「自分に優しく」は甘えじゃない。過去の傷や苦しみと向き合ったモデル・MINORによる「自分の取説」の見つけ方

Text: Natsu Shirotori

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

2022.10.25

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 419.3万人。これは、2017年時点の日本における精神疾患を有する総患者数だ(参照元:厚生労働省)。およそ30人に1人は、精神疾患を有している計算になる。想像よりも多いと感じたのではないだろうか。この数値は、医療機関で受診した人数の推計であるため、実際にはもっと多いのかもしれない。さらにコロナ禍においては、日本でうつ病の患者数が今までの2倍になったという報告もされている(参照元:OECD HP日本政府代表部「Health at a Glance 2021」​​)。世界的にもメンタルヘルスは喫緊の課題であり、日本は特にその傾向が強いはずなのに、自分には関係のない話だと感じている人が多いように見えるのはなぜなのだろうか。

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MINOR

 今回取材したPUMP management所属のモデル・アーティストMINORは数年前から、自身のメンタルヘルスに不調を感じている。PUMP managementの2周年記念パーティーでは、そんな自身の心境をパフォーマンスで表現した映像を発表した。

※動画が見られない方はこちら

 今では自分に合った対処法を学びながら、メンタルヘルスに関する情報発信にも精力的だ。MINORは、どのようにここまで辿り着いたのか。

自分と向き合う時間が、過去の“傷つき”に気付く時間になった

 「メンタルヘルスという言葉は自分には一切関係のない、どこか遠くの世界の話だと思っていました」。MINORの口から最初に出てきたのは、そんな言葉だった。現代の日本社会において、テレビや雑誌などのメディアを中心にメンタルヘルスの問題について目にする機会は少なくないはずだ。それなのに、なぜか自分には関係のないことのように思えてしまう。多くの人がそうであるように、MINORもまた、まさか自分がメンタルヘルスの問題で悩むとは思っていなかったようだ。そんなMINORが自身の不調に気づいたのは、アーティストとしてショーの練習をしている最中のことだった。

 「2020年のクリスマス頃に、初めてパフォーマンスをする機会をいただきました。同じ事務所に所属している演出家で、監修をしてくれた橋本ロマンスちゃんに『自分を知らないと表現ができないよ』と言われました。自分でもそう思って、自分と向き合う時間を作り始めたのですが、だんだん昔の嫌な記憶や、つらかったことを思い出して、ネガティブな状態から戻れなくなってきちゃったんです。その時点では、そこまで自分が深刻な状態だとは思っていませんでした。でも、2回目のショーのときにも同じような状態になって、演出家と社長からコメントをもらっても、やる気につながらず自信をなくしたり、むしろ怒りの感情が出てきたり、急にフリーズしちゃったりして、なんだか今までの自分と違うなと思い始めたんです。2回目のショーの本番直前、2人の前で過呼吸気味に泣き崩れてしまって、そこでやっとメンタルヘルスが不調かもしれないと思うようになりました」

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 過去の自分と向き合う時間がトリガーだった。そう語るMINORは、京都府八幡市で生まれ、専門学校時代までを地元で過ごした。体が大きく目立つMINORは小学校3年生頃まではクラスのリーダーポジションにいた。しかし、4年生のときに近隣の小学校との合併を機にいじめられっ子へ。初めて孤立を味わった。幼少期から自分がセクシュアルマイノリティであると気付きながらも、絶対に素の自分は見せられないと考えたMINOR。ヤンキー文化への憧れも相まって、あえて「男らしい言動」を続けていたという。そんなMINORが自分らしさを取り戻し始めたのは、高校時代のこと。たまたま目にした海外のストリートスナップの影響で、昔から好きだったファッションで、海外に行きたいと思い始め、服飾系の専門学校へと進学。周囲に振り回されずに自分の好きなことをやろうと全力で駆け抜けてきた。この頃には周囲にも自身のセクシュアリティをカミングアウトし始めていた。温かく受け入れてくれる友人の存在に勇気づけられ、親や仲のよかったいとこにもカミングアウトしようと決意。しかし、返ってきたのは「他の人には言わないでほしい」という反応だった。一度悪い噂が立てば一気に広がってしまう、そんな狭い地方のコミュニティならではの恐れや心配を含んだ反応だったのだろう。

 

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 その後、母とは和解。上京のために夜行バスに乗ったMINORに向けて、母は「あんたはあんた」と言葉をかけてくれたという。今では、10代の頃よりも母と仲が良くなり、一つの心の支えになっている。とはいえ、過去が変えられるわけではない。忙しい日々のなかで夢を追いかけ続け、自然と蓋をしていた過去を、ショーのステージに向けて振り返るなかで、自身が負ってきた傷に気が付いたのだ。
 また、自分の過去と向き合う時間以外にも、ファッション業界という競争が激しい環境で高い目標を掲げて活動するMINORにとって「他の人と比べてしまう」ことも、メンタル不調の大きな要因になっていたという。

「単独ショーの後、『Pan』という舞台に出演させていただいたんです。同じ事務所のモデルが私以外にも3名出演していて、モデルのお仕事が入ったら舞台のレッスンはお休みすることになっていました。それで、私の仕事があまりないときに周りのみんながどんどんレッスンを抜けて仕事に行くので、自分はダメなんだって勝手に思い始めちゃったんです。今ではだいぶなくなりましたが、他人と比べてはメンタルの調子を崩していました」

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「自分の取説」が自分を助けてくれる

 そんな状態にあったMINORは、どのように自分のメンタルヘルスと向き合うようになったのだろうか。「まさか自分がこうなるとは」「自分と向き合うのは怖い」そんな意識があったMINORが一歩を踏み出すきっかけになったのは、友人の一言だった。

「調子を崩した私の様子を見て、友達が『こういうのじゃない?』とメンタルの病気について教えてくれたんです。自分でもそうかもしれないと薄々感じながら逃げ続けていたんですけど、友達にも言われたので調べてみたら自分の症状に近くて。調べるまでは怖かったのに、調べたら『自分の不調の原因はこれかもしれない。私だけじゃないんだ』と分かって急に安心できたんです」

 メンタルヘルスの問題が一気に自分ごととなったMINORは、今まで見えていなかった他人が抱えるメンタルヘルスの悩みも目に入るようになったという。「実は俺もなんだよね…」と話す周りの人々の声に気付き、より一層メンタルヘルスの問題が身近だと実感し始めていた。
 それからMINORは、自身のメンタルヘルスを整えていくために、知識を身につけ、さまざまな手法を試していった。そんななかで見つけたのが「自分の取説」を持つことの重要性だ。

 「調べたり、いろいろと試していくうちに自分がどうやったら落ち込むのか、どうしたら機嫌良くいられるのかが分かってきて、自分の取り扱い説明書を見つけることができました。例えば、今までは誰かに誘ってもらったら基本的に顔を出すようにしていたんですけど、最近は人との距離をうまく取れるようになりました。もちろん誰かと喋って助けられるときもあるけれど、人に会いすぎると疲れてしまう自分もいるので、そういうときは最初からNOと言えるようになったんです。他にも、瞑想をしたり、ゴロゴロしたいときはゴロゴロしたりと、その時々で自分が何をしたいのかを考えて、できるだけそれに従うようにしています」

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 このように「自分の取説」を見つけ、それを実践していくために、MINORは周囲のコミュニティにもオープンに自分の状態を伝えている。オープンに話せる温かいコミュニティにいたからできることだとMINORは言うが、時には周りの人を頼ることも重要だろう。

 「メンタルヘルスの問題を抱えている人って、自分からはあまり言いませんよね。でも私は事務所の仲間だったり、友達にも言うようになりました。実際に、過去には事務所の友達たちと遊びに行ったときに気分が落ちてしまって、そのときも『みんなのことが嫌なわけじゃないんだけど、気分が落ちて疲れてしまったから少し寝るね』と伝えて休ませてもらったことがあります。変に気を遣われたり機嫌が悪いのかなと思われるよりも、オープンにしていた方が少なくとも自分は楽だなって思ったんです。それに、こういう話をしていたら、だんだんみんなで日常的にメンタルヘルスの話をするようになって、分からないことは調べて、としているうちに自然と知識も増えていきました。人によっては言いにく環境にいることもあるだろうから、みんなオープンにした方がいいよとは言えないけれど、周りを頼るのも一つの手だと思います」

「自分に優しく」は甘えじゃない

 自らの手で「自分の取説」と頼れるコミュニティを見つけ出したMINORだが、メンタルヘルスの不調に向き合うにあたって頼れるのはこの二つだけではない。メンタルヘルスの不調に気付いたら、できれば最初に頼ってほしいのが医療機関などの専門家だ。怪我をしたら病院に行くように、メンタルの不調に気付いたら病院に行ってもいいはずだが、なぜかハードルが高いと感じている人も多いのではないだろうか。MINORも実は、病院に高いハードルを感じていた1人だ。

 「私は病院に行けなかったんです。もっとパニックになるまで行くものじゃないと思っていたし、面倒臭いとか、事実を突きつけられるのが怖いとか、いろんな要因で病院に行くという選択ができなかった。それに、メンタル不調になってから病院を探すのはしんどくてできなかったです。そんな私が言うのは説得力がないかもしれないけれど、今では病院に行くのがベストだったとも思うんです。自分が傷ついていたことを認めてくれたり、自分だけじゃないんだってことを教えてくれるプロにもっと早く頼れたらよかったんじゃないのかなって。もしまたメンタルの調子がひどく崩れてしまったら、私も病院に行く選択をすると思います」

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 ここまでMINORが語ってくれたように、メンタルヘルスを崩した場合にできることは、探ってみれば複数ある。また、調子を崩してしまう前に頼れる医療機関を探しておくことも重要だろう。しかし、かつてのMINORと同じように、メンタルヘルスの問題を自分ごとに捉えられず、いざというときの準備ができていない人がほとんどではないか。そんな人に向けて最後にMINORからメッセージをもらった。

 「『自分に優しく』みたいな考え方がずっと嫌いでした。そんなのは超売れてからすることだって思っていたんです。でも、甘えと自分に優しくすることは違うと気付きました。SNSで輝いて見える人でも、私みたいに苦しい面を持っているかもしれない。だから、少しでもメンタルに不調を感じたら、無理をしないでください。メンタルヘルスを崩してしまうことは、こんな日本で、地球で生きていて全く変なことじゃない。自分がそれまで頑張って傷ついてきたことに気付いたり、自分が心地よく生きていく方法を知るためのきっかけだと思って、自分に優しくしてあげてください」

 数年前に比べたら、メンタルヘルス関連の報道やコンテンツは増加しつつある。それでも「自分には関係のないことだ」と考えている人が多いのが現状だろう。今回、MINORの話を聞いて、日頃からメンタルヘルスに関する情報収集をしておくことや、セーフティーネットを見つけておくことの重要性に気付くことができた。いつ自分がメンタルの調子を崩してもおかしくない。身近にメンタルヘルスに悩みを抱えている人がいるかもしれない。この記事を読んだあなたは、「今やらなくても…」と思わずに、少しずつでも自分に優しくする方法を探してみてほしい。

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MINOR

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京都出身のモデル・アーティスト。ランウェイや雑誌などで活躍するほか、ショーにも出演。所属するPUMP mgmt managementによるプロジェクト「PUMP SOUL」でも自らがディレクション・出演でパフォーマンスを披露。

[MINOR gala]

チケット購入 / 公式PUMPグッズ

2022/11/5(土)開場: 13:30 / 開演: 14:00 / 終演: 17:00
@ギャラリーあるかぶる目黒

MINOR 初のオフ会を開催。生パフォーマンス&トークショーなど、ここでしか見れないMINORをたくさんでお届けします!

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