NEUTとCATsの限定コラボシードル「NEUTON」誕生。CATsの中村元気に聞いた、原宿でりんごの木を育てる理由

Text: Miyuu Konzo

Photography: Jun Hirayama & Arisa Kamada & Genki Nakamura

2023.2.22

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 長野県飯田市座光寺と、NEUT Magazineで連載を行っていた中村元気(なかむら げんき)率いる原宿キャットストリートの地域コミュニティCATs(キャッツ)、そしてNEUT Magazineがコラボーションして生まれたシードル「NEUTON」。日本の食用りんごのフジをメインに使った、甘口の、味わいに丸みのあるとても飲みやすいシードルとなっている。お酒が少し苦手な方も楽しめるはず。シードルの名前のインスピレーションは、家の庭でりんごが落ちるのを見て、「万有引力の法則」のヒントを得たと言われている近代理論科学のアイザック・ニュートン。その「NEWTON」と「NEUT」の造語として生まれたのが「NEUTON(ニュートン)」だ。シードルを飲んでくれた方にニュートンのように何かひらめくきっかけが訪れたら、という願いが込められている。

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Photography: Jun Hirayama

 東京都渋谷区原宿の町内会の人々と、「りんご並木」をまちづくりの象徴とする長野県飯田市座光寺(ざこうじ)の人々による地域間の交流のシンボルツリーから全てが始まった。

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Photography: Genki Nakamura

 原宿にある花壇に生えるりんごの木をご存じだろうか?2010年に長野県飯田市にあったりんご並木を目にした原宿の町会の人たちが、街の一角にりんごを植樹したいという要望を送ったことがはじまりで苗木をもらい、町内会や商店街の人たちがそこに植えていったそうだ。それがシードル作りへと発展していった。そこに、原宿キャットストリートを中心に地域の活動に関わり続ける地域コミュニティCATsが参加し、CATsの声がけでNEUTとのコラボレーションが実現した。今回、このプロジェクトに関わったCATs代表の中村元気(なかむらげんき)とNEUT Magazine編集長の平山潤(ひらやまじゅん)がシードルに使われたりんごの原産地・座光寺を訪れ、フィールドワークを行いながら対談を行った。見えてきたのは、座光寺と原宿、そして地域とCATsの関係性。この大切な関係性を続けるためにも、循環を生み出し、誰にどう届けるかを考えたいという、シンプルな思いがそこにはあった。

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左から長沼農園の長沼豊、CATs中村元気、NEUT Magazine平山潤
Photography: Jun Hirayama

CATsとシードル作りのはじまり

平山潤(以下、潤)CATsが飯田市の座光寺と一緒にシードルを作ることになった経緯ってなんだったんだっけ?

中村元気(以下、元気)実はキャットストリートに、花壇があるんです。そこに飯田市の苗木をもらって埋めたりんごの木もあって。もともと飯田市にあったりんご並木を目にした町会の人たちが、街の一角にりんごを植樹したいという要望を送ったことがはじまりで苗木をもらって、町内会や商店街の人たちがそこに植えていったんだって。もちろん食べる目的ではなかったから、あくまでシンボルツリーとしてのりんごの木だったんだけど、りんごだから実はつくじゃない。その当時、全国の農家さんたちは、りんごをジュースとして売るだけじゃなくて、何か加工して売りたいということをみんな考えていて。いわゆる六次産業化の波のなかで、何ができるのかって模索してた。全国の農家さんたち同様に、飯田市の農家さんたちも考えるなかで、どうやら「シードル」っていうリンゴを醸造酒があって、近くに醸造所もできたらしいと。じゃあせっかく原宿のりんごの木に実がなっているのであれば、地域と地域の交流の証として、何かやってみようかと2016~2017年くらいに、飯田市と原宿の人たちのなかでシードルの話がでてきたみたい。自分が原宿の地域活動に関わり始めた当時、街の花壇にりんごが植わっているっていうことを実は知らなくて。でも、2010年からリンゴの木はあったらしいんだよね。

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Photography: Jun Hirayama

潤:シードル製作に当初は関わってなかったんだ?

元気:そう、シードルを作ろうという場に立ち合ったわけでないんだ。農家さん側から、「シードルっていうものがあってそれを最近作り始めたんだけど、原宿のりんごで使えないか」って声がかかって、それがおもしろいんじゃないかって動き出したのは、地域の人たちなんだよ。

潤:それおもしろいね!

元気:自分が原宿の地元の人と初めてしっかりコミュニケーションしたのは、花壇のりんごやお花の植え替えの活動のときだった。りんごのお世話としては、一つ一つ人の手で受粉をしたり、7月くらいには摘果(一つ一つの実を大きくするために間引く作業)をしたり、春から夏の間はほぼ毎日水やりをしてきた。そのなかで、年に一度、地域同士の交流の証であるシードルの完成を祝う「アップルロードマーケット」というイベントの存在を知って、2019年くらいからイベントにも関わり始めた。

原宿の人たちとコミュニケーションを取るなかで、そこには多様な世代が住んでいて、街を形成していることに改めて気付かされたんだよね。でも、原宿って街ぐるみのイベントが少ない。そういう街の中でお祭りみたいなことをしたら、地域の人が喜んでくれるんじゃないかと、地域の人たちに向けた文脈と、もう一つは飯田市、座光寺の人たちと交流との証を知ってもらえるきっかけを作りましょうよという意図でそのイベントが始まったんだ。

原宿は観光地だから、日中お年寄りが外出するには不安があったり、疲れちゃったりする。でも、そういう高齢の方たちにも楽しんでほしいっていう思いが、地域を守っている人からの意見としてはあるんだよね。そしてCATsは、あくまで地域のお祭りイベントお手伝いという形で、出店を募ったりイベントの運営をするなかで、作ったシードルに触れるきっかけができた。

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Photography: Arisa Kamada

潤:元気が関わった1年目の2019年のイベントは、一番の販売チャネルなのか。イベントには飯田市の人たちも来たの?

元気:来てたよ。原宿の人と飯田市の人と出店している人たちとみんなでやったんだ。地域同士の交流も大事なんで、町会でりんごのお世話をしているおじいちゃんおばあちゃんたちも参加して。婦人会の人もりんごを使ったおやつみたいなものを、市民会館の家庭科室とかで調理して売ったりとかね。キャットストリートでかっこつけて開催するというよりは、ごりごりに地域活動って感じだった(笑)。それこそキャットストリートにあるお店のパタゴニアさんやフライターグさんにも参加してもらって、みんなで盛り上げましょうっていうイベントだったんだよね。でも問題は、シードルがそのときしか売っていないし、なんならイベント以外のときは、商店会長のお店の「昌(しょう)」でしか飲めないってこと。めちゃくちゃもったいない。

潤:イベントはやったんだけど、飲む側がアクセスするところが限られすぎているってことだよね。最初の企画はおもしろくて、地域の人からシードルを作り始めたけど、作るだけで止まっちゃったんだね。作って終わりじゃなくて、その後だよね。どうやって使うのかとか、どうやって広めていくか。

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Photography: Jun Hirayama

元気:そう。ただりんごの量は限られているし、めちゃくちゃ販売網を増やすとか、そういうことではなくていいと思うんだよね。やっぱりプロジェクトやお世話をしているみんなの活動や苦労みたいなものとかは、どこかでシェアしたいという思いがあって。そもそもそれすら誰にも届いてないというのがちょっともったいないなぁと。あとは現実的に、あまりにも販売網が少ないからこそ、シードルの在庫が余ってしまっていることも引っかかっているんだ。はけないから、毎年どんどん溜まっていく。

潤:コロナパンデミックの当初も毎年250本作っていたの?

元気:パンデミックが始まった後も毎年作っていた。毎年りんごはなるし、交流の証だから途絶えさせたくないという町内会の人の思いもあって。でも、ちゃんと出す先を考えないまま作っていくのは、かなりリスクなんだよね。大事な繋がりだから、途絶えさせてはいけないって思いは大切なんだけど、誰にどう届けるのかも含めて考えていったほうがいい。だからCATsとしても、いろんな人たちに届けらるような場を作れたらいいなってことで、やっと今回の話になるんだけど、また別のファンを持った人たちとか、今までこうやって最初にキャットストリートで会った繋がりのなかで、潤にお願いしたんだ。

CATs × NEUT Magazineのシードルに込めたそれぞれの思い

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Photography: Arisa Kamada

潤:りんごをはじめ、花壇のお世話をしたりとか、都会での土いじりやファーミングができることを知ってほしいっていうのが多分元気の根本の思いとしてあるよね。食べるものを買うんじゃなくて、作ることを都会でもできるよってこと。それを踏まえて、どんなことを発信したかったの?あと、関わるメンバーたちはどういう反応だった?

元気:売れ残ってしまうこと自体がもったいないのはもちろんのこと。でも、どちらかというと、誰かの目に触れる機会を逃していることに対してのもったいなさの方が大きくて。例えば、シードル作りの過程でみても、夏の水やりは毎日のように誰かがしているし、原宿はりんごの産地ではないから、全ての作業が自分たちの手のみで行っている。そうやって大事に大事に育てたりんごでシードルができている。そういうことが伝わったときに、ちゃんと誰かに届くものだなって思った。だから、伝えていかなきゃいけないなっていうのは、自分としても思ったし、普段原宿の中で農に関わるメンバーも、やっていきたいと思ってた。

どう発信していくべきとか、誰にどう届けていくかを考えてくことは合意している。あとは、地域の人たちからすると、どういうふうに自分たちの活動を見ているかとリンクするんだけど、100%理解はできていないと思う。ゴミのことに関しても、コンポストのことも。でもなんか「やりてぇならやれよ」みたいな、その許容度や懐の深さは感じていて。

平山:いろんな場面で、町内会の人たちと全て足並みが揃っているとか、価値観が同じというわけではないけれど何かやりたいことがある若者がいて、何かやらせてみようという気概や許容度があるんだね。それはある種、元気が続けてきたなかで信頼を勝ち取ったところでもあるだろうし、あとは土地柄かな。新しいことも受け入れる耐性が付いているのかもね。

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Photography: Arisa Kamada

中村:今回のプロジェクトは原宿で植物を育てて、プロダクトを手がけるというもの。今までは、町内会の人でさえ、りんごができることを認識していない人もいたくらいに一部の人しか関わっていなかったけど、地域の人を始め、街の人の多くが気にかけるようになってきた。少し原宿という街への関心が高まったような感じがします。やっぱり、街で何かをしたいと思ったときに、今回みたいにリアルに実現できる環境は、シードル以外にもいろんなポイントでつくりたいなと思っていて。だから、今回のりんごしかり、土から派生する活動は増やしていきたいです。潤はこのプロジェクトにどんな思いで関わってるの?

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Photography: Jun Hirayama

潤:お酒や飲み物がメディアになるって面白い取組みだなって思ったんだよね。パソコンとスマホで読むWEBだけじゃなくて、紙の雑誌やイベントなど、いろんなメディアを使って、NEUTの考えを知ってほしい。今回のボトルのエチケットは、NEUTで初のコラボとなるアーティストのnico itoさんに描いてもらった。猫好きのイメージがあったのと、過去に描いていた黒猫の絵がとても素敵だったので、キャットストリートにちなんで猫を彼女に描いてもらいたいなと思いお願いしました。エチケットにはキャットストリートのりんごを使ったシードルなので、りんごと黒猫、そしてNEUTのシンボルのアカハライモリが共存してる様子が描かれてる。NEUTのコミュニティの人たちと一緒に作ることで、町内会の人たちやCATsのメンバー、飯田市のメンバーとは違う人たちにも触れてもらうきっかけを作れたらいいなって思っていて。このシードルを飲むとき、エチケットを見て、原宿のリンゴが使用されていることを思い出しながら飲んでもらえたら嬉しいな。そして、東京の中心地で農が行われていることは、これからの都市の暮らしを豊かにする可能性を秘めていると思ってるよ。

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3/4(土)と3/5日(日)に渋谷キャストのイベントで「NEUTON」を販売します!

街路樹のデジタルマップの開発及び、まちのみどりの資源の活用を提案するプラットフォーム「Dear Tree Project」による、「渋谷キャスト」、地域活動団体「CATs」との共催で、渋谷のまちのみどりに触れて、学び、味わうイベント「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」が、2023年3月4日(土)〜5日(日)に渋谷キャストで初開催される。NEUTONはFood & Drinkの一環として出店!

イベント名:「Invisible Connectionsーまちのみどりとのいい関係ー」
開催日時:2023年3月4日(土)〜3月5日(日)12:00〜18:00
※キッチンカー営業時間 12:00~17:00
場所:渋谷キャスト ガーデン ※荒天時中止、小雨決行、雨天順延なし
主催:渋谷キャスト、CATs、Dear Tree Project
▶︎ウェブサイトはこちら

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中村元気

Instagram

1992年、埼玉県行田市生まれ。
原宿のキャットストリートで地域コミュニティ CATsを始める。地域に関わる人達と居心地のいい街を作るために日々活動中。消費の中心地だからこそ、お金では手に入らない人間関係を作り、ゼロから価値を生み出すアクションを実験的に行う。
また、2018年から、ゴミ問題の根本解決を目指すために「循環型」のライフスタイル提案を行うゼロウェイストな社会を作っていくコミュニティ型のNPO530(ゴミゼロ)を立ち上げた。余ったパンの耳を使ったbread beerなどをはじめとした、アップサイクルプロダクトなどの企画に関わる。

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平山潤

Instagram / Twitter

1992年神奈川県相模原市生まれ。成蹊大学卒。卒業後、ウェブメディア『Be inspired!』編集長を経て、現在は2018年10月に『Be inspired!』を『NEUT Magazine(ニュートマガジン)』にリニューアル創刊させ、編集長を務める。NEUT Magazineでは“Make Extreme Neutral” を掲げ、消費の仕方や働き方、ジェンダー・セクシュアリティ・人種などのアイデンティティのあり方、環境問題などについて発信している。世の中の「当たり前」や「偏見」に挑戦する人々から日々刺激をもらい、少しでも多くの人に“ニュートラルな視点”を届けられるよう活動している。

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