B級映画が誕生し、ドナルドダックがプロパガンダに使われていた1930~1950年代のシネマヒストリー|Jo’s Cinema Talk 002

Text: Jo Motoyo

Artwork: moka

2020.8.8

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お元気ですか?

連載第二回、Joです!

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先日、久々に映画館に行きました。
新型コロナの感染対策として多くの映画館が、1席ずつ座席の間隔を開けて座る対策をしているのですが、
個人的にはそれがとても心地よかったです。

わたし学生のころ、シネコンと呼ばれるような大型映画館でバイトしてたんですけど、
一番多い苦情って何かわかりますか?

隣に座っている人に対する苦情なんです。
みんな隣に座ってる人が気になるんですよね。
でも自分では言えないから、スタッフに言って欲しい。
そういった相談が多かったです。

そういう意味ではいま必ず席を空けなければいけないので、
いつもより少し鑑賞しやすい印象を持ちました。

ちなみに私は映画館の一番後ろの端っこの席が好きです。

映画館は条例で20分に1回、必ず換気をしなければいけないそうです。
会話をしながら観るようなものでもないので、
咳やくしゃみを連発している人がいない限りは割と安心して接することが出来るエンターテイメントかなとも思ったりしています。
逆に、少しでも体調悪いなとか咳やくしゃみが出ている場合は、
自発的に控えた方が良い空間ではあることに間違いないですね。

映画史の話の前に、映画館の小話を。
昔の映画館はキネトスコープと呼ばれる箱型の上映機械に、
5セントを入れて各人がそれを覗き込むスタイルだったそうです。
内容は男性と女性がキスをするようなソフト・ポルノやギャグ映画が主流コンテンツだったらしいです。
視聴環境は変われど、携帯でYouTubeを見ているのとそこまで大きく変わらないものを見ていたのかもしれないですね。

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キネトスコープ

前回は映像の成り立ちから、1930年くらいまでを辿りました。
今回は白黒映画の黄金期である1930~1950年代の映画史をご紹介したいと思います!

B級映画って?

先日「B級映画ってなに?」と言われました。
厳密にいうとB級映画はもう存在しないと言われています。

1930年代、世界恐慌で映画館の客足が減り、
困った映画館は2本立てで映画を上映するようになりました。

そのときにクオリティの高いA級映画と、低予算のB級映画を抱き合わせ上映し、
それが転じて、低予算かつ小規模で制作された映画を指すようになりました。

1950年代になると2本立てで映画を作るところが減ってしまったので、
厳密に言えば現代映画にB級映画は存在しないということらしいです。

当時、小規模撮影を意味していたB級映画は2週間程度で撮影していたらしいのですが、
現代だと割と大型な作品でも2週間程度で撮影するという話を聞くので、
そういう意味でも、B級というくくり自体が現代の映画文化の中では定義が難しいのかもしれません。

2004年に公開されたホラー映画の『SAW(ソウ)』。
当時の日本円で約120万程で制作されているので、「すごいB級ホラー映画!」という口コミがあったのを覚えています。

話題になった『カメラを止めるな!』も制作費250~300万らしいので、
SAWは更に低予算、すごいですね….。

※動画が見られない方はこちら

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映画制作における過剰なほどの低予算化は今後も加速すると思うので、
そういった意味でもB級と定義するのは難しいかもしれません。

B級映画が作られた1930年代は反面で、溝口健二、小津安二郎やヒッチコックのようなスター監督と呼ばれる映画監督たちも登場してきます。

溝口健二は画面に映るもの全てを綿密に構成しました。
代表作である「浪華悲歌(なにわえれじい)」では手前に座る役者と、奥で演技をしている役者をうまく使い、そこで何が起こっているのかを説明するという演出をしました。

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長回し撮影も溝口健二の特徴です。
この長回しで場面を見せる技法に、
ゴダールなどのフランス人映画監督たちは大きな影響を受け、
ヌーヴェルヴァーグという新しい映画運動が起きました。
ヌーヴェルヴァーグは自由でおしゃれな作風が多く、この時代の作品が好きな方たくさんいらっしゃると思うので、第三回でお話します!

NETFLIX的な中毒性の高い脚本と演出

サスペンスの帝王と言われたアルフレッド・ヒッチコックはこの時代から頭角を表した映画監督です。
ヒッチコックが監督した『レベッカ』という映画、主人公不在で話が進んでいくんです。
レベッカって誰?どこにいるの?どんな人なの?と思いを巡らせながら観ることができるので、飽きずに最後まで観れてしまいます。

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ヒッチコックはサスペンスを得意としていたので、
続きがどうなるのか気になって仕方ない、そして意表をつく展開がどんどん繰り広げられていくような作風の監督です。

こういった続きが気になってどんどん先を見たくなる、やめられないように脚本を書く技術を”コンテニュアスリーディング”というらしいのですが、
Netflixのドラマ脚本家の人もこれを意識していると聞いたことがあります。

確かに、Netflixとかのドラマって一回見始めると止まらなくなりますよね。
気になって気になって仕方ないから早く家に帰りたい、と思わせるような中毒性が高い作品が多い気がします。

ちなみに私が広告映像を作らせて頂いたNetflixオリジナル作品の「全裸監督」ですが、制作段階の時に、同じくNetflixオリジナル作品「ナルコス」の脚本家を招いて、彼の指導を受けて実際の脚本を書き上げたって山田孝之さんが言ってました。
Netflix特有の、中毒性が高い脚本術っていうのがやっぱりあるんだろうなと思いました。

すこし話は脱線しますが、最近積ん読状態になっていた「ー依存症ビジネスの作られ方ー僕らはそれに抵抗できない」という本をようやく読み始めました。
私は仕事柄的にもたくさん映画やドラマを観ていますし、SNSやYouTubeも相当量を見ているので、最近はデジタルに触れない時間を意識的に作るようにもしています。

映像は中毒性が高い。
その中毒性が私は好きなのですが、なんでもほどほどにするのは大事かなと思います。

ちなみに『レベッカ』のような主人公不在の映画は現代にもあり、
2012年に公開された「桐島、部活やめるってよ」も、
桐島という本来主人公であるべきキーパーソンがいない状態から始まります。
気になった方は両方観て新旧を比較してみるのも面白いかもしれません。

巨匠が影響を受けた巨匠

Netflixの話が出たので、去年話題になった『ROMA』のお話をすこし。
『ROMA』はアルフォンソ・キュアロン監督が手がけたNetflixオリジナルの映画です。
前編白黒映画で、全体的に長回しで撮影されています。

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キュアロン自体はROMAと小津安二郎作品の関係について発言していないようですが、
以前に小津監督のことが好きと言っていたそうです。

小津監督は低い位置から撮影するロー・ポジと言われる構図を好んでいました。
地上から140~145cmと聞いているのですが、
調べたところどこにも数字は明記されていないので、
もしかしたら映像業界に浸透している通説的な数字かもしれません。
小津監督はロー・ポジで撮影するためにセットの地面の土を堀ったという話も聞いたことがあります。

そしてカメラを動かさず、定位置で固定し、長回しで撮影。
客観的に役者を見つめるような視点で撮影するのが特徴です。

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ROMAも、同じように長回しで撮影されています。
クローズアップに見えるシーンは、カメラが役者に寄っているのではなく、
役者がカメラに歩み寄っています。

カメラの動きが少ないことや、長回し撮影で編集点も少なくシンプルなので、
落ち着いて画面を見れて、会話や役者の動きに集中することが出来ます。

1937年に、ディズニー初、世界初の長編カラーアニメ『白雪姫』が制作されます。
見たことがある方も多いと思います。
不朽の名作ですよね。
この作品は世界恐慌の最中で、4年の歳月をかけて作られたそうです。

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ディズニーが出している『生命を吹き込む魔法』っという大型本、
手書きアニメの書き方などが細かく書かれていて、現在でもアニメーターのバイブル的な本になっています。

日本語版は高価なのですが、わたしも社会人になってから奮発して買いました。
年々価格が上がっている気がしますが、気のせいかな…?
めちゃくちゃ中身が濃いので、アニメーターを目指している方におすすめです。
ただ、本当に濃いので、わたしも完読出来ていません….。。

ディズニーは、バンビを制作するときに、
実際にスタジオに鹿を入れてアニメーターに写生させ続けた話や、
アリエル制作時にモデルを水槽に入れて、その動きを観察したとか、
色々と手間暇とお金をかけて作られているのがうかがえます。

みなさんはディズニーキャラクターの中で一番美人なキャラクターご存知ですか?

正解は白雪姫なんです。
なぜなら「この世で一番美しいのは白雪姫」だから。
確かに…。笑
ちょっとトンチぽいけど、そう言われるとそうですよね。笑

白雪姫のように、テンプレート的なお姫様像をDisneyが作り上げた反面で、
時代も移り変わり、新たなお姫様像が出てきたりもします。
2012年に公開された「白雪姫と鏡の女王」の白雪姫は、
戦うお姫様として描かれていました。
次はどんな女性像がムーブメントになるのでしょうか。

戦争の道具としての映画たち

1940年代にさしかかると、第二次世界大戦の暗雲が世界を覆います。
映画は娯楽からプロパガンダ(政治的宣伝)に使われるようになります。

そんな中、ディズニーは率先してプロパガンダ作品を作りました。
ミッキーではなくドナルドダックが主人公の『総統の顔』。
観てもらうと分かるのですが、コミカルなナチス風刺作品となっております。

ご存知の方も多いと思うのですがドナルドダックって水兵なんですよね。
だからこういったプロパガンダ作品に用いられたのだと思います。

2020年のアカデミー賞で脚色賞(原作がある作品は脚色賞、オリジナルアイデアを脚本化したものには脚本賞が与えられる)を受賞したジョジョ・ラビットの中にもヒトラーの写真をみたら「ハイルヒトラー」と挨拶しなければならないという描写が出てくるのですが、
ドナルドも「総統の顔」の中でなんども写真に向かって挨拶をしていて、つい笑ってしまいました。

2013年にバンクシー初となる映像作品『Rebel rocket attack』にもDisneyのダンボが登場しました。
90秒の短い作品なので、ぜひ見てみてください。
出てくるキャラクターがダンボという部分にも意味があるようなのですが、そこは憶測なので、気になった方は「バンクシー ダンボ 理由」などでぜひ調べてみてください!

また、日本でも人気のDCコミックス社のスーパーマンや、マーベル社のキャプテン・アメリカ。
こちらも戦時中、プロパガンダ作品として多く登場しました。

なのでアメコミの古い作品を見ると、敵がナチスや日本だったりします。
第二次世界大戦が終わったあとも、冷戦がアメリカとロシア(旧ソ連)で続いていたので、
ソ連軍のスパイと戦っていたりします。
そしてプロパガンダなので当たり前ですが、必ずスーパーヒーローが勝ちます。

アメリカの多くの映画にナチスやロシア(旧ソ連)などの敵が多いのは、
当時のアメコミを見て育った世代が大人になって、
子どものときに見た作品の影響を受けて無意識にそういったテーマを選んでいるのかな?と思ったりもしました。

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そして話題になったDCコミックスの『JOKER』。
今回のJOKERで描かれた敵は、バッドマンではなく、私たちが住むこの”大きな社会”でしたよね。
捉えようのない社会の歪みを描いた作品だったと思います。

アメコミが『敵を倒す』というわかりやすい内容ではなく、
現代に住む私たちに寄り添ったテーマで描かれたことが、
個人的にはとても感慨深かった一作でした。
「JOKER」はNetflixで配信しています。

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映画を見ないという選択肢

先日の日経で東宝の純利益が98%ダウン、松竹も8年ぶりの赤字という記事を見ました。
どの映画館もいま本当に厳しい状況ですね。

最近はショッキングなニュースも多いし、
個人的に自粛やニューノーマルという生活に疲れを感じはじめていたり。
私だけかな。みんなもそうかな?

なんだか映画も観る気にならないので、散歩したり、ぼーっとしたりする時間を意識的に作っています。

自粛期間中は一人で過ごす時間が多かったので、
いきなり外に出て、友達と会って遊ぶという気持ちにもならないのが本音なところだったりもします。

映画史を辿る連載ですが、
時には映画や映像から離れて自然に触れたり、身体を動かしたりする時間をもつのもおすすめです!笑

難しいこと考えず、ふにゃふにゃする時間も大事かなと!笑

今は世界的に停滞している時期だと思います。
「ピンチをチャンスに」っていう人も多いけど、すぐにそう思えなくても良いのかなと思っています。

少し気持ちに余裕が出てきたら、自分が一番好きだと思った映画を観てみると全然見え方違ってすごく良かったりも。

みなさんの一番好きな映画は何ですか?

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