「今と正反対であるべき」フライターグ創業者が語る、これからのブランドの姿

Text: Noemi Minami

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2020.1.10

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捨てられる運命にあるトラックの幌(ほろ)を再利用し、デザイン性の高いスタイリッシュなメッセンジャーバックを一つ一つ手作りし続けてきたスイスのバッグブランド、FREITAG(フライターグ)。2016年、同ブランドの創業者でありクリエイティブディレクターであるフライターグ兄弟の兄、Markus Freitag(マーカス・フライターグ)が来日。NEUT Magazineは渋谷ストアで取材を行った。

そして今回、フライターグが2019年12月20日に日本で4店舗目となる直営店を京都にオープン。この期に、3年ぶりの来日を果たしたマーカスに新店舗で改めて話を聞くことができた。

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Markus Freitag(マーカス・フライターグ)

1993年に創業して以来信念を曲げず、25年以上まっすぐ進み続けてきたフライターグ。ここ数年の変化や、「未来のブランドのあるべき姿」について、マーカスは3年前と変わらず丁寧に質問に答えてくれた。

ーお久しぶりです。実は3年前に渋谷店で取材をさせていただきました。久々の日本はどうですか?

やっぱり日本が好きです。人の優しさも、食事のおいしさも相変わらずですね。強いていうならば、12月に来るのは初めてなので、紅葉が綺麗なことに驚きました。本当に素敵ですね。今回の滞在では、自転車にたくさん乗ろうと心がけています。東京、大阪、そして今京都にいるけれども、京都の人がどうやって通学・通勤しているのか気になっているんです。地下鉄や徒歩の人が多いように感じるけど。大阪は自転車に乗っている人が多いですね。次回、もし数年後に日本に戻って来ることがあったら、そのときには自転車に乗っている人がもっともっと増えてたらいいな。君は何が変わったと思いますか?

ーうーん、外国からの旅行者が増えたようには感じます、特に東京は。

そうですね!それは絶対あると思います。事実、ヨーロッパでは日本に旅行するのが人気になっていますよ。20、30年前は日本にホリデーで行くとはあまりヨーロッパ人は考えもしなかった。

ー日本で新たにお店を展開しようと思ったのはなぜでしょうか?そして、東京・大阪に続きどうして京都にしたのですか?

場所は、正直違う町でもよかったかもしれないです。北海道や福岡、あるいは横浜でもよかったかもしれない。ただ、常にストアロケーションを探してはいて、今回京都店舗の場所を見つけたときにいいチャンスだと思いました。サイズはちょうどいいし、エリアの雰囲気もいい。京都には観光客が多いのもいいと思いました。日本中からの旅行者も、外国からの旅行者も多いのは、フライターグにはマッチすると思ったんです。というのも、みんながホリデイモードだと、ゆっくりショッピングできるでしょ。フライターグのバッグを選ぶのには時間がかかるから。ま、これからどうなるかが楽しみです。

ー京都店舗でこだわったところはどこですか?

京都店にはDIYコーナーがあります。普段はイベントのときにしかDIYスペースを設けないので、これは京都店だけ。それに実はこの店舗は二つの建物がくっついてできています。面白いでしょう。天井が高いところも好きです。棚に使っている素材や家具にはインダストリアルな風味があって、これはスイスの工場の要素をここで再現しているからなんです。

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ーここ数年でフライターグはどのように変化しましたか?

組織形態の変革を行いました。ホラクラシーにしたんです。ホラクラシーとは権力を分散する形態です。オーナーがいて、創設者がいて、社長がいて…という既存の形ではなくて、それぞれのチームが目的を持っていて、決定権を持って動いています。同じ創業者でもある弟のダニエルと、ずっとそんな組織形態を探していて、数年前に出会ったのがホラクラシーだったんです。僕自身は今、未来のビジネスを考えるチームにいます。そこではバッグの他に何ができるかを考えています。ダニエルも僕のチームに参加することになって、今僕ら以外のスタッフがバッグのビジネスを運営していて、僕らは自分たちのプロジェクトに集中している状態。これは新しいことです。チームメンバーは同じなんですが、新しい体制にしたことで雰囲気がよくなったと思います。ビジネスも順調。まぁ、ビジネスが順調なのは組織形態を変えたのと関係があるかはわからないけど。ここ数年で、中国など、新しいマーケットにも広げていきました。あ、新しい素材も作りました。フライターグバッグの幌じゃない部分の生地は、ペットボトルをリサイクルした布なんです。あとは、生産のときに使い切れなかった部分を使った小さいプロダクトも増やしています。

ー新しいビジネスを考えているのですね。秘密でなければ、どんなものか教えていただけますか?

布のプロジェクトは次のレベルに持っていきたいし、ファッション業界で成功したいと思っています。ファッション業界は厳しい世界なんです(笑)。それから、家具にも興味があります。お店の什器について買えるのかよくお客さんに聞かれるので。自転車に関することもやりたいな。それもあって、今回は日本に来て、自転車事情を知りたかったんです。僕は折りたたみ自転車を使っているんだけど、折りたたみ自転車を初めて見たのが25年前に初めて日本に来たときだったんです。世界から車を減らして、自転車を増やしていきたい。

ーフライターグは基本的に一貫して広告を出さないですよね。それはどうしてですか?

それにはフライターグの歴史が関わってきます。ダニエルと僕は、もともと広告業界で働いていたんだけど、フライターグを始めたときには単純に広告に使える費用がなかったんです。それで今でも広告費用を確保するって文化がないんですよね。もし生産コストを抑えれば広告の費用が取れたかもしれないんだけど、僕らはスイスの工場にお金をかけているから。フライターグのボックスが白黒なのも、というか全てが白黒なのもそのせいです。でもプロダクトがカラフルだから、ちょうどいいやってなってね。それに、お客さんには広告のためじゃなくてプロダクトのためにお金を払っていると感じてほしくて。

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ー数ヶ月前に来日したCEOのオリバー・ブルンシュウィラーのインタビューを読んでいたのですが、彼は例えばインドで製品を作ればとてもコストは下がるけれども、それをしない理由として「今、利益が出ていないってことではない。嬉しいことに十分な資金があるから、別にわざわざ環境に悪いことをする必要もないんだよね」(引用元:TABI LABO)と言っていたのが印象的でした。明らかに利益が第一ではないですよね。フライターグが前に進み続けるモチベーションとはなんなのでしょうか?

僕の場合は、それが僕の性格なんです。何事に対しても「これでもいいけど…でももっとよくなるんじゃないか」って考えるタイプなんです。プロダクトに限らず、何かを改善すること、問題を解決していくこと自体に意義を感じるし、それは僕のモチベーションになります。

何かをしたいなら、まずは時間やお金を投資しなければならない。それでラッキーだったらそのうちお金がついてくるけど、そんなの誰も分からない。お金のために何かをすると変な方向にいっちゃうことがありますよね。何かを改善したいから、変化を起こしたいからといって物事に取り組むのは、もっとサステイナブルなモチベーションになると思います。それにビジネスがついてくることもありますしね。最初は投資で、勉強の連続です。

それに僕は食べることに困っていなければ、別に車もいらないし、家を買うなら自分のためじゃなくて会社のために買いたいし、自分はアパート暮らしで十分なんです。もちろん、プロジェクトをするためにお金があったら嬉しいけど、豪勢な暮らしをするためのお金はいらない。飛行機だってビジネスクラスである必要はない。そもそも環境のことを考えると飛行機に乗ることを避けたいけど、乗らなきゃいけないなら、どちらにせよいいことじゃないんだから安いほうがいいよねってなる。それに、飛行機があまりにも快適だったらもっと使っちゃうかもしれないですしね(笑)。

ー今年に入って「S.W.A.P.(Shopping Without Any Payment)」という、消費者同士のフライターグバッグの交換を促すプラットフォームの提供を始めましたね。これは非営利のサービスであるだけに関わらず、フライターグの顧客がS.W.A.P.で満足したら購買意欲を削いでいるという意味でリスクもあると思いますが、始めた理由はなんでしょうか?やっぱり環境のため?

お客さんのために何ができるか、それを考える必要があります。バッグ以上の何を提供できるのか。お客さんは買ってくれたバッグが古くなったらどうするのか?と考えました。それでフライターグにはコレクターが多いから、このサービスを気に入ってくれるかなって思ったんです。それに、お客さん同士が繋がれる場にもなるとも思いました。さっきの話に戻ると、広告よりもS.W.A.Pを開発するみたいなことに費用は使ったほうがいいかなと思うんです。

ーここ数年、特に今年は10代の環境活動家グレタ・トゥーンベリの活躍もあってか、世間の環境への意識が高まってきたように感じます。同時に、それをトレンドと捉え、企業が表面的に利用するグリーンウォッシング*1などが問題になってきました。環境問題がある種「トレンディ」になっている現状に対してどう感じていますか?

問題は、消費者が飽き飽きし始めちゃってることですよね。企業が「環境にいい、環境にいい…」って散々いって、実際は違ったりするわけだから。それはムーブメントのマイナスな面ですね。でも、みんなが考え始めるようになった。真実を知りたがっている。最初は単なる「話題のトピック」として話されるかもしれないけど、消費者はどんどん教育されて、企業も段々と本気にならないといけなくなってきていると思います。

でも現実問題、企業として環境問題に関する解決方法を考えるのは簡単なことではないです。大企業にとっては特に挑戦になると思うけど、彼らが変革できることを期待しています。H&Mなどはたくさんのブランドを抱えているけど、一つ本当にサステイナブルなコンセプトのブランドを作ってみて、それがうまくいけば他のブランドにも応用できるかもしれないですね。でもやっぱり全てのブランドの服を作る資源がそもそもないだろうから、ファストファッションっていう形は考え直したほうがいいことは確かです。

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ー1993年に創設してから信念を曲げず、ここまで進み続けてきたフライターグが考える「理想のブランドのあり方」とはどのようなものでしょうか?

つまり「未来のブランド」ですね?未来のブランドのあるべき姿は、消費者が単なる消費者じゃない状態だと思っています。未来のブランドは、消費者がリクエストできて、参加できて、貢献できる機関であるべきだと思っています。今はブランドが生産して、プロダクトはショップでただ買われることを期待しながら待っているだけ。未来のブランドはそれの正反対であるべきだと思うんです。僕はクラウドファンディングが素晴らしいシステムだと思っている。需要があるときにだけ、生産があるでしょう。それにサポートする側は、自分が生産に関わっていると強く感じられる。それが未来の形だと思う。それと、ブランドはサービスだけでなくソリューションを与えられる存在であるべきだとも思っています。今後はプロダクトを借りるだけでもいいしね。プロダクトの修理や再利用についてブランドはエキスパートであるべきだと思う。売る場所はやっぱり実際のストアだけではなくて、オンラインもそうだし、スペースがどんどん増えていく気がしています。

ーありがとうございます。最後に、フライターグの未来は?

今、言ったこと全てを実現したいですね(笑)。あと、バッグだけじゃなくていろんなビジネスを展開していきたい。やっぱりもう2つはほしいですね。

(*1)企業のイメージアップのために、表面上は環境保護に熱心だとみせること

FREITAG STORE KYOTO

〒604-8113京都市中京区井筒屋町400-1

営業時間
月曜–日曜: 11時 – 20時

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