出版・映像を中心としたコンテンツ制作・販売を行う「カドカワ」が運営するインターネットと通信制高校の制度を利用した「N高校」の代々木キャンパスで6月27日、「ネットいじめ」をテーマとする特別授業が行われた。Netflixが制作した話題のドラマ『13の理由』を教材としたり、オンラインのディスカッションボード(チャット)を用いたり、全国7キャンパスにも中継するなど、実に“ネットの高校”らしい手法がとられた。ネットリテラシーの授業を必修とする同校の新たな試みから、何が学べるのだろう。
SNS世代の高校生が抱える悩み
N高校の全国8キャンパスに所属する生徒のうち約250名が参加した特別授業「Netflixオリジナルシリーズ『13の理由』で考えるSNS世代の高校生が抱える悩み 〜その時あなたならどうする?〜」。パネリストとして登壇したのは、約20年前に凶悪事件の加害者だとデマを流されて中傷被害を受け続けている芸人・タレントのスマイリーキクチ氏と、いじめを経験した教育YouTuberの葉一氏。
授業ではアメリカで制作されたいじめやスクールカースト(学校内の序列)、同調圧力、自殺などがテーマのドラマ『13の理由』からいくつかのシーンを流し、日本での事情やアドバイスをパネリストが話すだけでなく、生徒からの質問やコメントに答えるという形式だった。扱われた内容は大きくわけて、①写真によるネットいじめ②集団における同調圧力によるいじめ③SOSの出し方・受け止め方の3つ。
「①写真によるネットいじめ」で最も懸念されるのは、たとえアップロードした写真や動画を削除しても、ネット上に残ってしまうことだとパネリストの二人は指摘する。それは仲間外れにされるのを恐れて悪口を書き込んでしまうなどの「②集団における同調圧力によるいじめ」の問題と関連しており、書き込みをした記録が残ることから自分が書いたことに対して負う責任は大きい。
「③SOSの出し方・受け止め方」については葉一氏が、「この人になら少し話してみてもいいかも」と思う人がいたらネット上の人であっても踏み込んで話してみたらいいのではないかと、いじめられていたことを誰にも相談できなかった過去を振り返りながら答えた。またスマイリーキクチ氏は解決策の選択肢は1つだけではなく「助けを求めてきた人が選べるように3つくらい提案するのがいいのではないか」と相手の立場に立つことの重要性を強調していた。
チャットを利用した、リアルなネット環境での授業
同授業の大きな特徴は、日本ではあまり使用されないオンラインのディスカッションボード(チャット)を利用し、生徒が匿名で質問や思ったことを随時書き込めるようにしていたところにある。なかには数こそ少ないもの、実際のチャットにあるような、特に授業とは関係のない書き込みもあり、まさに「ネットのリアル」そのもの。
チャットでなら大勢の前では発言しにくい内容でも共有でき、センシティブな内容を扱った今回の授業には適していたと考えていいだろう。支持を意味する「いいね」が生徒からつくほど投稿が上に表示されるシステムで、「自分の書いた素直な意見が評価されたこと」に喜びを感じた生徒もいた。
しかしそのような肯定的な面があるものの、時間内に取り上げられる質問や意見の数が限られてしまうという点や相互のコミュニケーションが取りにくいという点では、面と向かったグループディスカッションのようにはいかない。それを受けて答えられなかった質問や意見に対しては、事後に生徒へまとめてフィードバックを送るなどの対応がみられた。
生徒たちが現代社会を生きるために必要な授業とは
いじめ問題が身近な学生時代に、客観的にいじめの構造や現実的な対策について学べる機会は、皮肉なことに多いとはいえないだろう。生徒の反応を見ていると、「ネットいじめ問題」という自分たちにとって身近で避けては通れないようなトピックであるからこそ、興味を持ったようだった。今回のような、彼らにとって重要なテーマを、親しみやすいドラマや使い慣れたコミュニケーションツールに近いものを用いて考える授業に、今後より注目が集まっていくはずだ。「こんな授業が絶対的にいい」「誰もが楽しく学べる授業はこれだ」と万人に合う答えを出すのは難しいが、いろんな方式の授業があっていいのではないか。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。