InstagramやTikTokで突如ブレイクし、LINE MUSICの「POP100」では、あらゆる著名シンガーたちを抑えて一位を獲得するなど、日本の若者の間で大ヒットとなった楽曲「Life Was a Beach」。今から3年前にリリースされた楽曲にも関わらず、爽やかなリズムと柔らかな歌声に多くの人が心を奪われ、リールでのBGMやダンス動画などに使用された。歌うのは、ドイツで活動するシンガーソングライター Lena(レナ)だ。
ABBAやセリーヌ・ディオンが世界に羽ばたいた『ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト』で優勝し、トップスターへの階段を駆け上がってきた彼女は、ドイツでは大統領の次に顔が知られるほどのビックスターであり、エンタメシーンでは欠かせない存在となっている。そんな彼女が先日、来日をした。シンガーになるまでの道のりを振り返りながら、今回の日本でのブームに対してどう感じているかやSNSとの付き合い方などについて、話を伺った。
ーどんな幼少期を送っていましたか?
母一人、子一人の環境だったのですが、とても愛情深く育てられました。幼い頃から人前に立つのが大好きで、家にお客さんが来ると、マジックショーやダンスを披露するような子でした。私のパフォーマンスを見た人の喜ぶ顔や拍手をする姿がすごく好きだったんです。
ー音楽を好きになったきっかけを教えてください
昔からポップスがすごく大好きで、初めて買ったCDはブリトニー・スピアーズの「Oops!…I Did It Again」。この曲が本当に大好きで、影響を受けた一枚です。インディーズやロック、ジャズなども聞いてきましたが、ポップスの歌って踊れるポジティブなエネルギーにいつも力をもらっていて、私自身が表現をするなら、ポップスだなと思っていました。
ーどうしてシンガーを志したのでしょうか?
転機となったのは2010年。「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」のオーディションの地区代表を決めるオーディションへ参加をしたんです。結果、ドイツ地区の代表となり、最終的には優勝をすることができました。それをきっかけにシンガー・ソング・ライターの道を歩むことになったんです。子どもの頃からステージに立つのが好きだったので、この出来事は本当に幸運だったと思います。
ーオーディションで優勝後、瞬く間に知名度が上がったかと思いますが、自分自身と世間へのギャップを感じることはありましたか?
オーディションで優勝する前までは、社会にもまだ出ていない普通の学生でした。こうして突然世間の目に晒されるようになり、ドイツでは大統領の次に顔が知られるほどになりましたが、有名になったことをそこまで重要視はしていなかったです。この機会に恵まれたことはとても感謝していますし、楽しんできましたが、「知名度が高い=私」という方程式は自分のなかにありませんでした。脚光を浴びても浴びてなくても、“自分は自分”だと思っているところがあったので、世間とのギャップを感じることは少なかったかと思います。どんな人生を歩んでも、酸いも甘いも両方ありますよね。毎日いろんなことが起きていくなかで、誰しもが「本当にこの人生を歩んでいくべきなのか」と疑問に感じる瞬間があると思うんですが、そういうときは少し静かな場所で深く考える時間を大切にしてほしいです。私もそういった時間を作ることで、自分に余裕を持てたからこそ、どんなことが起きても大丈夫だったのかなと思いますね。
ー日本ではあなたの楽曲である「Life Was Beach」がTik Tokで大ヒットしたことにより知られるようになったかと思いますが、日本でのヒットについてどう思いましたか?
今から3年ほど前の曲が日本で流行っていると聞いたときは、信じられないほどクレイジーな出来事だなと思いました。ただ、遠い国で起きていることだったので、あまり真実味がなくて、すごく抽象的に捉えていたんです。でも、今回こうして日本に来ることができて、ライブをしたり、インタビューを受けたり。直接人と接することで、この出来事をリアルに感じることができて、改めて嬉しい気持ちになりました。
ーLenaさんの世代は、これまでCDやSNSなどさまざまなツールで音楽を聞いてきたかと思いますが、音楽を作る側として現代の音楽の消費のされ方についてはどう思いますか?
良い面と悪い面があると思っています。私は、ドイツやヨーロッパについての現状しか語れないですが、多くの人が音楽に割く時間が減っているなと感じています。コンセプトアルバムだとしても、アルバム一枚単位で聞かない人がほとんどだと思うし、1曲に対して、アーティストが何を伝えたいのかを振り返らないことが多いのではないでしょうか。音楽も一週間のうちに何万もの新曲が大量に出てきて、時間をかけて全てを聞くことはできないですよね。いい意味では、私がTikTokで流行ったように、一つの楽曲が多くの人に広がりやすくなったり、聞く側も趣味が広がったり。さらには、音楽で食べていきたいと思う人たちも増えているのかなと思います。けど、時々昔のようにCDやレコードで音楽を聞く時間がすごく懐かしくなるんです。フィジカルで聞く人は少なくなっているかと思いますが、そういう時間がなくなっているからこそ、私は大切にしていきたい。自分の一部としてその時間を残していきたいし、次世代へも伝えていきたいなと思います。ほかにも、映画館で映画を見ることや、コンサートでパフォーマンスを味わうことなど、デジタルやオンラインでは味わうことができない経験が積み重なっていくことで、人としての厚みや深みが出てくると思うんですよね。
ーNEUT Magazineには社会問題に興味を持つ読者が多いのですが、Lenaさんから見た同世代のドイツに住む方々は、どんなことを話題にし考えていますか?
ドイツで最近感じる問題はSNSによって、多くの若者が自分自身を見失っているような気がしていることです。圧倒されてしまうほどの情報量を毎日のように押し付けられて、どうしても自分と誰かを比較してしまう。「この場所でこの服を着なくてはならない」「ここでご飯を食べて、あそこへ旅行しなければならない」など、誰が決めたことでもないのに「こうするべきだ」と、勝手にその情報を植え付けられてしまう。現代社会では、多くのフォロワーを持ち、常に脚光を浴び続けるインフルエンサーが素敵な存在であり、素晴らしいという価値観がありますよね。だから、自分がどうしたらいいのかと迷走している若い世代が多いなと思います。昔は、誰かと会いたかったら電話して会うしかなかったし、何か情報を得るなら人と会話をすることや、雑誌で見つけるなどの手段しかなかった。そういう経験をしてきた30代の私でさえ、この情報量に混乱することがあるのに、ティーンエイジャーだと尚更ですよね。だからこそ、静かな時間や平穏であることがどんなに重要かというのを私たちの世代が教えていくことが大切なのかなと感じています。そのためには自分に問いかけるいい質問が二つあるんです。一つ目は「本当にSNSをやりたいの?」。二つ目は「私、SNSの中毒になっていない?」。これらの問いを自分に投げ続けることで、SNSにどれだけ自分が消費されているかを気付くはず。意識的に平穏な時間を作れるようにしていきたいですよね。
Lena「life was a beach feat. Chris Hart」配信中
https://umg.lnk.to/LifeWasABeach
Lena – Life was a Beach feat. Chris Hart (@Amazon Music Studio Tokyo) / レナ feat. クリス・ハート