幼い頃から、いわゆる“女らしさ、男らしさ”はよくわからなかった。まわりから見たらセーラームーンとウルトラマンのどちらも好きで、周囲の反応からは女の子ともよく遊ぶ“ちょっと変な子”。高校生のときには、社会や環境のせいで好き同士だった人と一緒に居続けられないという苦しさと理不尽さを味わう。それらと闘うなかで、自身がゲイだとカミングアウトし始める。大学に入ってからは、そうした原体験を経て自主的に動き出した。そして、現在は企業向けLGBT研修やLGBTメディアを運営しているLetibee取締役の外山雄太氏。今回Be inspired!は、新しいLGBTカルチャーを作ろうと挑戦するミレニアル世代の視点から彼にインタビューを行なった。
「LGBT」というワードは広まったけど、これだけじゃ十分でない
東京渋谷区で「同性パートナーシップ条例」が2015年に施行され、1年以上が経つ。これだけでは法的な拘束力はないが、「社会でムーブメントが起こっていくなかで必要な段階」だったという意味では意義深いものだった。
なんか結局渋谷区の件があって「LGBT」というワードがすごく広がって、企業がそれに取り組むようになったり、メディアもそこに注目し始めたり、というように社会的インパクトはでかかったんですね。
しかし、「これだけじゃ十分でないということは常に伝えていかなければならない」と外山氏は話す。
日本でも聞こえるようになった、“LGBT”というワード。そうした呼称にはいろいろなものがあるという。「LGBTs」(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーとその他のセクシュアル・ジェンダーアイデンティティ)や「LGBTQIA」(前者にクィアとインターセックス、アライを足したもの)などの呼称だ。果たして、どんな呼び方が最適なのだろうか?外山氏は、マイノリティという捉え方ではなく「性」が多様だということを表す「SOGI(ソギやソジと読む)」という呼び方があることを紹介してくれた。
LGBTって結局、LとGとBとTがあってそれ以外にもたくさん性のあり方ってあって、なんかいろいろAとかQとか入れていってきているけど、どんどん長くなっていってきちゃって、でも「SOGI」っていうのはSOがsexual orientation(性的指向)、GIがgender identity(性自認、性的嗜好)を意味していてそれぞれに多様性があるよねっていうインクルーシブな感じになっていていいですね。
外山氏が運営するLetibeeのホームページでは表記をLGBTで統一している。間違いがあったり他の人権を損害することはあったりしてはいけないが、「LGBT」というキーワードで検索する人が多いことを考慮しているのだそうだ。
「新宿二丁目」や「出会い系アプリ」とは違う、“コミュニティを作れる場所”
ゲイという切り口なら、「新宿二丁目」のような“居場所”や「出会い系アプリ」があることで生きやすくなってきている。けれども“二丁目”のようなディープな雰囲気の漂う夜の町が苦手な人や未成年者にはハードルが高く、掲示板で顔の見えない人たちと交流するとなると、アンダーグラウンド、さらには“エロ”にアクセスすることにもなる。したがって、“出会いの場所”ではなく“コミュニティが作れる場所”が、どこかのタイミングで必要なのだ。
出会い系に頼ってしまうと、どうしても一対一の出会いだけになっちゃうので、それって結局誰かに相談したいというとき彼のことをわかっている友人がいないということもあるし、なんか不誠実な話になりますけど、この人との関係を切ろうと思えば、すぐに切れちゃうんですよね。でもそういう“インスタントな関係”じゃなくて、コミュニティ発信の日常生活のなかでの出会いが、コミュニティのベースになっていくと思うんです。職場とか学校とかサークルとか部活とかまあオフ会とか、人として相手と接していくうえで第三者の人がいるっていうのはやっぱりコミュニティの良さだと思います。
アジア発信のLGBTカルチャーを
アジアのLGBTカルチャーのリーディングカントリーとして動き始めている台湾では、同性婚の審議やアジア最大のプライドパレードが行なわれている。これに日本も続いていけるのだろうか?外山氏は「アジア固有の歴史があるなか、このタイミングの時代に他国のトレンド取り入れる以外にできることは何なのか、考えを進めていくべき」と分析している。
宗教観や道徳観など、欧米諸国と日本やアジアでは違う。結局(他国のトレンドを)入れればいいというものじゃないので、日本人がどうやったら咀嚼できるのか、全く関係のない人たちがどうやったら彼らが生きている価値観のなかで「それだったらLGBTとか同性婚とかだからそういうサポートって必要だよね」ってなっていくかには、日本なりの別のアプローチが必要なんじゃないかと思います。
「ミレニアルズからミレニアルズへ」、アプローチはポジティブに。
1990年生まれのミレニアルズである外山氏。彼と同世代やそれより若い人たちに向けたアプローチはどのようなものがいいのか?例えば「同性婚の賛成率」なら、70代で24%であるのに対し、20代では70%が賛成している。このように世代間の価値観の断絶はある。そうしたタフな時代を乗り越えてきた当事者の先輩世代がカミングアウトのしやすい環境を作ってきた。その現代において、性の多様性がより身近にあったミレニアルズにはもっとポジティブに文化面からアプローチしていく方法が合っているのかもしれない。
もちろん世の中を変えていくためには、深刻度の高い、困難を伝えてアプローチしていく方法も間違いなく必要だと思う。ただ、ジェンダー観念がさほど強くなく、いろいろな性のあり方にも触れている機会の多い世代には、ポジティブな手法のアプローチが響くと感じている。アートとかカルチャーとかそういう部分からなんか一緒に作っていったりとか何か面白いものや同じものを一緒に見て共有したり、素敵な作品を見せ合ったりとか、そういうことで何かできないかと思っていて、それはミレニアル世代の人たちの感覚になっているんじゃないかな。そんな活動を企業の人とかとやり取りしながらどんどんリリースしていきたいなと思っています。
インタビューのなかで「僕がこうやって取材を受けたり、ストレート(異性愛者)の友達と『あの人イケメンじゃない?』『え、趣味悪くない?』みたいな話をできたりっていうのはすごく幸せなことで、そういうのが少しずつ当たり前になってきているんですよね」と話していた外山氏。ミレニアルズとしての新しい感覚を持つ彼こそが、アートやカルチャーという“ソフトパワー”で「日本発LGBTカルチャー」を引っ張っていくに違いない。私たちミレニアルズは、そのような多様性が認められる社会を作っていけるはずだ。
外山雄太
Letibee取締役
株式会社Letibee(レティビー)
撮影協力:factory(ファクトリー)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-8-7 青山宮野ビル1F
Tel:03-6419-7739
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。