「“普通”への違和感」を扱う漫画メディア編集長が語る、世間の“悪いノリにのらない”ことの力|2周年特集MATTER OF CORONA

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

Text: Rikako Kougo,Hanae Iwasaki,Riko Numa

2020.12.8

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MATTER OF CORONA

2020年10月でNEUT Magazineは2周年を迎えた。
2020年を振り返えるとやはり「新型コロナウイルス」は避けられないキーワード。そこで全ての人に大きな影響を与えたこの「MATTER OF CORONA(コロナに関すること)」について今年最初で最後の特集を組むことにした。

コロナに直面し、人との接触を自粛しなければならない特殊な環境のなかで「孤独のなかの自分とどう向き合うか」は、多くの人にとって大きなテーマだっただろう。そこで本特集では「自分とのリレーションシップ」を等身大の視点から多角的に見つめ直す。

今回は初の試みとして、読者と一緒に特集を制作した。NEUTで集めた19〜25歳の18名がそれぞれのパーソナルな経験からコロナ禍で関心を持った6つのテーマ《SEX》《MUSIC》《MEDIA》《FOOD》《LGBTQ+》《WORK》を、1チーム3人の6チームに分かれて、NEUT編集部の監修のもとそれぞれ企画・取材・執筆した。

▶︎特集ページ

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第5弾のトピックは、「LGBTQ+」

コロナ禍で浮き彫りになったマイノリティへの行き届かない対応。今回のような緊急時は特に、設けられた基準から漏れる社会的弱者がないがしろにされやすい。また、“多様性”という言葉を掲げ「個人を尊重しよう」という社会の動きがある一方で、実際の制度や仕組みは整っておらず、社会的な古い風潮も改善されないまま。マイノリティの問題を自分ごととして考えていない人や関心が薄い人も少なくない。

そこで本記事では、「らしく生きる人」のための新しい選択肢と、それを尊重する社会づくりを目指す株式会社TIEWAのCEOであり、LGBTQ+やフェミニズムについて漫画で伝えるメディア「パレットーク」編集長でもあるAYAに企業やメディアとしての視点から個人がありのままでいられることの大切さについて話を伺った。

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AYA

ーまずはじめにAYAさん自身について少し教えてください。

株式会社TIEWA CEOのAYAです。パレットークという漫画メディアの編集長もしています。起業したのは2019年の夏なので1期目でいきなりコロナが…今はリモートワークに切り替えて、少数精鋭で事業を2つ運営しています。

ーAYAさんが行っている活動や運営している会社のことについて教えてください。

「らしく生きるを、もっと選びやすく」が弊社のコンセプトです。自分らしい人生をクリエイトしていける人を増やせたら、と思って会社をやっています。ただ、今はまだ「自分らしく」生きることを選びやすい人ばかりではない。そう思ってまず始めたのが漫画メディアでした。TwitteやInstagramなどのSNSを通してタイムラインにのって流れてくる、つまり受動的に多くの人に分かりやすく情報を受け取ってもらえる形で実体験漫画を作っています。内容はさまざまですが、誰もがジェンダーやセクシュアリティのことで感じたことのある「“普通”への違和感」を題材にしていることが多いです。あとは、異性同士や恋愛関係に限らないマッチングアプリ「AMBIRD」を運営しています。まだまだ出会いのきっかけが限られてしまうことも課題の一つで、自分の性のあり方に関わらず心を本当に開けるような出会いをもっと作ることができたら、私生活でももっと「自分らしく」を大切にできるんじゃないかと思っています。

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ーAYAさんがコロナ禍で感じた不安はありますか。

こういった緊急事態のときには、普段は気がつかないような、生活には支障がないけれど存在する見えにくい課題に改めて向き合わなければいけない人が増えるというのを実感しましたね。「勤務先にはパートナーと一緒に暮らしていることを隠しているのに、在宅ワークでのオンライン会議で自分のセクシュアリティが明らかになってしまうかもしれない」とか「例えばパートナーが感染してしまったときに、家族とも認められずもう二度と会えないまま死ぬ可能性もあるのかも…」といった声も聞きました。あとは、家にずっといることでより自分のセクシュアリティについて家族に隠さなければならない時間が増える10代の方も増えるかもしれません。こういう緊急事態のときにこそ社会構造の大切さを感じますね。

ー「多様性」という言葉が広がり、これまで以上に「個人を尊重する」と謳う企業や広告が増えている現在の社会の流れをどう見ていますか。

パレットークでは、普段の漫画に交えてさまざまなセクシュアリティの人が出てくる漫画でPRをさせてもらったりしているんですが、意識しなくても、本当はさまざまな人がいるんだから、広告にだっていろんな人や価値観が出てきて当然だと思っています。最近では「ムダかどうかは、自分で決める。」というかみそりのコピーが話題になりましたよね。ただお得なものが買われていくのではなく、コンセプトや作っている人の思いが共感を呼んで、高いものでも買われていくような流れは止められないと思います。作り手の思想に共感できないものはボイコットされたり、なども。思考停止の「女子だからとりあえずピンク」や、思想なき企業や商品は見直されていくんじゃないかな。

ー「個人を尊重しよう」という社会の動きがある一方で、マイノリティの問題を自分ごととして考えていない人や関心が薄い人もまだまだ多くいると思います。そのような人たちに対してメディアを通して発信する際に気をつけていることはなんですか?

ここまで人生をやってるなかで価値観を積み上げてきている人に「マイノリティの問題を自分ごと化」って、そんなに簡単じゃないと思います。そもそも自分がグラデーションの一部であることを意識するのは難しいし、こんなふうに黒か白か、男か女かという二元論で語られることが多い。私が狙っているのは、Twitterで流れてくるついつい読んじゃう漫画を何気なく読んでいると、いつのまにか抱えていたもやもやが言語化されていたり、そもそもこれは声を上げていい話だったのかと感じてくれたりする人が増えることです。普段からその問題に向き合っている人はもちろんですが、いじめでいうと、主犯者よりも傍観者、いわゆる「自分には関係ないかも」と思っているような人の「なにげない一読からの変化」をつくれればいいな、と。

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ー非当事者が社会課題を自分ごと化して、自分とは違うと感じている人とも共生していけるような社会をつくるためには、具体的にどのようなことが必要だと考えますか。

もしも共生したいけどやり方が分からないなら、少なくとも誰かが「ホモネタ」とかで盛り上がっているときなどの悪いノリにのらないというのはいいんじゃないかなと思います。自分もそのノリをつくってしまっている側にならない。本当は「それ違うよね〜」なんて言えたらいいけど、言葉ではなく表情で「違うよ」っていう態度をとることもできると思うんです。あとは、結局自分もグラデーションの一部だし、いつ自分がどんな場面でマイノリティであることを自覚するか分わからない。マイノリティのことをないものとしていない社会では、誰もが生きやすいし、巡り巡って自分の生きやすさになることもありますよね。

ーAYAさんご自身が自分を肯定して生きることができるようになったきっかけとなった出来事を教えてください。

例えば発信するときなどに、一人で共感してくれる人もいないままでやると結構しんどいんですが、まずは仲間というか、話を分かり合える人たちとアジトのような場所を持つようにしました。それがパレットークです。そこから、戦いに出ることもある。負傷したらアジトに戻る、仲間と話す。勉強が必要ならみんなでやる。そしてまた背中を叩きあって明日を迎える、みたいなことを続けています。

ーこれまでお話を聞いていて、AYAさんの活動はかなり労力を使う大変なものだと思うのですが、その活動のモチベーション・エネルギーの源はなんですか。

私自身がだいぶ「らしく生きられる場所」を持つことができて救われたから、誰かにとってのそういう場所を増やせたら幸せに生きて働ける人が増えるんじゃないかな、という希望的観測に過ぎません。

ーAYAさん流の一息つく方法はありますか。

ハーブティーを出しながら編集部のみんなで話すこと。最近はコロナであまりできてないけど、大皿でみんなでごはんを食べることかな。

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ー個人で社会に対してアクションを起こすことと、会社で起こすことの違いはなんですか。

個人での発信と違い、仲間を持っていることが強みになることは、実感としてありますね。同じ感覚を一緒に磨き上げたり、気づかなかったことを教え合ったり、発信するときも違った視点からチェックし合ったりもできます。こういう仕事をしているからこそ、間違いがないか、誰かを傷つけていないか何人もで確認する工程にはきちんと時間を使いたいと思っています。発信する前に編集部でもよく話し合うので勉強になりますし、つらいニュースを見てもシェアできる仲間がいるというのはとても心強いですよ。

ー最後に、社会で個人がありのままでいられることの大切さについてお話いただけますか。

そもそも困っている人がいて、同じ選択肢を持てない人がいて、ということに無関心になっていいのかという倫理の問題。あとは、自分にとっても友達にとっても、親とか子どもとか恋人にとって生きやすい社会をどういうふうにクリエイトしていくかというなかで、絶対にあなたが見ている他にも人には多面的な部分がある。そして知らない一面がある。でもそんな一面も、決してないものではないし、ないことにしていい部分ではない。あなたは大切なあなた自身やあなたの周りの誰かのそんな一面を軽視していないか?一面であっても軽視された環境でその素顔を出すことはできない。素顔を出せない場所を居場所だと思えるか?居場所じゃない場所で、誰が一生懸命働いたりするか?そういうことだと思っています。

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個人が自分らしく生きることができる世の中の実現のため、AYAさんはとてもポジティブでタフに活動を行なっていた。そのような精力的な活動を可能にする背景には「居場所」があった。一人で乗り越えるには高すぎる壁でも、居場所の存在が私たちを強くする。そのような居場所を個人だけでなく、社会自体がつくりあげることができれば誰もが生きやすい社会が実現できるのではないか。今回AYAさんから伺ったことをよく反すうし、これから自分がどうアクションしていくべきか、じっくりと考えていきたい。

AYA

漫画でわかるLGBTQ+ / パレットーク

TwitterInstagramnote

平成4年生まれ。起業家。「らしく生きるを、もっと選びやすく」をテーマにメディアやマッチング事業を展開。漫画でわかるLGBTメディアパレットーク編集長をつとめる傍ら、ダイバーシティ&インクルージョンやフェミニズムに関しての執筆や登壇を行う。

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《LGBTQ+》チームメンバー

Rikako Kougo

2001年生まれ。学生ファッション団体unfowld所属。出版社でバイトしながら、そのほかアートや社会問題、史学など幅広く勉強中。
Instagram: @369rkk

Hanae Iwasaki

2001年生まれ。フェミニズムやセクシャリティー、言葉や繋がりについて考えている大学生。
Instagram: @hisfst__

Riko Numa

1999年生まれ。社会問題を広く学びながら、芸術学を専門に勉強してる。絵を描くことと服を作ること、本を読むことが好き。
Instagram: @91091.0

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