1950年代から現在にわたりゲイアートの震源地としてエロティック・ゲイカルチャーを揺さぶってきた画家、「トム・オブ・フィンランド(本名:Touko Laaksonen トウコ・ラークソネン)」。「時代の先駆者」と称されることの多いトムは、エロティック・アートが確立されるために絶大なレガシーを築いてきた。当時、ゲイは軟弱に描かれることが多かったが、トムの描くレザーなどの衣装を身に纏った逞しい筋肉質な男性の作品は、これまでのゲイに対するステレオタイプなイメージを完全に払拭するものであった。偏見に立ち向かい、闘ったトムの姿は今なお、数多の人に希望を与え自己表現の重要さを伝えている。
トムは、ゲイコミュニティを尻押しし続け、世界中のLGBTQ+ムーブメントに大きな影響を与えてきた。その影響を受けたのは、Freddie Mercury(フレディ・ マーキュリー)やAndy Warhol(アンディ・ウォーホル)、Jean Paul Gaultier(ジャン=ポール・ゴルチエ)などはもちろん、2020年にDIESELのクリエイティブ・ディレクターに就任したGlenn Martens(グレン・マーティンス)も例外ではないようだ。DIESELは、トム・オブ・フィンランド財団と初めてコラボレーションを制作した2022年から、今回で三年連続、3度目のカプセル・コレクションを発表している。
DIESELがサポートする「The 2024 Diesel x Tom of Finland Foundation Pride」プログラムの一環として、DIESEL ART GALLERYで行われる「FORTY YEARS OF PRIDE」展と、カプセル・コレクション「プライド 2024 コレクション」のために、トム・オブ・フィンランド財団Co-Founder(共同創業者)のDurk Dehner(ダーク・デナー)と、クリエイティブ・ディレクターのRichard Villani(リチャード・ヴィラーニ)が緊急来日。今日、トムと共に財団を立ち上げた生きる伝説、ダーク・デナーとの夢のような独占インタビューが実現した。
生い立ちは大切なアイデンティティであり、揺るぎのないルーツ
ートム・オブ・フィンランドの描くキャラクターKake(カケ)は、自分が何を求めてどこへ向かおうとしてるのかをわかっているような強いゲイ男性像が印象的ですが、70年代のゲイシーンを想像すると矛盾しているように思います。どのようにうまく進めているのでしょうか?
何時ぞやに、なぜトムが今もなおゲイカルチャーのアイコニック的な存在なのかを考えていました。そして私は、いくつかの大切なことを見つけました。それは、トムの作品を常に公開し多くの人々にも見てもらい、手に取ってもらうことが重要だということでした。どの世代の人も、トムの作品から何かしらのメッセージやポジティブさを受け取ったり、自分らしさとは何かを見つけ出すことができるのです。その魔法のような作品をトムは描いてきました。
ートム・オブ・フィンランドのようなゲイアートがファッションと融合する意味とはなんでしょうか?
ある種トムは、彼なりの方法でファッションデザイナーだったと言えるでしょう。キャラクターを描き、そのモデルにあった服を個々に合わせて着せ込んでいました。ジャン・ポール・ゴルチエは次のように言ったのを覚えています。「トムの生い立ちがキャラクターに投影され、どのようにして服がフィットし、似合うかの明確なセンスがあった」。
私たちが知っておかなければいけないのは、「TOM House(トムの家)」の一室からも垣間見ることができるように、トムは何千枚ものデッサンを描いていたということです。キャラクターのズボンをローウエストでフィットするように着させたり(描いたり)、先進的なファッションに唾を付けていました。
トム・オブ・フィンランド財団とDIESEL、そしてさまざまなデザイナーとのコラボレーションは、実際に多くのメッセージを生み出しています。そのメッセージは、昔のようにセクシャリティを隠していくのではなく、誇りを持ち、自分らしさを出すことで存在感を高め、強く、輝けるということです。
日本のゲイシーンの好転に期待
ーDIESELがサポートするプログラム「The 2024 Diesel x Tom of Finland Foundation Pride」の柿落としが、ベルリンのHalle am Berghain(ハレ・アム・ベルクハイン)で行われ、その後ニューヨークのFire Island(ファイヤーアイランド)での展示とパフォーマンス、ヘルシンキプライドイベントに続き、なぜ東京が選ばれたのでしょうか。
「東京にはDIESEL ART GALLERYがあるので、今回のカプセル・コレクションと一緒にぜひトム・オブ・フィンランドの作品を展示したい」とDIESELからアプローチがありました。この展示は、私たちが今までに築いてきた美しい関係によって実現することができたのです。
ー東京で展示を行うことにより、他のアジアの国からも注目されると思いますか?
そうですね。「トムの家」で行われているアーティストのレジデンス・プログラムには、これまでに上海やバンコク、台湾から、4人のアーティストが参加してくれました。日本で展示をすることによって注目を集められたら嬉しいです。
ー東京のゲイシーンについての印象はどうですか?
まだ東京のゲイシーンを探索していないのでわからないですが、日本で初めてトム・オブ・フィンランドの個展を開催したのは今回のアフターパーティーと同じ会場の渋谷パルコでした。あと一つわかっていることは、日本の人たちは本当にオシャレですね。滞在中に、新宿2丁目に遊びに行くのを楽しみにしています。
ー2017年にフィンランドでは同性婚が認められましたが、日本でも同性婚が認められるようにするにはどのようなことを積極的にするべきでしょうか?
まずは政府と「平等」について考えなければいけません。これは文化的なことなどではなく、何が「平等の権利」であるかということなのです。同性婚について国会議員と議論できる状態が理想ですが、同性婚が認められるまで、気持ちを強く持ち前向きに行動する必要があります。愛する人が誰であろうと、パートナーと法律上で婚姻関係で結ばれる権利は、当然の人権です。それを拒否されるのは正しいことではありません。法的な効力がなぜ必要なのかというと、エイズの流行中、パートナーとの面会を希望しても「面会は法律上の家族のみ」と、パートナーであっても治療の説明が受けられなかったり手術の同意ができないということが実際に起こってしまっていたのです。これらの事態は、エイズのみに限らずどんな病気になっても起こりえます。
全ては未来の悩めるユースにレガシーを残すため
ートム・オブ・フィンランドはゲイアートの先駆者と称されることが多く、現代のアーティストたちのロールモデルになっていると思います。このことについてトム・オブ・フィンランド財団にはどのように写っていますか?
とても素晴らしいことだと感じています。というのも、トムからインスピレーションを得たどの現代のアーティストたちも、各々の方法で試行錯誤しながら変化を起こそうとしているからです。現代のアーティストたちは、実際に表現したりメッセージを伝えようと考え、その点トムは完璧主義者だったと言えるでしょう。そしてトムの作品を通じてコミュニケーションが交わり、数万人以上の若いホモセクシュアル(同性愛者)たちにインスピレーションを与え、さらにはもっとその先にも広がっていきました。ヘテロセクシャル(異性愛者)たちがそれらの作品を見たとき、そのメッセージは「すべての人が自分なりの方法で愛すことは何も間違っていない」というものでした。特に財団のレジデンス・プログラムに参加したアーティストたちは、トムのデッサンやドローイングを見てテクニックを学び、トムが描いた線やディテール、黒鉛(グラファイト)の使い方を研究します。技術を習得したアーティストたちは、自己流の表現方法を見つけてそれぞれのスタイルや形に落とし込んでいくのです。
ーDIESEL ART GALLERYで7月12日(金)から8月14日(水)まで開催の「FORTY YEARS OF PRIDE」展を楽しみにしている日本のファンに向けてメッセージはありますか?
トム・オブ・フィンランド財団は、ちょうど40年前にトムと私がクィアの人たちに向けた書類やコミュニティの歴史・伝統・文化を集約した文化遺産を残すために「一緒に非営利財団を立ち上げよう」と話し、設立したのが起源です。私たちのカルチャーが大切に保存され、その背景にある歴史を学ぶことができる場所でもあります。
私たちはこの40年間、数万点に及ぶゲイ・エロティック・アート作品を収蔵しているトムが最後の10年間を過ごした「トムの家」の維持をしながら、作品のライセンス料や収益、寄付金から運営を続けてきました。日本のセレクションには、20世紀初頭の日本の枕絵や日本を代表するゲイ・エロティック・アーティストの三島 剛、長谷川 サダオ、田亀 源五郎、新進気鋭の児雷也(JIRAIYA)の原画を収蔵しています。そして、この40周年記念の展示を通して、非営利団体である私たちを支援していただける皆さんのサポートを期待しています。トム・オブ・フィンランド財団のウェブサイトから直接寄付ができますが、もし機会があれば、ぜひロサンゼルスの「トムの家」にも遊びに来てください。
ーどのように日本のゲイ・エロティック・アーティストを見つけたのですか?
彼らの多くは「トムの家」に来てくれたんです。そこで色々な話しをしました。源五郎もそのうちの1人です。
DIESELのクリエイティブ・ディレクター、グレンとの出会いは必然だった
ーDIESELとのコラボレーションは今回が初めてではありませんでしたが、どのようにアプローチしたのでしょうか?
天から降りてきたギフトのような話しなんだけど、フィンランド出身でパリを拠点に活動している「The Community(コミニュティ)」という別の非営利団体が、ロサンゼルスの「トムの家」に来てくれた時に「うわあ、なんて素晴らしい作品たちなんだ!また連絡するよ」と言って、そこから連絡を取り始めました。彼らは「トムの展覧会をパリかどこかヨーロッパの国で開催したいから、パートナーを見つけよう」と話し、しばらくしてDIESELのクリエイティブ・ディレクターのグレンを見つけたんだ。グレンはそれを見て、「これは素晴らしいアイディアだ」と言ってくれて、こうして実現できたのです。
ー今回のカプセル・コレクションはどんなテーマで制作したのでしょうか?
今回のテーマは『ART SPEAKS THROUGH US(アートは私たちを通して語る)』。あなたがエロティック・アートを見るときに何かメッセージが伝わってくるような作品を探しているということです。
パリで開催したトムの展覧会で、ある女性がとても幸せそうに微笑んでいるのを見かけたので、私は彼女に近づいて、「何を考えているんですか?」と尋ねました。すると彼女は「心の動くままに生きたゲイ男性の作品の前に立っていると、自由の象徴を感じられる」と、こう答えました。トム・オブ・フィンランド財団が求めているのは、私たちを押し留めている枷を外して、抑制されずにありのままの自分でいられるということです。
今回のDIESELとトム・オブ・フィンランド財団のコラボレーションで目玉なのは、グレンがデザインした素晴らしい服にアーティストたちのメッセージがプリントされたキャンバステープがあしらわれていることです。
トム・オブ・フィンランドの作品はもちろんですが、60年代に男性の肉体美を追求した雑誌「ビーフケーキ」にイラストが掲載されていたthe Hun(ザ・ハン)やエロティックなイラストやコミック、 アメリカのカウボーイを撮影したTank(タンク)、元々建築業や土木技師をしていたが現在はウェスタンヌードやエロティックシーンを専門とするファインアートの写真家Henning von Berg(ヘニング・フォン・ベルク)、ジェンダー不適合の描写を得意としている画家兼タトゥーアーティストSuzanne Shifflett(スザンヌ・シフレット)、ゲイ男性をポラロイドで捉える写真家Stuart Sandford(スチュアート・サンドフォード)、絡み合う身体のドローイングをする作家Valentine(バレンタイン)などのアーティストたちの作品が今回のカプセル・コレクションに取り入れられています。世界中のより多くの人たちに彼らを知ってもらえる、本当に素晴らしい好機でした。私たちは世界に目を向け、ゲイプライドやクィアカルチャーに常に良い影響を与えられる存在でありたいと思ってます。
ー今回のカプセル・コレクションでお気に入りのデザインはなんですか?
カプセル・コレクションで他のアーティストたちともコラボレーションすることができて、本当に嬉しくワクワクしています。 女性アーティストや男性アーティスト、そして様々な人種のアーティストがいます。今私が着てるこのセクシーなメンズがプリントされたジャケットがお気に入りですが、他のカプセル・コレクションも私たちの宝物で子供のようなものです。ショーン(本記事のインタビュアー/ライター)の洋服には大きな乳首がありますね。
ー少しスパイシー(刺激的)な質問をさせてください。タチ(TOP)もジョックストラップを履くべきだと思いますか?
それはフリーダムなことなので、もし履きたければ履くと良いと思います。でも、 ジョックストラップで持ち上げられたメンズのお尻が美しいのは揺るぎのない事実ですね。
ーDIESELはなぜ、特別であると思いますか?
DIESELが特別なのは、まず、ファッションの先端を行く衣類を生産していること。そしてデニムジャケットのような、スタンダードなものを見つけようとしていることです。次に、アートとファッションの関係性についてです。この2つが出会う交差箇所にメッセージが生まれるのです。
ー最後に、コレクションを楽しみにしている日本のファンに向けてメッセージはありますか?
街を歩いていて、DIESELとのカプセル・コレクションを人々が誇らしく、そして楽しそうに着ているところをぜひ見てみたいです。私たちが自身が何者であるかを祝い、表現することが一番重要なことなのではないでしょうか。
「Tom of Finland FORTY YEARS OF PRIDE」
トム・オブ・フィンランド財団40周年を祝したアイコニックな作品の展示に加えて、実際にトムが生前に暮らしていた「トムの家」を体感できるVR作品「TOM House the VR Experience」 が日本で初披露。
<展示の詳細>
日時:2024年7月12日(金)- 8月14日(水)
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1丁目23-16 B1F cocoti SHIBUYA
開館時間 : 11:30 – 20:00
入場料 : 無料
トム・オブ・フィンランド財団
トム・オブ・フィンランド財団は、1984年にダーク・デイナーとトム・オブ・フィンランドによって設立されたNPO法人です。 財団の当初の目的は彼の膨大な作品目録を保存することでしたが、トム・オブ・フィンランドはマスキュリニティ・アートの巨匠として世界的に知られるようになりました。数年後には、性行為や性的反応を引き起こす芸術に対する差別が横行したため、すべてのエロティック・アートのための安全な避難所を提供するために範囲を拡大しました。トム・オブ・フィンランド財団は一般の人々への啓蒙活動を続けています。エロティック・アートの文化的なメリットを伝え、性に対してより健康的で寛容な理解を促進します。