「車イスに乗っている人」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。
車イスを使っている理由はそれぞれ違うし、その人の生き方こそ多様にもかかわらず、特定のイメージを抱いている人も残念ながらいるだろう。だがそれは、車イスを使用している人が身近にいないからかもしれない。
「脳性まひ」と生きながら、「車イスに乗っている人とはこういうもの」というステレオタイプを壊していくかのように、お笑い芸人を目指したり、ホストクラブで働くことになったりと“多様な生き方”を体現してきた寺田ユースケ氏にBe inspired!はインタビューを行った。
「ホスト=女性を騙す」と考え、同僚を差別的な目で見ていた
現在は歌舞伎町ブックセンターのホスト書店員をしたり、車イスを押してもらいながら日本をヒッチハイクで旅をする活動「HELPUSH(ヘルプッシュ)」に出かけたり、以前ホストして働いていたSmappa!Groupのホストクラブ「APiTS」を手伝ったりすることもある彼。だが、「障害のある人」「車イスに乗っている人」に偏見を持ってほしくないと考えていた一方、無意識に彼が偏見を抱いていたのは、仲間であるホストクラブのホストたちに対してだった。
お笑い芸人の道を諦めた頃、友人から「人と話す仕事を続けたほうがいいんじゃないか」とホストクラブ Smappa!Group APiTSの経営者 手塚マキさんを紹介され、ホストとして働き始めることになった寺田さん。初めは「ホストという職業=女性を騙す職業」で何か怖いことが起きるかもしれない、そのように思い込んでいた彼は「自分は他のホストとは違うんだ」とまわりから距離を置いていたという。だがホストクラブにいるうちに、それが偏った考えだったことに気づく。
自分も同じホストクラブで働く一員なのに、同僚を無意識に差別的な目で見てしまっていた。矛盾した行動で今でも恥ずかしいです。重要なのが、100人ホストがいれば、100通りの接客があるということで、なかには女性を騙すようなホストもいるかもしれない、でも全員が全員そうではなかった。それに気づいたとき、僕はいい経験をさせてもらったと思いました。僕自身が「障害者=かわいそう」だとか「障害者=ネガティブ」だとかそういう偏見を持ってほしくないと思いながら生きてきて活動してきたのにもかかわらず、ホストの人たちについて女性を騙すっていう一辺倒なイメージを持ってしまっていたと反省した経験でもありました
自分が抱いてしまった“偏見”とどう向き合ったらいいか?
「自分自身が『偏見を持ってしまっている相手や世界』について、どのように理解できるよう努力していけばいいのでしょうか?」。知らずのうちに抱いていた偏見と向き合った寺田さんに、こんな質問をぶつけてみた。
彼の取り組み「HELPUSH(ヘルプッシュ)」は、車イスに乗っている人について口頭で説明するのではなく、一人ひとりに押してくださいと声をかけて押してもらう活動でもある。それを続けている彼の答えは「ただ知ってもらうこと」と、とてもシンプル。
たとえばゲイについてだったらゲイの友だちを一人作ればいいと思うし、帰国子女の友だちがいなければ帰国子女の友だちを作ればいいと思うし、車イスの友だちがいなければ、車イスの友だちを作れば車イス生活のことがわかる。知り合う前から「障害者だからこう」と決めつけるのではなく、まず僕と友だちになってほしいです(笑)そしたら寺田っていう障害者の友だちができるので。そのようにして気軽に知ってみるのが大事なのかなって
2000年代後半に『人は見た目が9割』という本がベストセラーになった。そのタイトルのように、外見や属性などで人の中身を判断してしまったこと、あるいは自分が判断されてしまったことは誰もが経験しているのではないだろうか。
また、普段の生活のなかで何らかの理由で側から見たら“変わった行動”をとってしまう人を見かけるかもしれない。寺田さんの話を聞いていると、そんな行動をとっている人を見て「この人は変だ」と突き放してしまいそうになったときこそ、その行動の背景を知ろうとするべきだと思えてくる。その人が自分である可能性だってあるし、自分の友人だったとしてもおかしくないのだから。
この人はこういう人かなって勝手な思い込みをしていたら、その人が特定の行動をとるのには深い理由があったりして、理由を聞くと「ああ、なるほどな」って思うかもしれないし。ホストでいえば、僕がホストになっていなかったとしても、とても仲のいい友だちにホストがいたとしたら、「ホスト=ネガティブなことをしている人」って大切な友だちが差別されるのは嫌だと思うんですよ。だから身近にしていくというか、知っていくことがすごく大事だなと思っています
「スマホを使って全部自分でやらなきゃいけない」という空気を壊せ
私たちが生きているのはスマートフォンがあれば不便なく、一人でも暮らしていけるような時代。だが便利さの反面、それに慣れてしまうと困ったときに助けを求めることを申し訳なく思ったり、人への頼り方がわからなくなったりしてしまうこともある。芸人やホスト、ヒッチハイカーといった、高い「コミュニケーション能力」が必要な世界で生きてきた彼も、そんな現代社会に生きづらさを感じてきた。
なんで窮屈になったのかっていうと、やっぱりスマホが普及してから、自分ひとりでなんでもやらなきゃいけないという空気を感じてしまって。たとえばスマホがあるからググればいいじゃんとか、道を誰かに聞こうと思ってもマップで見なよとか、そういう自分ひとりでやることが当たり前のような感じになって、気軽に人に頼めなくなったし助けてとも言えなくなった
そんな「窮屈さ」を感じて始めた活動、HELPUSH(ヘルプッシュ)車イスヒッチハイクの旅では、見知らぬ人との対面での会話を大切にしながら、「気軽に人と関われる空気感」を作っていく。決してオンラインのコミュニケーションを否定しているわけではなく、ヒッチハイクの道中をネット中継したりSNSで報告したりすることで直接会えなかった人たちにも活動の様子を届けている。
彼いわく、意外にもホストクラブに来るお客様が彼に話すこととヒッチハイク中に乗せてもらった車の中で聞く話は似ていたという。ホストクラブに来るお客様も、ヒッチハイク中に出会う人にもさまざまな人がいるが、そこに大きな差はなかったということだ。また彼と初対面だからこそ、オープンに話せてしまう悩みもあるのだろう。
やっぱり普段は言えないことをホストクラブに話しにきている方がとても多い印象だったのですが、ヒッチハイクの旅に出てから車に乗せてくれる人が車内で同じような相談をしてくれて、別にホストクラブじゃなくてもいいんだなって思いました。だから気軽な相談とか自分の悩みとかを話せる場所が日本中いろんなところにあったらいいなっていうふうには思いますね
「障害=個性」という考え方を、彼はどうとらえているのか
彼が2017年末に出版した自叙伝『車イスホスト。』の初版が完売した。数々の感想のなかでも嬉しかったと彼が話していたのが、「これは大人の道徳の教科書だよね」というもの。「差別をしてはいけない」という正義感を持つよう教える学校教育に対し、同インタビューでも語ってくれたような、リアルな「偏見を持ってしまう心」に対する等身大の若者の葛藤が綴られていたからではないだろうか。
最後に筆者が彼に聞きたかったのが、ポジティブに感じられる一方で「障害」が生じさせる不便さに目を向けていないような「障害は個性」という見方について、当事者としてどう受け止めているのかだった。彼の考えを説明しているというのが、彼の母親の「障害を個性と言い切ることには抵抗がある」が、「障害のある身体とともに生きている息子の『生き方』には、唯一無二の『個性』がある」という解釈。この言葉は、彼の著書に母親からの話として書かれている。
僕は今まで生き方についてうまく表現ができていなかったけど、母親がその答えを教えてくれました。車イスでお笑い芸人を経験して、ホストになり、ヒッチハイカーになった。車イスのおかげで、何でも挑戦できるチケットをもらった。今自信を持ってはっきり言います。障害は個性ではありません。障害のある身体とともに生きる僕の「生き方」に唯一無二の個性が宿ります!
「偏見」とどう向き合うかはどの社会においても普遍的な課題だ。それに自分が社会的にマイノリティであるか、そうではないかは関係ない。身近な他人について「この人はこういう人だ」と勝手なイメージを持ってしまうことがあると感じるなら、寺田さんが話していたように、その相手と実際に関わる機会を作ってみることは、相手を理解するための一つの方法だ。
もしそれが身近な人でなければ、あるいはその人が抱えている問題や背景などが明らかな場合は、それについて調べて間接的に知ることでも自分の意識は変えられる。そんな姿勢でいることが、相手の立場を想像する力を養うことにつながっていくのではないだろうか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。