「一部の人にとってのユートピアは、そこに入れない人からするとディストピアだったりする」
UNDERCOVERのコレクション音楽の制作や、世界的な人気を誇るイギリスのバンド、レイディオヘッドのボーカルとして知られるトム・ヨークのプレイリストに抜擢されるなど国内外問わず活躍を見せるMars89(マーズエイティーナイン)。現在、DJやコンポーザー、音楽プロデューサーとして東京を拠点に活動している。
自身の音楽に「レベルミュージック(社会権力に抵抗する音楽)」の側面があると話す彼に、カルチャーと社会の関係性や理想の社会のあり方について考えを聞いた。
「自由っていうのは何か」が問題
「架空のストーリーとか世界観みたいなものを思い浮かべながら、その世界の音楽を作る」と制作過程を説明するMars89は、小さい頃から好きだったSFの世界観に影響を受けているという。
SFのSってサイエンスでもありスペキュラティブでもあって、現実社会に対して問題を提起するじゃないですか。そういう人間の描き方や社会との接し方が好きなのかも。
幼少期は仏教系の幼稚園に入園し、親がクリスチャンだったため、週末は教会に通っていた。それが関係しているのか「反抗期は反抗の対象が親とかじゃなくて宗教だった」と振り返る。同時期にニーチェ*1を読み、「反逆者のスタンスを知った」。
「今は宗教になっちゃってるけど、そもそもキリストもブッダも、その当時はそこの支配者に抵抗していった人」だと気づいたという彼は、音楽制作をはじめるずっと前から、現在まで続く「レベル(反抗)精神」を持ち合わせていたようである。
(*1)ニーチェは「神は死んだ」や「超人」といった概念で知られているドイツの哲学者、古典文献学者。反キリスト教的・反道徳的態度は、哲学者としては“異端”とされていた。
彼が掲げる「レベルミュージック(社会権力に抵抗する音楽)」の「社会権力」とは何を意味するのか。
必ずしも政治家や大企業の上層部などいわゆる「権力者」を指しているのではないという。
権力者っていうか、そもそも僕の場合は反抗期の頃にニーチェに影響を受けたんで、「自由っていうのは何か」っていうのが問題。押し付けられた考え方や、決められた概念に縛られない思考ができるかどうか、自由な思考とは何かと問えるかどうか、というのが最低限の自由だって思っている。
「権力者だからってイコール悪い奴でもないし、その権力を何に使うか次第なんで」と話す彼は、「理解できない考え方が世の中を支配している状態に疑問を持って欲しい」という思いを持って活動している。
政治に関心がないからって税金を払わなくてすむって訳でもない
芸能人やアーティストが政治的な発言をすると批判を受けることが珍しくない日本社会において、「カルチャーと社会」の関係性は不確かかもしれない。だが、Mars89は両者のつながりに疑問を持つことはナンセンスだと言い切る。
そもそも(カルチャーと社会は)つながってるものだから。誰だって社会の中で生きてるし、絶対無関係じゃいられないから。政治に関心がないからって税金を払わなくてすむって訳でもないし。
それでも現在日本でチャートのトップを占める音楽に、政治的な思想や社会的スタンスなどを込めたような社会性が見られるかというと、 首をかしげざるを得ないのが現状ではないだろうか。それについては、日本には独特のカルチャーがあると彼は指摘する。
今の日本、特にポップなものは、アーティストのアティチュードを出さないほうがいいみたいになってるカルチャーがあると思うんですよ。なんか消費者がただ消費するだけでオッケーみたいな。
一部の人にとってのユートピアは、そこに入れない人からするとディストピア
社会に対して明確なスタンスを持ち、SNSなどを介して積極的に発言をしているMars89。メディアのインタビューでは、政治へ関心を持つことの重要性を謳ったり、Twitterで首相批判や、特定の政党への批判または支持をオープンに投稿していたりする。
そんなMars89が描く「いい社会」とはどんな社会なのだろうか。
一部の人にとってのユートピアは、そこに入れない人からするとディストピアだったりする。「これがより良い社会だ」って決めちゃうとやっぱりそこに入れない人が出てくるんで。
Mars89は前提として、絶対的な「いい社会像」は存在しないが、「いい社会の状態」はあると説明する。それは「何か問題があった時にみんなでより良い方へ変えていこうとできるかどうか」が重要な指標で、「思ったことを言いづらいとか権力側を批判しづらいとか生き方を強制されるような社会が今はあって、でもその中で言いたいこと言ってやりたいことをやっても暮らしていけるんだということを示していければ、何かが変わってくるはず」だと強調した。
今後の活動について聞くと、「ないと言えばないし、まあ、ていうのも常に前進できたらいいなっていうぐらいなんで」と前置きし、現在彼が興味があることについて話してくれた。それは映画のサウンドトラック制作や、映画制作、小説、と音楽に限らず一貫して「世界を作り出す」ことだった。同時に今後はアジアの隣国とのつながりを広げていきたいと話す。
日本と韓国とか、中国と香港や台湾とか歴史問題もあって距離も近いとどうしても政治的に不安定になりやすいじゃないですか。そういう時に不安定になってる国同士のアーティストを集めて文化的な交流をするっていうのはとても大事なことだなって思う。
「言いたいこと言ってやりたいことをやっても暮らしていけるんだということを示していければ、何かが変わってくるはず」という発言は、自身の生き方に体現されている。それには、「決められた概念に縛られない思考」が必要で、より多くの人が意識的に思考していけば、Mars89が言う通り、何かが変わるのかもしれない。
Mars89出演!
THE M/ALL
「THE M/ALL 2019」開催決定!
昨年の盛り上がりも記憶に新しい”「音楽」「アート」「社会」をひとつに繋ぐ”カルチャーのショッピングモール”、「THE M/ALL」が、2019年の渋谷に帰ってくる。
「THE M/ALL 2019」のテーマは「SURVIVE 」。多様なカルチャーを通して「これからの時代を生き抜く力」を学び、発信していきます。 「MAKE ALL(すべてをつくる)」のマインドで、この社会をいまより少しでもマシなものにするために。THE M/ALLは本年も昨年に引き続き無料開催を目指し、「100 VOTE T-Shirts PROJECT」にて引き続き開催資金を集めています。
<WWW / WWW X / WWWβ>
2019年9月7日(土)
OPEN 15:00 / START 16:00
WWW / WWW X / WWW β / GALLERY X BY PARCO
GEZAN / なみちえ / NTsKi / Mars89 / suimin / ermhoi / Mari Sakurai / machìna / Miru Shinoda / 行松陽介 / ENDON / LEARNERS / RITTO / MOMENTJOON / GREEN KIDS / 田島ハルコ / Power DNA with K.A.N.T.A / 7e / NINJAS / Maika Loubté / DJ SOYBEANS
<GALLERY X BY PARCO>
2019年9月7日(土)
OPEN 14:30 / START 15:00
2019年9月8日(日)
OPEN 10:00 / START 10:30
ライブ(2019年9月8日)
GOTCH / あっこゴリラ / KOTSU
トークゲスト
田房永子(漫画家・エッセイスト)/中里虎徹(フォトグラファー)
/竹内彰志(弁護士)/ カナイフユキ(イラストレーター)/ さようならアーティスト(THE M/ALL)/磯部涼(ライター)/Moment Joon(ラッパー)/ 中野晃一(政治学者)/武田砂鉄(ライター)白濱イズミ / ラブリ(アーティスト・モデル)/ 佐久間裕美子(文筆家)
清水イアン(フリーヒューマン)/武藤康平(Double Feather Partners Inc.)
Sapphire slows(DJ)/畑野とまと(ライター / トランスジェンダー活動家)
下田彦太(演出家・THE M/ALL)/super-KIKI(アーティスト・THE M/ALL)
千原航(デザイナー・THE M/ALL)
FOOD
インド富士子 / Cactus Burrito
TICKET入場無料(ドリンク代別)
INFORMATIONWWW 03-5458-7685