメージですね
Photo via がるびあ~Girls Gravure~
居心地のよさからか、一度撮影に参加したモデルが「次もあればお願いします!」というのも珍しくないという。
男性的な価値観に支配されているグラビア業界
NAMIさん:いつも言っているのが、「エロさじゃなくて色気」。私は女の子特有の「儚さ」「強さ」「色気」という要素を大事にしてます。
普通のグラビアって、「元気」「爽やか」「セクシー」みたいな切り口で、可愛く or 格好良くってイメージで撮られることが多いんですけど、可愛さや格好よさだけじゃ女の子の魅力って伝えきれないと思うんです
普段私たちがグラビアを目にするのは、その大半が青年誌や少年誌で、いわゆる男性に向けて作られている雑誌ばかりだというのは示唆的だろう。
掲載される場所が男性に向けて作られているのだから、写真に求められる傾向は必然的に男性的なものになる。
誤解を恐れずに言えば、露出は多ければ多いほどいいし、バストやヒップは大きければ大きいほどいいし、ポージングは過激であればあるほどいい…なんてことになる。
しかしそれが誌面に登場する彼女たちの意向に沿っているかと問われれば、必ずしもそうではない。
NAMIさん:普通のグラビアの衣装ってほとんど水着か下着だし、ポーズも過激だから、女の子からすると買うのが恥ずかしい、見るのが恥ずかしいという写真がたくさんある。それに出ている女の子もそう思ってる。たとえばやりたくないポーズで撮られるとか。
吉田さん:モデルさんに「どこが見せたいポイントですか?」って聞くと、太ももやウエストをもっと見てほしい、逆に胸がないから胸はあまり見せたくないとか、いろいろあるんですよ。
モデルさんの本当は見てほしい“自分の推しポイント”を表現できるのががるびあなのかなと思います。モデルさんのファンの方には、普段とは違う姿を見てもらえたらいいなあと思います
女性がセクシャリティをポジティブに解放できる社会のために
一度出演したモデルが「またがるびあに出たい!」と思うのは、がるびあに掲載されている写真が、世間のグラビアに対するマイナスイメージとは離れたところにあるからだ。
論より証拠、百聞は一見に如かずということで、がるびあに掲載されてきた以下のグラビアを見てほしい。
今も昔も、女性タレントにとって、グラビア活動は知名度を上げるための主な選択肢の一つだった。しかし男性的な価値観が大勢の世界に飛び込むことに、抵抗を感じる人もいるだろう。
事実、撮影中にセクハラまがいな光景が広がる現場も珍しくないという。業界の構造を変えなければ、こうした事例はこれからも無くならないだろう。
<strong>吉田さん:グラビアは卑猥なものじゃないんです。ディレクション次第で表現は変わります。もっとポジティブにグラビアをやる人が増えてくれればと思いますが、がるびあがそのきっかけになれれば嬉しいです
NAMIさん:女性が道具として扱われるような撮影現場は変えていかないとダメ。個人的な思いも含めて、がるびあが、女の子が、自信を持って輝ける社会のきっかけになれればと思います
革命が起こるのは常に小勢から。
“女性目線”のグラビアが、業界の意識を変え、世間の女性に対する目線を変え、社会を変えるきっかけになっていくはずだ。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。