先進国のゴミに「売れる価値」を吹き込む若きガールズアート収集家、Space Space

Text: Noemi Minami

Photography: STORM LUU unless otherwise stated.

2017.2.24

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去年のちょうど今頃、小田急線沿いの閑静な住宅街狛江で、今となっては「伝説」となったパーティーが密かに行われた。翌日取り壊される運命の「銭湯の廃墟」で行われたその名も『ザ・バスハウス・ショウ』。そこには世界中のアーティストの作品が展示され、浴場の跡地に特設されたステージでは80年代のカルト的バンド、ヒカシューや勢いのある若手バンド・DJが、警察が来てしまうほど白熱したパフォーマンスを見せた。
 
このパーティーをオーガナイズしたのはアート・キュレーター・デュオSpace Spaceのエラとドロシー。アート・キュレーターとはその名の通りアートをキュレート(収集・展示)する人のことを指す。パーティー会場選びから運営、そして当日披露された国内外からの視覚芸術、そして音楽を選出したのがこの二人なのだ。
 
Space Spaceザ・バスハウス・ショウの後、東京を離れ南アフリカに移住し活動を続けていた。そして先月1月に、南アフリカでの最後の展示を終え日本に戻り、原宿のギャラリーでその集大成を披露した。今回Be inspired!は、来日中の二人に現在の活動や信念について話しを聞いた。

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(左:エラ 、右:ドロシー)

物の価値ってどうやって決まるの?

3年前、東京でアートコミュニティを作るためにオーストラリアから日本に越してきたエラはアートキュレーターとしてSpace Spaceを立ち上げた。そしてある日友達の紹介でドロシーに出会ったそうだ。ドロシーは当時、美大を卒業はしたものの、どのようにアートを続けていくかを悩んでいた。二人はすぐに意気投合し、2016年にドロシーが正式に加わって新体制のSpace Spaceがスタートした。彼女たちはまだ名が知れていない外国人アーティストと日本人アーティストが一緒に作品を展示できるような空間を生み出しながら、コミュニティを築いていった。そして、日本を離れる前にその集大成として冒頭で述べたザ・バスハウス・ショウを開催したのだった。
 
廃墟を利用したり、部屋のゴミをそのまま生かしたアートを見せたザ・バスハウス・ショウは変わりゆく東京の姿と「スペース」をテーマにしていたが、二人の興味はその後更に展開していった。
 

Space Spaceっていうくらいだから、場所やスペースにいつも興味があった。そこから、段々と、どのように場所やスペースがモノの価値を決めるのかに興味が出てきたの。そして人生の中でゴミとして溜まっていくものに注目した。例えば砂糖が入っている紙は中身の砂糖を使ってしまうと価値がなくなる。その変化にも興味があったし、私たちにとって価値があるモノが、違う文化の中では価値がなかったりする。それをアートで表現できないかなって思いはじめたの。

 

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そんなことを考えながら、2016年半ばにさらなる経験を求め南アフリカに移住したそうだ。今回の来日の理由でもある1月に原宿のギャラリーで行った展示会『Space Space gallery art-clothing store』は、南アフリカで得たモノを東京の仲間に見せることが目的のひとつだった。
 
彼女たちのテーマは南アフリカでの経験を通して「スペースとモノの価値の関係性」への興味から「服とその価値」というところに辿り着いたそうだ。
 

私たちがいた南アフリカのヨハネスブルグにはパイルズっていう服のマーケットがあるの。そのマーケットにはヨーロッパやアメリカ、日本などの先進国から、服が寄付される。どれもいいクオリティだからそれを寄付した人たちはもともとはいい値段で買ったと思うの。でも彼らは1年とか着て、ただで寄付する。そして南アフリカではその洋服が地元のお店でオリジナルの値段より全然安く売られる。

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このプロセスの中で生まれる「価値の変動」に二人は目をつけた。
 

服って持ち主のスペースから離れたら価値がなくなる。例えば今私がきているジャケットを6ヶ月後にお店に「返してもいい?」っていったら「無理だよ」ってなるでしょ。だから私たちはこの「モノの価値がなくなっていく流れ」に逆らえるのか挑戦したかったの。南アフリカで価値を失い安く売られている服に、先進国で売られるような価値を持たせられるかどうかに。

 
確かに、日本でも古着屋さんに自分の服を売ろうとすると、たとえ1回しか着たことがないほぼ新品の服でも買った時の値段で売ることはできない。誰かが「所有していた」という事実が服の価値に大きく影響することが分かる。私達はそんなことをあまり疑問に感じず「事実」として受け入れていた。Space Spaceはそんな「当たり前」を壊そうとしているのだ。

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ゴミの飾りをつけた服。

エラとドロシーは全て南アフリカで手に入れた素材で今回展示した服を作っている。それにイラストを描いたり、タバコの吸殻、彼女たちが南アフリカで参加した選挙の紙の裏地など「ゴミ」を装飾する。

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Photo by Dorothy Siemens

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Photo by Dorothy Siemens

そしてSpace Spaceの服の中で印象的なのが工事現場の服に縫い付けられているような「蛍光パッチワーク」。実はこの細工には南アフリカでのストーリーが隠されている。

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Photo by Dorothy Siemens

ヨハネスブルグで興味深かったのが工事現場の人の服なの。南アメリカでは正社員だとちゃんとしたユニフォームを購入しなきゃいけないけど、短期間の労働者は自分の服に蛍光の布をつけるだけ。だから制服を買う必要はないんだけど、そこの工事現場で働いていることが主張できるのよ。

 
たかがパッチワークだが、蛍光の布が仲間意識、コミュニティの一部であることを象徴しているのだ。

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ゴミに付加価値をつける。

果たしてモノの価値はどのように決まるのか?どうやったらモノの価値をコントロールできるのか?Space Spaceが利用したのは慣れ親しんだギャラリー、そしてアートだった。
 
1月の展示会では原宿の真っ白なギャラリーに彼女たちのハンドメイドの服が飾られ、“これはファッションか?アートか?”、そんな問題を観覧者に提起したのが印象的だった。
 

ギャラリーのスペースの中だと、ゴミでも何かを白い壁に展示するだけで、人はそれを「アート」なんだろうなって見るの。でもどうして白い壁にはれば“アートなの?”っておかしいなと実は思う。だけど、私たちは価値のないものに価値を生み出すためならそんな矛盾も使おうとしてるの。

 
今は東京でSpace Spaceの服を取り扱ってくれるお店を探しているそうだ。

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ザ・バスハウス・ショウの時からテーマを発展させ、今日まで活動を続けている二人だが彼女たちのキュレーションには一貫する信念がある。
 

私たちのキュレーションのスタイルは他のアーティストと共感し、つながりを感じ、協調すること。チームとして、作品だけじゃなくて、ビジョンもゴールも。それはフェミニンなキュレーションスタイルだと思うの。私たちには完成系だけじゃなく、完成するまでの「会話」や「過程」も重要なの。

 

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発展途上国で安く売られているものやゴミを斬新なアイデアでアレンジし、アート/ファッションとして日本の企業に売るという大胆で挑戦的な彼女たちの試み。物の価値を考えず大量消費しつづける現代人に立ち止まって考える機会を与えてくれる。

「ファストファッションをスローダウンさせたい」と豪語する二人のクリエイティブさと行動力を見ると、日常の「当たり前」について考えさせられると同時に自分も何か始めないと、と思わずにはいられない。
 
ONLINE SHOP: http://www.spacespacegallery.com/shop

 
 

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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