「理由もなく高いブランドは消えちゃうと思う」。今後生き残るアパレルのあり方を考えたトークセッション「NEUT Magazine×FASHION REVOLUTION」 [NEUtalk vol.6]

Text: YUUKI HONDA

Photography: NEUT編集部 unless otherwise stated.

2019.5.9

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2013年4月24日に起きた、バングラデシュ・ダッカの商業ビル「ラナ・プラザ」崩落事故。強度に問題があったビルの中に多数構えてあった工場では世界中のアパレルブランドの縫製が行われており、従業員を含む1100人以上がこの事故で亡くなった。

この事故を発端に、発展途上国の劣悪な労働環境の上に利益を得て成り立っていたアパレル産業の問題点が明らかになり、アパレル産業界は世界的に改革を迫られた。

そうした流れの中で、事故の翌年、事故が起きた2013年4月24日を忘れないようにと、毎年4月24日の週に行われ始まったムーブメントが「FASHION REVOLUTION(ファッションレボリューション)」。

日本でも2014年から毎年「FASHION REVOLUTION」発のイベントが行われており、先日4月24日に行われた「FASHION REVOLUTION DAY 2019」もその一環だ。

今回は、同イベントで「NEUT Magazine×FASHION REVOLUTION」と題され行われたトークイベントの様子をレポート。NEUT Magazine編集長のJUNをモデレーターに、赤澤えるタニムラリサ、TIA(ティア)を招いて行われた、これからのアパレル産業について考えたトークセッションのレポートをお届けする。

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左からTIA、タニムラリサ、赤澤える

TIA:今年3月にスタートしたDIYファッションレーベル「432(よんさんに)」ディレクター。そのほか、若者向けにビーガンをフィーチャーするマガジン「NECTAR(ネクター)」編集長。

タニムラリサ:外資系ラグジュアリーブランド、ファッションブランド、化粧品ブランドなどのマーケティング行いつつ、ライターとしてNEUT Magazineほか、様々な媒体で執筆。現在起業準備中。

赤澤える:LEBECCA boutiqueブランド総合ディレクター。NEUT Magazineで「赤澤えると『記憶の一着』」を連載中。

JUN:NEUT Magazine創刊編集長。「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトとする同誌で、消費の仕方や働き方、ジェンダー・セクシュアリティ・人種などのアイデンティティのあり方、環境問題などについて発信している。

これからの”服を買う基準”

トークセッションがスタートし、登壇者の自己紹介が終わったあと、JUNが登壇者3人へ最初に問いかけたのが、「服を買う基準は?」。

この問に最初に答えたのがTIA。基本的に古着しか買わないという彼女は、「長く着られるもの」を第一の基準にあげて、こう続ける。

TIA:古着はボロボロなものもあるんですけど、そういう味とかも好きなので、そのボロボロのなったものをリメイクして、自分の好きな感じにして着たりします。新品のものを買うのは下着ぐらいなんですけど、そのときは生産背景がちゃんとしてるかは見ます。

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作られた流行ではなく、自分たちが着たい服を自分たちで作るというのがTIAのスタイルで、彼女がディレクターを務めるファッションレーベル432は、古着とリメイクを主に扱っている。また、TIAがよく行くというアメリカ・LAの若者の間では、自分好みのデザインに服をリデザインするDIYカルチャーが浸透しつつあるらしい。

TIAに続いたのが、「ここ最近は一体この服を何年間着れるんだろうって考えて買うようになりました。だから普遍的なデザインかどうかを見てます」という谷村。彼女はまずデザイン、その次に値段、最後にブランドのストーリーを見て買うかどうかを決めるという。

次いでもう一つの基準が“透明性”だというが、そこがあまり見えないブランドが多いと話しこう続ける。

リサ:その服が作られる労働環境、いわゆる透明性も見て買うかどうかを決めたいっていうのが本音なんですけど、正直あんまり見えないところが多いですよね。

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「FASHION REVOLUTION」が始まった発端の商業ビル「ラナ・プラザ」崩落事故から約6年。アパレルブランドの透明性が重視されるようになったものの、まだまだ取り組みが十分とは言えないのが現状である。

そんな現状に言及しつつ、赤澤はこう話す。

える:その服を初めて見たときのときめきも大事だし、その服が作られた環境がわかるのも大事。でも、もうどれだけ調べても生産背景が出てこない時もあるじゃないですか。それでもじっとみて、「ほしい!」と思ったら買うこともあります。要は、買うに値するかどうか納得できるかが基準ですね。

三人ともそれぞれの基準がありつつ、生産背景を気にしているという共通点があったのが印象的だ。この点については、「今後どんなブランドが選ばれると思いますか?」という2つ目の質問でも触れられることになる。

「理由もなく高いブランドは消えちゃうと思う」

今後どんなブランドが選ばれるかと思うか。これほど意見が分かれそうな質問もない。デザイン(デザイナー)、ストーリー、価格、透明性などが主な選考基準にあげられそうだが、ここで口火を切ったのは赤澤。自身のブランドのほか、執筆、イベントの主催など、さまざまなアプローチでアパレル業界に問いを投げかけてきた彼女は、はっきりした口調でこう話した。

える:これが自分たちのブランドですってちゃんと喋れる人が中にいるブランドが選ばれていくと思います。何も言えない、何で作ってるのかよくわからない、でも価格が高いってブランドは消えちゃうと思う。信念みたいなものをもってるところが残ると思うし、そうなってくると「エシカル*1」って言葉もなくなると思います。

「エシカル」「サステイナブル*2」という言葉は今、ものを作る産業や消費のあり方を語る上では外せない言葉であり、よく目にするワードでもある。こうした言葉について赤澤は、「今はコミュニケーションをうまく回すために使ってるだけなので、いつか当たり前になって、使わなくてもよくなればいいですよね」と話す。

(*1)直訳は「倫理的」「道徳上」など。主に人、社会、地球環境などに配慮して作る、そうしたものを買うという文脈で使用される。
(*2)直訳は「維持できる」「持続できる」など。さまざまな分野で人、社会、地球環境に対して持続可能なあり方をという文脈で使用される。

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誰もが当たり前のように消費のあり方やモノの生産背景について気を配る未来がくれば、こうした言葉も使われることもなくなるだろう。

“捨てる”のではなく“手放す”

「服それ自体が今後どうなっていくと思うか」という質問に最初に答えた谷村の発言から続いたやり取りを以下にまとめた。

リサ:服が作られて、それを誰かが買って、またそれを誰かが買うか交換するってサイクルができるんじゃないかと思ってて。あとはレンタルするとか。そもそも服を買うことが少なくなるんじゃないかな。

JUN:レンタルサービスはもう結構出てきてるよね。着たい時だけ服を借りるっていう。

える:どんどん循環はしていくと思います。今って服に限らずモノを買って自分で所有して終わり、じゃなくて、自分から売れますよね。そういうアプリもあるし。手放すっていう行為がもっと広がるかも。

TIA:今あるものを大事に使って、いらなくなったら交換したりもできますよね。捨てるんじゃなくて手放すって選択肢もある。

JUN:自分の服って見慣れてるから自分にとっては古く見えるけど、他の人には新しく見えるよね。そうやってイケてる服がどんどん回っていけばいいし、しかも交換だから実質無料ってことだよね。めっちゃいい。

リサ:私たちって何かを変えようと思うと、何かをしなきゃって思いがちですよね。サステイナブルな世界がいいと思ったら、サステナブルな洋服を買わなきゃって思う。でも、実は買わないという選択肢もあるんじゃないかなって思います。

“捨てる”から“手放す”へ。フリーマーケットに代わるアプリが普及したことで、モノを捨てないという選択肢がより身近になった今、服も誰かの手から誰かの手に直接渡ることが珍しくなくなった。

すでに服は買わなくてもいいものになりつつある。この現実を真正面から捉えて、それでも「なぜ服を作るのか?」を、これからのアパレルブランドは自ら発信し、また自らに問い詰めなければいけないのかもしれない。

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