「肉や魚が食べられる未来を、子どもたちに」昆虫テック企業MUSCAがハエを活用して食料問題に取り組む理由[NEUT RADIO vol.8]

Text: Natsu Shirotori

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2019.9.4

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8月12日、NEUTのラジオ番組「渋谷のニュートラル」の第8回目が放送されました。
メインパーソナリティを務めるのは、以前取材したヒップホップグループDos Monosのメンバーであり広告プランナーとしても活躍中のTAITAN MANとNEUT Magazine編集長のJUN。

渋谷のニュートラル

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「渋谷のニュートラル」とは、渋谷を舞台に地域に密着した情報から経済や文化までを扱うラジオ局「渋谷のラジオ」で始まったNEUTのラジオ番組。生放送は公式アプリか、FMラジオ(詳細ページ)から、放送後にはnoteにて音声アーカイブが聞けます。この番組のキーワードは『◯◯をニュートする』。「ニュートする=ニュートラルな視点から物事を捉えること」と独自に定義し、毎回日本で「出る杭」とされている人や、エクストリーム・過激だとされているトピックをあげて、ゲストと共にニュートラルに考えていきます。

▶️音声アーカイブはこちら

第8回目の放送となる今回は「食料問題」をテーマにお送りしました。食料問題とひと口に言っても、飢餓に苦しむ人々がいる反面でフードロスが問題となっていること、地球温暖化により農作物の生産が不安定になりつつあることなどさまざまな面がありますが、今回注目したのは人口の増加に伴って予測される食料不足の問題です。FAO(国連食糧農業機関)は2050年までに世界の人口は100億人近くに達するとの予測に則り、これに伴う農業生産需要の増加に対し、すでに枯渇しつつある森林の状況や地球温暖化などの影響から食料不足が起こる可能性を指摘しています。

そんなテーマに合わせ今回ゲストとして招いたのは、昆虫テック会社MUSCA(ムスカ)のCEOを務める流郷綾乃(りゅうごう あやの)さん。ハエの力を活用して、食品加工の過程などで排出される野菜や畜産の有機廃棄物から新たに食物を生産するための肥料や飼料を作り出すMUSCAの事業を中心とし、日本と世界の食料問題の現状、そして今後についてお話を伺いました。

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ハエが食料問題を救う?

「“昆虫テック”という言葉にあまり馴染みがない」と話すTAITAN MANとJUNに対して、流郷さんによるハエを使ったMUSCAの事業の紹介からトークは始まった。MUSCAは、イエバエと呼ばれる世界中で多く見られ、人家などに発生する動物や植物にとって有害ではないハエの一種を活用し、肥料や飼料を作るシステムを開発した会社だ。

本来はゴミとされてしまうような有機廃棄物、特に家畜の排泄物がハエの幼虫が持つ消化酵素の働きにより、1週間で肥料へと分解され、さらにその幼虫そのものも飼料となる。つまりゴミから資源が2つ生み出されるのだ。流郷さんによると、虫を使って有機廃棄物を処理する技術は、かつてソ連が宇宙開発事業の中で宇宙船内で出た廃棄物を循環させるために開発したものだという。

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魚も豚も鶏も昆虫もおいしく食べられる未来を目指して

選択できる未来を、子どもたちに残しておくべきなんじゃないか。

流郷さんからの説明に対し「ハエや昆虫で食料問題を解決するって聞くと、『え、ハエ食うの?』って発想になる人もいそう」というTAITAN MANに答え、流郷さんは上のように語り出した。食料危機の根幹には、家畜や魚を育てるための飼料の不足の問題がある。MUSCAの開発したシステムはこの飼料不足を補うことによって肉や魚が食べられないという状態の食料危機の回避を目指す。

最近では昆虫食や大豆や野菜から作られた代替肉と呼ばれる食品も導入され始めている。しかし、MUSCAが目指すのは魚、豚、鶏などが今まで通りに食べられ、かつ昆虫食もおいしいものとして選択できる未来だと言う。これに対して、TAITAN MANは「単に代替肉に完全移行するのではなく、今、僕らが楽しんでいる食材のチョイスを未来に残せる努力をする方が理にかなっている」とまとめた。

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日本は本当に食糧危機になるの?

日本人は食料危機と聞いても、言葉以上のリアルを感じにくいと思う。

TAITAN MANは続けてこう話し始め、日本での食料危機問題について掘り下げた。冒頭にも記述した通り、2050年には世界の人口は100億人近くまで増加することが予測されているが、日本では人口は減少している。総務省の統計によると2018年時点で、日本の総人口が8年連続で減少しているという。メディアでも盛んに少子高齢化が報道され、このような現状のなかで人口増加による食料危機を現実的に考えられない人も多いのではないだろうか。

これを受け、流郷さんは「まず、今お皿に乗ってるものがどこからきてるか皆さん知っていますか?例えば1kgの豚のお肉を育てるのに、6kgものエサが必要だったりするんですよね」と話し出した。そして豚肉自体も、さらにその飼料の多くを海外からの輸入に頼っているという日本の現状から、海外での人口増加によって食料需要が高まったときに、日本で急激な食料の高騰化が起こる、あるいは十分な食料が供給されない状態に陥る可能性を説明した。近年、フードロスが問題視されるほど食料が溢れる日本だが、その食べ物がどこから来たものなのか、今一度意識してみる必要がありそうだ。

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世界の昆虫産業事情

2019年を昆虫産業元年にしたい。

廃棄物や天然資源を活用してエネルギーや製品の開発を行うバイオマス産業、飼料業界、肥料業界と3つの業界にまたがるMUSCAの事業だが、流郷さんはMUSCAを通してこの3つの業界をつなぐ昆虫産業を確立したいと語る。日本で虫を活用して飼料や肥料を生み出す事業を展開しているのはMUSCAのみだが、海外ではすでに大きな昆虫テック企業も存在し、その数も増加しつつあるという。

例えば、アメリカではブラックソルジャーフライと呼ばれるハエを活用したビジネスを展開する会社があり、飼料や肥料の生産に成功している。他には南アフリカ、オランダなどの農業大国でも大きな昆虫テック会社が存在しているという。流郷さんは「一つの会社が大きな力を持ち、ゴミも飼料も肥料もコントロールするようになることで、世界の食料流通をコントロールできるようになってしまうのは怖い」と言い、食料という人間の生命に関わる事業だからこそ、数社が競合して産業となっていくことが必要だと語った。まだまだ日本では規模が大きい業界とは言えないが、日本も無関係ではいられない食料問題に関わる産業として、今後MUSCAを中心により多くの企業を巻き込んで広がっていくことに注目だ。

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ハエって結構やるじゃん。

今回の放送で流郷さんが今日からできることとしてあげてくれたのは、一般的には「汚い」「邪魔」といったネガティブな印象を持たれがちなハエのイメージを考え直してみることだ。ハエは人間が気付くよりも前からバイオマスリサイクルの一端を担ってきたのだから、「ハエって結構やるじゃん」って今日からリスナーの方が思ってくれたらいいなと最後に話してくれた。

ハエだけにとどまらず他の虫や植物なども、私たちがあまり意識していないところで地球環境の循環に役立つ働きをしている場合も少なくない。時には人間の都合だけではなく、一度立ち止まって他の生き物について別の角度から考えてみてはいかがだろうか。

以上、第8回目の放送をダイジェストでお送りしました。
次回は9月9日16:10から放送の予定です。

流郷綾乃(りゅうごう あやの)

1990年生まれ。株式会社ムスカ代表取締役CEO。出産・結婚を経て21歳の時に営業代理店に就職。その後、様々な企業で広報を担当し、2018年にMUSCAのCEOに就任。

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TAITAN MAN

1993年生まれ。3人組ヒップホップグループDos Monosのメンバーとして活動中。2017年には韓国・ソウルでのライブやSUMMER SONIC2017への出演を果たした。2018年には日本人として初めてアメリカ・LAのレーベル「Deathbomb Arc」との契約を結び、初の音源「Clean Ya Nerves」をリリースした。2019年3月、1st アルバム「Dos City」をリリース。

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JUN

1992年生まれ。成蹊大学卒業後、社会派ウェブマガジン『Be inspired!』の編集長を経て、現在は2018年10月に『Be inspired!』からリニューアル創刊した『NEUT Magazine(ニュートマガジン)』で創刊編集長を務める。「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトとする同誌で、消費の仕方や働き方、ジェンダー・セクシュアリティ・人種などのアイデンティティのあり方、環境問題などについて発信している。

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