シンガーソングライター大比良瑞希(おおひら みずき)が4年ぶりの2ndアルバムとなる『IN ANY WAY』を6月に発売した。
2015年にミニアルバム『LIP NOISE』のリリースでソロ活動をスタートした彼女はFUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、GREENROOM FESTIVALなど大型フェスへの出演やさまざなアーティストのサポートなど多岐に渡って活躍しており、コーラスワークでは過去に、tofubeatsやAwesome City Clubの作品やライブに参加。最新アルバムのタイトル『IN ANY WAY』には「とにかくやってみよう」という意味が込められているそうだが、それはまさに彼女の物事へのポジティブな姿勢を象徴している。
今まで以上に自分と向き合ったという本作で、彼女がありのままの自分で制作に挑めたのには、友人でありビジネスパートナーで、今作のビジュアルを全て担当したクリエティブディレクターKAZUKIの存在があった。
男性が多い音楽業界やクリエティブ業界において、女性の声が通りづらいときがあるという事実は否定できない。そんななか自分たちの目指す方向に作品を作り上げていくうえで2人の「フレンドシップ」が強みとなった。
楽しく、ハッピーに共感し合うことで仕事を進めていく2人の姿は従来の“プロフェッショナル”のイメージとは少し違う。
今回NEUTは2人の出会いから『IN ANY WAY』の制作についてまで、2人のこれまでの話を聞きながら、ビジネスにおける「フレンドシップ」をキーワードに瑞希とKAZUKIの対談取材を行なった。そしてフォトグラファーには中里虎鉄を迎え、2人の対談をインスピレーションに撮影を行った。
さらにその取材&撮影からイメージを得て瑞希とKAZUKIが共同で本記事のティーザーも制作。InstagramにはオリジナルInstagram Storyもアップしているのでそちらも要チェック。
第一印象のタイプは真逆
ーまず最初に2人の出会いを教えてください。
瑞希:私たちが最初に出会ったのは大学生の頃?
KAZUKI:うん。大学が一緒なんだよね。
瑞希:でも、なんか一番最初に出会った日のことって覚えてる?
KAZUKI:全然覚えてない(笑)
瑞希:覚えてないよね(笑)。それが最初じゃないけど私が強く印象に残ってるのは下北のライブハウスが開催してた大学生のライブのコンテストみたいなやつなんだよね。私は1人で弾き語りで出たんだけどKAZUKIは2人で出てて。そのときからKAZUKIの衣装がすごかった。風船持って帽子もすごくって、電話型の箱のバッグを持って、電話に出ながら歌を歌って。もうミュージックビデオ見てるみたいなライブをしてたの。
KAZUKI:そうそうそう。あ、そうだね、それが初めましてじゃないかもだけど、そのときの印象はあるね。
瑞希:もちろん音楽性もすごいポップで楽しかったんだけど、音楽だけじゃなくて魅せ方がもうそのときから確立してたの。結構私も大学生のときから、ただ音楽やるだけじゃなくて、360度ビジネスみたいな、所属したり組織に入んなくても1人で音楽をどう魅せていくかってことを考えてたから、KAZUKIの音だけじゃない魅せ方がすごいなって思った。だからそこの第一印象が一番強いのかも。
KAZUKI:あのときはオープニング映像も作ってて、1人で大舞台を全部やっちゃったみたいな感じで、確かに当時からトータルでプロデュースというかディレクションするのは、自分のためだけにやってて、そっから今の仕事に繋がったって感じ。
瑞希:あーそうだったんだ、そこは知らなかった。
KAZUKI:そう、あれを見に来た人たちからアーティストとしてじゃなくてディレクションとかプロデューサーの面で仕事してほしいっていうオファーがたくさんきて、「え!そこなん?(笑)」って自分的には思ってた。私もやっぱりそのときの瑞希ちゃんの印象は強かった。弾き語りがすごく渋くて。
瑞希:多分真逆だったよね、タイプは。
ーそこから今の仕事を一緒にする関係にどうやって発展していったんですか?
瑞希:私が2015年に、シンガーソングライターとして活動を始めるようになってからチームで制作をするようになって、チームワークの大切さを感じてた。最終的には納得しても、自分がやりたいことを伝えたりすることが難しくて。そんななか自分の活動の一つとして大事にしているグッズ制作は、私が責任持って自分で作ろうかなって思い始めたのが去年の頭で、それを1人でやるよりももう1人自分が決めた人とやるとしたら誰だろうって思ったときに、KAZUKIが一番初めに思い浮かんだの。それで去年の5月頃かな、「久しぶり」って連絡を入れた。
KAZUKI:私ももうそんときにすでに毎日のように瑞希ちゃんの「アロエの花」聞いてたから、なんかもう「いえーい」みたいな感じだったよ。
瑞希:(笑)そうなんだ。
KAZUKI:その日をずっと待ち望んでたじゃないけど、そうなればいいなってずっと思ってたから。恋愛じゃないけど。
瑞希:シンクロしてたんだ。
KAZUKI:ずっと「気になるな」みたいなのあるじゃん。恋愛でも気になるなみたいな。そういうのはずっと思ってて、「は!」って思って、「嬉しい〜」って(笑)。
瑞希:でも本当にそうかもね、そっからあっという間に「じゃあ代官山の蔦屋で会おう」ってなって、もうその日にKAZUKIからこういうグッズ作ったらいいんじゃないって、すごい素敵なすでにコラージュみたいになってるポートフォリオをバーって見せてもらって。素敵なプレゼンだった。そしたらたまたま共通の知り合いの人が1人いて、連絡したらその場に来てくれて。もうその日の夜にはZineを作ろうって話にまでなったよね。そのままその日にスタッフのキャスティングまでできちゃって、すごい速さでもうその月には撮影してたっけね。
KAZUKI:こんなことあるんだっていう、もうただの熱量だけだったよね。テンション下げる人誰もいないし、なんかセンスがシンクロしてる人たちが集まれたから、そこのすれ違いもなかったし。なんか、そういうことって起きるんだなって日だった。
瑞希:それが無事そのまま完成して、本当に高い熱量のまま完成したものが、お客さんにも伝わって、Zineはそのとき作ったものが全部すぐ完売して、かつグッズもすごい好評で。それを見てた私のチーム的にも「あのコンビいいんじゃない?」って感じに、だんだんなって。友達同士で仕事すると、最初のフィルターが遊んでるんじゃないのって見られやすいと思ったし、ナメられないようにちゃんと結果残さなきゃと思ってた。そこで多少結果を出せたから、その後本格的にアートワーク制作にKAZUKIを呼ぼうという導入がスムーズだったんだと思う。
見えないところで手繋いでるみたいな感じ
ー結果を残せたのがすごいと思います。音楽業界やクリエティブ業界は男性がまだまだ多いからそんななかで「2人だからできたこと」がたくさんあったと以前話していたけれど、それはどういうことでしょうか?
KAZUKI:うーん、何だろう女性アーティストだからの見せ方とかがあって、いきすぎた個性っていうのはあんまり通りにくい業界というか、世の中ではあるんじゃないかなと思っていて。女性アーティストを絶対にスッピンでは出さないし、坊主で出さないし、もしなったとしたらそれが注目されるくらい特殊な演出になっちゃってるっていうのはあるよね。そんなときに私がディレクターっていう立場から「それは違うんじゃないですか」って客観的に言える。
瑞希:そうそうそう。そういうところは差別とまではいわないけど、まだ残ってる部分なんだろうなって思う。
KAZUKI:結局のところ可愛くいたいとか可愛くいなきゃとかいうプレッシャーは女性には少なからずあって、だから強く言えないときとか女性にはあると思うんだけど、それを1人で100%強くいるんじゃなくて、2人で50と50で合わせて100くらいの感じでいくとそんなに悪気もなく伝わるのかもしれないなって。
瑞希:うーん。それもあるしまあ単純に勇気になる。1人だと押しつぶされそうになっても、もう1人いてくれたら、大丈夫だ!って思えるっていうのもある。仕事のときだけじゃなく、普段から一緒にいることで、互いの好きも知り得てたり、何気ない会話が制作に繋がってくるんだよね。打ち合わせでの最小限の会話だけでは出せない部分の自分が、そこにはあった気がする。
KAZUKI:まあ確かにね。見えないところで手繋いでるみたいな感じ。
瑞希:確かに手繋いでる人の安心感って、ナチュラルに強くなれるんだな。
ー『IN ANY WAY』の制作でも2人だからできたことってありましたか?
KAZUKI:いや、多分ありすぎる。二人だからこそできたこと。全部。
瑞希:撮影に行く車の中が違うんだよね、まず。
KAZUKI:お、ピンポイントだね。
瑞希:撮影に行く車の中って、盛り上がりまくるの。撮影のときって毎回朝早いのに、KAZUKIがすごい美味しいお弁当とかサンドイッチとか作ってきてくれるの。
KAZUKI:ピクニック、キャンプ行くみたいなテンションになってるもんね。
瑞希:そう、このままキャンプ行こうかくらいな感じでいけるから、まず撮影にあたって、自分のスイッチで望めるんだよね。
KAZUKI:撮影終わったあともそうだね。
瑞希:うん。今回ジャケ写真はKAZUKI経由で紹介してもらった川上竜馬くんっていう素敵なフォトグラファーが撮ってくれたんだけど、撮影現場に向かう道中で仲良くなるから、撮影中のコミュニケーションがすごい早いし、レンズを向けられてて、違和感が全くないっていうか、何も怖くないっていうか。今回の撮影でこれ大丈夫かなみたいなことがないんだよね。
KAZUKI:絶対いいの撮れたなって思うよね。ジャケに使った家具系も全部自分たちで最初から最後まで準備して、最終的になんか分かんないけど深夜に女2人でめっちゃ力仕事やって終わるみたいな。なんかそれも笑えちゃうんだよね。辛いことも笑えちゃったりするのは、他ではない良さだと思う。
瑞希:そうだね、でも仕事だとそう気が合う人だけじゃないじゃない? 人間関係を作っていくって、一番時間がかかることだし、悩み始めるとストレスにもなって、難しい問題。ただその時期があることは無駄ではないと思うから、最終的にはフィットした人たちを大事にしつつ、過去に出会ったなかでフィットした人たちと今後も何かができるってことを念頭に置いて、いろんな人たちと付き合っていくことが大切じゃないかなと思う。自分から、居心地をよくしていくことだったり、”自分”でいれる場所を作るって、大事だと思う。
KAZUKI:しかも今SNSとかで簡単に自分がいいと思う人とか直感で好き、テイスト合うって人と繋がれちゃうし、繋がれる世の中だからこそ、なんかできることもあると思う。どんどん自分がいいって思う人とお仕事するべきだと思う。
性別関係なくフラットに聴ける音楽
ーそんな2人の集大成『IN ANY WAY』はどんな作品になったと思いますか?
KAZUKI:瑞希ちゃんは媚びてないんだよね。アルバムを聞いてもいわゆるなラブソングみたいなものは今回多分ないと思うし。それって瑞希ちゃんの仕事のあり方とか生き方にも通じてるけど、媚びてないんだよね。これまでの日本のメインストリームな音楽業界には社会が思い描く「女性」を100%出して女性というポジションでものを伝えたり表現する人って多いと思うし、なんか男性も女性の音楽を聴くときは疑似恋愛じゃないけど、そういう要素もあると思うんだけど、今回はそういう意味で性別で聞き方が変わらないものにはなってると思う。ある意味ジェンダーレスというか。もちろん直接的に男女の関係を描いたりとか、恋愛を描いたりとかそれもそれの良さがあるけど今回はまたそれとは別なものになってる。
瑞希:確かに言われてみればね。このアルバムには入ってないんだけど、「見えない糸」って一個前のアルバムで作った曲も、「寂しい夜があなたを襲ったら私が守るよ」って歌詞にしたの。そしたら普段からそういうスタンスなんですかって聞かれたときもあるなぁ。
KAZUKI:そうだよね、それがなんかある意味今どきっていうか。いわゆる男性、女性っぽさを求めて音楽を聞くとかじゃなくてもっとフラットになってると思う。
瑞希:でもなんかそれって自分が自然体でやってたから、こうやって話して気づいたことかも、今日。すごい、面白かったです。こうやって改めて話すと気付くことがある。
KAZUKI:ね、でもなんか本当に今回のアルバムの良さ改めて感じるね。
今回の取材や撮影は終始楽しい雰囲気で、2人の話していることを実際に体感することができた。当たり前だけれど「仕事」はいつも楽しいことばかりではないが、「楽しくなりうるところは全力で楽しくする姿勢」が2人にはあった。ポジティブなエネルギーから生まれてくるものはそれを受け取る人にも届くのだろう。間違いなく2人のそんな姿勢は自然と『IN ANY WAY』にも表れている。
大比良瑞希 2nd Album『IN ANY WAY』
2020.6.3 全国発売
➡ Listen! :https://orcd.co/pbja9n1
■収録曲
01.Eternal My Room
02.甘い涙
03.無重力 ※tofubeats提供
04.SAIHATE
05.RESCUE
06.In a small lake
07.ムーンライト ※七尾旅人、歌唱参加 08.いかれたbaby ※カバー曲(org.Fishmans) 09.ミントアイス
10.からまる ※蔦谷好位置プロデュース 11.Somewhere
12.Real Love 熊井吾郎 remix
2nd Album “IN ANY WAY” リリース記念 完全再現無観客LIVE 『“大比良瑞希” 土曜ロードSHOW! @LIVE HAUS×3!』
■『大比良瑞希配信ライヴVol.1』 *配信終了いたしました 公演日:2020年8月8日(土)
■『大比良瑞希配信ライヴVol.2』 *配信終了いたしました 公演日:2020年8月15日(土)
■『大比良瑞希配信ライヴVol.3』
公演日:2020年8月22日(土)
チケット料金:1,500 YELL (¥1,500+税)
配信場所:MUSER *本編ライヴ終了後に「お楽しみ生配信」生トーク+1曲をMUSERで無料にて生配信
https://muser.link/showcase#0822-1
○MUSER
https://muser.link/
(視聴には事前にMUSERへのアカウント登録が必要です。詳しくはMUSER公式ウェブサイトをご覧ください)
大比良瑞希(おおひら みずき)
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東京出身のシンガーソングライター、大比良瑞希。
2015年、ミニアルバム「LIP NOISE」のリリースでソロ活動をスタート。2016年、1stフルアルバム「TRUE ROMANCE」をリリース。2017年「アロエの花」「Real Love」「見えない糸」 の連続配信が人気を博し数々のプレイリストに選ばれバイラルヒット。
冷静と情熱のあいたとでもいうべき、感情的でもありクールにも響く温度感のある歌声と、エレキギターを爪引きながら歌うという独自のスタイル。それが唯一無二の世界観を描き、聴くものを楽曲の中に逃避させる。
その音楽への評価は高く、「FUJI ROCK FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」「GREENROOM FESTIVAL」などの大型フェスへの出演も多数。CMへの楽曲提供や、tofubeats、LUCKY TAPES、Gotch、STUT+ABS、Awesome City Club等様々なアーティストのサポートなど多岐に渡って活躍。
2020年6月3日には待望の2ndアルバム「IN ANY WAY」をリリース。親交の深い七尾旅人とのデュエット・ソング『ムーンライト』や、客演を務めた蔦谷好位置のプロジェクト“KERENMI”の『からまる』(テレビ東京・木25ドラ「電影少女-VIDEO GIRL MAI 2019-」主題歌)、tofubeatsプロデュースの『無重力』、さらにはフィッシュマンズの大名曲「いかれたBABY」のアダルトなムード漂うレゲエカバーなども収録されるほか、各方面でもそれぞれ大活躍のバンドメンバーを率いたオリジナル楽曲に、エレキギターのリフが特徴的な一人弾き語りの曲まで、バラエティ豊かなベスト盤のような仕上がり。ソウルフルかつオルタナティヴにな新時代のシティ・ポップを紡ぐサブスクリプション・ストリーミング時代を体現するシンガーソングライターとして注目を集めている。
KAZUKI
Art Director/Artist
4年制の大学、音楽専門学校、 服飾専門学校に同時に通い、すべて卒業。
音楽活動から自身のキャリアをスタートし、現在企業や空間、アーティストのアートディレクション、スタイリング、コラージュ制作、映像制作まで、幅広く行うクリエイター。