トヨタ・ヤリスのCMを解体し、自由にアーティストが再構築。ミニモニやハッチポッチステーションが原点にある村田実莉が描く「架空」と「現実」のはざま<Sponsored>

Text: Yoshiko Kurata

Photography: Kaname Sato unless otherwise stated.

Edit: Noemi Minami

2023.9.21

Share
Tweet

 2023年8月31日に始まったトヨタ・ヤリスによるクリエイターとの共創プロジェクト「YARIS DIRECTORSCUT」。過去に撮影したヤリス、ヤリス クロス、GRヤリスの映像279カットに加え、サカナクションの楽曲「エウリュノメーのトラックデータ全21素材をアレンジ可能な素材として公開し、さまざまなジャンルのクリエイターが思い思いの映像を制作していく。今回、同企画に参加したアートディレクター・ビジュアルアーティストの村田実莉(むらた みのり)に、動画のコンセプトから、同動画でも表現される「架空」と「現実」のはざまを描くような作風まで、故郷の二子玉川で話を伺った。

width="100%"
村田実莉

―さまざまなクリエイターが参加している企画「YARIS DIRECTORSCUT」に参加してみての感想はいかがでしたか?

車のCMで私のようなクリエイティブシーンで活動している方々が参加しているプロジェクトはめずらしいように感じました。一般的に、車のCMといえば車がしっかり映る形で広告代理店が手がけているイメージがあったので、今回の企画のように一般の方含めてさまざまなアプローチで車を素材として使っていいという自由な試みが面白かったです。しかも、素材のなかにサカナクションさんが手がける音もあってかなり贅沢でした(笑)。例えば、手を叩くだけの音が収録してあって、曲になる前の音素材が使えるなんてびっくり。

―どのようなコンセプトで今回の映像制作を進めていきましたか?

ヤリスに対しての第一印象は、造形がかっこいいということでした。個人的に車の免許を持っていないこともあって、実際に車は記号的にしか分かっていなかったのですが、先ほど話した音素材以外にも映像素材のクオリティの高さに興味をそそられたんですよね。いくつかの車体の特性を生かした映像素材があって、そのなかでもGRヤリスの映像がワイルドでかっこよかったんです。砂漠を猛スピードで駆け抜ける躍動感から着想を得て、カーレーシングゲームのイメージをつくっていきました。

―スピード感と打って変わって、運転手が蟻なんですね…!

蟻は好きなモチーフとして、よく作品で使うんです。子どもの頃、誰しもが身近に触れる一番小さいものでありながらも、彼らは人間と同じように集団生活を営んでいますよね。人間とは違っているけど、どこか似ている部分がある生き物として、今回は人間のメタファーとして蟻を運転手に使っています。

ー冒頭でもおっしゃった通り、車のCMとなると一般的にはしっかりと映るような映像が多いなか、今回村田さんの作品では車からさまざまな色が発光し、歪んだり、ブレたりしていましたね。村田さんらしい作風だと思います。

予備校時代からモノを変形させることに興味があったんですよね。大学で所属していたテキスタイル学科でのモノへの考え方が今となっては影響しているのかなと思っていて。そこでは、他の学科と違って自由に形や色を変形して、平面的にも多面的にもつくってもいい環境だったんです。例えばプロダクト科だったら、機能面も踏まえて形を整えていくんですけど。だから、自分の表現方法にそうしたメタモルフォーゼする感覚は、わりと自然に大学時代から取り入れていたのかなと思います。

―現在、村田さんはアートディレクター、ビジュアルアーティストという肩書きで活動していますが、バックグラウンドはテキスタイルデザインなんですね。今に至るまでに、視覚的な表現に興味を持った最初のきっかけはなんでしたか?

ファッションがきっかけでした。高校生の頃通っていた予備校が原宿から徒歩圏内だったこともあって、街を歩きながらファッションに興味が湧いていて。雑誌「FRUiTS」も好きでした。当時、本当は服飾学校に入ることも迷っていたのですが、親から美大を勧められたこともあり、ふんわりとしたファッションのイメージでテキスタイルデザイン科を選びました。でも、実際入るとテキスタイルデザインは職人技に近く、素材の研究や開発が課題の目的だったんです。あんまり自分の描いていたファッションでやりたいこととは違うなと思いつつ、ニットの授業では一人だけサーモンを短冊上に切って、編んだサーモンをシャリの上に置いた「寿司ニット」を提出するような学生でした(笑)。

width=“100%"

width=“100%"

―確かに、テキスタイルデザインといえば、染物や織物など職人のイメージがあります。

そうなんですよね。そうして、なんとなく違うなと思っていたところに、ブランド「A-POC」を三宅一生さんと共創活動として手がけた、クリエイティブディレクター・藤原大さんが新しくクラスを持ったところから視覚デザインへと興味が出てきました。そこでは、今までの授業で教わってきたようなテキスタイルデザインの作り方ではなく、影響する環境問題や未来像、製造工程などを考える授業が行われて面白かったんです。特に自分の作品を最後にアーカイブとして記録するときにも、ちゃんと世界観を反映して作り込むことの大切さを教わったことが今に至るきっかけになったと思います。それまでは基本的に作品をつくることがゴールで、アーカイブ写真は自分用に適当に撮っていたんです。でも実際、ファッションブランドの一連の流れはそうじゃないですよね。ちゃんとデザイナーがディレクションを握って、フォトグラファーに頼んで世界観を写真のなかでも表現していく。そうした教えのもと、さまざまなフォトグラファーと作品撮りを行い、どんどん撮影のために服を作るようになっていって、ゆくゆくは平野正子さんに出会い、「skydiving magazine」を立ち上げました。最終的に、ビジュアルづくりの楽しさにのめり込んでいきました。

―ファッションでも服づくりよりも、全体のイメージを作る方に興味があったと迂回しながらも気がついていったんですね。

今思い返せば、高校生で原宿に通っている時点で、ブランド服は買えないもののコム・デ・ギャルソンのDMを送ってもらえないかと店員さんと仲良くなったりしていました。その頃にアートディレクター・井上嗣也さんが手がけたギャルソンの広告をみて、「かっこいい!」と直感的に感化されていましたが、高校生では一体それがどんな仕事なのか想像も付いてなかったですね(笑)。だから、嗅覚としては昔からビジュアルデザインには興味が向いていたんだと振り返って思います。

―興味の発端はファッションから始まり、現在は音楽やカルチャーまでジャンルを限らず活動してらっしゃいますよね。今回のヤリスの作品でもそうですが、そこには、一貫して「架空」と「現実」のはざまのような世界がユーモアをもって表現されているように感じます。そうした表現のルーツになるような原体験はありますか?

世代観としては、幼少期に流行っていたミニモニをはじめ、今と違って架空の設定のもとグリーンバック構成が多用されるアイドルのMVを見ていたことは、多少なりとも影響しているのかなと思います。あとは一人っ子だったこともあって、よくおもちゃを使いながら、妄想のストーリーで一人遊びしていたんですよね。今もその延長って感覚はあります。

width=“100%"

―過去のインタビューで実際に村田さんもテレビの向こう側で合唱団の一員として出ていたと拝見しました。

幼少期に親の勧めでNHK放送児童合唱団に入って、週に3~4回はレッスンに行っていました。その横で、テレビ番組「ハッチポッチステーション」の収録もやってたいたのですが、実際にテレビで見ている風景と違って、全てが演出で成り立っていることをそのとき目の当たりにしていて。自分も同じく、合唱団としてカメラの前に立つときはスタジオでいろいろな大人が頑張っている姿を見ていて、全てが架空の演劇の世界なんだって子どもながらに理解していたんですよね。別にそれは切ないわけではなく、面白いなって感じられた体験だったので、もしかすると架空な設定に惹かれる原体験の一つだったのかもしれません。

―また今回のCMでも使われているビビットカラーも村田さんらしい作風の一つかと思います。

これも子どもの頃に受けていた小中学校での美術教育が影響しているのかもしれないです。一般的に美術の授業でドローイングであれば、モチーフをうまく色を使って描くことが目標になると思うんですけど、私の学校ではそういう教え方はなかったんですよね。むしろ1本の線だけで一枚絵を完成させたり、特にお題はなく自由に何かを描いたあと、紙を裏返すよう指示され好きな形に切ってからまた裏返して最後コラージュするような自由な発想が試される美術教育でした。予備校に通ったときも、ランダムに道具箱の中から手に取った絵の具で描くという教えで、自然と補色の感覚を学んでいきました。あとは一人遊びとしてMacのお絵描きツール「キッドピクス」にハマっていたことも、デジタル的なビビットカラーに親しみを感じているきっかけなのかもしれないです。

width=“100%"

―最近では、平面から動画やCGまで制作方法が広がっていますよね。平面は「静」的であり、映像は「動」的ですが、改めて使ってみてそれぞれの良さを感じることはありますか?

単純に情報の量をコントロールする意味で、映像の方がスピードや光などの動きで情報量がたくさん含ませられると感じています。動いているものに人は自然と反応するから、そのぶん影響力も静止画より目を引くと思うし。でも静止画も細部の作り込みができるから、今後どちらもうまく使っていければいいなと模索中です。

―今後挑戦してみたいことについて教えてください。

3月4〜19日にラフォーレミュージアム原宿での展覧会で試みた架空の広告は、最近興味がある表現媒体です。これまでさまざまな広告を制作してきたなかで面白さを感じる反面、その影響力が広がれば広がるほどそこにあまり意味性は求められていないのかなと思ってきて。私個人としては、社会問題に対して意見を持っているので、一つの情報に注目がいくようなプロパガンダ的な従来の広告とは違った内容で、メッセージ性を持った架空の広告を今後は制作していきたいなと思っています。でも、現実的にモノが生まれるかぎり消費は止められないし、コマーシャル全体にも消費の構造は動き続けているので、いろいろな矛盾は含んでいるのは承知なのですが、今まで発表してきた作品をふまえてできる次の新作制作かなと感じています。

width=“100%"

 「YARIS DIRECTORSCUT」は、すでにアーティストとして活動している人も、これからアーティストになりたいという人も、あるいはこれまで全くものづくりに関心がなかったという人もフラットに参加できるプロジェクトだ。そこにはトヨタの全てのクリエイターへのリスペクトが表れている。今回村田とのコラボレーションが実現したように、今までの車のCMとはイメージが異なるクリエイターとの意外な組み合わせが誕生し、既存の車のCMを覆すアイデアが生まれ、今後の広告のあり方にも影響していくかもしれない。

width="100%"

YARIS DIRECTORSCUT

Website

「YARIS DIRECTORSCUT」は、ヤリス、ヤリス クロス、GRヤリスの映像をクリエイターへ映像制作の“素材”として提供し、クリエイターが自由自在に制作した映像を世の中へ発表していくプロジェクトです。制作された映像作品は、プロジェクトサイト、トヨタ公式SNS、TVCM等で公開され、世界中へ発信されていきます。

【お問い合わせ先】
YARIS DIRECTORSCUT事務局
info@directorscut.toyota
受付時間 10時~17時 ※土日祝、年末年始を除く

その他クルマに関してのお問い合わせは
こちらからご相談くださいますようお願いいたします。
トヨタ自動車株式会社 お客様相談センター

width="100%"

村田実莉(むらた みのり)

Website / Instagram

アートディレクター、ビジュアルアーティスト。

逆説的なシチュエーションを元にネイチャーとデジタルを融合した現象的なビジュアル表現を行う。

ラフォーレ原宿、PARCOなどキャンペーンビジュアルや映像の他、imma天 @DIESEL ART GALLERYのキービジュアルと会場アートディレクションを担当。
2019年インドに滞在。「盗めるアート展」にて、偽クレジットカード作品「GODS AND MOM BELIEVE IN YOU」を出展。2020年よりKOM-Iと「HYPE FREE WATER」を開始。東京のアーティビズムを刺激するビジュアルアートとして、環境と水をテーマにした架空の広告を制作。

 

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village