アメリカのバーガーキングで、大勢の客からクレームが押し寄せた。「私はハンバーガーが欲しいのに、ハンバーガーが買えないじゃない!」「客をばかにしてるの?注文できない店なんておかしい!」
怒鳴られた店員は、丁寧な口調で説明を始める。「当店では、“読めないメニュー”を提示しております」。
「買えないハンバーガー」にクレーム殺到
アメリカのバーガーキングでちょっとした事件が起こった。ドライブスルーで注文をしようとメニュー表を見た客たちは皆、首を傾げた。
「なんだこれ?読めない…」「なんて書いてあるの?」。おなじみのハンバーガーやチーズバーガーがメニューにあることは分かるのだが、まったくワケの分からない文字が書かれており、発音ができないのだ。
「ええと、wpuxl…」
客の中には頑張って発音しようと試みる人もいるが、やはり難しい。痺れを切らした客たちは、注文をせずに受け取り窓口に車を進め、店員に怒りをぶつけた。「これじゃ、ハンバーガーが買えないだろ!」
客からの苦情を受けた店員は、落ち着いた口調でこう説明を始めた。
「世界では、5人に1人が文字を読むことができないのです。知っていましたか?」
そう、これはバーガーキングが仕掛け人の識字率問題キャンペーンだったのである。現在、世界の人口のうち20%の人々が読み書きができないとされている。その原因は、十分な教育が受けられないこと。バーガーキングはこの識字率の問題を多くの人に知らせ、「体感」してもらうために、苦情を覚悟でキャンペーンに乗り出したのだ。実際にこのキャンペーンの「体験者」になった人々は、最初こそ腹を立てていたものの、店員から識字率問題の説明を聞くことにより次第に真剣な表情に変わった。
「文字が読めないって、大変なんだな……」
読み書きができない人の困難を実際に経験したことで、問題をきちんと考えるきっかけとなっただろう。
「書けないレシート」が教えてくれること
識字率問題に関連するユニークな取り組みを行っているのは海外だけではない。日本ユネスコ協会は「書けないレシート」を通して人々に世界の識字率問題を知ってもらおうと試みたのだ。
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このキャンペーンは、今年4月の数日間、新宿歌舞伎町のLibrary Bar「The OPEN BOOK」にて試験的に行われた。バーを訪れた客は、精算時にレシートとペンを手渡されサインを促される。ここまではどの店でも同じだが、名前を書こうとペンを走らせた時「あっ」と気づくことになる。文字を書こうとしても、文字が書けないのだ。そして、複写用の2枚目の紙をめくってみると、募金の同意書が現れる。1枚目に書いた「書けないサイン」が、2枚目に複写されるという仕組みだ。この募金は一口500円。カンボジアの子どもたちが1か月間教育を受けることができるお金になる。
日本では、自分の名前を書けることは当たり前だ。テストの答案用紙。精算時のサイン。持ち物への記名。世界中の5人に1人は、このように自分の名前すら書くことができないのだ。
“書けない”と“読めない”が生み出す悪循環
発展途上国における識字率の背景には、貧困や戦争といった問題が存在する。十分に教育が受けられずに育った人々は、読み書きや計算ができないため、きちんとした仕事に就くことができず、安定した収入も得られない。特に女性の場合は顕著であり、一生家事手伝いだけをして暮らす人もいるのだ。読み書きができないということは、教科書や本、仕事のマニュアルを読むことができない。そして、仕事をする時の契約書を理解することができないため、不当な雇用契約を結ばれてしまうといった被害もある。
自分の意見を多くの人々に発信することも叶わない。さらに「書けない」「読めない」は次の世代にも連鎖する。つまり、親が読み書きができないと、子どもも同じ道を辿る可能性が高い。こういった負の連鎖を断ち切るために、世界各地で様々なプロジェクトが立ち上がっている。
識字率問題をはじめ、世界には様々な問題が存在する。企業や政府、NGOが中心となり問題解決に向けて奮闘している。しかし、それらの大きな問題をクリアするために最も重要なことは、一人ひとりが「自分の問題だ」と思ってそれらに向き合うことではないだろうか。
ハンバーガーが買えない人の気持ち。レシートにサインができない人の気持ち。ごく身近なところから始まる「共感」は、最も協力な社会貢献の土台となるはずだ。
via. AdGang
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。