「自分の意見を持つことが発信のスタート地点」NO YOUTH NO JAPAN・能條桃子に聞く違和感の大事さ |きっとずっといい未来 Vol.7

Text: Maki Kinoshita

Photography: Jeremy Benkemoun unless otherwise stated.

2021.7.20

Share
Tweet
キットずっといい未来
プラスチック問題への課題意識から、食品メーカー・ネスレが2022年までに全ての“キットカット”のパッケージをリサイクル・リユース可能な素材へと変えるサステナブルプロジェクト「#キットずっと」を始めた。紙パッケージの採用は小さなことかもしれないけれど、そこで生まれたアクションは社会に変化をもたらす大きな一歩。この動きに端を発し、現在#キットずっとプロジェクトはサステナビリティにまつわるさまざまなコンテンツを発信している。本連載「キットずっといい未来」(ネスレ&NEUT powered by REING)では、その活動の一環としてNEUT Magazineとコラボレーション。環境問題に対してアクションを起こす人々をインタビューしていく。
Website / Instagram / YouTube

 

Vol.7ではU-30世代を対象に政治や社会の情報をインフォグラフィックスで発信する「NO YOUTH NO JAPAN」の代表理事を務める能條桃子(のうじょう ももこ)にインタビュー。Instagramを中心にSNSでの発信を始めた2019年7月から2週間でフォロワーは1.5万人を超え、今ではそのフォロワーは6.4万人以上にのぼる。環境問題やジェンダー問題を始め個人と社会の繋がりをさまざまな側面で発信する彼女に、一人一人の違和感を社会に繋げる方法を聞いた。

width="100%"
能條桃子

-能條さんの活動について教えてください。

「参加型デモクラシーをカルチャーに」をビジョンに、NO YOUTH NO JAPANという若い世代の政治参加を促進する一般社団法人の代表理事を務めています。具体的にはInstagramの運営をメインに、地方選挙投票率を上げる活動や、若い世代が政治家に直接意見を伝える場づくりなどを行なっています。個人的にも気候変動に関心ある学生100人を集めた学生気候サミットを主催するなどいろいろなことをやっています。誰かが決めてくれた社会のシステムやルールに何も考えずに乗り続けていると、私たちはただつくられたものを使うだけの人になってしまいますよね。それだと私たちが生きやすい/生きたい社会ってつくれないと思う。日頃から考えたり調べたりすることも含めて、そんな社会のルールやシステムが作られていくなかで自分の声を上げて一緒に参加していく人を増やしたいという思いで活動しています。

-若い世代とは具体的にどの年齢層を指すのですか。

30歳以下の人です。この設定の背景には2つの問題意識があります。一つは29歳以下は頑張って声を届けないとそもそも私たちの世代が求めてることって伝わらないんじゃないかなっていうこと。私がこの活動を始めたのは2019年参議院選挙のときですが、日本のルールだと30歳以上しか参議院議員に立候補できないんですよね。30歳以上は自分で立候補して、そのまま国に意見を届けることができるし、そういう世代の方が誰かが直接言えるから意見が代替されることが多いのではないかと思います。

もう一つは29歳以下は自分が社会のどこにいるかが見えづらくなってしまうということ。正直どこまで世代で区切れるのかという話はありますが、今の日本だと結婚する人の平均年齢が大体30歳くらい。子どもを産んで育てることが社会との繋がりになる人が多いことが、30代以上の投票率が上がっていく理由だとも言われています。まだそういう社会との繋がりがなくて、自分が学校を卒業して実家を出てから10年くらいの間って、自分と社会との繋がりが職場だけになってしまう。でも今の20代前半は18歳選挙権が導入された年でもあり、投票率が20代後半よりも高いことも増えてきているんです。若い世代を中心に、政治参加の意識が変わってきているのではないかと感じます。

-活動を始めたきっかけはなんですか?

私はデンマークに留学しているときに自分の問題意識を受け入れてもらい、「いいじゃんそれやってみなよ」って言ってもらったのが大きかったです。参加型デモクラシーが根付いているデンマークと日本だと世論のあり方が全然違うんですよね。もともと若い世代の政治参加に関心があって留学したのですが、向こうの子は気候変動の活動をしてることが多くて。友達と一緒にデモを見に行ったり、スピーチを聞いたりすることで世界が何に取り組んでいるのかを知っていった。正直それまで気候変動のことをよく分かっていなかったけれど、世界で掲げるCO2の削減目標やそれに対する日本のことを国政レベルで調べてみると「日本人としてこれは誇りに持てないな」と感じることが多かった。私それまで、リサイクルとかちゃんとしているし日本ってエコな国って思ってたので、そうではない側面を知って気候変動にも問題意識を持つようになりました。

width=“100%"

ー日本政府の政策で気になったことについて少し詳しく教えていただけますか?

今世界では平均気温を産業革命前より1.5度抑える目標を掲げたパリ協定を結んでいます。少しずつ変わってきてはいますが、私が関心を持った2019年当時でいうと各国は2030年までに世界全体のCO2排出量を半分に減らし、2050年までにCO2排出量をゼロにする目標を掲げていた。私の友達もデンマーク政府は排出削減目標を60%、70%にする必要があると話しているのに、日本が掲げる2030年までの削減目標は26%だし、2050年までの排出目標も80%削減を掲げるか否かという感じで、その意識の差に驚かされました。日本のCO2排出量の約4割を占めているのが電力共有によるものですが、世界では脱原発の話がかなり行われているのに対して日本は未だに火力発電に頼っている。ヨーロッパでは石炭を使うものは基本的に使用せず、iPhoneをつくるときなどサプライチェーンのなかでも全て再生可能エネルギーにしようと話しているのに、日本は今でも石炭の使用をやめると表明していいない。いろいろと調べていくうちに生産から消費までいろいろなことが繋がっていると思ったし、このままだと国際協力/国際競争から置いていかれるのではないかと問題意識を持ちました。

ー日本とデンマークの政策の違いはなぜ生まれると思いますか?

先ほども述べた通り、世論の違いが大きいと思います。基本的に気候変動対策って長期的にはメリットが多くても、明日の暮らしのことを考えるとコストが高くなってしまう部分も大きい。安くできていたのは本当は使っちゃいけないものを使っていたからなのですが、今までのやり方を続けるほうが当面は楽なので多くの人が変化をためらってしまう。大きな変化には代償が必要なので、変化を生めるか否かはその代償をみんなが許すかどうかという世論次第。ヨーロッパの特にデンマークやドイツなんかは世論も若い子たちもその変化を求めていることが後押しになっていると思います。

ーデンマークでは若者はどのように政治へと参加しているのでしょうか?

デンマークの各政党は政党青年部という14歳から29歳くらいまでが政治活動するプラットホームのような組織を持ち、自治組織として動いています。そうすると学年に何人かはそういう活動をしている人がいることになり、選挙のときに選挙に詳しい人枠として呼ばれたりする。私が通っていた学校は政治に関わらず気候変動や難民政策に詳しい子なんかもいて、友達でもあるその子たちがすっごく楽しそうに話す姿を見ていると嫌でも面白く思えてくる。学校で政治家を呼んで討論会をやるときがあったのですが、普段お酒しか飲んでないような子が手をあげて政治家に鋭い質問をしてみんなから拍手されたりするんです。政治に参加する人とそうでない人が離れてるんじゃなくて、融合してるのがいいなと思いました。日本でも政治家の問題を言及する人はいるけれど、文句を言うだけだと「だから日本はダメだよね」と言ってしまうことと変わらない。それをやめたほうがいいと言ってるわけではなくて、何が問題なのかもう一度自分で考えて、文章にして送ってみたり直接誰かに言ってみる人が増えるといいなと思います。そういう人が増えてきたときにカルチャーが根付いてるって言えるのかな。

-発信で意識していることは何ですか?

シェアのしやすさを意識しています。まずは自分の違和感をなくさないことがすごく大事だと思っていて。絶対に発信しろとは言えないけれど、違和感は無視し続けると何も感じなくなって気付けば無関心の一部になってしまう。NO YOUTH NO JAPANの活動をやっていて驚くのは、Instagramで質問箱をやると何百件という回答が集まるんですよ。友達と政治や社会の話ができないから質問箱に書くという人がすごく多くて、社会や身の周りにあるモヤモヤを解消できない人の多さを感じます。そういう人が「こういう投稿は意識高いと思われるかもしれないけれど」って言いながらInstagramの投稿をシェアしてくれたりする。一つ一つの小さいけれど勇気を持ってやったことは絶対に周りの数人に影響を与えているし、社会を変えるには一人一人のシェアを積み重ねていくしかないと思います。

width=“100%"

ー「発信しないでいられることは特権」などと言われていますが、SNSでの発信は一人一人の義務だと思いますか?

やっぱりSNSだけで社会を変えるのは基本的には難しいと思っているからこそ、SNSで何かを絶対にやらなくてはいけないとかは考えていません。私はSNSは共感や仲間を集めるツールとして捉えていますが、その使い方は人それぞれ選べばいいと思います。

ー社会課題を議論するうえで、NEUTでも意見を押し付けないことを大切にしていますが、それは曖昧で言い切らないことを良しとする風潮にも繋がる危険性もある気がしています。そういった風潮に関してはどう感じていますか。

曖昧さを良しとする日本の風潮に関しては、一つの正解があり、それを間違えてはいけないというプレッシャーが強すぎることが背景にあるように感じます。私もそうですが、「他にも考え方があるかもしれない」と思うと断言しづらい。人の意見を聞けると言えば聞こえはいいかもしれないけど、差別とかも含めて本当にいけないことが広まりづらいということはあるのかもしれません。もう一つ、日本は「謝罪=負け」という意識があり、意見を変えることへの反応も厳しいと感じます。人の意見なんて1日2日じゃ変わらないけれど、問題をより深く理解しましたという表明はその次に繋がる気がするんですよね。「間違えました。今後やめます」っていうのをどこまで許容できるのかという部分は日本のカルチャーとしてはあまりないのかなと思ったりします。

-能條さんが考える、#キットずっといい未来とはどんな未来ですか?

私にとっては、一人一人が問題に気づき、それを周りに共有して、それが社会の問題としても共有されてちゃんと解決に向かう一連の動きがスムーズにいろんなところで起きる社会がいい未来かな。私もそうだけど、数年前に無自覚に行なっていたことが本当はよくなかったのかと毎日学ぶことばかり。最初に間違っちゃいけないことリストを作るのは無理があるから、一つ一つ「これはよくないよね」ってことに気付き、共有して、ちゃんと変わっていくのがいいですね。誰かがやってくれるとかお上の言うままにみたいな意識はそろそろ変わらないといけないし、徐々には変わってきてるとは思う。「世の中ってこういうもんだよね」って現状肯定で過ぎてしまうのはもったいなさすぎるから、「自分たちがやれば変えていけるよね」ってなればいいと思います。

ー#キットずっといい未来のために能條さんはどんなことを大切にしていますか?

やっぱり寛容であることは大事だと思います。でも問題に対して声を上げている人へ“寛容であれ(今のまま受け入れるべき)”と、トーンポリシングになってはいけないと思っていて、そのバランスが難しいですね。寛容でなくてはいけないけど、ダメなことにダメだと言うことは必要。今はダメなことにダメだと言う人がうるさい人として除け者にされてる感じもあるので、そういう発信も「それもそうだよね」と受け止めた後にみんなで寛容に受け入れるということができたらいいなと最近は考えています。

-最後に、私たちにもできる小さなアクションを教えてください。

自分の意見を持つことが発信のスタート地点だと思います。でも私も含め100%自分のオリジナルで言葉を生み出している人っていなくて。やっぱり何かしら見聞きしたもののコピーだったりとか、それを一部変えたりとか、誰かの意見を受け入れた先に自分はこうじゃないなと考えて自分の意見は作られていく。だからまだ自分の意見がないと感じる人は、いろんな人の意見を聞いて、これは自分となんか合ってる、これは違うっていうのを判断する機会を意識的に作っていけばいいと思います。そこから投票に行ったり署名に参加したり政治に目を向けていけばいい。あとは普段生活して行くなかでも電気を省エネに買えるとか肉を食べる量を減らしてみるとか消費者としてできることもいろいろありますよね。ちょっとずつだけど個人のやっていることは社会に関係しているから、「こうなったらいいな」と思える社会に近づくために応援できる方を選んでいければいいと思います。

width=“100%"

能條桃子

1998年生まれ。一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事。大学在学中に若者の投票率が80%を超えるデンマークへと留学し、2019年、政治の情報を分かりやすくまとめたInstagramメディア「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げる。帰国後、2020年にNO YOUTH NO JAPANを一般社団法人とする。現在、60名のメンバーとともに、ジェンダーと気候変動に関心を持ちながら、日本で若者の政治参加を当たり前のカルチャーとすべく活動中。▷Twitter

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village