今から約40年前、日本はベトナム戦争終結前後の迫害から逃れた1万人以上のインドシナ難民(ベトナム・ラオス・カンボジアからの難民の総称)を受け入れた。それに対し、去年の難民の受け入れ人数はたったの28人。(参照元:法務省)
時代とともに難民への対応が変化する日本だが、あなたは「難民」にどんなイメージを持っているだろうか?「帰る国がない」「お金がない」「権利がない」「家がない」などネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、ドイツでは難民受け入れにポジティブなイメージを持っているのだとか。
難民に寛容なドイツ。その理由とは?
戦時中、多くのユダヤ人を虐殺した暗い過去を持つドイツ。だがそんな暗い過去とは打って変わって、外国人の受け入れに積極的な国へと大変身を遂げた。2015年だけでドイツへの移民・難民の流入は100万人に達した。だが、なぜそこまで寛容な姿勢を貫くのだろうか。
認定NPO法人 難民支援協会によると、まず挙げられるは「将来の投資」として難民を迎え入れるというポジティブな発想があることだ。日本と同じく、少子高齢化や将来的な労働不足がドイツ国内でも問題となっており、その穴埋めとして移民や難民を受け入れている。また政治的迫害を受けた難民を保護する義務を規定した憲法の存在や、キリスト教の伝統と相まって、市民の受け入れに対する理解があることも、受け入れに寛容なファクターとなっているという。(参照元:認定NPO法人 難民支援協会)
そんな“投資”として迎え入れられた難民が開店し、街に賑わいをもたらせたお菓子屋さんがドイツの首都ベルリンに存在する。
ベルリンで夢を掴んだお菓子屋さん。
政府と反体制派との間で、長引く内戦の激戦地となったシリア中部、第3の都市・ホムスから遥々ドイツへ家族と共にやってきたシリア人難民のアルサッカ3兄弟のタメムさん、サリムさん、ラミさん。彼らが街を活性化させたお菓子屋を営んでいる。
シリアで40年もの間、お菓子屋さんを営んでいたという彼らは去年、「Konditorei Damaskus(コンディトライ ダマスカス)」というお菓子屋さんをベルリンのカフェやバーが軒を連ね、昼夜問わず賑やかな通りゾンネンアレーにオープンした。(※”Konditorei “とはドイツ語でケーキ屋の意、”Damaskus”はシリアの首都)看板商品は、シリアなどの国が位置する中東やその近辺で愛されるスイーツ「バクラバ」だ。
バクラバとは、薄いパイ生地の中にクルミ、アーモンド、ピスタチオなどのナッツ類を挟み、生地を重ねて焼き上げたもの。仕上げにたっぷりと濃いシロップをかける。最初はあまりの甘さに驚くかもしれないが、そのサクサクしっとりとした絶妙な食感と、香ばしいナッツの香りが癖になる美味しさだ。
バクラバを求め「難民スイーツ店」に行ってみた。
平日でもお客さんが絶え間なく来店し、店内ではドイツ語とアラビア語が飛び交い、活気が溢れているコンディトライ ダマスカス。
今回Be inspired!は、実際にお店に足を運び、アルサッカ3兄弟の長男のサリムさんの息子であり、3兄弟が留守の間の責任者のスライマンさんに「今後の展望」や「日本人に伝えたい難民のこと」を伺った。
ドイツ人のお客さんには「バクラバ」が、シリア人のお客さんにはチーズやナッツ、クリームを使った「クナーファ」というお菓子がよく売れると下調べしていた筆者だが、実際にどんな人がお店にお菓子を買いに来るのかまず聞いた。
ドイツ人、シリア人はもちろん、他の外国人のお客さんもよく来てくれる。もちろんアジア人も。アジアのどこの国かは見分けはつかないけど、日本人のお客さんも買いに来てくれてると思うよ!
筆者が店舗に行った時も、白人、アラブ人、アジア人…と人種問わず多くの人がやって来ており、彼らのお菓子が「シリアの食文化」の魅力をドイツに伝え、国と国との境をなくしたことがわかった。また、国籍など関係なく「美味しいものを食べると幸せになる」という事実を再確認できた瞬間でもあった。
すでに多くのメディアから取り上げられているコンディトライ ダマスカス。様々な人種のお客さんが来店するが、どんな人達が働いているのだろうか。
ここの従業員は、みんな難民としてドイツにやって来た人達なんだ。何ヶ月か前にベルリンに来た人も、1年以上暮らしている人もいる。みんなドイツ語の学校に行きながら、ここで仕事もして頑張っているよ
アルサッカ一家は、自分たちのビジネスの成功だけではなく、自分たちと同じ境遇である難民たちのキャリアの成功も望んでおり、その姿勢も現地で多くの人に受け入れてもらっている理由の一つかもしれない。そして、スライマンさんは続けて、今後の展望や挑戦したいことについてイキイキと語ってくれた。
今お店があるのはここだけなんだけど、将来的にはベルリンの別のエリアにもいくつかお店を出したい。もちろんハンブルグやミュンヘンといった、別の街にも出せたら良いな。実は今大きな工場をベルリンで建設予定で、着々と準備を進めているよ!
いずれは世界進出も?と聞くと、
もちろんだよ!日本にもいつか進出できたら良いね
とお茶目な一面も見せてくれた。
僕らも働いて、社会の役に立ちたいんだ
大量の難民を受け入れたドイツ。ベルリンにも多くの難民が暮らしている。同じ難民として、彼らをどう助けたいか。コンディトライ ダマスカスができることとは?
シリアには70人くらいの従業員が働いてた大きな工場があったんだ。今はベルリンで小さな工場で運営しているんだけど、後々大きな工場ができたら、そこで多くの難民を従業員として雇いたい。店舗も拡大して、仕事のない難民に働き口を与えたい。そこで僕らと同じように働いてもらうんだ。それがコンディトライ ダマスカスが、他の難民に対してできることなんじゃないかな
難民受け入れ数が極端に少ない日本。ドイツと比べると、その差は歴然だ。難民受け入れの強みとして、少子高齢化における労働力不足の問題を解決できるという見方がある。才能ある難民を受け入れ、労働力を補い、経済発展や年金財源の確保を目指す。さらに、難民を助けるという道義的責任を果たすことで、国家としての信用や発言力を高めるという政治的効果もあるという。(参照元:ZUU online)日本は今後どのような対策を取るべきなのか。最後にスライマンさんの意見を聞いてみた。
シリア出身の僕から言わせると、もちろん受け入れに寛容であってほしい。けど、これは簡単なことじゃないのは分かってる。支援のためにものすごいお金もかかる。でも難民として受け入れられた僕らは、ただ何もせず、そこに居座っていたいだけじゃない。僕らも働いて、社会の役に立ちたいんだ。難民の受け入れが、経済発展に繋がることを理解してほしい
自らの足で悲惨な状況から離れ、成功を掴んだアルサッカ一家。その姿は、世界中の難民に勇気を与えたのではないだろうか。弱い、貧しい、可哀想…と、何かとネガティブなイメージがつきまとう難民。だが彼らは私たちのイメージを覆し、見事ジャーマンドリームを掴んだのである。そう、難民でもチャンスがあれば夢を叶え、社会に貢献できることを教えてくれたのだ。
難民を受け入れた国の強みと弱み
難民を「投資」として考え、彼らにビジネスチャンスを与えたドイツ。事業を成功させ、見事街の発展を実現化させたアルサッカ一家。彼らは私たちに、難民受け入れの意義を体現してくれた。経済発展は難民受け入れの大きな強みであると言える。
だが、難民の受け入れが私たちを脅かしているのもまた事実である。2015年11月に起きたパリ同時多発テロで、実行犯7人のうち2人が難民を装い欧州に紛れ込んでいた事例(参照元:産経ニュース)や、2015年12月大晦日のケルンで起きた女性襲撃・窃盗事件では、容疑者の半数以上がアルジェリアやモロッコからの難民だった事例(参照元:Newsweek)もあり、テロや治安の悪化も懸念される。受け入れに寛容だったドイツでも、見直す動きが出てきている程だ。(参照元:朝日新聞)
しかし、テロや治安の問題といった受け入れの「陰の部分」だけを指摘するのではなく、難民としてビジネスを成功させたシリア人兄弟のように、街や経済の活性化、労働力不足の解消、国家の信用や発言力を高められるといった「光の部分」も忘れずに、日本も難民問題に対して前進できることを期待している。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。