アジアから世界へ広がるSunset Rollercoaster(落日飛車)。 『QUIT QUIETLY』と来日公演、その静けさはどう響いたのか

Thumbnail & Bio Photo: Zhong Lin / Article Photos: Hayato WATANABE
Text: Kaya Mitsuhashi
Edit: Jun Hirayama

2026.6.8

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台湾・台北で結成された5人組バンド・Sunset Rollercoaster(落日飛車)。湿度を帯びたリラックスしたサウンドと、ソウルやR&B、シティポップなどを自在に横断する音楽性で、台湾にとどまらずアジア、欧米へと活動の場を広げてきた。

世界最大の音楽フェス「Coachella」への出演や、韓国のバンド・HYUKOH(ヒョゴ)との共演、さらに2025年のアルバム『QUIT QUIETLY』のリリース、2026年3月の来日公演など、その勢いはとどまるところを知らない。しかしその一方で、彼らは2011年の解散と2015年の再結成という「立ち止まる」経験を経てきたバンドでもある。

今回のインタビューでは、デビューから現在に至るまでの歩みを振り返りつつ、独自の音楽観や制作の背景、そして最新アルバムに込めた思いと来日公演について話を聞いた。

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Sunset Rollercoasterの目指す「対話する音楽」

NEUT:はじめに、バンド名「Sunset Rollercoaster(落日飛車)」に込めた意味や、届けたい音楽について教えてください。

Sunset Rollercoaster(以下、落日飛車):正直なところ、バンド名はかなり適当に決めたんです(笑)。当時、Myspace*に写真をアップするために、MacBookのPhoto Boothで遊んでいたら、夕焼けの背景にジェットコースターが映るエフェクトがあって、それがすごく「かっこいい」と思いました。それで、そのイメージをそのままバンド名にしたのが始まりです。

初期の僕らの音楽もどこかその感覚に近かったと思います。少し粗くて、レトロ、それでいてどこか誇張されているけど、その中にはすごくリアルな感情がある。ずっとその“ちょうどいいバランス”を探し続けてきました。

Myspace*:2000年代中盤に世界最大級を誇った音楽・エンターテインメント特化型のSNS。

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NEUT:理想とするバンド像はありますか?

落日飛車:僕らにとって理想のバンドというのは、すごくシンプルで、例えるならキャッチボールみたいなものなんです。 誰かが投げて、誰かが受け取って、また投げ返す。それが続いていけばいい。 無理に頑張る必要もないし、何者かになる必要もない。ただ、楽しくて、いい音だと思えれば、それで十分です。

NEUT:2011年にデビューアルバムを発表し、「Summer Sonic」にも出演した後、一度解散を経験されています。その時期を振り返って、今だからこそ語れることはありますか?

落日飛車:当時はファーストアルバム『Bossa Nova』を出したばかりで、みんなもまだ若く、「プロの音楽家としてやっていく」ということが何を意味するのか明確に理解できていませんでした。

今振り返ると、あの“立ち止まる時間”はすごく重要だったと思います。もしあのまま走り続けていたら、すぐに燃え尽きていたかもしれない。あの数年間があったからこそ、もう一度集まって、以前とは違う新しいものを作ることができたんだと思います。

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「楽しいからやる」DIY精神で台湾のアンダーグラウンドから世界へ

NEUT:2015年の再結成のきっかけと、解散前後での「バンドの在り方」や「音楽制作」に対する考え方の変化があれば教えてください。

落日飛車:数年間サポートミュージシャンとして活動する中で、自分の音楽を作りたいという気持ちが強くなって、音楽を一生の仕事にしようと決心しました。

当時の台湾では、英語で歌うインディーズバンドと契約してくれるレーベルはほとんどいなかったので、再結成したときから「自分たちでやるしかない」という覚悟は決まっていました。ちょうどストリーミングサービスが普及し始めた時期でもあり、結果的に多くの人に音楽を届けることができたのは、本当に幸運だったと思います。

制作の手法は人生とともに変わりますが、ひとつ変わらないのは、常に自分が最初のリスナーであるということです。自分が心を動かされないものは、きっと誰の心にも届かないと思っています。

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NEUT:台湾のアンダーグラウンド・シーンで培ったDIY精神とエネルギーが、現在の活動の基盤になっていると伺いました。当時のシーンでの印象的な出来事や、今も影響を受けている出来事があれば教えてください。

落日飛車:台北の師大路周辺で活動していた時期は、僕らにとって本当に重要でした。当時は資金や機材も限られていて、何もかも自分たちでやるしかなかった。その経験が、僕らの粘り強さを育ててくれたのだと感じています。

一番印象に残っているのは、「楽しいからやる」という純粋な衝動だけで、どこまでも突き進めていたことですね。その精神は今でも変わっていません。活動の規模は大きくなりましたが、創作の核にあるのは「まず自分たちが納得できるかどうか」「自分たちがかっこいいと思えるかどうか」なんです。

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偽りのない感情が作るジャンルレスで自由な音楽

NEUT:Sunset Rollercoasterの魅力の一つは、ソウル、R&B、シティポップ、中国語ポップスなど、多様な音楽要素が自然に溶け合っている点だと感じます。ジャンルを横断するうえで、意識していることはありますか?

落日飛車:実は「ジャンルを混ぜよう」と意識したことはあまりなくて、幼い頃から聴いてきた音楽が、そのまま体の一部になっている感覚に近いですね(笑)。

あえて言うなら、「グルーヴ」と「感情」はすごく大事にしています。感情に偽りがなければ、たとえバラバラなジャンルの組み合わせであっても、一つの音楽として成立すると思っているので。逆に、分類しようとしすぎると、音楽は不自由になってしまう気がします。

NEUT:2021年に「台湾のグラミー賞」とも称される最高峰の音楽賞「金曲獎(Golden Melody Awards)」で最優秀バンド賞を受賞しましたが、この出来事はバンドにとってどのような意味を持ちましたか? その後の活動や意識に変化はありましたか?

落日飛車:あの日のことは、今でもよく覚えています。授賞式に向かう車の中で、ドライバーの方が僕たちの服装を見て「これから授賞式に行くの?」と声をかけてきて。そのあと「自分も昔ベーシストだったんだよ。君たちもいつかタクシー運転手になるかもね」って笑いながら言われたんです(笑)。

もちろん受賞は大きな励みになりましたし、ひとつの評価として受け止めています。でも同時に、あの言葉は「忘れないように」というリマインダーにもなりました。自分たちがどこから来たのかを忘れずにいること。その姿勢を保ち続けることが、長く音楽を続けるために必要だと思っています。

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NEUT:2023年のCoachella出演をはじめ、北米やヨーロッパなど、国境を越えた活動が続いています。海外の観客の反応で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

落日飛車:ここ数年ツアーを回る中で、地域ごとに全く違うエネルギーを感じています。

欧米や東南アジアでは、観客のリアクションがとてもダイレクトで、感情をストレートに外に出してくれます。僕たちの音を一音一音、大声で一緒に歌ってくれることもあって、ステージが揺れているように感じることもあります。

それに対して、東アジアの観客は比較的控えめですが、ライブ後にネットで長文のレビューを書いてくれることが多いですね。特に日本のリスナーは、音楽の背景や細かいニュアンスまでしっかり受け取ってくれていることに驚かされます。

こうやって「深く理解されている」と感じる瞬間は、本当に心に残ります。
結局のところ、どんな場所であっても、会場に足を運んでくれる人がいること自体が、僕たちにとっては大きな祝福です。本当に感謝しかありません。

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HYUKOHとの共鳴、そして最新アルバム『QUIT QUIETLY』が湛える静寂

NEUT:2024年にリリースした、韓国バンドHYUKOHとのコラボレーション・アルバム『AAA』について、最初の共演から制作に至るまでにどのようなストーリーがあったのでしょうか?

落日飛車:最初に『Candlelight』(2020年リリース)でコラボしたときから、お互いの音楽的な感覚や波長が驚くほど合うと感じていました。

その後、パンデミックの影響で時間ができたこともあって、「もっと大きなことをやってみようか」と話すようになり、韓国・加平(カピョン)での2バンドによる共同制作合宿が始まりました。

当初はEPを作るくらいの軽い気持ちだったんですが、制作を進めるうちに化学反応がどんどん広がって、結果的にフルアルバム『AAA』になり、そのままアジアツアーまで回ることになりました。振り返ると、本当に不思議で特別な時間でした。

NEUT:2つの大人数のバンドが同時に制作するという点で、普段とは違う刺激もあったと思います。特に印象的だった出来事を教えてください。

落日飛車:一番刺激的だったのは、「完成された2つのバンド同士が対話する」という状況そのものです。普通なら衝突してもおかしくない規模感なのですが、不思議なほど波長が合っていました。

印象的だったのは、言葉を交わさなくても成立する「無言の共通理解」のような感覚です。誰かがコードを弾くと、別の誰かがメロディを乗せ、自然と全体が動き出す。大きな即興演奏のような感覚でありながら、最終的にはしっかりとした構造を持つ作品になっていく。そのプロセスはとても特別な体験でした。

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NEUT:2025年にサプライズリリースされた最新アルバム『QUIT QUIETLY』では、これまでとは異なる静けさや余韻が印象的です。この作品で特に大切にしたテーマやムードについて教えてください。

落日飛車:このアルバムは、僕らにとって「引き算」のプロセスでした。『AAA』のような高密度で高エネルギーな制作を経て、もっと個人的で静かな空間を意識するようになったんです。

テーマは「穏やかな別れ」や「静止した時間」。すべての喧騒が去った後に、少し年を重ねた人が一人で感じる余温のようなものを描きたかったんです(笑)。

それは孤独ではなく、むしろ落ち着きに近い感覚だと思います。だからこそ、曲に意図的な余白を残し、音楽に呼吸を持たせ、静かな余韻を表現することにこだわりました。

NEUT:あえて「サプライズリリース」という形を選んだのはなぜでしょうか。リスナーにどんな体験をしてほしいと考えていましたか?

落日飛車:現代社会は情報で溢れかえっていて、過度なプロモーションにはむしろ疲れてしまうこともあると思うんです。

だからこのアルバムは、「思いがけない贈り物」のような存在であってほしいと考えました。特別な準備は必要なくて、ただ再生ボタンを押すだけでいい。深夜にふとドアを開けて、静かな部屋に入ってしばらく座るような、そんな体験になれば嬉しいです。

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日本での活動は美意識を充電する時間のよう

NEUT:「SUMMER SONIC 2011 / 2023」や「FUJI ROCK FESTIVAL ’19」、「BiKN shibuya 2023」への出演、そして今回の来日公演など、日本での活動も長く続いています。日本のオーディエンスやカルチャーについて、どのような印象を持っていますか?

落日飛車:日本の観客の皆さんは本当に繊細で集中力が高く、音楽の細かな構造や編曲の意図まで聴き取ってくれる印象があります。音色やほとんど執着に近いほどの細部へ対するこだわりは、僕らの性格とも似ている気がします。

日本文化にある「職人性」と「孤独」が共存しているような感覚は、僕らの創作にも大きな影響を与えています。日本でのライブは単なるパフォーマンスというより、自分自身の美意識をアップデートし、充電する時間のようなものだと思っています。

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NEUT:3月4日に行われたZepp Haneda公演では、どのようなライブをイメージしていましたか? また、実際に演奏してみた感想を教えてください。

落日飛車:Zepp Hanedaの音響は本当に素晴らしくて、とても快適に演奏することができました。

今回のライブでは、『QUIT QUIETLY』の「静けさ」と、これまでに表現してきた「グルーヴ」を織り交ぜることを意識しました。観客の皆さんがリズムに合わせて身体を揺らしている光景を見るのは、本当に嬉しい瞬間です。

また、日本の観客には独特の集中力を感じます。静かなパートで会場全体が息をのむような瞬間は、とても神聖なものに感じました。ライブ後には、ファンの感想をネットで皆さんの感想を読むこともあるのですが、細かな編曲の意図や雰囲気の変化までしっかり伝わっていることが分かり、とても感動しました。

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NEUT:最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします!

落日飛車:長い間、この“ローラーコースター”に乗り続けてくれて、本当にありがとうございます。そして、ずっとそばにいてくれて感謝しています。

『My Jinji』の頃から聴いてくれている人も、最近僕たちを知ってくれた人も、皆さんの人生のどこかに、僕らの音楽が小さな温かさを残せていたなら嬉しいです。

大きなことを言うのは得意ではありませんが、すべてのライブや作品こそが、僕たちから皆さんへの返事だと思っています。またどこかで会えることを楽しみにしています。

それから、健康診断はちゃんと受けてくださいね(笑)。

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Sunset Rollercoaster(落日飛車)

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Sunset Rollercoaster(サンセット・ローラーコースター / 落日飛車)は、台湾・台北を拠点とする5人組のインディー・バンド。シンセサイザー「DX-7」を携え、英語で歌う独自のスタイルで注目を集め、2011年にデビューアルバム『Bossa Nova』をリリースすると、瞬く間にヒットを記録した。
その後、数年の活動休止期間を経て、2016年にEP『Jinji Kikko』で復帰。
ジャズ、ディスコ、ファンク、ソフトロックを横断する、日本の「シティ・ポップ」を想起させるような湿度を帯びたサウンドは、「ネオ・ノスタルジア」と評されている。
その後『Cassa Nova』『Vanilla Villa』『Soft Storm』といった作品をリリースし、研ぎ澄まされたサウンドと卓越した演奏技術、息の合ったライブパフォーマンスで世界中に熱狂的なファンを獲得していった。
FUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、Coachella をはじめとする国際的な音楽フェスへも出演し、世界ツアーを敢行するなど、現代アジアのインディー・ポップ / オルタナティブ・シーンを象徴する存在として注目されている。

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