「どんなサイズのモデルがいてもいい」。摂食障害を告白したモデルが日本の“モデル体型”の定義を変える

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Yuki Aizawa unless otherwise stated.

2018.2.22

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2017年12月に行われた若者が集まるカルチャーイベント「Making-Love Club」の第4弾で、とあるフリーランスモデルが摂食障害*1、パニック障害*2、醜形恐怖症*3であることをカミングアウトした。彼女の名前は美佳。同世代の若者たちを前に、自分が悩まされていることをさらけ出すのにはどれほどの勇気が必要だっただろうか。そんな思いから、Be inspired!は「摂食障害」と向き合う彼女の側面に焦点を当てるインタビューを行った。

(*1)大きくは食事をとらない/とれない「拒食症」と食物を大量にとる「過食症」にわけられる、過度の食行動の異常がみられる病気。「拒食症」では体重が極端に減るが、自分ではその極端さを理解できていないことが多い。「過食症」では食べ始めると自分ではコントロールができず、大量の食物を食べてしまった後悔から憂鬱な状態が続くことが多い

(*2)突然の動悸や息切れ、強い不安をともなうパニック発作に襲われる病気。また発作が起きるのではないかという恐怖心から日常生活に支障をきたしてしまう

(*3)自分の容姿に対する自己評価が低く、自分の容姿に対する悩みを強迫的に/過剰に気にしてしまう病気

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驚いたのは「どうして食べられないの?」「どうして食べすぎちゃうの?」と聞かれたこと

自身が抱えている病気について、どうして人前で話そうと思ったのか聞いてみると、意外なことに「あれは直感だったんです」という答えが返ってきた。同イベントのトークショーで「BMI18*4を下回るモデルの使用を禁止した海外ブランド」が話題に上ったため、もしかしたらこれが話すタイミングかもしれないと感じた美佳。来場者が自由に発言できる時間に、思い切って出演者や来場者を前に「モデルとして自分の抱えている病気について発言するかどうかの葛藤」を口にしたのだ。

親しくなった人には病気について伝えていたという彼女だが、知らない人が多く集まるイベントでのカミングアウトでは今までにないほど声が震えていたと振り返る。

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いずれは病気のことも公にしようと思っていたものの、理解してもらえるのかという不安や「メンタルヘルスの問題を抱える、まだ売れてないモデル」というレッテルを貼られてしまうのではないかという心配も感じていた。彼女がカミングアウトしてきた相手にはわかってくれる人たちもいる一方、「摂食障害」という言葉さえ知らない相手の場合には、理解してもらうことはたやすくなかった。

知識のない子に言われて私が逆にびっくりしたのが「どうして食べちゃうの?」「どうして食べ過ぎちゃうの?」っていう単純な疑問みたいなこと。それが私にもわからないから、こうなってしまっているのに。そういうのを聞くと「そう言われてもな、じゃあ言わなければよかった」って後悔します。

会場には同様な受け止め方をする人、彼女の経験を人ごとにしか感じられない人たちもいるかもしれない。だがそんな心配をよそに、イベント終了後には「勇気をもらった」という言葉や、「私も実は同じことに悩んでいました」というような言葉を多く受け取ったという。

(*4)BMI数値は身体の「肥満度」を測るものとして世界的に使われており、「体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))」の計算式で算出できる。「低体重」に分類されるBMI18が、日本のファッション誌で“モデル体型”だとされることが多かった。また世界のファッションショーでは、人々が「不健康な痩せ方」を目指す傾向を助長しないようBMI18.5以下のモデルを使わないという動きが広まっている

「メンタルヘルスの病」と闘うファッションモデル

彼女の摂食障害は過食症から始まり、拒食症にもなった。病状が落ち着いているときもあるが、摂食障害を克服するのには時間がかかるもので、闘いはまだ続いている。最近ファッションモデルとして本格的に活動を始めた彼女だが、ファッションが好きになったのも病気になってからで、モデル事務所にスカウトされたのもそうだ。さらに、初めてのファッションスナップは精神病棟から外出許可をもらって参加した。

ファッションが好きになったのは自分の病気がきっかけでした。原宿でスカウトされたのは5年くらい前でバイトをしていたときなんだけど、学校を辞めて自分には何もなくなってしまったという絶望感があって、そのときに出会ったのがおしゃれをすることで、バイトのない日は原宿に通っていて、そんな頃に竹下通りでスカウトされてのちにモデル事務所に所属することになりました。

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そんな彼女は昨年、モデル事務所に所属し続けるのではなく、フリーランスモデルの道を選んだ。フリーランスなら自分で受けたい仕事を決められるが、そのためには自分自身を自力で売り込んで仕事を見つけなければならない。また、体調管理も仕事を続けていくうえで必須なため、自分の病気と嫌でも向き合わざるをえなくなる。

今まではたとえば私が過食しちゃってそのままお風呂にも入れてなくて具合も悪くて、「ごめん今日無理なんだ…」ってドタキャンすることが多くて、でもそうするとやっぱり相手が「どうして?」「なんでこんなに体調悪くなるの?」って離れていってしまうことがありました。でもだからって今仕事をしていてドタキャンするわけにいかないから、自分で体調管理や自己管理をするようことが大事ですが、それでも急に過食したいという衝動に駆られてしまうこともあってすごく難しいですよね。

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そんな苦しさを感じながらも、モデルとして仕事をしていきたいと思わせてくれた出来事があった。それは初めてモデルとして仕事をしたフォトグラファーとの出会い。彼女がヌードで撮影したのは彼とだけで「今後ヌード撮影のオファーが来ても、ほかのフォトグラファーのだったら受けない」と断言するほど信頼をおいている。

そんな彼とSNSを見ながら情報交換をしていたとき、顔のそばかすが特徴的な人気モデルのモトーラ世理奈が写った、日本のロックバンドRADWIMPS(ラッドウィンプス)のCDジャケット写真をたまたま見つけた美佳。すると同じ写真を見た彼に「それが君でもおかしくないよ」と言われ、今まで感じたことのないやる気が湧いたという。一般的にネガティブだった「そばかす」に対する印象をポジティブに変えたともいえるモトーラ世理奈のように、何か美に対する価値観を変えてやろう、と思ったのだろうか。

自分の体験をオープンに話すという、「表に出る者」としての責任

彼女はモデルの仕事をするうえで、ある「使命感」を感じているという。それは、自分の抱えている病気やその経験を話すこと。アメリカの歌手LADY GAGA(レディー・ガガ)が摂食障害を患っていたことを告白したように、有名人がメンタルヘルスについて発言すれば、たとえば美佳のカミングアウトを理解できなかった人にとって彼女の病気を知る機会になるかもしれない。そういう意味でも、発言一つで救われる人はきっと少なくない。

「私はたまたまメンタルヘルスの病を抱えていて、表に出る人になった」ということを発信する使命があるんじゃないかって勝手に思っていて。そうすることでメンタルヘルスの病を抱えている人に勇気を持ってもらいたいとは言わないけど、諦めないでほしい。私も部屋の中で一人で過食をして落ち込んで泣いたり、引きこもりになったりした。みんながモデルになれって言いたいわけではないんだけど、社会に出られる可能性があるとか好きなことができる可能性があるってことを信じてほしい。そういう気持ちがあって話をするべきだと思いました。

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「彼女は摂食障害の患者の代表だ」ととらえられることは、決して彼女が目指していることではない。彼女が目指すのは一人のファッションモデルとしての活躍だが、今後は人前で話す機会があれば、自分の抱えてきた病気について積極的に話していくつもりでいる。

もちろん病気について聞かれたら答えるし、隠すことは何もない。でも「この人摂食障害で、頑張っているから」って私のことをフォローしてくれている人もいるし、モデルとして応援してくれている人もいるし、親戚のおばさんも私のことをフォローしてくれているから、そればっかりにフォーカスしなくていいかなって。

2018年、“モデル体型”が存在しない時代に突入

“モデル体型”といえば、どんな体型を想像するだろうか?まず思い浮かべるのは「細い人」かもしれない。今でこそ「プラスサイズモデル」や多様な見た目のモデルを目にするようになったが、それはここ最近の話にすぎないのだ。美佳も過去にはメディアが提示してきた「細い“モデル体型”こそがすべてという風潮」に飲み込まれてしまっていたという。

ティーン誌を読んでたころって「これがモデル体型だ」って思い込んでしまっていて、BMI一覧とか身長と体重がグラフになっている表とかに載っている基準がすべてだと思い込んでしまった時期があって、それを満たしていなかった私はダイエットに一生懸命になってしまって、すごくネガティブになりましたね。最近も同じグラフを目にすることがありますが、あれって今も必要なんでしょうか?あれを見て誰が得するのかって思います。

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モデルとして本格的に活動を始めてからも、どんな体型でいればいいのか考えてしまうことは多い。だが、彼女は「求められる体型なんてない」という結論に至ろうとしている。近頃はブランド側のモデルの選び方も変化しており、SNSで見つけたブランドの雰囲気に合いそうな人に声をかけることもよくある。モデルをどうブランドに合わせるかというよりも、どう合うモデルを見つけるかという考え方となってきているといっても過言ではない。

昔は「細くてきれいで」っていうのが当たり前だったかもしれないけど、最近は一つのブランドに多様なサイズのモデルが一緒に使われているのを見る。だからモデルになるための体型の基準なんてないんじゃないかって結論を持つようになって、そのためにダイエットをしなくてもいいって思うようになった。インスタを見てブランドから連絡がくることもあるんですが、インスタには自分のサイズを書いてないですよね。ぱっと見で使いたいかどうかなんだと思います。「あ、使いたい」みたいな、だからサイズではなくて雰囲気が重視されているような気がしてます。

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「モデル」とは、どんな存在であるべきか?

いつの時代も「美しさ」を追いかける人たちがいる。それで目標とされたり崇拝の対象となったりするのはいつも、ファッション誌を飾ったりランウェイで歩いたりSNSで莫大な数のフォロワーを持ったりしているようなモデルたち。

そのモデルという存在は「ブランドの服を引き立たせる存在」でしかないこともある。だが、特にSNSが発達してからは個人として発言しやすくなり、社会的に意味のある意見を発信するモデルの存在が注目されるようになった。そんな流れを受け、発言をしたモデルが身につけたブランドの服が好き、と考える消費者が少なからず増えてきているに違いない。美佳のように、モデルの影響力が持つ可能性や意味を理解したモデルが、今後日本でも姿を表してくるのではないだろうか。

美佳(MIKA)

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※踏切内での撮影は電車の運行や自動車の通行を妨害していないことを確認してから行っております。また線路内には侵入しておりません

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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