「ステージ上のアーティストというよりは、みんなが私の友達って思ってくれる距離感でありたい」“リスナーを癒す音楽”を歌うUMIの魅力

Text: Fumika Ogura

Photography: Saeka Shimada unless otherwise stated.

Edit: Noemi Minami

2023.7.13

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 アメリカはロサンゼルスを拠点に活動するシンガーソングライターのUMI。多種多様なカップルが登場するノスタルジックなMVと、メロウなメロディーに優しい歌声が印象的な「Remember Me」という曲がきっかけで、2018年にアップカミングなシンガーとして注目を集めた。アーティストネームでありミドルネームでもある“UMI”は日本語の「海」から名付けられている。5月23日に行われた「GREENROOM FESTIVAL ‘23」にて、日本での初ライブを行ったUMI。まさに海のような広い心を持ち、全てを包み込んでくれるようなパフォーマンスは、その場で聞いていた一人一人に愛がギフトされていくような時間だった。

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歌を歌うのが息をするように日常的なものだった

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UMI

 日本人の母とアメリカ人の父を持ち、アメリカのシアトルで生まれ育ったシンガーソングライターのUMI。父はDJや教会などでドラマーとして活動をし、母はピアノ経験者。朝から晩まで音楽がある環境で生まれたUMIにとって、歌を始めることは必然的なことだった。

「生まれたその瞬間から、私にとって音楽は生活の一部でした。音を奏でることは、呼吸をするようなもので、食べることや、寝ることと同じ。将来、自分は歌手になるんだろうなと、漠然と思っていました。夢として描くものというよりは、自然と確信を持っていたので、それが小さい頃から分かっていたのはラッキーだったなと思います」

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 3〜4歳のころから作詞・作曲を始め、ベットをステージに見立て、妹や家族をお客さんとして、家でライブを開催していた。小さい頃のUMIにとって、歌を歌ったり、歌詞を書いたりすることは、塗り絵やおもちゃで遊ぶような感覚と同じだったという。

「音楽を生業とする両親に習ったわけではなくて、音があると自ら身体が動き始める感覚的なものでした。両親は楽器のレッスンを受けさせてくれるなど、私が選んだ道をサポートしてくれたので、好きなことができる環境を作ってくれて感謝しています」

 そんな、小さい頃は自ら前に立って歌を歌っていたUMIだが、歳を重ねるに連れて、人前に立つことが難しくなってしまった時期もあったそうだ。

「他の人が自分のことを見てる状況に、恥ずかしさや怖さを覚えてしまって、人前で歌うのが苦手になってしまったんです。そんなことを思いながらも、歌を歌うことは自分がやっていくべきものだという自覚はずっとありました。それで始めたのがYouTubeでの配信です」

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初期のUMIのYouTubeビデオ

 人の前に立つことはできなくても、YouTubeで映像を通してなら、歌うときは一人だけど、世界の人々の前で歌うことができる。映像を日本の家族や、友達に送るなどして、フォロワーが少しずつ増えていった。

「YouTubeでの配信を始めてから、友人から『次はiTunesで曲をリリースしなよ』と、1年ほど毎日のように言われ続けていました(笑)。それで、オンラインで楽曲を配信し始めたんです」

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 シャーデーや、ローリン・ヒルなどを聞いて育ち、好きだったのは、ビヨンセのパフォーマンス。自身の音楽のルーツは、R&Bがベースにありつつ、J-POPにも影響を受けているという。

「家ではアメリカのアーティストも、日本のアーティストも分け隔てなく流れていました。レンタルビデオ屋さんで借りてきたミュージックステーションのビデオを見て、松田聖子さんや、宇多田ヒカルさんの演奏を聞いたりもしていましたね。私が制作する楽曲はR&Bに近いものが多いですが、そういった日本のエッセンスが入っているので、いわゆるR&Bに比べて、ちょっと違うムードに仕上がっている気がします」

人にヒーリングを与えるための手段としての音楽

 2017年にリリースしたシングル「Happy Again」や、2018年にリリースした「Remember Me」で注目を集め、徐々にその名を知られるようになっていったUMI。ステージに立つのが怖かったUMIも、自分のペースで少しずつ自信をつけていった。

「小さい頃、歌手になりたいと思う傍らで、お医者さんになりたいとも話していました。今となっては、ずっと自分の根底には、人に対してヒーリングをしたいという思いがあったんだと思います。なので、私は私なりのやり方で、それを実現するために、音楽を手段として選び、楽曲を制作しているんだと思います。とくにライブでは、私が話しをしただけで、何百人、何千人もの人がジャンプをしたり、歌を歌ったりするのって、すごくパワフルなこと。だから、できるだけいいものを共有し合って、それぞれの心に残していきたいです。自分のためだけにやっているのだとしたら、活動を続けてはいけません。みんながハッピーな顔を向けてくれているから、頑張れているのだと思います。こうした人と人との繋がりは常に大事にしていきたいです」

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 2023年5月28日に行われた「GREENROOM FESTIVAL ‘23」は、UMIにとって日本で初めてのパフォーマンスだった。目を閉じて深呼吸をするメディテーションからライブはスタートし、「自分自身にハグをしてみよう!」「モヤモヤを吐き出して、叫んでみて!」など、お客さんへの優しい声がけと共に、パフォーマンスは進んでいった。ライブを見ているというよりは、UMIがお客さんの心を自然と解いていくような、一種のセラピーのようなものだった。

「どこの国でパフォーマンスをするときも、メディテーションは欠かさず行います。私のライブを見に来てくれた人が、ここに来るまでは、モヤモヤしていたり、寂しい気持ちを感じていたりしたら、パフォーマンスが終わるまでには、それらを吐き出して、晴れやかな気持ちになっていてほしいなと思うんです。そのためには、まずは心がオープンでなければならないので、そこまでの過程をライブでも大事にしています。なので、セットリストを考えるときも、曲で決めていくのではなく、それぞれでポイントを作るようにしています。例えば、この曲のあとに叫ぶことを入れるとしたら、その前に泣ける部分を取り入れたり、気持ちを吐き出す場所を作ったり。それらをするためには、安全な気持ちでいることが必要だから、みんなで手拍子をしたり、ジャンプをしたりして、人と人とのコネクションを作っていく。これらをあえて口に出して説明するわけではないけど、それぞれが、徐々に開放的になって『なんか調子がいいかも』と感じてくれていたら本望です」

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GREENROOM FESTIVAL ’23でのライブの様子
Photography: Kazuki Murata

 ライブでの一連の流れは、自らの生活にも落とし込んでいるUMI。普段のルーティンでも、メディテーションをすることで一日がスタートする。

「朝起きて、まず思っていることをノートに書き出します。それらを自身のなかからリリースして、自分と向き合いながらエネルギーを高めていく。そのあとに瞑想をして、気持ちを落ち着けてから、その日をスタートしていきます。怒ったり、心配したりする自分を前の日から引きずったまま、人との会話をしたり、メッセージを送ったりしてしまうと、本当の自分ではない状態で相手に接してしまうことになるので、まずは自分自身を整えて、いい状態でいることが大切。それをライブでもみんなに伝えていきたいし、教えられたらいいなと思っています」

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インタビュー前もメディテーションを行っていたUMI

 パフォーマンスだけでなく、楽曲にも「癒し」や「共感」などのテーマが一貫して込められている。

「自分の経験や、人の経験をもとに作詞をしています。いろんな感情の流れを書くようにしていますが、聞いたあとに、寂しさや辛さをそのまま引きずってしまうようにはしたくなくて、最後にはその気持ちが少しでも和らげられるかを考えて作るようにしています。そういった言葉選びだけではなくて、演奏をするときも、ただ歌うのではなくて、ラブやハピネスの気持ちをいっぱい込めてライブをするようにしています。感覚的なことだと思いますが、自分の考えていることや、感じていることって、音に乗って、聞いている人にそのまま通じると思うんです。だからこそ、自分のポジティブなエネルギーを注いだ音を届けていきたいなと思います。楽曲として一度制作してしまったら、もう変えることはできません。何十年、何百年経っても、色褪せずに同じ気持ちで聞き続けていけるようなものを残していきたいですね」

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音楽を通して、「ありのままで大丈夫」だと伝えていく

 「GREENROOM FESTIVAL ‘23」では、日本語の歌詞で作られた楽曲「sukidakara」も披露。歌い始める前に、「ちゃんとした日本語じゃないって、たまに人から言われるけど、言葉や文法が間違っていても、伝わることが大切だと思う」と、話していたのが印象的だった。

「大体がビートから曲を作るんですが、『sukidakara』は音を聞いて日本語で歌うのがマッチしそうだなと思って日本語の歌詞を書きました。日本人のファンからも反響がありましたが、私の海外のファンには、日本を好きな人が多いのもあって、これを機に日本語を勉強したいという声も聞けて、嬉しかったです。これは、日本に来るたびに思うことですが、日本は『正しさ』に重きを置いているなと、感じることがあります。正しいように話す、正しいように立つ、正しいことをする、って誰に向けての『正しさ』なんだろうなと思います。もちろん、アメリカにいても、そういった『正しさ』に直面することはありますが、正しさの物差しに沿って生きてしまったら、自分が歩んでいきたい人生が送れなくなってしまうかもしれないし、自分自身がなくなってしまうと思うんです。きっとみんなそれが好きではないはずなのに、周りに合わせて、つい『正しさ』を追いかけてしまうけど、そういったものに縛られすぎず、自由であることがセルフラブにも繋がってくると思うんです。これは少しアメリカっぽい考え方かもしれないですが、私だからこそ日本のみんなに伝えていけることだなと思っています」

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 一方で、日本のアートやアニメのユニークなところは、ストーリー性を感じることだと話す。

「例えば、神社一つとっても、アメリカではその場で祈って終わりだけど、日本の場合は、境内に行くまでに歩き回って、手や口を清めて、最後にお祈りをする。参拝するだけでも、さまざまなプロセスを経て、頭が空っぽになった状態で、お祈りするまでにたどり着きますよね。私もそういう過程が好きで、まずは曲を聞いてもらって、次は映像やビジュアルを見て、私を分かってもらったうえでライブに来てもらうような流れが作れたらいいなと思っています」

 また、ミュージックビデオでも、アニメーションを用いたり、さまざまなセクシュアリティの人に出演してもらったりするなど、楽曲だけではなく、映像でも自身の考えを落とし込んできた。

「私が小さい頃には、自分のためだと思えるリプレゼンテーションがあまりなかったので、自分で自分の居場所を見つけていくしかありませんでした。なので、ビデオを作るときは誰が足りてないのか、どんなリプレゼンテーションが足りていないのかを考えることからスタートします」

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 「GREENROOM FESTIVAL ‘23」に加え、TRUNK(HOTEL)でもクローズドなアコースティックライブを行うなど、大盛況で初来日公演を終えたUMI。夏は「SUMMER SONIC」で星野源がキュレーションを手がけるステージへの出演やサマソニ・エクストラへの初単独公演が決まるなど、日本でも益々の活躍が期待されている。

「ステージ上のアーティストというよりは、みんなが私の友達って思ってくれる距離感でありたいです。私もみんなが経験してきたことを同じように経験しているし、考えている。たとえ言葉が分からなかったとしても、私の曲を聞いて、『一人じゃないんだな』と感じてほしいし、伝えていきたいです。また夏に新しいプロジェクトを発表する予定なので、楽しみにしていてください」

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UMI

Website / Instagram / Twitter

日米をルーツに持ち、R&B、ソウル、ヒップホップ等のさまざまな要素を取り入れ“ヒーリング・ネオソウル”として人々の心に寄り添うような楽曲をリリースしているシンガーソングライター・UMI。2018年にデビューし、初のEP『Interlude』をリリース。その後2019年には2nd EPの『Love Language』、2020年にはメジャーデビューEP『Introspection』、そして2022年5月にはデビューアルバム『Forest In The City』をリリースしている。UMIがリリースする作品には自身が日頃から感じている、「アメリカ生まれ且つアメリカ人でありながら、もう一つのルーツである日本を思いやる気持ち」、「日本人であるにも関わらず日本人として見てもらえない」など自身の複雑な経験を楽曲を通して表現しており、現在若い世代から支持を得ているアーティストの一人だ。

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