店頭で売られているブランドものにつけられた値札をチラリと見たとき、「似たような商品でもブランドのロゴが入っているだけで、なぜこんなに高いのだろう…」と思った経験はないだろうか?
そんな不信感を覚えさせるような「上から下にものを売る立場」をとるブランドとは正反対に、消費者と同じラインに立った下着ブランド「One Nova(ワンノバ)」を始動させた若者たちがいる。今回Be inspired!は、ブランドのクラウドファンディングの開始を目前に控えた創業者である大学生二人にインタビューを行った。
「パンツ作ったらおもしろいんじゃない?」
One Novaは慶應大学の湘南藤沢キャンパス(通称SFC)に通う、大学二年のたかやま たいが(代表兼社長、20歳)と、かねまる りりあん(PR、19歳)が始めたブランド。同大一年のとき、高校時代に通っていた塾が同じだった二人はたまたまラーメン屋で食事を共にし、起業することになったという。長らく起業を考えていたたいがはその仲間が見つからず、フェアトレードのバナナ売りをしていたりりあんは新しい活動に挑戦したいと考えながらも内容が定まっていなかった。そこで「ラーメンを奢るから、一緒に起業しない?」とたいがが誘い、りりあんが二つ返事で返して話が決まったらしい。
そんな起業の約束をするまでの短い会話のあとに「事業は衣食住なら衣がいいな」と話していた二人だが、そこで出た「じゃあ、パンツならおもしろいんじゃない?」という冗談半分のアイデアから、製造過程における情報をすべて公開する“透明なパンツ”One Novaの構想は練られていった。先ほどのように、りりあんがたいがの誘いに即答できたのも、出回っている商品の透明性の欠如や流行に流されて消費する文化など、互いが消費に対する問題意識を共有しており、信頼関係があったからだった。同ブランドは現在、男性向けのボクサーパンツを製造しているが、消費者が自分の普段の消費行動を見直せるような、製造の過程にこだわっていて透明性の高いものにすることを重視している。
どこまでも“透明なパンツ”を作る
二人が目指しているのは、透明性の高い商品を作ること。そのために何を見せるかというと「製造に関わる人、工場、国と地域」から「いくらで作っていくらで売るのか」、「どの商品が売れていないのか」まですべてだ。売れていないものをあたかも売れ筋のように販売する人たちが世の中に存在する一方、彼らは正直に情報を公開することを武器とする。
りりあん:たとえば「クラウドファンディング開始間近の26日にサンプルが届きます。めっちゃギリギリ」っていうのもつぶやいたりするんですよ、そこも素直でいたいなって。でもそうしているからこそ、まだ実物を見てないのに助けてくださったりとか、応援してくださったりとか、いろいろ助けてくれるのかもしれない。だからブランドが今どんな状況なのかとか、できれば今パンツが何枚くらい売れてますとかを公開したいなって思ってます
たいが:お客さんとのキャッチボールをどんどん増やしていきたいと思っていて。今までブランドといえば一方向じゃないですか、上から発信された情報をいいと思った人が買うみたいな。そうじゃなくて、できればお客さんにいろんな意見をいただきたくて、そこにまたフィードバックして一緒にブランドを作っていくような感じをやりたいんですよ。崇拝的なブランドじゃなくて、本当に同じラインにいる関係性を作りたい。聞かれたらなんでも答えますよっていうような感じで、株主の情報とか株主側が公開したくないっていう情報があったらしょうがないですけど、できるだけのことは聞かれたら言えるような状態にはしたいと思っていますね
透明性が高ければ、消費者が商品を選ぶ際の判断材料が増えるだけでなく、ブランド側にとっても利点がある。それは都合の悪いことをうまく言い繕わなくていいことで、非常に人間味が感じられる。この「透明さ」の側面も、「パンツ」という言葉との組み合わせがおもしろいと彼らは感じており、One Novaのパンツを“透明のパンツ”と呼んでいるのだ。
「なんでパンツなの?」
「なんでパンツにしたの?」と二人に聞いてみたなら、彼らは「その質問を待ってました」と言わんばかりに笑うかもしれない。最初はただの思いつきだったものの、二人が実際にパンツのブランドを立ち上げることを選んだのは、パンツがほかのアイテムには代替できない要素を持っているからだ。まず「パンツ」というキーワードが人の関心を引きやすいという点が挙げられる。製造の過程を公開するなど、透明性にこだわって作っていると「“そういう真面目な活動”やってるんだね」と色眼鏡をかけられてしまうことが少なくないが、One Novaならそんなことはない。
りりあん:私たちがもしこの取り組みを、違う商品でやっていたら見られ方が全然違っただろうな。たとえば「スキンケアのそういうエシカルな商品ね、はいはい」「エシカルなTシャツって聞いたことあるな、そういう系ね」って“真面目なことをやっていますフィルター”を挟んでひとくくりにされちゃって、そのあとの話に入っていきにくいというか。でもパンツって「そういう感じね」って流されてしまうところを「透明なパンツってなに?」って離さない。そういうどこかおもしろくて笑いを誘うアイテムだからこそ、「こういうプロセスで作っています」っていうのがギャップに映って相手に伝わりやすいのかな
次に、パンツが衣類のなかで重要視されることが少ないアイテムだということも、二人がパンツを選んだ理由の一つだ(特に男性向けのパンツの場合、自分で買わずに家族に買ってきてもらう人も少なくないという)。人に見られるジャケットや靴などにこだわる人は多いが、気にしていてもいなくても人に気づかれにくく、流行に左右されることが比較的少ないのが下着で、だからこそ新しいものを簡単に取り入れやすいという特徴がある。また、それだけではなく、普段こだわっていないからこそ、One Novaの商品を通して「ちゃんとしたものを自分のために選ぶことのよさ」に気づけば、消費に対する意識を変えてもらえる可能性が高いと彼らは考えた。
常に「エシカルな姿勢」ではいたい
「俺らってエシカルなのかな?」One Novaがどう“エシカル”なのか質問したところ、たいががりりあんにそう聞いていた。透明性が高いだけではなく、環境への負担が少ないオーガニックコットンを使用したり、国内の職人の技術を活かしたりなどエシカルな側面のあるブランドなのだが、“エシカル”という言葉に対してどんな立場でいるのだろうか。
たいが:なんかエシカルファッションブランドを作りたくて始めたんですけど、今は「エシカルって言いたくない」っていう気持ちもあって。エシカルって言っちゃうと、製品よりもエシカルが上にあって、「エシカルだから買う」っていう文脈が強くなっちゃうと思うんですよ。イメージもなんか“社会貢献的なもの”になっちゃって、単純にダサいなって
りりあん:エシカルは別にOne Nova的には推しているわけじゃないけど、私たちの姿勢とかはエシカルなのかなって。エシカルはあらゆる面でいいことだけど、それは本来なら当たり前のことじゃないですか。今の流通の構造的にそうするのが難しいから、エシカルを売りにしている面があるのはすごくわかっているんですけど、そうしているとやっているほうもどんどん苦しくなっちゃう気がして。そこを突き詰めるときりがないとも思っています。だから特にエシカルは推していないのですが、私たちのあり方的にちゃんとしていたいみたいな気持ちはありますね
それからたいがは、「One Novaはエシカルファッションブランドです」と言い切れば、細かい部分を指摘されてしまうこともあるかもしれないと話していた。それは具体的に挙げるなら、オーガニックコットンを使っているが、パンツをはっきりとした色に染めるため化学薬品で染色しているところ。もし天然の草木などで染めていたら、よりエシカルであっても、くすんだ色になってしまい作っても売れないと彼は判断した。エシカルさを完璧に突き詰めることは現状では難しいが、「消費について考えてほしい」という彼らのメッセージを消費者に届けるためには人が買いたいと思うものを作ることが必要なのだ。
パンツを“メディア”に消費者の目印を
One Novaというブランドネームには、「一つの新星」という意味が込められている。パンツという生活必需品を通して、これまで自分の消費しているものに対して深く考えてこなかった人たちがそれを意識し始めるきっかけや目印にするものになりたいと二人は考えている。透明性は、消費者が自ら判断し、企業が隠そうとするような不当な行為に加担しなくなるきっかけとして重要な役割を果たせるのだ。
たいが:ある人に言われたのが「パンツはメディアだよね」って。人の注意を引きやすいアイテムだからこそメディアになって、それにメッセージを載せて発信すると、ほかの媒体と比べても伝える力が強い。だからどの会話よりも届きやすくて読んでもらいやすい、知ってもらいやすいっていうアイテムかなって。実際「パンツ作っています」っていうと「なんで?」って聞かない人がいない、深入りしてこない人がいない。「へ〜そうなんだ」って流されないんだよね。そこがTシャツとかとの違いかなって。パンツがメディアって聞いた瞬間「あ〜なるほど」って。そう、一番強いメディアかなって思ってます
今までになかった、そして関心を引くだけでなく親しみやすい「パンツ」なら、そこに込められたメッセージにもとっつきやすく、それが無限に広まっていく可能性がある。そして彼らの「常に正直でありたい」という姿勢は、特に都合の悪い情報を隠しきることの難しい現代のネット社会では厚く消費者から信頼され続けるのではないか。彼らの話を聞いていて、今後のブランドのあり方を見ているように筆者には感じられた。パンツを媒介に、どれだけの人が彼らのメッセージを受信することになるのだろうか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。