ファッション・カルチャー雑誌の撮影や有名モデルのポートフォリオの撮影などで活躍する、23歳のフォトグラファーTammy(タミー)。彼女は最近、インドネシアのバリ島で出産した。その出産の2ヶ月弱前、彼女は自身の「妊娠した体に対するポジティブな考え方」についてインスタグラムで発信しており、フォロワーやそれ以外の人たちから大きな反響があった。彼女がなぜそのような投稿をしようと思ったのか知りたかったNEUT編集部は、出産前の期間をバリで過ごしていた彼女にテレビ電話でのインタビューを行った。
妊婦自身が自分を肯定できるように
「自分自身は、あまり悩んだり苦しんだりしたことはない」と彼女は話すが、現在暮らしているバリと比較すると日本では、妊婦に対するネガティブ視が強いようだ。彼女の経験したところでは、バリでは妊婦が「神聖な扱いを受ける」。その一方、彼女がフォロワーから受けた相談によると、日本では残念ながら「マタニティマーク」(妊婦マーク)をつけていると冷ややかな目で見られたり、わざと体をぶつけられたりすることが少なからずある。また、妊娠による体の変化を自分や周囲が受け入れられないことで悩む人たちがいる。そんな現実を知り、否定的な感情を抱いてしまう妊婦自身が少しでも自分を肯定できるようにと、インスタグラムにメッセージ付きの投稿をした。
View this post on InstagramA post shared by Tammy Volpe ( 多美 ボルピ ) (@bluebluetammy) on
妊娠すると、女の人の身体って赤ちゃんを守るために原始的に毛深くなって、生まれた後赤ちゃんが乳首を探しやすくするために、しばらく乳首の色も濃くなっていって、お腹もどんどん大きくなって(たみはなぜかお尻も大きくなった笑)、おへそも出てきて、なんならホルモンだけじゃなくて脳みその構造までも変わるらしい!この変化は全然恥じることじゃない。♡
.
その外見の変化を受け止められない男性がいて無神経な言葉をかけちゃう、女性も妊娠中の自分の身体に自信が持てなくなって鬱になっちゃう、日本で妊娠中カウンセリングに行く人が沢山いるって話しを聞きました。そういった相談のメッセージ、いくつももらって彼も私もショックを受けて。だからみんなに、特に男性に、当たり前に変化があること知っててほしい。
.
自分じゃない人のために自分の身体を変えて1人の人間を作れるって、女の人の身体、心って本当に凄い偉大です! 妊娠において外見とか1番どうでもいいし、こっちはもっと他にご飯とか体調とか気にすること山ほどあるし、そんなことで悩ませんでって感じ!もう🤷🏻♀️って妊婦さんも悩まないで、言われたら言い返しましょう。!笑
.
今は自分にしか出来ない役割を果たしてるって、妊婦さんには自信持ってほしいです。私は、自分のお母さん尊敬する気持ちで、自分も同じことやってるんだから、自分のことも自分で尊敬するスタイル(笑) 男の人も、外見どうとかよりも、授かった幸せと奇跡を噛み締めて、赤ちゃんの健康のためにしっかりして下さい!w 世の中の妊婦さんと旦那さんが、この短い神秘的な期間を幸せに過ごせますように🌿
(Tammyさんのインスタグラムへの投稿より)
実際に彼女のインスタグラムに寄せられた相談は100件にも及び、あまりにも悩んでいる人が多い現実を突きつけられたTammyは、時に読んでいてつらくなるほどだった。しかしだからこそ、それに対して何かしたいという気持ちがわいたのだろう。
100件くらい相談がきて…全部読んだけど、結構読んでるこっちがつらくなる話がいっぱいあってショックで。それで、なんかもっと妊婦さんがポジティブに過ごせたらいいなって思い投稿しました。
マタニティマークをつけていて嫌な思いをした
携帯できる「マタニティマーク」は、「妊産婦が交通機関等を利用する際に身につけ、周囲が妊産婦への配慮を示しやすくするもの」(引用元:厚生労働省)として、日本では2006年に使われ始めた。これに対しては賛否両論あるが、妊娠初期の腹部の膨らみが目立たない時期でも、緊急の場合に妊娠していることに気づいてもらい適切な処置を受けられるようにするという意味で役に立つという。調査によると実際に「妊娠をアピールするため」につけている人は少なく、「緊急時に妊婦だと知らせるもの」として身につけている人の割合が高い。それにもかかわらずネガティブな側面としては、Tammyが受けた相談にもあったように、「本当に妊婦かどうかわからない」「配慮を強制されているように感じる」など妊婦マークを不快に感じる人が少なくなく、にらまれたり腹部を叩かれたりすることも事実として起きている。(参照元:econte)
Tammy自身も、一度「マタニティマーク」をつけていて嫌な思いをしたことがあった。深夜のバスに乗っていて停留所に着いて降りるはずが整理券をなくしたことに気づいて探していたとき、マタニティマークを付けスーツケースを持っていた彼女を見て、中高年の女性が突然叫んだという。
運転手さんに向かって「この子妊婦マークつけてますよ!これつけてればなんでもやってもらえると思ってます」みたいな感じで叫ばれて。え、そんなこと言うんだってびっくりした。
Tammyは叫ばれる前に、この女性に向かって「時間がかかるので先にどうぞ」と何度か言ったものの、「いえ、あなたが先にどうぞ」と返された。これをふまえると、当人はただ嫌がらせをしたかっただけかもしれない。だが、このように妊婦が不快な思いをするケースが彼女のエピソードに限らないことを考えると、妊婦や妊婦が助けを求めることに対する社会的なネガティブ視が少なからず存在しているという話は、やはり間違いではない。
「妊娠したら体が変化する」ということを知らない
「妊娠」自体が妊婦の体に起こる大きな変化だが、それ以外の妊娠した体に生じる変化について知らない人が多い。Tammyにも妊娠してから自身の体が口に入れる食べものに敏感になったり、腹部が毛深くなったり、体がむくみやすくなったりするなどの変化があったが、妊娠して始めて知る変化ばかりだったという。
「そういうこともあるの!?」みたいなことがたくさんあって、なんで学校で教えないんだろうって思いました。注意しなきゃいけない食べものが多いっていうのも妊娠してから知った。
妊娠して初めて自分の体に生じる変化について知ることになった人は、彼女だけではないだろう。そのように自分の体についてなら、理解しようという気持ちが働きやすそうだが、他人に理解してもらうのはまた別の問題だ。Tammyが受けた相談には、一時的なむくみなどの体の変化に対して、夫に“太った”と勘違いされ「出産を終えたら痩せるのかな?」と言われるなど無神経な言葉をかけられたというものが多数ある。これは、子どもの成長期における横に体が成長する時期を“太っている”とみなし、減量を促してしまうような保護者と似ている。どんな状況であれ、他人の体型に対して何か言うべきではないが、このふたつに共有しているのは体の変化についての知識がないということだ。
たとえば毛深くなったとして「毛深くて気持ち悪い」って言われたとか、「旦那さんに恥ずかしくて自分の体を見せられません」とかそういうメッセージたくさんもらって。
このように当事者だけでなくまわりの理解が不足しているために、マタニティマークを付けることで不快な思いをしたり危険な目にあったりすることが起きているのかもしれない。Tammyの投稿は、そのような周囲の見方については直接触れていなかったものの、図らずも妊婦を元気づけるだけでなく、妊婦に対する社会的なネガティブ視の問題提起としての役割も果たしているように感じられる。
妊婦や赤ちゃんに優しいものづくり
妊娠してポジティブだと思えたことをリスト化してまとめているくらい、妊娠を肯定的に受け止めているTammy。そんな彼女が妊婦のボディイメージ*1に対する悩みが多いことに気づいて始めたプロジェクトがある。
つらい時期にいる人にも、楽しい洋服選びでちょっとでも気がまぎれればいいなって思って。地球にやさしい素材を使っているから、みんなが地球についても考えられるきっかけになったらいいな。
View this post on InstagramEarthColors 🐌 – @bluebluetammy
A post shared by EarthColors (@earthcolors.co) on
素材にこだわったデザイン性の高いマタニティウェアやベビー服、ココナッツの実や竹をアップサイクルして作った子ども向けのおもちゃのブランド「EarthColors(アースカラーズ)」がそうだ。彼女が生活しているバリで行われている伝統文化の保護活動にならい、素材はすべてバリのものを使用して自分なりにデザインしている。また、生まれる子どものための五感を刺激するような音が出るおもちゃを探していたが、売られているのは人工的に作られたものばかりだったこともプロジェクトのアイデア源となった。このように、自分の視野が子どもを育てる立場にまで広がることは、妊娠したことによる肯定的な面だといえる。
(*1)自己の身体に対する認識やイメージ
自分の体や人の体を受け入れること
話は戻ってしまうが、妊娠したときだけではなく成長期に起こる体の変化について知らないために苦しんだ人もいるかもしれない。知っていても受け入れられないという人もいて当然だが、自分や他人の体が変化するものだと知っておくことは、まわりの人たちを理解するうえで不可欠ではないだろうか。反響のあったインスタグラムへの投稿だけでなく、これから本公開される彼女のプロジェクトを通じても、自分や他人の体についてポジティブに考えられる人が増えていけば幸いに思う。
EarthColors(アースカラーズ)
ナチュラルダイで優しい色味をだした、オーガニック/バンブーコットンを使用する ウーマン&マタニティー&キッズウェア。子どもの五感を刺激するオーガニックおもちゃを販売。
“地球フレンドリー”をテーマに地球にそして私たちに優しい素材にこだわりました。自分と自然とつながる。
Life time products – 長く愛されるデザインを
売り上げの10%を、24時間365日無料の産科医療を提供し続ける「ブミセハット助産院」へ寄付。