「正しいことをしているという確信」。選択肢がありすぎる現代でも道に迷わない観察者、ヴェルマ・ロッサ|ノマド・ライター マキが届ける『ナイロビ、クリエイティブ起業家の肖像』 #001

Text: マキ

2018.2.19

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アフリカ・欧州中心に世界の都市を訪れ、オルタナティブな起業家のあり方や次世代のグローバル社会と向き合うヒントを探る、ノマド・ライター、マキです。

Maki & Mphoという会社を立ち上げ、南アフリカ人クリエイターとの協業でファッション・インテリア雑貨の開発と販売を行うブランド事業と、「アフリカの視点」を世界に届けるメディア・コンテンツ事業の展開を行っています。

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ナイロビのカフェ兼デザインショップWasp & Sproutにて。
Credit: M. Zentoh

この連載では、わたしが今最も注目しているケニア・ナイロビのクリエイティブ起業家たちとの対話を通じて、オルタナティブな生き方・働き方・価値観を紹介します。

ここで取り上げるクリエイティブ起業家とは、音楽、ファッション、アート、デザイン、料理などのカルチャー・コンテンツを創造し、発信する起業家のこと。ネット、スマホ、SNSによって、インフラが限られていたナイロビなどの場所でも、以前から存在していたクリエイターたちの活動がより活発化・顕在化し始めてる一方、日本での認知は限定的です。

日本や欧米とはまた別の視点から、他の人とは違う生き方を探したいという人々に向けて、なんらかの刺激や手がかりをお届けしたいと思います。

ヴェルマ・ロッサ(2ManySiblings)の肖像

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連載第1弾のゲストは、昨年末初来日し、Be inspired!でも取り上げたクリエイター・ユニット2ManySiblingsの一人、ヴェルマ・ロッサ。ヴェルマは、ナイロビを拠点にヴィジュアルコンテンツの制作・編集・配信や、地元のクリエイティブ起業家を集めたイベント開催などを手がけるマルチなクリエイター姉弟ユニット2ManySiblingsのクリエイティブ・ディレクションを担当。筆者とは、2015年にナイロビで開催されたイベントで出会って以来の関係で、昨年末には、弊社ブランドのビジュアルの制作を依頼したりと、協業も始めています。

2ManySiblingsは、2013年に、拠点であるナイロビのクリエイティブシーンやストリートスタイルなどの記録、Tumblrへの投稿を開始。米国VOGUEにも取り上げられるなど、今や欧米を中心に世界的に注目されています。ヴェルマ個人のInstagramのフォロワーは、約3万人。ナイロビ拠点のクリエイターとしては、無視できない存在になりました。

独自スタイルが注目されてモデルとして被写体になることも多いヴェルマですが、決してセレブリティになることはなく、謙虚に自分の人生に向き合っています。そして、未だマスメディアからは(多くの場合ネガティブに)断片的な情報しか発信されていないアフリカの、ポジティブなストーリーを発信したいと使命を持って活動しています。今回はそんなヴェルマのあり方と、その生き方に結びつくに至った考えやエピソードを通じて、ある一人の「クリエイティブ起業家の肖像」に迫りたいと思います。

「わたしはキュレーター、地球の花、観察者、そしてスポンジ!」。ヴェルマ・ロッサって何者?

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マキ:今回は、2ManySiblingsというクリエイターユニットとしてのSNS発信やイベント活動の話ではなくて、ヴェルマ・ロッサというあり方について、質問したいなと思って。

ヴェルマ:もちろん。なんでも聞いて!

マキ:実は、3年前にヴェルマとナイロビで会った時は、あまりお互いをよく知る機会もなかったし、ちょっとスノッブなクリエイターという印象だったんだよね(笑)。でも去年、東京に仕事で来てもらって、下北沢のAirbnbを仮事務所にして、約10日間、ほぼ四六時中一緒に過ごして、(一緒にクリエイター活動を行う弟の)オリバーとのやりとりを見たり、恋愛話をしたりするなかで、新しい側面が見えてきた。

それでInstagramやTumblrなどの、ビジュアルからだけでは見えてこない、ヴェルマ・ロッサの人となりと、今の活動に焦点を定めるまでに至った過程などについて、Be inspired!の読者にもっと共有したいと思って。今の時代、様々な生き方の選択肢があるからこそ、ヴェルマみたいに自分が正しいことをやっているのかどうか確信を持つことが難しかったり、悩んだりする人も多いと思う。そういった人たちに向けて、あえて、「女性」クリエイターとか、そういう切り口は抜きに、自然体で素直なヴェルマのあり方と、今のヴェルマを形成した要素みたいなものを探ってみたいんだよね。

ヴェルマ:自然体とか素直って、いつもベストなやり方だと思う。わたしは○○主義者(フェミニストとか)とかを標榜していないし、いつもみたいな会話ができれば。

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マキ:そうだね。最初に聞きたいのは、ずばり、ヴェルマ・ロッサは何者なんだろう。

ヴェルマ:わたしは、キュレーター。わたしは、地球の花!

マキ:(笑)ロッサ(ローズ)は、花の名前だしね。

ヴェルマ:ミドルネームはローズだけど、「地球の花」というのは、もうちょっと比喩的な意味。つまり、成長して、素晴らしいものとして開花するという自分自身の進化の過程かな。

マキ:なるほどね。キュレーターとしてのヴェルマがどう形成されたのか、とても興味があるんだけど、生い立ちを教えて。

ヴェルマ:いろいろな事に対して、関心や意識が高い子どもだったかな。成長の過程における自分の経験に影響されたと思う。夢のように素敵な生い立ちだった。ヴィンテージの電化製品のコレクターでもあった叔父がいて、いつも母親がホームメイドジャムを作ったり、ベーキングしたりして、父親は60年代のアフリカン・ジャズを毎日かけたりしてた。家の前には、線路があって、コーン畑が一面に広がっていた…。10代は割と普通だったかな。髪を剃りあげて青に染めたりはしたけど!

マキ:素敵すぎる生い立ちだね。今のキュレーターの活動に結びつくような要素もありそう。

ヴェルマ:わたしは、観察者であり、スポンジなの。自分自身に、ある種の感情をもたらすようなこと、人々、時間や空間を捉えるのが好き。自分の経験や学びの進むべき方向性をより多く得られたり、オルタナティブなあり方を吸収できる機会を探求し続けているだけ。視覚的なものに対しての感覚が強くて、写真も独学で習得した感じ。

「ナイロビの断片をシェアしたいと思った」。アフリカにおけるクリエイティブ先進国、南アフリカからから自国にクリエイティブ活動を持ち込んだパイオニア

マキ:2ManySiblingsの活動を表面的に見ると、SNS発信やイベントのプロデュースなど、アウトプットがメインという感じもするけれど、ヴェルマの活動の本質は、周囲を観察し、学ぶというインプットなのかもしれないね。いまの活動(ビジュアル・ストーリー・テリング)を始めるきっかけとかってあったのかな。

ヴェルマ:7年間過ごした南アフリカでの生活が直接のきっかけかな。時間もあって、何か刺激が必要だった。アーティスティック表現を求めてた。ヨハネスブルグでの、最高にクリエイティブな表現者たちとの出会いも大きかった。

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マキ:たとえばどんな人たち?

ヴェルマ:ファッションデザイナーのInga Madyibi(インガ・マディビ)、スタイリストであり、フルーツケーキ・ヴィンテージという古着屋のオーナーでもあるSithembiso Mngadi(セムビソ・ムンガディ)、写真家のAnthony Bila(アンソニー・ビラ)、歌手のManthe Ribane(マンテ・リバニ)とか…。

マキ:わたしも知らなかった人たちばかりだけど、ちょっとGoogleしただけでもそれぞれの活動に関する記事などがいろいろ出てくるね。すでにアクティブだったヨハネスブルグのクリエイティブシーンをナイロビに持ち込んだって感じかな。

ヴェルマ:(2ManySiblingsが活動を始めた2013年の)当時、まだ世の中になかったから、わたし自身の世界であるナイロビの断片をシェアしたいと思った。アフリカの中でのクリエイティブな国というと、だいたい南アフリカかナイジェリアに関連するもので、東アフリカにはまだあまりなかった。だから始めようと思ったのが、約4年前で、今に至るというわけ。

「SNSとはラブ・ヘイトの関係」。ヴェルマ・デジタル・現実世界との絶妙な三角関係

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マキ:前回、東京で対談イベントを開催した際に言っていたけど、2013年から今に至る間に、TumblrやInstagramというツールが、一気に普及したのはヴェルマの成功につながっているよね。インターネットやスマホ、SNSで個人が発信するのが簡単になって、特に画像は言語の壁を超えることができるからメリットも大きいけど、デジタルツールが「クリエイティビティ」そのものや、自分の生き方にどう影響していると思う?

ヴェルマ:奇妙な感じ。作品のライフスパンが非常に短くて、人々は常に次なる何かを期待している。つまり、すぐに忘れて次のものに飛びつく。実際に、生のアート作品を見たりするのに比べて、芸術的価値も下がる。ネット上に存在するものとしては、永久に存在するわけだけど、注目されるのは一瞬のこと。

ものによって、例えばGURLS TALK(英国モデルのアドワ・アボアが立ち上げた、女の子が安心して自分たちの経験を共有するためのプラットフォーム)とかは、メンタルヘルスとか、セクシャリティ、アイデンティティなどのトピックについて有意義なディスカッションがされたりしているけどね。みんなすごく本音を言っている感じはある。

今は、どうやってもっとIRL(In Real Life=現実の世界)での存在価値を高められるかを考えているところ。少なくとも1週間に2回とかは、スマホから離れてデトックスしたりもする。SNSによって、自分自身が認知されたり、活動の幅が広がったり、評価されたりして、海外での仕事が増えたりしている一方、不健康な側面もある。ラブ・ヘイトの関係だね。

マキ:ポスト・インスタグラム時代もいずれやってくるだろうし。

ヴェルマ:SNS以前の時代のほうが、自己表現の方法は優れたものがあったと思う。芸術家たちは、より現実世界と向き合っていた。バスキアとかピカソとか、ある意味、これまで以上に今っぽさがある。

マキ:素晴らしい芸術家たちは、しばしばその評価が付いてくるのは死後という問題はあるけどね。そういう意味では、今の時代は、クリエイターたちが、即時にキャピタライズできる可能性があるという意味では、テクノロジー活用のメリットがあるようにも思う。

「常に次のプラットフォームを模索し続けている」。変化する世界において、自分も進化し、よりよい世界をつくる

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マキ:ヴェルマは、自分が被写体になることも多いけど、それについてはどう思う?モデルという意識はないと思うけど、実際はその「見た目」が注目されることも多いよね。それって嬉しいこと?それとも本質はそこじゃないのかな。

ヴェルマ:(爆笑)たぶん自分自身が、自分のミューズなのかも…。

マキ:その発言は大胆だね。女性としてのコンプレックスはある?

ヴェルマ:常に!!!っていうかコンプレックスがない人なんているのかな…。メディアや広告によって常に“パーフェクト・ボディ”のビジュアルイメージに晒されているからね、今の時代。自分の体について意識しなくていいようになりたいなら鏡のない洞窟の中に篭るしかないよね!

マキ:(笑)話題を変えます。世界のコンテクストにおいて、アフリカ人が発信する「アフリカ」はまだまだ少ない。ビジュアル表現も、常に激しい競争の中にいると思う。アフリカやアフリカ人、もしくはケニア人はこれからどのようにプレゼンスを発揮していくことができると思う?よりよい発信のあり方ってなんだろう。

ヴェルマ:わたしたちは、すでによくやれていると自負してる。つまり、ストーリーテリングに関して、強さ、色使い、大胆さといったような独自のスタイルがある。残念ながら、国際的な評価がまだ追いついていないというのが現状。アフリカからいいものが出てくるはずがないといったような、マインドだから。(欧米のメディアを通じた)アフリカに関する情報は、基本悪いニュース。良いニュースより悪いニュースの方が売れるから。

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マキ:悪いニュースのほうが、ニュースになりやすいというは一般的にも言えるけどね。

ヴェルマ:ただ、CNNがやっているAfrican Voicesというセグメント(旅、ファッション、アート、音楽、テクノロジー、建築など様々な領域において、独自のサブカルチャーを創出している、今最も輝くアフリカ大陸の逸材を紹介するコーナー)は、そういったマインドセットの変革に向けてのいい動きだと思う。

マキ:ヴェルマたちのような個々のクリエイターたちが活発化すると同時に、影響力のあるCNNのようなプラットフォームが、少しずつ多様化していくのはいい動きだね。

ヴェルマ:あと教育カリキュラムも重要。現状、欧米教育においてアフリカ大陸に関する情報が組み込まれていない。きちんとした情報と仕組みに基づいて教育されない限り、人々の意識は変わらない。未だに、アフリカ大陸が一つの国だと思っているような人もいるというのは、信じ難い!

マキ:そういった現状に対する、ある種の反発のようなものも、ヴェルマのクリエイティブな活動のエネルギーになっているのかもね。

ヴェルマは、自分のやりたいことをできている(もしくは見つけた)という感覚があると思うけど、世の中で自分のやりたいことをそこまで明確にもって、かつ突き進めていける人たちばかりではないよね。自分のやりたいことはどう明確になったと思う?

ヴェルマ:うーん…。「天使の啓示」みたいな一つの出来事はないかな。自分が発信する画像に対してポジティブな反応をもらうことは、自分が正しいことをしていると証明される感覚。でも自分自身は、常に変化し続けていて、進化し続けている。今何かパッションを持ってやっていることが、必ずしも来週、来年に同じかどうかわからない。常に次のプラットフォームを模索し続けている。世界に対して、より影響力があって、かつ自分自身もより満足できるようなプラットフォームをね。

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ヴェルマ・ロッサは、見えない何かを探し求めるような生き方ではなく、すでにそこに存在する環境や人を観察し、学び続けることで、自分自身を常に進化させるという生き方を貫いているように感じます。

働き方やライフスタイルの選択肢が多様化する現代において、ある時点での自分の選択にとらわれることなく変化し続けることが、迷って停滞することなく、人生を進み続ける方法なのかもしれません。

Velma Rossa(ヴェルマ・ロッサ)

Instagram

ケニア・ナイロビを中心に活動する、クリエイティブ・アートユニット、2ManySiblings(トゥー・メニー・シブリングス)の一人で主にクリエイティブ・ディレクションを担当。弟のオリヴァーと共に、InstagramやTumblrを通じて、オルタナティブなファッションやビジュアル・ストーリーを発信するかたわら、若手クリエイターたちをキュレーションしたファッション・音楽・カルチャーのイベント、Thrift Social(スリフト・ソーシャル)の開催や、ケニア国内外クリエイター、UKやオランダのミュージアムなどとのコラボレーションも行う。

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マキ

ノマド・ライター

Maki & Mpho LLC代表。同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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