2018年12月、東京・中目黒で『SEX』というタイトルの、性に対する価値観をポジティブにシェアできるZINE制作とイベント開催をフェミニストライターRuruと共催したファッションブロガーまりあんぬ。
「最終的にはライフスタイル的なセックスの提案をしたい」と話す彼女が、セックスについてオープンに話すきっかけが必要だと考える理由は?
性をポップに
NYLONブロガーとして活躍するまりあんぬの本職は内装デザイン。美大卒業後、数年間内装デザインの企業で勤めた後、2018年に渡豪する。帰国中の彼女は「簡単に言うと今はニートっていう素晴らしい身分です(笑)」と近況を教えてくれた。
共同主催者のRuruとは昔からの知り合いで、お互いにセックスに対してオープンに話しづらい社会へ違和感を持っていた。二人ともアートにバックグラウンドがあったこともあり、自然な流れでアートを使いポップにセックスについて話せるきっかけとなるZINE制作・イベントを企画しはじめた。
出来上がったZINEは「自分の性に対する視点」をエッセイ、コラム、絵画、音楽、イラスト、ファッションなどを使ってアプローチしたい人たちを募り、総勢20名以上のアーティストの作品をひとつにまとめたもの。
イベントでは、日本では広まっていない避妊器具を広める運動をしている「#なんでないの」の福田和子(ふくだ かずこ)、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」を掲げ、マスターベーション関連商品などを扱う「TENGA」の広報担当の西野芙美(にしの ふみ)、性にまつわる情報を発信する「ランドリーガール」の編集長西本美沙(にしもと みさ)の3人を迎えたトークセッションや、DJパフォーマンス、そしてライブペイントが行われた。
トークセッションでは生理用品、ピル、コンドームの付け方などのセクシュアルヘルス面の話から、「セックスと音楽」や「親のセックス」、そしてセクシュアルマイノリティについてなど幅広く、来場者からの質問も飛び交い盛り上りをみせた。
今回、このイベントを主催するにあたりアートとトークセッションがどう融合していくかに不安もあったけれど、結果的にジャンルを超えていろんな人が集まり成功だったと感じているまりあんぬ。
アートとかDJを挟んだことによって、気持ちをすごい和らげてくれるような要素が加わってよかったなっていうのがあったし、講義的な感覚でトークセッションを目的に来れた人も両方いたんじゃないかな。
当日のトークセッションの内容は教育的なものが多く、知識が身につけられるようなとても充実した内容だった。それでも学ぶことを目的とした人だけでなく誰でも来やすいような空間だったのは主催者の狙い通り、アートの力があったからなのかもしれない。
性について割とポップに伝えるっていうのが目的ではありましたね。軽い表現というか、場を和ませるものとして一番効果的だったのがアートだったのかなって。
「母がセックス・アンド・ザ・シティ*1に出て来そうなポジティブな人」だというくらい、性に対してオープンな環境で育ったまりあんぬは、昔から性について人前で話すことに抵抗はなかったという。しかし社会が話しづらい雰囲気だと言うことは常に感じていた。
女の子の友達から「初めて知らない人とエッチしちゃったの」ってすっごいショックな顔で相談されたりして。そのときすごく暗い感じで言われたから、やっぱそういうことって言っちゃいけないのかなって。そういう思いをする友達がいるっていうのがなんかちょっと悔しいというか。
親や学校から受ける性に関する教育があまりにも限定的で、しかも隠しがちに語れるため自然と性について話しにくい環境ができていくと指摘する彼女が、性に対してオープンな社会を望むのは、話せないことに付随する問題があるから。
やっぱりオープンに話す利点は、問題が起きたときに一人で抱えこむリスクが少なくなること。一人で抱え込むことによって、ネットで調べた間違った情報を信じてしまうこともある。生涯共にする性についてだからこそ、ネガティブなイメージをできるだけ消していくにはやっぱり教育面が必要だなって思いますね。
(*1)『セックス・アンド・ザ・シティ』は、1998年から2004年にかけて放送されたカルト的な人気のあるアメリカの連続テレビドラマ。NYを舞台にセックスに対してオープンな自立した女性たちの日常を描いている。
性表現規制の基準への違和感
今回性にまつわるZINE制作とイベントを主催してみて、まりあんぬは性表現規制に関して違和感を持ったという。彼女たちのZINEが「アダルトコンテンツ」と捉えられ印刷会社に断られることも少なくなかった。R指定にならないように構成を変えてやっと印刷してくれる会社が見つかった。イベントスペースに関しても、「デリケートな問題はちょっと」っと言って断れられることも多かったそう。
女の子向けのサイトやアプリのなかにちょっとエッチな内容はあるのに、別にそれは「成人コンテンツ」として扱われないんですよ。だからそういうところにある「こういうことやると男の子に喜ばれる」みたいな変な知識が、出回っちゃうっていう。性についてちゃんと話そうとするとNGを出されるけど、ウェブ広告とかにもエッチな出会い系とか出てくるじゃないですか。
この矛盾とどう向き合い、どう変えていけるのだろうか。彼女は、ZINE制作やイベント開催のほかに現実的な方法として、「ライフスタイルからの性の提案をしたい」と話す。
今回登壇されていたマスターベーション関連商品を販売するブランドTENGAは、2018年に百貨店でポップアップを開催した。セルフプレジャーを目的としたセックストイだけを扱うと「アダルトショップ」となってしまうが、商品の数を規定された割合に制限することによって法律の捉え方が変わってくるんだとか。まりあんぬも内装デザインの領域のなかでも工夫していきたいそう。
ライフスタイルを提案をするサイトなどを将来的には作りたいと思っていて。ライフスタイルの一貫として性にまつわるものを売るっていうアプローチをしたいです。たとえば雑貨や家具を売りながら、そのなかにトイを入れるとか。ヘルシーな角度から性に関する情報やモノを提供できるような環境を作りたいと思っています。
「性」に関するものに対しての年齢制限や公共の場での見せ方は慎重に議論されるべきことである。しかし、すべて一色単に「卑猥なもの」として扱われることには違和感を感じてしまう。「臭い物に蓋をする」ではないけれど、日本の近年の性教育は「できる限りセックスについて話さない」というスタンスをとってきた。果たしてそれが個人に、そして社会にいい影響をもたらしているのだろうか。
「性」はいたって自然な人間の一部であり、それについてヘルシーに議論をしていくことがセクシュアルヘルス(性の健康)や楽しいセックスへとつながると考えるほうが自然な気がする。
まりあんぬ
女性ファッションカルチャー誌「NYLON JAPAN」のoffical blogger。個人の活動としては「TINYZINE」というZINEや雑貨の販売イベントをプロデュースする。今年4月に開催したイベントでは40グループが出展し、300人以上の来場者を集めることに成功。トイ、自主規制、男色、性教育に関して興味を持ち、今回のイベントに至った。