「食べる、飲むという行為をファッションや音楽を楽しむ感覚で楽しんで」愛媛と東京を行き来するスケーターみかん農家が話す、食を通した人との繋がり|2周年特集MATTER OF CORONA

2020.12.1

Share
Tweet
MATTER OF CORONA

2020年10月でNEUT Magazineは2周年を迎えた。
2020年を振り返えるとやはり「新型コロナウイルス」は避けられないキーワード。そこで全ての人に大きな影響を与えたこの「MATTER OF CORONA(コロナに関すること)」について今年最初で最後の特集を組むことにした。

コロナに直面し、人との接触を自粛しなければならない特殊な環境のなかで「孤独のなかの自分とどう向き合うか」は、多くの人にとって大きなテーマだっただろう。そこで本特集では「自分とのリレーションシップ」を等身大の視点から多角的に見つめ直す。

今回は初の試みとして、読者と一緒に特集を制作した。NEUTで集めた19〜25歳の18名がそれぞれのパーソナルな経験からコロナ禍で関心を持った6つのテーマ《SEX》《MUSIC》《MEDIA》《FOOD》《LGBTQ+》《WORK》を、1チーム3人の6チームに分かれて、NEUT編集部の監修のもとそれぞれ企画・取材・執筆した。

▶︎特集ページ

width=“100%"

 

第4弾のトピックは、「FOOD」

新型コロナによる外出自粛で友達にも会えず自由に行動ができなくなった私たちは無意識のうちに孤独を感じ、精神的不安を抱えていた。

そんななか毎日の「食」がいつの間にか楽しみになり、癒しとなった。そこで私たちは自分たちと「食」の関係性について考え始めた。今回インタビューしたのは愛媛県と東京都を行き来する、スケーターでありみかん農家の優一朗(ゆういちろう)。

新型コロナ禍、“愛が必要だ”というメッセージと共に自身のブランドTangerine(タンジェリン)で食品とジュースの配達プロジェクトを行なった彼は、「消費者との繋がりを感じることで自身の精神の豊かさを保った」と語った。

width="100%"
優一朗

ーまずはじめに、自己紹介をお願いします。

名前は優一朗。現在27歳の男の子。みかん農家。農家として楽しく人生を謳歌することを目標にTangerineという柑橘の青果、加工品、衣類などの販売、イベントへの出店、後継者・地域活性化への取り組みなどを主としたブランドを運営しています。日本の愛媛県宇和島市で農家の家に産まれ、高校生(18歳)まで地元で想像通りの野球少年として暮らした。大学進学を機に、千葉県鴨川市で学生生活。学部は観光。今までの勉学の興味のなさを取り戻すかのように講義をしっかり聞き、勉学に励んだつもり。そのおかげで農家になることを決意。

在学時に8か月間の短期留学で英語と観光を学ぶためカナダのヴィクトリアという島へ行った。ヴィクトリアの空気はとても気持ちがいい。そこでスケートボードと出会い、勉学のストレスを晴らすかのようにスケボー三昧の日々。帰国後はストレス発散としてのスケートボードの存在が、自分のなかで変化し向上心の塊と化し、大学3年生以降は脳内が全てスケートボード関連で埋め尽くされたが無事卒業。そして上京。渋谷の神南地区にある老舗の男性衣類セレクトショップにてアルバイトを開始。一通り(カルチャー、物流、販売、精神、パーティetc)経験し長野で3ヶ月、沖縄で6ヶ月生活もした。一旦東京へ戻り、コーヒー屋などの飲食店をかけ持ちしたあとにオーストラリア、メルボルンへワーキングホリデイで行った。目的はスケートボードとコーヒー。知らない土地が大好物だ。7ヶ月働いて帰国したあとに愛媛県へ帰郷。家業のミカン農業を人生の仕事として今現在27歳、奮闘中。将来の夢は宿、食事処、コミュニティスペース、スケートパークそしてみかん山のある楽しい場所をつくること。

ーなぜ、愛媛でみかん農業を継ごうと決心されたのですか。

18歳で千葉県の大学(観光学部)へ進学し、在学中に帰省した際にオレンジ色に染まるみかん山とそこに面した穏やかな海のキラキラした景色に感動しつつ、みかんの荷を軽トラックに積み国道を走る車内は8割がご年配(個人的な判断のパーセンテージ)の光景を目にして、みかん農業になることを決意しました。

width=“100%"

ー愛媛でみかん農業を継ぐまでは東京でどんな生活をしていたのですか。また現在はどんな生活をされていますか。

東京では渋谷区を中心とした場所で常に働いていました。職業は衣類販売、飲食店、イベント出店等。全てアルバイトでした。イベント出店では家族の作ったみかんを都内でジュースに加工し販売。
現在は、愛媛県に帰郷し、100年ほど経つ実家の平屋で嫁と猫と犬と暮らしながらみかん山、天気、そして祖父祖母と毎朝相談しながら農業をしています。

ー土に触れることは、ストレス解消につながると言われておりますが、優一朗さんは実際に農業をするなかでそのように感じた経験はありますか。

あります。土を触る機会が多くありますが、触ったことで人と人以外の状況で五感が刺激されエネルギーを感じる気がします。土から生まれる生物、みかんの根っこに栄養を与える土。自分の小ささを良い意味で感じる。言語を持たない土との時間を過ごすことで、脳内がクリーンになり、昨日の復習やこれからの目標など、有意義に考えられていると感じます。

width=“100%"

ーコロナ禍で行ったプロジェクトについて教えてください。

Tangerineから [ALL YOU NEED IS LOVE] というBOXを販売しました。
5kgのみかんが入るタンジェリンオリジナルの段ボール箱の中にブラッドオレンジジュース1本、若松家で育てた「にこまる」という品種の白米2kg、そして時期が4月だったので畑で採れた新しい玉ねぎ5つを箱に詰めてSNSを通して販売して、配送しました。外に出られない都会なんて自分だったらとても寂しい。東京を中心に都会で住むことの寂しさや家にいるということを苦しいから楽しいに変えるために少しでも力になれれば、という思いがありました。

ー「愛が必要だ」という言葉と共に行われていましたが、このフレーズをテーマにした理由はなんですか。

自分自身が人との繋がりをとても重要としていて、なくなればとても寂しい、そして恐怖と感じる。身体は愛媛にあるけれど心は東京のみんなの近くにあると感じていたのですが、コロナを通して心と心が離れていく気がして、寂しくなったという自分の感情も含め、「愛」をテーマに何か行動したいと考えました。

width=“100%"

width=“100%"

ーこのプロジェクトを通して、優一朗さんご自身に変化はありましたか。

配送後の反響を感じることで、自分自身の精神面も豊かになり、より一層農家としてやるべきことが明確になれた気がしました。実際4月から5月にかけて今までで一番忙しい梱包作業に追われた日々でした。

ーこのプロジェクトでは、消費者は優一朗さんの作った食べ物だと認識して買われたと思います。作る側と買う側が顔を合わせない環境が多いなかで、生産者と消費者の繋がりを強くすることは必要だと思われますか。

とても必要だと思います。食料供給の安定、経済の発達により食べるものに困らない日本、それはとてもすごいことで尊敬すべきことだと思います。でも、コロナの影響で食だけは切っても切り離すことのできない存在だと再確認し、その食をより豊かなものにすることでコロナを乗り越える糧となると考えています。消費者と生産者が繋がることで僕たち農家は食べ物をつくることの大切さや重要さを再確認できると共に、農家としてのモチベーションを直接的に上げていくことができると思います。両者ともにメリットが多いのかなとプロジェクトを通して感じました。

ー消費者と生産者の繋がりを実現するには、私たち消費者は何をするべきでしょうか。

食べる、飲むという行為をファッションや音楽を楽しむ感覚で楽しんでみたら良いかも。そして食を通して生まれる会話を楽しむのが1番の近道かもしれません。
そして興味が強くなれば、生産地を観光してみるのも楽しそう。土地柄の歴史と食は繋がっていますし。

width=“100%"

ー地元から離れ、初めて帰省した際に家族やみかん農業に対して改めて考えたことがきっかけで今の活動があると思いますが、コロナ禍で改めて食を通して考えたことや、発見、伝えたいことはありますか。

農家と食って消費者にとって実はこんなに近い存在なんだ、ということを伝えたいです。
普段何気なく食べているおにぎりやサンドウィッチの生い立ちをみると農家にたどり着くし、調理をしている人がいる。そのポイントを知る楽しさ。そこにロマンとかかっこよさとか、軽トラック、もしくはスーパーカブで山を登る気持ち良さ…伝えたいなぁ。のちに農家という職業につく若者が増えれば最高だよ。

ー自然との繋がり、東京の友達との繋がり、お客さんとの繋がりなど、優一朗さんにとって「繋がり」が充実した生活のキーワードのように感じました。コロナ禍で孤独だったり、不安な気持ちを抱えている人も多いと思いますがそういった方に何かアドバイスはありますか。

SNS上の繋がりではなく身近な繋がりを再認識してみるといいかも。例えば昔の同級生だったり近所の友達だったり、顔見知りの人だったり、お店の人だったり。最近会えてない友達に電話したり。そしてSNSだと情報が個人的ではないものが多いから強い繋がりを感じることが難しいし、その繋がりの厚みに気づくことも難しい。だったらと、自分の今したいことや好きなことを追求し、そこに現れてくる人と会話をしたときに、あまり深くマイナス面を考えすぎずに自分の本心の言葉がスムーズに出てくるような、そんな感じが自分は多い気がします。そうすれば自然と繋がりというものがより鮮明で分かりやすくなって、不安な気持ちの割合が薄まってくる気がします。

ー将来、愛媛でやりたい夢を教えてください。

持続性のある衣食住、そして娯楽が楽しめる場所を作り、愛媛県宇和島市を大量生産やお金にとらわれる商売の少ないサステイナブルな観光地にしたい。
みかん山の下に、気持ちの良い空間の、食べる場所、飲む場所、寝る場所、笑う場所、踊る場所、そしてスケートパークをつくり、地元の人も、観光客の人も、多種多様、さまざまな人が交じり会い気持ちの良い会話のできる空間を作るのが夢です。

width=“100%"

時代が変わっていくにつれて、食だけでなくさまざまな面で私たちが取り入れるものの選択肢は増えている。そのなかでも、彼は新しいものを作りあげるのではなく、受け継がれてきたものを繋ぐ役目を選んだ。それがみかん農家で、家族への愛や人との繋がりの大切さを感じてきた優一郎さんの選択した道なのだと思う。

今回のインタビューで彼の口から「愛」や「家族」、「繋がる」というワードを多く耳にしたことで食が私たちの心と身体に深く関係していることに改めて気がついた。
コロナによって孤独を感じる人が増え、セルフケアが重要視されてきた今、今日あなたが口にするものをどう選んでいくか。
全てのものに愛を持って接することから始められれば、私たちのちょっとした日々を変えることができるのかもしれない。

優一朗(ゆういちろう)

TangerineTangerine InstagramInstagram

愛媛県宇和島市出身。1993年3月生まれ。
大学進学を機に千葉に行き、カナダでの語学留学の際にスケートボードに出会う。在学中にみかん農家になることを決意した。卒業し、東京でしこたま遊んで、長野のスキー場で働き、沖縄のホテルで働き、いろいろな経験を積み、最後にオーストラリアでスケートボードと食の文化を楽しみ、1年半前に愛媛県の地元に帰郷した。一人前のみかん農家になるために修行中。

width=“100%"

《FOOD》チームメンバー

Moe Nakata
2000年生まれ。北海道出身。大学でメディア論を学ぶ。現在はぬいぐるみ作りに没頭中。
Instagram: @00_1106_

Rina Sakurai
2000年生まれ。Rina&Noniとしてフェアトレードミルクティーの販売や自身らでスタイリングとモデルを行い作品撮りなどをしている。
Instagram: @rina_sakurai_

Lisa Bayne
大学で芸術学を学びながら都内のギャラリーでアシスタント中。枠にはまらず表現を続けている。
Instagram: @_lisabayne

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village