媒体名の変更やウェブサイトのリニューアルを控えたBe inspired!が送るシリーズイベント「NEUtalk(ニュートーク)」。業種、年齢、性別、人種といったバックグラウンドとなるすべての壁を取っ払い、いままで交わらなかった人を招き、そこで「新しい会話(ニュートーク)」を生み出そうという試みだ。
その記念すべき第1回目が6月30日(めちゃくちゃ余談なのだが、この日は偶然にも“一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)”といって、何かを始めるにはかなり縁起のいい日ということをあとから知る編集部一同でした)、国連大学で毎週末開催されている「Farmer’s Market」の主な活動場所である、「Farmer’s Market Community Lounge」で開催された。
トークテーマは、「いま話したい、食とメディアのこと」。ゲストは「東京生まれ、無農薬育ちの野菜」を栽培する「Ome farm(青梅ファーム)」代表の太田太(おおた ふとし)さんと、「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトとした「HIGH(er) magazine(ハイアーマガジン)」編集長のharu.さん。
当日は夏の到来を感じさせる晴天のなか、約60人が来場。トークイベント終了後には、青梅ファームで採れた野菜を使った軽食と、同じくハチミツを使ったドリンクを片手に談笑タイムも設けた。
ゲストの2人はもちろん、私たち編集部も、来場者の方々と楽しくニュートークさせていただいた。
さて今回は、「日本は果たして“先進国”なのか?」「日本のメディアは腐ってないか?」「実は最近“種”に関する大きな決定があったけど知ってます?」「“うんこ”って本当に肥料になるの?」などなど、タブーなしで切り込んだゲスト2人のニュートークの内容を、改めて本稿でお伝えしたい。
「世界に誇れない日本の〇〇」。圧倒的に遅れている“価値観”の話
会場の皆さん、東京、あるいは日本のことを先進的だと思いますか?
トークの冒頭、「なぜ東京で野菜を育てようと思ったんですか?」という編集部の質問に対して、太田さんから返ってきたのがこの問いかけだった。これに手を挙げ応えたのは、来場者の半数ほど。答えはそれぞれにあるとして、客観的な数字で見てみると、現在GDP(国内総生産)で3位の日本が、“経済”先進国であることは間違いない。しかし、彼はこう続けた。
テクノロジーなどの分野については進んでいますよね。でも、食や政治や性についての価値観に関して、日本は圧倒的に遅れてると僕は思うんです。言っちゃえば老害が多くて、総じてマインドが若くない。だから若者が活躍しづらい。日本終わってんなって、そう思ってます
のっけから全開で放たれたこの言葉に会場は…意外に平静な雰囲気。来場者の年齢層が比較的若いことや、誰もが少なからず感じていたことなのだろうか。ウンウンと首を振る人もちらほら。司会に促されてharu.さんも応える。
私が普段からSNSとかで言ってるフェミニズムとか政治とかのことって、海外だと当たり前だったりするんです。でも日本じゃそういうことを言ってる人が少ないから、私みたいな人が取り上げられてる。私みたいな人が普通にいる環境になって、私が取り上げられなくなればいいなと思う
「LGBTQ」や「フェミニズム(性差の区別なくみんなが生きて生きやすい社会を目指すという考え方)」など、ここ数年でようやく認知され始めたセクシュアリティや価値観については、まだまだ一般化されているとは言えない現状にある日本。
“圧倒的に遅れている価値観”をどう前進させていくか。個人的には是非を含めて、一人ひとりが自分の意見を持ち、分かり合うことを否定しなければ、少しずつ日本にとっての当たり前が形作られていくだろうと思う。
この長くなるであろう過程において、少なくない影響を与えるはずの(マス)メディアについて話は移っていく。きっかけは、haru.さんが編集長を務めるハイアーマガジンに話が及んだ際に、「日本のマスメディアって報道の方向性がずれてるよね。相撲やレスリング協会の不祥事、タレントのゴシップとか、そんなのばっかり」と言った太田さんの言葉だった。
「日本のメディアは腐ってる」
本当にそう、太田さんが言うとおりで。例えば性的暴行を訴えた伊藤詩織さんの件。BBCがドキュメンタリーを作っているのに、日本のマスメディアはクソみたいな記事を作ってるだけ。それも叩く記事ばっかりで、しかも被害者が叩かれてるなんて腐ってる
「今の日本のマスメディアは私たちをなめてる」で一世を風靡したハイアーマガジン編集長haru.から、今回は「日本のマスメディアは腐ってる」のお言葉をいただきました。
確かに、日本のマスメディアに対する不信感は立場を問わず増しつつあるようで、たびたび報道の自由に関して喧々諤々な議論が巻き起こっては止まず、数ヶ月前には放送法の改正が議題に挙がることもあった。haru.さんのこのストレートさに太田さんは、「『腐ってる』。いいねえ」と笑いながら、過去ニューヨークに6年、その後世界各地を放浪していた経験を元に、各国のメディアの報道性について話し始める。
どの国も政治の議論が盛んなんだよね。タレントのゴシップニュースなんて専門チャンネルでしかやってないし。まあマスメディアはどうしてもスポンサーに配慮しないといけないから圧力がかかるんだけど
そう、メディアも資本主義の輪からは抜けられない定めにある。その規模が大きければ大きいほど、スポンサーや広告主の意向には逆らい辛いという本音は、どの関係者も認めざるをえないだろう。だからこそ、そうしたしがらみとは遠いところにハイアーマガジンのような独立したメディアの存在感はある。それに、自分たちの作りたいものを作り発信する、こうした手作りなメディアへの共感は少しずつ広がっているらしい。
ハイアーマガジンをきっかけに、「私たちもこういうのを作ってみたい」っていう思いが連鎖してるみたいで、実際にマガジンを作り始めたって人が増えてる。これは主に同世代の話なんだけど、紙で表現するっていう感覚が広がってるのかな
ウェブ全盛の今にあって、「あえて紙」という選択をするのはなぜなのか。SNS疲れ? 氾濫するウェブからの情報への不審? それとも単純にモノを作ってみたいという衝動?
まあたぶん明確な答えはなくて、複合的な要素が絡んでいるのだろうが、haru.さんの「インディペンデントマガジンって呼ばれるメディアのいいところは、自分たちの意見が散乱しないこと。場がウェブじゃないから、文言を切り貼りされて、本来の意図とは違う解釈で意見が拡散されない」という言葉は一つの解になりそうだ。
Image via HIGH(er) magazine
ウェブ上に放られた言葉が原型を留めるのは、実際のところ難しい。ゆえに、経過とともに発信者が誰なのかが不明瞭になることが珍しくない。デジタルネイティブな人ほど、ウェブ上の意図しない拡散を嫌う傾向がある。そんな仮説は立てられそうだ。
「大きな出版社が作ってる雑誌って“どんな女子がモテる”とかそんなのばかり。私はもっと個人的なストーリーやコミュニティを大切にしたい」というharu.さんが作るハイアーマガジン。来春に最新号が出る予定らしい。要チェックです。
「だって、うんこ撒いておいしい野菜ができると思いますか?」
「じゃあそろそろ農の話に移りましょう。太田さんは有機農法や種へのこだわりが強いですよね」という司会の問いかけに太田さんは、「農法にはそれぞれの思想があるからとやかく言わないけれど、僕はとにかくとびきり美味しいものを食べてほしい。だからうちの農場は自分たち独自の有機農法です。あとフンは肥料に使わない」と返答。
「なぜ?」と続けて問う編集部に太田さんは、「畑に『肥料になるからいいのよね』なんて言って、散歩中に犬のうんこを捨てていくバカに聞かせたいんだけど」と前置きしこう続けた。
うんこの中には消化されてないものもあるんですよ。たとえばそれが牛のフンであったら(集団食中毒の原因の一つである)大腸菌。しかも牧草とか雑草の種だとか消化されないまま撒いたら土からまた生えてくるでしょう。それが嫌だし、子どもの頃から“果たしてうんこ撒いて野菜はウマくなるのか?”と思っていて、農業を始める前に徹底的に聞いてまわったの。“なんでうんこ撒くの?”って。でもだいたいロジカルな理由じゃない思考停止な答えばっかり。だから僕たちは使わない
そんな理由も含めて、丁寧に醸造された堆肥を使用し作られた青梅ファームの野菜。食べてみると、苦味や辛味の中から甘味が感じられて、しかもそれぞれが要素がほかを邪魔していない絶妙さ…。
当日はアップルビネガーとオリーブオイルを加えてあったようだが、なんの味付けがなくても箸が進む味わいで、とにかくおいしかった!(いきなり語彙力皆無で申し訳ない)
さて、農法の話に続いて種の話題に及ぶと、太田さんの顔にすっと真剣味が。なにやら今国会で決定がなされたという事項が、農関係者を中心に絶えない議論を巻き起こしているという。
僕たちは昔から日本にある在来種や固定種と呼ばれる種を使っているんですが、その種に関する種子法(主要農作物種子法)*1という法律が最近廃止されたんです。これで資金力のある一部の企業が、種の管理を独占してしまうんじゃないかと懸念されています。ほかにも今国会で農業に関わる法案が10個ぐらい通っているんですけど、違うニュースで覆いかぶされて報道されてないから皆さん多分知りませんよね…。あとはヨーロッパやアメリカでプラスチックストローを使えなくする動きが話題になったり、法案で可決したりしてますけど、こういったことも本来メディアがちゃんと取り上げるべきだよね
(*1)主要農作物種子法(しゅようのうさくぶつしゅしほう)主要農作物(コメ、麦、大豆)の種子の安定的な生産と普及に際して、国が取り組む要項を整理した法律。関連した法律に、種苗法((しゅびょうほう)植物の新しい品種(花、農産物など)を創出をした者の権利(知的財産権)について整理した法律)があり、新品種を創出した人にその種苗の販売などについての独占権を与えている
メディアに関わる人間としては耳の痛い話が続くが、これが現実。真摯に受け止めて歩んでいくほかない。一拍おいて、太田さんは最後にこう付け加えた。
ただね、こういう問題にもっとカジュアルに向かい合える雰囲気づくりも必要で。だって”善だ悪だ”と極端なことをいう人もいるじゃない。みんな何かしらの折り合いをつけて、できることをやればいいんですよ
この締めの言葉。まずは眼前のできることに取り組むことが大事ということか。Be inspired!編集部も、今秋に控えるリニューアルに際して、粛々と進み続ける気持ちを新たにしたい。
毎月開催「NEUtalk」、今後も続けていきます
今回の「Neutalk」は食とメディアを大きな枠組みにしてお送りしたが、言いにくそうなことでも軽快な口調で語り合うゲスト2人の言葉が、来場者の方々にどう刺さったのかが気になるところ。
ちなみに今後も月に1回はイベントを開催する予定で、この日の翌日には、早くも2回目の「Neutalk」を行うというスピード感(レポート記事も出します!)。 当日いただいた、「2人の意見が割れそうな質問もぶつけてほしかった!」「トークゲスト自身の話をもっとしてほしかった!」「ハイアーマガジンや、青梅ファームの野菜を買いたかった!」などの意見も参考に改善を重ね、今後もガンガン仕掛けていく予定。
そんな「Neutalk」、これからもお楽しみに!ご来場者の皆さま、トークゲストの皆さま、Farmer’s Marketの皆さま、当日はありがとうございました!
Farmer’s Market @ UNU
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Farmer’s Market @ UNU は農と都市生活を結びつけるプラットフォームです。
私たちは以下の活動を通じて、都市に暮らす人々の生活に貢献することを目指します。
– 農家と私たちの間の対話を生み出し、健康的な食べ物とその源に対する理解を促進する。
– 農家と人々を直接結びつけ、相互理解によるコミュニティをつくることで、農家がより質の高い農業を継続できるよう支援する。
– 生活者である私たちが“マイファーマー”と言えるほど信頼できる農家から、新鮮で健康的な食べ物を買う楽しみをつくる。
– 私たち生活者も農業のプロセスに関わり、営みを理解するきっかけを提供する。
haru.(HIGH(er) magazine編集長)
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同世代のメンバー4人を中心に制作されるインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』の編集長。「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトに毎回のテーマを設定している。そのテーマに個人個人がファッション、アート、写真、映画、音楽などの様々な角度から切り込む。
2019年春にはHIGH(er) magazineの5号が発行されます!
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。