「ホンモノの日本茶を飲んでほしい」。日本で世界へ向け「オーガニック日本茶の魅力」をクリエイティブに届ける若者

Text: Madoka Yanagisawa

Photography: Reo Takahashi unless otherwise stated.

2017.7.8

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日本の食卓に当たり前に馴染んでいる日本茶。しかし「オーガニックの日本茶」を求める声は、国内外で多いにもかかわらず非常に少量で、過去5年間いずれも総生産量の2〜3%を推移しているという現状だ。(参考元:農林水産省資料

そこで今回Be inspired!は、生産農家と消費者の架け橋として「オーガニックの日本茶」を広めるために奔走する、ひとりの男性に話を聞いた。

NY発、「オーガニックの重要性」を気づかせる日本茶ブランドとは。

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彼の名前はホン・スイル氏。東京で生まれ育った彼は、ニューヨークで無農薬・無化学肥料の日本茶ブランド「NODOKA」を昨年立ち上げ、現在は東京に舞い戻り活動中だ。

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2013年まで、メイド イン ジャパンの魅力を世界に広める博覧会「Japan Expo」で働き、国内の魅力を海外に伝える仕事に情熱を持って取り組んでいたスイル氏。その後、日本文化がどうアメリカで受け入れられているか肌で感じるため、単身でニューヨークへ渡り、日本の魅力を世界に広める活動をしていたという。そして在米中に、市販されているJapanese Green Teaと表示してある“日本茶”が「日本産の茶葉ではない」ことを知る。

そのとき感じた疑問がぬぐいきれなくて、お茶にフォーカスしはじめました。この目でお茶の現状を確かめ、世界に紹介できる本物を見つけたいと思ったんです。

Matchabar」なる抹茶のカフェが人気を集めるほど、当時のニューヨークは抹茶ブーム真っ只中。海外で日本茶に注目が集まっていく中で知った「偽物の日本茶」が市場に出回っているという真実は、「本物の日本茶を海外へ伝えなくてはいけない」という使命感へと変わり、彼を「本物の日本茶を求める旅」、すなわち「NODOKAの誕生」へと導いたのだ。

日本とニューヨークを往復。農家の現状、生産者の思いを受け止めた。

日本に戻り、日本茶についてリサーチしていたスイル氏は、「日本茶を取り巻く様々な悲惨な現状」を目の当たりにすることになる。後継者問題が問われ続けている日本の農業は、お茶の生産者も同じ。平均年齢は60代を超え、耕作放棄地となった茶畑も多い。また、虫がつきやすく栽培が難しいとされる茶葉は、農薬や化学肥料を使った栽培が主流で、さらに日本で生産されるほとんどが国内消費に留まり、海外に輸出されているのはわずか数パーセントなのだ。

消費者と生産者が完全に離されてしまっていると感じました。農家さんたちの耳には、海外で日本茶が人気という情報も届いてなかったんです。

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茶農家の増田さんとスイル氏 Photo by Emi Komagata

茶農家の方々と直接会って話をするうちに、彼に運命の出会いが訪れる。それは、静岡県の茶農家、増田さんとの出会いだ。

増田さんが自ら育てたお茶を飲ませてくれました。透き通るおいしさで目が覚めるような、しかし決して強く主張しすぎない、爽やかで優しい味だったんです。体の細胞が喜んでいるような感覚を覚えました。

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Photo by Emi Komagata

聞けば、増田さんの茶畑はすべてが「JAS有機」認証済みだという。農業事情に詳しい人には知られていることだが、一言でJAS有機認証といってもその幅は広く、実際には一部使用が認められている「農薬」も存在する。「オーガニック」の定義は人によって若干異なるが、もう一歩踏み入れて話を聞いてみると、増田さんは一切の化学肥料をも使用しない無農薬・無化学肥料栽培。しかもすでに30年近くもの実績があり、驚くべきことに、茶葉は家族総出で手摘みしているという。まさに求めていた、正真正銘のオーガニックな「本物の日本茶」だったのだ。

“こんなにおいしくて体に良いものは、きちんと伝えたい”

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自分にできることは、彼らオーガニックの日本茶農家さんたちが作るものを世界に紹介すること。自分でお茶を育てることはできないけど、この素晴らしさを語ることはできるから。

突き動かされたような使命感は、自然な形で彼の情熱に変わったようだ。そこには、彼自身の半生を重ねた思いもあるという。

東京で生まれ育ったけど、国籍は韓国のまま。日本でも韓国でも外国人、どこにいてもいつもマイノリティでした。そのせいか昔から、同じマイノリティというか、人知れず影でがんばっている人たちに興味があった。彼らの努力にもっと日が当たる社会であってほしい。 そのために自分ができることをしたいんです。

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変幻自在。既存のお茶のイメージを払拭させる「クリエイティブなお茶」の誕生。

「海外で出回る偽物の日本茶」、「日本の茶農家が抱える問題」、「オーガニックの日本茶の魅力」。スイル氏が「本物の日本茶を求める旅」で知った全ての事実を伝えるため、試行錯誤の末、“最適のカタチ”で誕生したのが日本茶ブランド「NODOKA」だ。味やプレゼンテーション、パッケージ。全てに彼のこだわりが散りばめられている。

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Photo by MASUMEAL

オーガニック”であることを広く知ってもらうために欠かせない、JAS有機認証とアメリカのUSDA有機認証も取得した。

どんな買い手にもオーガニックの製品だとわかってもらうために、国内外のオーガニック認証を取得したNODOKA。お茶の種類は「煎茶」、海外で注目度の高い「抹茶」、健康志向の人に求められた「玄米茶」、そしてカフェインレスの「ほうじ茶」の4つだ。

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Photo by MASUMEAL

茶葉がパウダー状に加工されているのには理由が2つあるという。1つ目は、オーガニックならではの利点を存分に活かすために、“全て食べられる茶葉”にしたかったから。今までの茶葉のように捨てる部分がないため、抗酸化作用を含むカテキンや、整腸作用を促すカリウムや食物繊維など、高い栄養素を余すことなく摂ることができるという。そして2つ目は、お湯はもちろん、水にも溶けやすいため、誰でも手軽に淹れられるから。お茶として飲むだけでなく、ミルクやフルーツと共にスムージーに入れたり、焼き菓子のアクセントや薬味としても使用でき、まさに変幻自在だ。

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「パッケージデザインは、カナダ人のデザイナーに手がけてもらい、シンプルにした」と彼がいうように、和の心を表すように余白をたっぷり取り、既存のお茶のパッケージにはない洗練されたデザインだ。これまでどちらかといえば地味で古風なイメージを持たれていたお茶だが、NODOKAというモダンでミニマルなパッケージを身に纏い、年代も国籍も超えて興味がそそられる、今までにない新しいお茶として誕生した。

昨年、海外のクラウドファンディング「indigogo」で成功を収め、世界で認められたNODOKAは、現在7月末まで国内のクラウドファンディング「makuake」を活用し、先行販売を受付している。その後は、オンラインストアの日本語化や、イベント出店が予定されており、NODOKAのコンセプトを理解してくれる方にダイレクトに届くプランを日本で進めていくそうだ。

日本茶に多様性をもたらす「NODOKA」の存在意義

日本の茶文化は、ゆったりといただく茶道のような伝統的な文化が残る一方で、どこでも手に入るペットボトルの日本茶のようなファストフード的な文化が主流となり、二極化が進んでいる。

誰もが“良いもの”を求めるものの、“良いもの”の基準は当然その人にしか決められない。だからこそ大事なことは、ジャッジすることではなく、自分が何を選ぶか考える力をつけることなのだろう。“本来、お茶の飲み方頂き方はもっと多様で良いはず。NODOKAが考えるきっかけになれば良い”と優しく微笑むスイルさん。

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彼の強いお茶に対する思いとNODOKAというクリエーションは世界に響きはじめ、現在さまざまな都市の企業からコラボレーションのオファーがきているという。世界中に賛同者、応援者がいるという熱量は、生産農家にとっても間違いなく大きなモチベーションになっている。もしかしたら、NODOKAの存在が日本の農業が抱える問題を少しでも解決に向かわせるきっかけになるかもしれないのだ。

日陰に光を求めて立ち上がった彼と彼の笑顔に「世界は優しい」ということを教えてもらった。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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