東京とソウルを拠点に活動するアーティスト・Kentaro Okawara。NEUT Magazineで2年前の個展「BE THE ONE TOKYO」の際に彼の幼少期の頃からの記憶を辿り、今の作風にたどり着くまでの道のりをインタビューした。そして、2年ぶりに新作70点超えの大型新作個展「MUSE TAKING A SHIT」を「DIESEL ART GALLERY(ディーゼル・アート・ギャラリー)」にて2025年4月26日(土)から7月13日(日)まで開催。本展のテーマや、作品の制作背景について話を聞いた。



創作活動も日常生活もすべてが同じテーブル上にある
NEUT:今回の展示のテーマ「MUSE TAKING A SHIT」に込めた想いは何ですか?
Kentaro Okawara(以下、Kentaro):4年前からオイルペインティングの習作を始め、花の絵を100枚描くシリーズをやっていました。そのシリーズが終わり、次に韓国人の妻、サンミンの絵を描くシリーズに取り組み始めたのが、今回のテーマの着想でした。
韓国での生活ではサンミンといるのが日常なので、そこからインスピレーションを受けるのは自然な流れです。そこで経験したことが創作に繋がるのも、自然のことでした。日常のサンミンの写真を撮り溜めていく中で、“とんでもないタイミング”が訪れました。その1枚が、ドアを開けてトイレをしているところの写真で、何度見てもすごいと感じ、これを絵にしたらどうなるのか、という想いから「MUSE TAKING A SHIT(ミューズがうんこしている)」というパンチのあるタイトルが生まれました。笑
NEUT:MUSEとSHITって、かなり対極的な言葉が並んでいますね。
Kentaro:「MUSE TAKING A SHIT」は少し汚く聞こえるかもしれませんが、私が考える人の美しさやその人らしさは、1枚のペインティングでは映し出せないものです。どんなに着飾っても、その人の本質にはならないのです。創作意欲を湧き立たせてくれる人(ここでいう“MUSE”)と、生活の中にいる人(ここでいう“SHIT”)は同一人物であり、双方が相互作用しあって、うまく混ざり合いシームレスに自分の中に構成されていなければなりません。創作活動も日常生活もすべてが同じテーブル上にあるという意志を込めて「MUSE TAKING A SHIT」と題しました。



子どもの頃に戻った感覚で制作した作品たち
NEUT:今回76点の新作が展示されるそうですが、すべて日本で制作したのですか?
Kentaro:韓国で58枚、日本で18枚描きました。2年前に韓国に移住し、日本にはもうスタジオがないので、亡くなったおばあちゃんの家で制作しました。
NEUT:前回のインタビューで、おばあちゃんとの子どもの頃に絵葉書を送り合っていたことが絵を描くきっかけになったとお話しされていましたが、おばあちゃんの部屋で制作することはいつもの韓国のスタジオでの制作環境と何か違いがありましたか?
Kentaro:かなり違いました。私は子どもの頃からあの部屋でおばあちゃんと何かを作ったりしていて、いろいろな思い出がある場所です。そのおばあちゃんに見守られながら、子どもの頃に戻った感覚で制作しました。今回の一番大きなペインティングも、おばあちゃんの家のリビングのアーチ状のドアがモチーフとして絵に取り入れられています。



受け身にならずに新しい作品を楽しんでほしい
NEUT:日本で作った作品は、サンミンとおばあちゃんのインスピレーションがミックスされた作品なんですね。今回の個展ではどんな作品が展示されていますか?
Kentaro:常に自分自身もそう思っているのですが、作品の鑑賞者には受け身ではなく、自分から進んで見に行こうという能動的な姿勢で作品を見てほしいと思っています。大きなペインティングもあれば、小さなペインティングもあり、モノクロや立体作品もあります。やはり今回もそういう構成で展示しているので、近くで見たり、横から見たり、上から見たりと、いろいろな視点で見てほしいです。
NEUT:今回の「DIESEL ART GALLERY」での個展のこだわりは何ですか?
Kentaro:今回ギャラリー内に通常は設置されていない大きな壁を作って内装を改造しています。カラーの作品とモノクロの作品を隔ており、スペシャルな空間を作っているので楽しんで鑑賞してもらえたら嬉しいです。
NEUT:この記事のために撮影した写真について教えてください。
Kentaro:本記事の写真は親友であり、写真家のYuri Horieさんにおばあちゃんの家での制作風景を撮影してもらったもので、絵を描き始めてから完成するまでのドキュメンタリー写真です。ドキュメンタリー“動画”だと描いているところが全て見えてしまい、見ている側は受け身になってしまいます。なので、写真を見てどういう流れで描いているのかなと写真と写真の間を想像してもらえたら嬉しいです。
NEUT:最後に2年ぶりの個展に来てくれる方々へメッセージをください。
Kentaro:東京でも2年ぶりですし、個展自体も2年ぶりです。新しいマテリアル、オイルペインティングを使ったショーは初めてなので、新しいKentaro Okawaraを見て、新しい視点を開いてもらえたら嬉しいです。




Kentaro Okawara / 大河原健太郎
大河原健太郎は、現在ソウルを拠点に、絵画、彫刻、書籍、ストリートウェアのコレクションやコラボレーションなど、さまざまな媒体で活動しているアーティストです。大河原の作品は、「芸術を作ることは愛の表現であり、互いにつながる手段である」という彼の長年の信念を追求しています。それぞれの作品には、シュールでありながら親しみやすいキャラクターが登場します。人間、生き物、そして擬人化されたオブジェクトのカクテルが、親密かつ奇妙な方法で互いに作用し、誰もが愛着を持てる世界を作り出しているのです。大河原の鮮やかな色彩と様式化されたモチーフの世界の中で、彼は目と目を合わせ、顔を合わせて直接コミュニケーションをとることの重要性を訴えています。私たちが主にインターネット上で考えや感情を交換しているように見えるこのデジタル時代に、大河原の作品は、もう一度考えることを、また互いの違いを認め合う事を、そして私たちが本来持っているはずの”人間性”を取り戻すことを訴えかけているのです。