この間、“女性のような声”を出した男子生徒に対し、小学校教諭が「誰だオカマは」と揶揄したというニュースを耳にした。今でこそ「オカマ」という言葉が肯定的な意味で使われるようになってきているが、“女性的な男性”を馬鹿にするような、その教諭の言葉の使い方が問題だったのだ。セクシュアルマイノリティに対する理解は日本社会で少しずつ広まってきているものの、学校現場で認識が足りない教育者の言動が目に余ることがある。それとは問題が少し異なるが、学校という狭いコミュニティで起きるセクシュアルマイノリティの問題をテーマにした作品が、今回のレインボー・リール東京で公開されるという。
今回は、レインボー・リール東京の短編映画コンペティションに入選した注目の若手監督へのインタビュー第2段。尊厳死がテーマの作品『尊く厳かな死』で話題になった中川駿監督に話をうかがった。彼は同作で新人監督映画祭のコンペティション・中編部門で準グランプリ、福岡インディペンデント映画祭で企画賞を受賞しており、今回はセクシュアルマイノリティの人に過剰な配慮をしてしまう人々を描いた『カランコエの花』でレインボー・リール東京に入賞している。
中川 駿(Shun Nakagawa)監督
1987年 石川県出身/東京都在住。
大学卒業後、イベントの制作会社にて勤務。
退職後、ニューシネマワークショップにて映画制作を学ぶ。
現在はフリーランスのイベント/映像ディレクターとして活動中。
【作品歴】
『time』(2014年製作)
・第12回NHKミニミニ映像大賞 120秒部門 グランプリ
・福岡インディペンデント映画祭 優秀賞
『尊く厳かな死』(2015年製作)
・新人監督映画祭 コンペティション・中編部門 準グランプリ
・福岡インディペンデント映画祭 企画賞
『カランコエの花』(2016年製作)
・第26回 レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜 入選
第26回 レインボー・リール東京〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜入選作品『カランコエの花』
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【あらすじ】ただ、あなたを守りたかった。
とある高校の2年生のクラス。ある日、唐突に『LGBTについて』の授業が行われた。だが、他のクラスではその授業は行われておらず、生徒たちに疑念が生じる。「うちのクラスにLGBTの人がいるんじゃないか?」 生徒らの日常に困惑が広がっていく…。
ー映画を撮り始めたきっかけを教えてください。
映像の勉強をしたいと思い学校を探していましたが、どこも学費が高く困っていました。そんなとき、映画監督の育成をしている(学費が格安の)学校を見つけ、入学を決めたことから映画を撮るようになりました。
ーセクシュアルマイノリティをトピックにした『カランコエの花』を撮ろうと思ったきっかけは何ですか?
いつかLGBTQを題材に映画を撮ろうとは思っていたのですが、納得のいく企画ができず、なかなか踏み出せずにいました。そんななか、仲間と企画会議をしている際に「LGBTQを題材に映画を撮りたいけれど、センシティブな題材なので気軽に手をつけられない」と話をしたところ、「その考え方がそもそも差別的だよね」と仲間から指摘を受け、なるほど、と思いました。
私自身、セクシュアルマイノリティに対して寛容であると自認していたつもりですが、こうした過剰な配慮で当事者の方に被差別意識を与えてしまっていたこともあったのではないか、と。
そこで、LGBTQ当事者を主として描くのではなく、それを取り巻く周囲の人間にフォーカスを当て、彼らの過剰な配慮によって翻弄されていく当事者の様を描いた作品を撮ろうと決め、本作を作りました。
ー同作を撮るうえで、どのようにセクシュアルマイノリティの現状をリサーチしましたか?
上述のようにLGBTQ当事者の周囲の人間を主として描いているので、一旦リサーチをほぼ行わず脚本を作りました。その後、当事者の方に実際に脚本を読んでいただき、どう感じたかご意見をもらいながら作品に磨きをかけていきました。
ー学校というコミュニティで起きるセクシュアルマイノリティの問題をどう捉えていますか?
大人になると、居心地の悪い環境から逃げたり、避けたりすることも選択肢の1つとして当たり前にありますが、学校はそうもいかない。ある種、強制的に集められたコミュニティのなかで、嫌でも生活していかなければならない。そういった意味で学校は、LGBTQに限らず様々なマイノリティの方にとって悩ましい環境であろうと感じています。
ー同作を通して伝えたいこと、考えて欲しいことは?
社会はまだ、セクシュアルマイノリティの方とどう向き合っていけばいいのか手探りの段階なのだと思います。「接し方が分からないが、傷つけてしまいたくはない」、故にどうしても腫れ物に触るかのように、過剰にケアしてしまうのだと。
しかし実際は、当事者は特別扱いされることを求めている訳ではない。ただ自分の気持ちに正直にありたいだけなのだということを、本作を通じて感じていただければと思います。
ー映画は社会の問題に対して何ができると思いますか?
映画の魅力の1つに、“作品中の世界を疑似体験できること”があると思います。「百聞は一見に如かず」という諺にもあるように、体験に勝る学びはない。社会問題について問題提起やメッセージの発信をしたいのであれば、映画ほど有効なメディアはないのではないか、と考えています。
中川監督が言うように、日本社会ではセクシュアルマイノリティの人々を傷つけまいと思うあまり、彼らを過剰に特別扱いしているのが現状だ。そんななかで私たちはどう接したらいいのだろうか。実際の学校生活で起こり得そうな『カランコエの花』のストーリーは、鑑賞した多くの人にとって身近なセクシュアルマイノリティの人と“本当はどう接すればいいのか”を考えるきっかけとなるのかもしれない。
インタビュー企画の第1段は、今話題のバンドnever young beachのMV等を制作し、レインボー・リール東京ではセクシュアリティを越えた「人を愛することの普遍性」を描いた映画『春みたいだ』が入選したシガヤダイスケ監督。こちらも合わせて読んで欲しい。
<第26回レインボー・リール〜東京国際レズビアン&ゲイ映画祭〜>
主催:レインボー・リール東京運営委員会、NPO法人レインボー・リール東京
開催期間:2017年7月8日(土)〜14日(金)@シネマート新宿
2017年7月14日(金)〜17日(月・祝)@スパイラルホール(スパイラル3F)
今回インタビューを行なった監督の作品が鑑賞できる「レインボー・リール・コンペティション 2017」は、スパイラルホールにて7/17(月・祝)16時から開催されます。
上映される短編映画のなかから観客の皆さんの投票でグランプリが決まります。ぜひご参加ください。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。