服を必要以上に生産してしまったために、いくらセールを行っても服を売り切ることができないファッションブランドがある一方、自分の着たい服が体型に合わないために着たい服を買うことができない人たちがいる。ファッションモデルの活動をしながら自身のアパレルブランド「Cakeface(ケークフェイス)」を大学3年次に始めたMinami。どんな体型やバックグラウンドの人でも着られる服作りを掲げているのが同ブランドの特徴だ。以下が彼女による力強いステートメント。
自分勝手に服を選べばいい
自信が持てるのならどんな形でもいい
今回NEUTが行ったインタビューでは彼女自身とファッションについて、既存のファッション業界が多様なバックグラウンドを持つ人の需要を満たしていないことに気づいたきっかけや、彼女が考える「どんな人でも着られる服」とは何を指すのかを聞いた。
着たい服を着るようになったのは最近のこと
現在は大学4年生でパンキッシュな服装が印象的なMinamiに、いつから今のようなファッションをするようになったのか聞いた。するとそれは意外にも最近で、2年弱前の大学2年生のときにヘアショーに出る機会があり、そのために髪をばっさりと切ってから。髪型に合わせてファッションも「奇抜にしていった」のだという。好きなものを選んでいったらたまたま現在のようなスタイルになったと彼女は説明する。さらに予想外なことに、彼女自身が着たいと思う服を好きに着るようになったのは、ごく最近のことだった。それまでは、親や恋人など周囲の目を意識の外に完全に追いやることはなかった。
本当に何にも気にしないで自分の好きな服を着るようになったのは本当に最近。意外に大学3年生ぐらいから。それまではヒョウ柄を着るのでも、ちょっと抵抗あったりして。
モデルを始めたのも1年半ほど前で、人目をまったく気にすることなく自身の好きな服装を身にまとうようになってから。それも、知り合いの知り合いから声がかかったのがきっかけで、モデルとしての初めての仕事はラグジュアリーブランド バレンシアガのルック撮影。偶然の重なりで始まったものの、しばらくはモデルとして受けたブランドのオーディションに落ちることも少なくなく、仕事が増えるようになったのは「顔にパンチがほしい」という思いから軽い気持ちで眉毛をなくした数ヶ月前からだったと話す。自由に見かけを変えてみたことが、彼女にとっては人に注目されるチャンスとなったようだ。
人を見かけで判断するのは嫌い
客観的に見て「かっこいい」「ボーイッシュ」だと形容されることが多い彼女のファッションだが、自身は「可愛い」と思って着ている。そんなMinamiは性別や相手に抱かれる印象にとらわれず好きな服を身につけていて、それが似合っている人を参考にすることが多いという。その具体例として映画『チョコレートドーナツ』の登場人物で、ドレスを着てショーダンサーとして働く男性の自然体であり媚びていないパンチがきいたファッションを挙げてくれた。
そんな何かにしばられない視点の持ち主であるMinamiを悲しくさせるのは、彼女の周囲にいる友人に似たようなパンキッシュなファッションをしている人がいないことに対して他人から受ける「なんで同じような格好の子たちと一緒にいないの?」といった発言だ。好きな服を楽しんで着ている人を否定することはもちろん、関わる人を「見た目」で判断して決めるようなことを、Minamiは絶対にしないときっぱりと言う。
見た目とかは別に気にしない。その子が好きで着ているんだったらそれでいいじゃんって感じなんで。どんな系統でもいい。友だちになるときも、見た目ではなく中身がおもしろいとか、フィーリングがあったりするかが重要ではないかと思っています。
そんな姿勢が伝わったからか、最近ではルイ・ヴィトンのメンズラインの広告モデルに抜擢されるなど、モデルの活動においても既存の枠にとらわれないオファーがきているようだ。
服選びの不自由さを感じている人たちの存在
Minamiが服装で困ることがないわけではない。奇抜な格好をしていれば怖がられてしまうことがあれば、モデルの仕事において一定のサイズを超えても下回っても着られない服があるなど体型による制限が厳しくもうけられていることに疑問を感じることはある。しかしそれを受けても不自由とまで思ったことはあまりないと話していた。そう思えるのも彼女が、服選びにおける、それ以上の不自由さを目の当たりにしていたかもしれない。
彼女の古くからの友人の、トランスジェンダーの女性(男性として生まれたが女性を自認している)から、デザインが好みの服が体型にあうことが少なくて困っているという相談を受けていたのだ。その友人はフェミニンな服装を好むものの、それらが“標準的な女性の体型向け”に作られているため、体格にあわず窮屈なことが多く、人目が気になるという不自由さを感じていた。その事実に、レストランのメニューから今食べたいものを悩まずパッと決めるような感覚で着たい服を選んでいたMinamiは衝撃を受けた。
「え、そうなの?」みたいな感じで最初はすごくびっくりして。ファッションを楽しみたいのに楽しめない人がいるのは嫌だから、その思いを形にしたいなと思ってブランドを始めました。
そんな友人の抱えていた悩みが、どんなバックグラウンドの人でも着られる服をプロデュースするきっかけとなったわけだったが、LGBTQに関する情報を発信するユーチューバーの友人の協力を得て、トランスジェンダーを自認する300人に調査をしてみたところ、やはり服選びにおいて肩幅などのサイズの問題で困っている人が多かった。そしてこれに加え、ちょっとしたきっかけがあることで、人が一歩を踏み出せる機会を作れると思えたことも契機となった。先ほどの友人から「本当は女の子の服を着たいんだけど、人目を気にしちゃって踏み出せないんだよね」とフェミニンなファッションをすること自体にもためらいがあると打ち明けられたときに、Minamiが「そんなのやっちゃえばいいじゃん」と軽く背中を押したところ、次に会ったときにはメイクアップをしてくるなど、会うたびにファッションをより主体的に楽しもうとする姿がみられたのだった。
ちょっときっかけがあるだけで踏み出せる子はいると思うし、そういう機会を自分で作りたいと思いました。
発売後間もなく完売した、バックグラウンドにしばられない服
モデル活動を始めてから知り合ったパタンナーらの協力を得て実現された、彼女のブランドにつけられた名前は「Cakeface」。ネガティブなイメージにとられがちな「厚化粧」という意味を英語圏では持つこの言葉だが、 Minamiがもともと好きなドラァグクィーンの派手なメイクアップや衣装、彼らの「自信満々でちょっと上から目線のスタンス」からとっている。また「cake」からは、「新しく作る」というイメージを感じ、「今まで隠していた自分を、自分なりに工夫して新しい自分を作っていく」という意味を込めた。Tシャツから取り扱い始め、新しいコレクションではワンピースを出している。取り扱いはオンラインのみだが、第一弾はなんと発売後1時間で完売したという。
Cakeface official account 始動
ブランドイメージビデオ公開 pic.twitter.com/QizrFGgKA9— cakeface (@cakeface_2019) 2019年4月5日
Cakefaceブランドイメージビデオ
※動画が見られない方はこちら
トランスジェンダー専用っていうイメージをつけたくなかったのは、トランスジェンダーの方への特別感みたいなのがでちゃって、その人たちが普通じゃないって思われるのが嫌だったので。
彼女の服作りにおけるこだわりは、特定の人を特別視するのではなく性別や体格といったいかなるバックグラウンドの制限を受けずに着られるものを作ることだ。トランスジェンダーの人への意識が根底にあることは言うまでもないが、トランスジェンダーの人専用の服を作っているわけでない。まず初めにフェミニンなワンピースでなく、あえてユニセックスだというのが伝わりやすいプリントのロングTシャツを出した理由には、どんな体格であっても似合う服のブランドだとわかってもらうための判断だった。今後は、どんな体格でも履ける、生理用ボクサーパンツそしてセクシーなブラジャーなどの下着を含め幅広く作っていきたいという。
それこそ私みたいなパンチが効いた感じのファッションの子だとスカートを履くことに抵抗があったりするので、そういう子でも気軽に履けるようなスカートとかも作れたらいいなと思っています。
Minamiは取材時に現在新作としてCakefaceのInstagramに掲載されているワンピースを見せてくれた。シンプルなデザインで軽くて肌触りがよく、何よりも肩幅が狭い人でも広い人でも違和感なく着こなせるもので、ブランドを始めるきっかけとなった友人にも「早く見せたいな」と彼女が嬉しそうな顔を浮かべていたのが印象的だった。同ワンピースも、トランスジェンダーの女性たちに「どういうのほしい?」と聞いて集めた要望をもとに作られた。同ワンピースの着用モデルには、トランスジェンダーの女性を起用している。
ステートメントとしての服飾ブランド
本記事の冒頭でも紹介したようにCakefaceのブランドステートメントは力強い。「自分勝手に服を選べばいい」「自信が持てるのならどんな形でもいい」という部分からは、自分を主体にファッションを楽しんだらいいというメッセージが伝わってくる。同ステートメントに彼女が批判を覚悟して入れたというのが「女性、男性、トランスジェンダーなど」と、トランスジェンダーを男性や女性とはあえて別に表記している箇所。
体型とかサイズとか結構みんなからしたら当たり前のことが、全然当たり前じゃないということを絶対にステートメントで言いたくて。
事前に受けた指摘としてはトランスジェンダーを男性や女性を並べてしまうと、トランスジェンダーの人が男性とか女性に当てはまらないと勘違いされてしまうのではないかというものだった。だが、彼女にとって「トランスジェンダーが男性や女性であることは当たり前」で、体格などにより着る服に困っている人がいる現状を指摘するために、どうしても入れたかったのだと話す。ブランド自体をステートメントとして、好きな服の選択肢が少なく不自由を感じている人がいることを伝えるためだ。
このように体型やジェンダーを問わず着られるブランドCakefaceだが、サイズの問題を指摘するブランドとして、身体の大きさを一定のサイズに合わせてS・M・Lというように区別した表記を今後はなくしていきたいという考えでいる。同ブランドの服は幅広い体格の人が着たときのスタイルを意識して作られているが、それでもワンサイズで対応させるのには限界があり、それをふまえたサイズ表記をどうするか考えるのは悩ましいとMinamiは話す。しかし服を提供する側が、「服のサイズ」が人々を時にあらゆる意味で苦しめてきたことに自覚的になっていくことは、近年注目を浴びている服のビジュアル面でのジェンダーレス化の次をいく大きな流れを巻き起こすことにつながっていくのではないか。
Cakeface
女性、男性、トランスジェンダーなどさまざまな性に関係なく体格やバックグラウンドに制限されない自分をさらけ出すのがファッション
自分勝手に服を選べばいい
自信が持てるのならどんな形でもいい
ワンピースは現在売り切れていますが、色違いの展開と再販を予定しています。InstagramのDMからもオーダーを受け付けていますので、お気軽にご連絡ください!