「何を食べものと決めるかは社会ではなく自分」。ビーガンに風当たりの強い日本で、私が肉を食べない理由|「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声 by 350.org #003

Text: 350.org Japan

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2017.12.27

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「環境活動=まじめ=つまらない」。そんなイメージを吹き飛ばす環境NGOが日本に存在する。それが「国際環境NGO 350.org Japan (以下、350)」だ。

年齢、職業、性別、人種もとにかく多様。下は6歳の子どもから上は70代のおばあちゃんまで。また、シングルマザーや障がいをもった人、外国人もメンバーにいる。そこで主体的に動いているのは主にミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)の若者たち。

少しでも多くの人に、楽しみながら環境活動ができることを知ってもらいたい!そこで、Be inspired!では、以前本誌でも紹介した350のフィールド・オーガナイザー イアンが、350の活動に関わる人をインタビューする連載をお届けする。その名も『「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.org』。

連載3回目の今回は、350 Japanのボランティアメンバーである、あんなと日南子(ひなこ)にイアンがインタビュー。2人に共通するのは「ビーガン」として生きていること。食と社会の関わりを考え、敢えて「肉」を食べない選択をしている2人には、社会がどんなふうに見えているか、そして食の選択と350の活動との共通点について話を聞いた。

Photo by 撮影者
左から日南子、あんな、イアン

自然や動物が好きで、動物保護ボランティアをしている大学4年生のあんな。ベジタリアン生活7年目で、今年からビーガンになった。カナダに留学し、カナダの環境意識の高さに触れ、普段の生活で自分の環境負荷を減らすことにチャレンジしている。

もう1人は広島生まれ、親が転勤族で日本中で育った日南子。小さい頃から自然と冒険が大好きで、10代は星野道夫さん*1の世界に憧れ、20代で環境保護を学ぶために渡米するが、結局演劇で学位を取り、俳優業へ。現在は海外メディアをクライエントにラインプロデューサー*2としてフリーランスで仕事をしている。

(*1)アラスカの自然を愛した作家、ネイチャーフォトグラファー
(*2)映像制作などにおいての、リサーチやプロダクションマネージメントの全般を行う仕事

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350ボランティアスタッフの2人。左が日南子、右があんな。

みんなにとってハッピーな食事を探したら、ビーガンだった。

イアン:ではさっそく。ビーガンはどういうきっかけで始めたの?

あんな:中学2年生のときに化粧品や毛皮やウールの生産方法について知って、日々の何気ない消費が信じられないくらい動物を傷つけているって知ってびっくりしたの。そのとき、世の中で売られているものがどうやって作られているのか自分が今まですごく無知で、無関心だったことに気づいて、エシカル消費とか動物愛護に興味を持ち始めたんだ。

動物を「モノ」のように扱う工場飼育や畜殺の残酷さを映像で観て、自分の「食」についても真剣に考えるようになったのが、高校生のとき。私が想像してた畜産は、牛や豚が牧草で走り回るものだったけど、実際は全然違って、ショックだった。

あとは、そういったことが私たちが今直面している地球温暖化、環境汚染、生態系の破壊っていう様々な環境・社会問題とつながっていることを知って、動物性製品の消費と生産のすべてがアンハッピーなんじゃんって思ったんだよね。

それと、カナダでビーガンの家庭にホームステイしたり、ビーガンオプションの多い北米で暮らして学んで、このライフスタイルの方が自分も含めてたくさんのものがハッピーだと思ったから選択したよ。

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イアン:日南子さんは?

日南子:私は、アメリカの大学に入学して一番最初にできたボーイフレンドが素敵な活動家でビーガンだったの。彼がビーガンをやってた理由は、生肉業界に反対している政治的な理由と、動物愛護の理由。そういうふうに思想から自分のライフスタイルを変えるんだ、すごい!って思ったのを覚えてる。

それと、あんなが言っているみたいに、畜産産業がどれだけ環境破壊をしているかにすごいびっくりしたのね。あと中学生ぐらいから体重を落とさなきゃ、みたいないろんな混乱の中で、自分がどんな風に何を食べればいいかをずっと探求してた。

そんなときにビーガニズム(完全菜食主義)に出会えて、自分の体にも環境にもいい食べ方の一つを知って、何年もかけて少しずつ自分と食の間にあった混乱がほどけていったと思う。

イアン:いろいろな理由があるんだね。「環境」という言葉が出たので、食肉が環境に与える影響について教えてください!

日南子:例えば、私もびっくりしたんだけど、地球温暖化の原因である温室効果ガス。畜産業による排出量は、地球上の車、電車、飛行機、船とかの交通機関の排出量を全部合わせた量をはるかに上回るんだって。(前者は全体の24%、後者は13% 参考:EPA)。食肉が及ぼす温室効果ガスの排出って本当多くって、肉を食べる人の食生活から出る温室効果ガスはビーガンの約2倍らしい。(参考:University of Oxford)

あんな:ブラジルのアマゾンで 2000-2005年の間に消失した森林の65%以上が、畜産や飼料収穫のために使用されているんだよね。(参考:mongabay.com)2015年にはアマゾンで5,800平方キロメートル以上(東京ドーム 12万3千個分、1日計算338個分)の森林が伐採されたらしくって、これも畜産の影響がすごく大きかったって前にガーディアンが報じていた。

命へのリスペクトが足りていない今の社会システム

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イアン:食肉につながるあらゆる社会問題や価値感の対立があるけど、 2人は動物を食のために一切殺すべきではないと考えているの?

日南子:動物や自然、命、地球のエコシステムへのリスペクトがあるかが基準になってるかな。人間の暮らしがしっかり自然と繋がって存在するなかで、食するために動物を殺すってことには自分が参加したいかはわからないけれど、考えとして抵抗なく受け入れられる。

でも利益追究の大量生産ために残虐な扱い方や殺し方をしている養鶏場とか屠殺場とかって世界中に溢れかえっていて、それってそこで働く労働者の人たちの心と体にとってもよくないと思う。

環境保護活動家の人の中にも、動物を殺すことよりも今の畜産業のあり様に反対していて、自分で殺した動物か、動物を殺した本人から直接買う場合のみ肉や魚を食しますって人もいるよね。

あんな:毎年56億の動物が食べるために殺されているって考えると、動物を殺してまで食事を楽しむってことに、個人的にはあんまり賛成できないけど、日南子さんと一緒で、リスペクトがあることが大切だと思うよ。(参考:animalEQUALITY

でも大量生産、大量消費される社会になってしまって、狭いところに閉じ込める工場飼育ですべてが自然な状態からかけ離れてしまっている現代の畜産には全く賛成できない。人間の食べものになるためだけに生まれてくる動物がいて、狭い場所に閉じ込められて、殺されていく。そんな動物に人生と言える生活すらない状況はいやだな。スーパーで100円とかで売られているのを見ると、こうあるべきじゃないって思うし、肉を食べることは昔のように今日はお祝いだよって特別であるべきだなって私は思う。

イアン:うんうん。肥大した需要に合わせようとしておかしな方向に畜産産業が舵を切ってしまっていることは確かだよね。

海外と日本の違い。それは「選択肢の多さ」

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イアン:ビーガンやベジって日本ではまだ馴染みのない生き方だと思うんだけど、実際日本で実践してみてどう?

あんな:日本でベジタリアンをはじめた7年前は、今より風当たりの強さを感じてた。社会に反していることをやってるって捉えられがちだなんだよね。何が食べものか、何を口に入れるかは、その人の価値感で決めるべきなのに、社会がこういうものが売れるからつくるって決めたものを食べないと、なんかみんな居心地が悪くなるみたいだった。

みんなが右向いたら、私も右向かなきゃいけない気分になっていたし、肉を食べないって言うと場が盛り下がるとか、人が自分に気を遣うと思ってすごく気にしてたな。でも、海外での経験をきっかけに、マイノリティだからって縮こまって生きなきゃ、隠さなきゃって意識で生きていたことに気づいて、自分の価値観を隠して生きるのは違うなって思った。

海外ほどではないけど、アレルギーやビーガン対応のお店は日本でも少しずつだけど増えてきてるから、日本でビーガンとして生きるのも前より簡単になったなって感じる。

日南子:初めの頃は、アメリカから日本に帰国するたんびに難しさを感じてやめたりとかしてた。何を食べるかも含め、人と違うことをしたり、政治的な意見をもってライフスタイルを選ぶことへの風当たりが強くって。特に日本は西欧に比べると若い人へのリスペクトが少ないから、20代の私が何かポリシーを持ってることは、今30代の私がそうであるのより、倍くらい風当たりが強かったように感じたな。

日本は良くも悪くも周りの人の心地良さをすごく大切にするから、出汁の入った料理を食べていいとか、日本にいるときにだけ実行しているルールはある。これで、みんなでお鍋のときとか、レストランの食事のときとか、グッと食べられるものが増える。

みんなが違いを受け入れて、自分らしく生きられる社会をつくっていくことも大事だけど、日本はビーガ二ズムの浸透状況もアメリカとは全然違うから、出してくれたものを断ることがその人をどんな気分にするかも違う。人の気持ちも大切にしたいから、選択が難しいときもあるよね。

それでも、ここしばらくビーガンであることは自分にとってすごく自然な生活の自然な一部になってて、周りの人も理解してくれきてくれてるから、しんどいことはほとんどないかな。

なにを食べものと決めるかは社会ではなく自分。

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イアン:2人とも海外の話が少し出たけど、向こうでは全然違うんだ?

日南子:そうだね。アメリカだと「I’m vegitarian」「I’m vegan」って言っても普通。収穫祭のディナーって伝統的にターキー(七面鳥)を食べるんだけど、お豆腐でできたトウファーキー(豆腐+ターキーの造語)、つまり親父ギャグみたいだけど、植物性のもので作ったターキーもどきみたいなのがスーパーに簡単に買えたりするよ!

あんな:カナダではどこのスーパーにも大きなベジタリアン、ビーガンセクションがあって植物性ミルクからスイーツ、ハンバーガーのパティまでなんでも買える。今まで旅行で訪れた北欧や台湾、ベトナムもものすごくビーガンフレンドリーだったよ。

イアン:日本もいろいろな「ライフスタイル」や「食の選択」が当然のこととして受け入れられた社会になってほしいよね。ビーガンの受け入れられ方にも海外とは大きなギャップがあると話してくれたけど、肉食がこれだけ「普通」な日本社会を2人はどう見てる?

あんな:日本が生産の過程が見えにくい社会だからだと思うけど、9割の人が倫理的消費やエシカル消費という言葉を聞いたことすら無いって言うでしょ。でも、日本の畜産のほとんどが動物にとって悪影響なゲージ飼育であることを知るとすごく驚く人が多いし、私もそうだった。(参考:ARC, alic, HOPE for ANIMAL

なにを口に入れるかは個人の自由だけど、なにを食べものと決めるかは社会ではなく自分。そのことを日本人は消費者として意識するべきなんじゃないかなと思う。親や社会がそれを食べものとするからといって、自分もそれを食べなきゃいけない理由なんて一つもないと思うのね。

日南子:私はどう生きるのが正しいかなんて人に言いたくないし、言われたくもくない。これは食べものについても同じで、これだけ食や健康について情報も混乱の多い社会の中で、絶対的にこれが一番健康で、一番環境に良い食生活だ!なんて誰も言い切れない思うんだ。

食生活とかライフスタイルって情報や体験をもとに常に変化し続けるものだから、健康や環境へ配慮した生活へのそれぞれの旅の過程をリスペクトしあうことが大切だと思う。

自分にとって優しい食は、地球にも動物にも優しい。

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イアン:ビーガンやベジタリアンについてなにか伝えたいことある?

あんな:ビーガン・ベジタリアンかそうじゃないかって選択肢を二極化してほしくないな。Weekday Veggieって平日は動物性の食事をやめて、休日は好きなものを食べるライフスタイルが今すごく海外では流行ってるんだ。そういう考え方もあることを知ってほしい。

あとは、Happycow.netっていって、近くにあるビーガン対応レストランを表示してくれる便利なサイトやアプリも出てきてて、ビーガンであることが断然楽になってきてる。日本でもビーガンが風当たりを感じずに生きていける社会になるのも遠くないかもって希望も感じてるよ。

私はビーガンになって、肌荒れや生理痛が大幅に改善されたり、自分が前より精神的にも肉体的にも健康ってすごく感じてるんだ。社会や動物にとって優しい生活を選択すると、回り回って自分にも優しいんだよね。ビーガンはポジティブなライフスタイルだってことを知ってほしいな。

日南子:そうだね。食生活を見直して動物性食品を減らす人や止める人が確実に増えいている感じがするし、最近私も体も心もすごく調子いいよ。ビーガンになることっていうより、みんなが自分の体とどう向き合いたいか、そしてどんな世界が欲しいか、それにぴったりの食生活を送れることが理想だよね。

あとは、食に関して社会の表面に溢れている情報っていろいろな産業にものすごく操作されているから、やっぱり自分の興味関心に沿って、ちょっとリサーチしてみることが大事だと思うよ。そして、自分がすごくやってみたいことが人から見て少々ラディカルなことでも、エイって思い切って挑戦してみて!

食を選ぶことも、口座を選ぶことも同じ。

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イアン:そんな二人が350の活動に参加する理由やきっかけってなんだったの?

あんな:私は、カナダできちんと社会問題や政治に対して自分の意見を持ってムーブメントに関わってる大学生達の姿に刺激を受けて、私も何かムーブメントに関わりたいな〜って思ってたときに350と出会ったの。

日南子:私は、大量消費型の資本主義社会に参加したくない!と思って、あとは環境保護をしたいと思って参加したんだ。350のダイベストメント運動に出会って、今の資本主義社会を動かしているのはお金で、そこにはものすごい影響力があるんだってことを実感したよ。

イアン:食の選択と、今の350の活動でつながることってなんだと思う?

あんな:ビーガンも350が広めてるダイベストメントも、個人の良い選択が社会を変えていくって点が、私にとっては共通してる。みんなが知らないうちに自分の住みにくい社会をつくる加害者にならないために、私たちの選択の延長線上にすべての社会問題があるということを人に伝えていけるところも、ビーガンと350の活動の共通点。

日南子:あんなと同感。あと、私にとって個人的にビーガンとして生活してきたことは、自分の生きたいように生きるってことですごく気に入っているチョイスだけど、350の活動に参加するようになって、大きく社会を動かしていくためには、やっぱり人と力を合わせて動くことって効果的だなって実感した。

最近夢中になってるゼロウェイストとかミニマリズムみたいに、私個人のライフスタイルを変えていくことを楽しみながら、一方でダイベストメントみたいに、大勢の仲間とシステム自体に働きかけていくこと、マクロとミクロの両方の運動がおもしろいなって思う。350の活動に参加するようになって、大きく社会を動かしていくためには、やっぱり人と力を合わせて動くことって効果的だなって実感した。

それと何より350の活動に参加するようになって、似たスタンスで環境について考えてる仲間が増えて、人生の豊かさや楽しさが増えたなって思うよ!

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食を選ぶこと、口座を選ぶこと。日々の生活のその先を辿っていくと、さまざまなことにつながっている。350 Japanのコミュニティに参加して、アナタも自分にできることを見つけてみてはどうだろうか?

ANNA & HINAKO & IAN

ボランティアに参加する / Facebook / Twitter /  Instagram / 銀行を変える

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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