第3弾のトピックは、「MEDIA」
さまざまなことが変化していく激動の2020年、新型コロナを含め選挙やSNSいじめによる著名人の死、Black Lives Matterムーブメントやオーストラリアの山火事、モーリシャス重油流出などの社会問題に対して、SNSメディアでアクションを起こす人が急増したように感じた。同時にコロナ禍の閉鎖的な暮らしのなかでメディア疲れやSNS上でのいじめなどが目立った。今私たちは、メディアとの付き合い方に関して真剣に向き合う必要があるのではないか。
そこで本記事では、情報の主要な供給源となりつつあるSNSメディアのなかでもInstagramメディアに焦点を当て、社会問題に関して積極的に発信するInstagramメディア「Ko Archives(コー・アーカイブス)」の創設者、アプトン文(あぷとん あや)にインタビューをした。
Ko Archivesはアーカイブ写真の投稿を軸に、日本と世界に住む日本人女性の架け橋となるメディアとして設立された。同時に、国内外問わず社会問題に関して積極的に発信しており、Black Lives Matterムーブメントに対していち早く日本語で詳しく説明したメディアとして注目された。そして今回、Instagramメディア運営側の視点から文さんに、信頼できるメディアの作り方やメディアとの付き合い方などについて話をうかがった。ソーシャルメディアが私たちZ世代の主要なメディアとしての機能を果たしている今日だからこそ、本記事を通してメディアとの付き合い方を再確認していきたい。
ーまずはじめに、自己紹介をお願いします。
アプトン文です。ニューヨークで生まれ育ち、母親が東京出身なので、東京には子どものときから毎年3ヶ月くらい来てました。2015年にシアトルのワシントン大学を政治学科・法学専攻で卒業しました。卒業後すぐに東京で暮らし始めて、今年で5年目です。仕事は、コピーライティング、翻訳、動画制作などです。
ーメディアを立ち上げたきっかけを教えてください。
Ko Archivesは2019年のはじめ頃に友人のリサと始めました。アメリカで育った私は、自分のようなアジア人をメディアとか教科書であまり目にすることがありませんでした。だから、私と同じような女性の存在をもっと世の中で可視化したいと思いました。もっと若い頃に自分のような人が女優やミュージシャンやアクティビストやいろいろなことをやってると知っていれば、孤独に感じることはなかったかもしれません。
逆に、もちろん日本では日本人の存在感は強いですが、海外における日本文化、たとえば日系アメリカ人、日系ブラジル人などの日系文化に関してはほとんど知られていません。住む場所は違えど、同じ日本人として共通するものはたくさんあります。だから、そうしたみんなを繋げる橋のようなプロジェクトで、世界中の日本人女性を繋げられたら面白いかなと思ったのです。
ーKo Archivesはどんなメディアですか。
はじめの頃Ko Archivesは写真のアーカイブのプラットフォームで、世界中の日本女性を紹介するプロジェクトでした。リサーチして、みんなに知ってもらいたい日本人女性の写真を投稿したり、フォロワーたちが自分たちの大好きなお母さんとかおばあちゃんの写真を送ってきて、それを投稿したり。今年の6月くらいでそれが変わってきて、さまざまな社会問題に関してバイリンガルで伝えるリソースになっています。まずBlack Lives Matterや、東京都知事選挙などに関して投稿し始めました。
もともと個人的にも日常的に社会問題に関して積極的に発信してきたので、Ko Archivesの投稿で社会問題について触れることもありました。ただ、日本語で文章を書くのが苦手なので、最初は英語で投稿していました。でも、警察の暴行をきっかけに、6月にBlack Lives Matterのデモが広まっていき、日本から何かできないかなと考え始めました。自分はアメリカ人としても、地球に暮らしている一市民としても、この問題に対して責任を感じました。それに日本の多くのメディアがBlack Lives Matterに関してきちんと説明できていないと感じていたので、Ko Archivesで日本語で何が起こっているのかを説明しようと決めました。そこから、さまざまな社会問題に関してバイリンガルで投稿するようになりました。例えば、東京都知事選挙などに関して英語の情報が少ないため、それに関して英語で投稿したり。
ー媒体をInstagramにした理由とInstagramで運用するメリットやデメリットをお教えください。
Instagramを選んだのは、本当に簡単に人と繋がることができるからです。立ち上げ当初、すぐに世界中の人がKo Archivesを見つけてくれました。ウェブサイトでは、そんなに早くは広まらなかったと思います。それに、Instagramだとコンテンツをストーリーで共有するのも簡単です。
Instagramを使うことのデメリットは、バーチャルの世界であるということです。明日みんながもしInstagramを使わなくなったりしたら、Ko Archivesの居場所がなくなってしまう。でも、私にとって一番大事なのは、人と人を繋ぐこと、人と情報を繋ぐことなので、そのためには何を使ってもいいと思っています。
ーKo Archivesのメディアとしての目標は何ですか。
情報をもっと入手しやすくしていきたい。これまで意識されていなかったストーリーを改めて伝えたいということです。具体的にいえば、日本語では簡単にたどりつけない情報を日本語で提供するとか、日本に住んでいる外国人に日本の政治のことを簡単に英語で説明するとか、さまざまな人の家族の話を紹介するとか。
ー日米両国に読者がいるとお聞きしましたが、投稿に対するそれぞれの国の読者のリアクションの違いはありますか。
日米両国の読者からのリアクションはほぼ良くて、すごく嬉しいです。日本では政治的な意見を述べることにネガティブなイメージがあると思うで、日本語で投稿し始めたときは正直不安でした。でも、日本人からもすごくポジティブなメッセージやリアクションをいただいたので、本当に嬉しかったです。一つ違いをいえば、日本の読者はストーリーなどでシェアするとき、「これは本当に分かりやすい」のような、ニュートラルなコメントが多いと思います。アメリカの読者は、「最悪!」など自分の意見をシェアすることが多いです。もちろん、人はそれぞれ違いますので、どんどん声を上げていく日本人もいますが、やっぱり日本では自分の意見が言いづらいというのは感じます。
ー投稿を作成していくうえで気をつけていることはありますか。
人を傷つけない言葉 (Inclusive wording)を使うことは一つです。特に、日本語は第一言語ではないので、日本語の投稿では、これが結構難しかったりします。あと情報は、ちゃんとした新聞や学術誌など、ファクトチェックが入っている信頼できる情報かを確認しています。グラフィックの場合は、グラフィックの中かキャプションに、どこで詳しく学べるかとか、どう行動すればいいかをなるべく書くようにしています。
Ko Archivesは起点として使ってもらいたいと思っています。例えば、Ko Archivesで初めて知ったことから好奇心が生まれて、自分でリサーチしたり。
ー日本ではメディアが政治的スタンスを主張していることは多くないですが、Ko Archivesが政治的スタンスを明確にしている理由を教えてください。
Ko Archivesが取り上げているトピックに対して、ニュートラルでいることは無責任だと思います。ある意味、ニュートラルでいられるのは特権です。自分が経験していないとか、自分に影響がないから、ニュートラルでいられるのです。でもその社会問題によって、実際に自分の人生がつらくなっている人は、ニュートラルではいられません。
それに本当の意味で客観的に公正でいられるということが可能かどうかも分かりません。例えば、客観的であるはずのマスメディアでさえ、特定の問題を取り上げない、あるいは黙っているという選択をすることで、誰かの主観的な動機や目標を反映しているのです。
もちろん客観的なメディアも大事ですが、それはKo Archivesが目指していることではありません。Ko Archivesはただニュートラルに事実を伝えるだけではなく、事実を伝えるうえで正しいと信じることを支持して、そのために声をあげることを目指しています。政治的なスタンスを明確にして「これはおかしい」とはっきり言うのがKo Archivesです。
ー現在のお仕事では動画制作にも携わっておられますが、将来的にKo Archivesのフィードに動画を投稿する予定はありますか。
ビデオもできれば、ぜひやりたいです!でも、今Ko Archivesは友だちに手伝ってもらいながら一人でやっているので、グラフィックより手のかかる動画は難しいです。現在メンバー募集中なので、将来はあるかも!一緒に動画企画をやりたい人がいたら、ぜひご連絡ください!
ーInstagramメディアはこれからどうあってほしいですか。
Instagram上で政治的な話をする人は面倒くさいと思っている人がたくさんいますが、Instagramは声をあげるのにはすごくいい場所だと思ってます。いいか悪いかはともかく、Instagramからニュースや最近の出来事を知る人が多いというのは事実だと思います。今の時代はせっかく、何百人、何千人、何万人が見るプラットフォームがあるんだから、もっと社会運動や必要な情報を広めるために使う人が増えるといいと思います。
Instagramってやっぱりリアルではないという人もいっぱいいますよね?自分のいいところだけを見せる場所だって。そうでなくて現実で起こってることを話し合えたら、もっとリアルに繋がるかも。
ー逆にメディアリテラシーの観点において読者がどのようにアップデートされていくことを期待しますか。
それは難しいです。情報が増えたから、みんながもっといろいろなことを知ってるかと聞かれたら、それは分からないです。情報が増えたからこそ、みんな混乱している気がします。だから将来は、その情報をどうやって整理するかを学校などで教えるべきだと思います。現実的かどうかは分かりませんが、それは将来大事になってくるはずです。
近年あらゆるフォーマットのメディアが急増し情報を簡単に入手することができるからこそ、一人一人が情報を見分ける必要がある。今回文さんの言葉で気づかされたのは、メディアも人間も完全なニュートラルなポジションを取ることはできないということ。でもだとしたら、なおさら自分の頭で考えて、正しいと信じることを支持して、そのために声をあげればいい。これが本来のメディアなのかもしれない。
メディアは人と人を繋げる場であり勉強できる場でもある。発信する側は、文さんがいうように責任を持って情報を提供し、ユーザーはその情報を整理し自分の観点を持つようにしていくべきなのだと思った。
アプトン文(あぷとん あや)
Ko Archivesのファウンダー。ニューヨークで生まれ育ち、2015年にシアトルのワシントン大学を政治科学・法学専攻で卒業したあと、東京に移住。現在、コピーライター、翻訳者、動画制作関係の仕事をしている。
《MEDIA》チームメンバー
Haruyo Koeda
日中米のバックグランドを持つ22歳。Re Magazineのファウンダーでスタイリストのアシスタント中。
Instagram: hako__box
Keisuke Ohara
2000年生まれ。自称フーリガン。友人と共にフットボールバイラルメディアFLATTERBAR を立ち上げ、新たなフットボール観戦の形を模索中。
Instagram: @case.ke
Mihi Kudo
メディアや若者の社会問題に対する意識に興味を持ち、2000年生まれやZ世代のコミュニティに属しながら若者を研究中。同世代向けにSDGsの動画を制作しInstagramにて公開している。
Instagram: @mimimihi_k