“誰かの評価”ではなく“自分の好きな音楽”で場所を検索するサービスPlacyが描く「人間らしい街づくり」

Text: Noemi Minami

Photography: Daikichi Kawazumi unless otherwise stated.

2019.9.8

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2019年9月、東京を拠点に“音楽で場所が検索できるサービス”がローンチされる。この「音楽で場所を検索する」とはどういうことだろう。今回NEUTは同サービスを提供するスタートアップ「Placy(プレイシー)」の創業者である鈴木綜真(すずき そうま)に話を聞いた。

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鈴木綜真

音楽を使って人と空間をマッチング

消費者の評価(レビュー)に基づいた「口コミサイト」がレストランやバーを探す一般的な手段となって久しいが、Placyの創業者である鈴木はそういったサービスに疑問を持ったという。それはレビューやランキングを基準とすることが、場所を見つけるうえであまりにも限定的な視点だから。

例えば食べログやグーグルマップだと、場所が一つの基準で評価される。ここが5点で、あそこが4点、3点…。そういうふうに(レビューを基準にすると)みんなが優等生みたいな空間が出来上がって、どこも同じになっちゃうと思って。だから「この人にとっては素敵です」「この人にとっては違います」っていうふうに、点数で評価するより、空間と人とをより感覚的な趣向に基づいてマッチングをしたいと思いました。

そのためPlacyは「好きな音楽」で場所を探す仕組みを生み出した。

Placyのアプリをダウンロードすると、デバイスにある音楽配信サービスからよく聞いている曲がピックアップされ、TOP5のリストを作り出す(このTOP5のリストは自分で選ぶこともできる)。場所を検索する人が好きな音楽を打ち込むと、その音楽をTOP5のリストに入れている人が訪れた場所を表示してくれるという仕組み。

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つまり、音楽を軸に「自分と似たような感性を持った人」が訪れた場所を見つけられるため、よりパーソナルな体験が期待できる。同時に、場所探しの基準に音楽といった「感性」を反映させることで、ポピュラリティを基準に検索すると出てこないようなローカルな店の活性化にもつながればいいと鈴木は話していた。

都市を見るフィルターを増やす

消費者と場所の“マッチングアプリ”となるPlacyの根底には、実は「都市開発」のビジョンがある。

イギリスの大学院で「都市シミュレーション」を学んでいた鈴木は、もともと都市開発のためのデータ集めの手段としてPlacyの着想に至った。

都市シミュレーションでは、人の性別や年齢、収入などに基づく行動パターンのデータを集め、その人たちの動きによって、生成される資本を最適化する都市を作ろうと試みるという。しかし、それらの指標からは人の感性や文化的要素が削ぎ落とされてしまっている。

(性別や年齢、収入など)そういったパラメーター*1でしか人を見ずに都市を作ってしまうと、みんな同じ人って見られてるんで、どの都市も同じになってしまうんですよね。だから文化的な要素が全部排除されている現状に対して、文化や感性というところにパラメーターを持たして、それを基に都市を作りたい。じゃあまずはそのパラメーターがついてるデータを都市空間に付与したいなって、Placyのようなサービスを作り始めました。

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取材中、鈴木が繰り返していたのがこの“どの都市も同じになってしまう”現象、つまり都市の均質化に伴う危険性。

日本中多くの駅前で見られる光景がコンビニ、ファーストフード、チェーンの居酒屋、など“均質化”していると肌で感じている人は少なくないかもしれない。それは国際的にも進んでいて、東京にいても、ロンドンにいても、バンコクにいても見慣れたグローバルなブランドの広告が目にはいる。

「空間が人に与える影響もあると思う。空間が均質化すると人間も均質化してしまう」と懸念する鈴木は、都市が「複雑な場所になってほしい」と強い思いを持つ。だからこそPlacyのように“都市を見るフィルターを増やす”ことが必須となる。

(*1)プログラムを実行するためにコンピューターで設定する指示情報

とりあえず一回逃げちゃおう

感性や文化が反映される都市開発ーとても大掛かりなプロジェクトの第一歩となりうるPlacyを立ち上げた鈴木の現在に到るまでの経緯が気になった。

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高校生の時にやりたいことが決まらず軽い気持ちで決めた大学の専攻は物理。卒業後もやりたいことは決まらず「とりあえず一回逃げちゃおう」と、スペイン、バルセロナへと旅に出たという。バルセロナではサグラダファミリアで知られる歴史的な建築家アントニ・ガウディが設計したカサ・ミラに宿泊する機会があった。そこで「なんとなく人を観察していた」際に現在につながる思考が始まったと話す。

カサ・ミラで上から人を観察していた時に、なんであの人は右に行ったんだろう、左に行ったんだろうとか、「もしかしてこっちが明るいからかな」「こっちが盛り上がってるのかな」とか考え始めて。これ、シュミレートできないのかなって調べると、大学の時に学んだ物理の思考とかを使ってモデリングできることがわかり、ちょこちょこ自分でやり始めました。

バルセロナに3ヶ月ほど滞在した後は、スペイン語を身につけ新たに南米へと旅に出る。そこから徐々に北上していき、最後は旅の間に知った、アメリカのボストンで行われたプロジェクトに参加することになる。「音楽のプラットフォームを作る」ことを目的としたこのプロジェクトに3ヶ月ほど参加した彼は、ここで「音楽のデータ化」について学んだ。この体験はPlacyで感性に焦点を当てるうえで音楽を選んだ理由につながっているという。

旅を続けている間、バルセロナで得た都市開発への興味から、その分野で有名なイギリスの大学院に応募していた彼は、見事に受かり旅の後はロンドンの大学院に入学。その授業の一環でも、ボストンのプロジェクトで学んだ音楽のデータを基に「街の音楽を数値化」するプロジェクトを行ったという。これらは全て現在のPlacyへとつながっていった。

人間の感性や文化が反映される都市開発

「音楽も好きですけど、都市の方が好きです。音楽の人って言われるとプロの人に怒られる(笑)」というぐらいで鈴木の興味は、都市。そしてその理由は、都市の先には「人」がいるからだと付け加える。

都市に興味があるんですけど、一番興味があるのは結局人間なんですね。人の行動を見て、どうしてそんなふうに行動したの?なんでなんだろう?ていうのに興味があるんです。

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感性や文化を軸とした都市開発に携わるべく、音楽に限らず本や映画へと発展させるのが今後の展望だという。

まだデータ化出来ない人間っぽいものがたくさんあって、それを見たい。

人間の感性や文化が反映される都市開発、その先にはどんな都市があるのだろう。そこには人間らしさがつまった「感情のある街」があるのではないかと、勝手に期待してしまう。

鈴木綜真

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