日本の多くの学校で行われる性教育では、生理や精通がくることを教えられても、妊娠や性感染症などについては最低限の知識しか教えられていないのが現状だ。それには、「早くから性について教えると、性行動が早まってしまう」という大人たちの行き過ぎた心配がある。
しかし、実際に他の自治体に先駆けて高校生や中学生に向けた性の健康を教える講座を開いている秋田県では、10代の人工妊娠中絶率が下がり、全国平均をも下回るようになったというデータが出ている。(参照元:秋田大学)これを全国で行なうには文部科学省の方針の転換が必要だが、それが実現するまで、必要な性教育はどう実施していけばいいのだろうか。
子どもたちに対する性教育が不足しているのは日本だけでなく、状況は違えどアメリカでも同様。だがアメリカでは、驚くべきことに「ティーンエージャーによるティーンエージャーのための性教育」が広まりつつあるという。本記事では、その例を3つ紹介していく。
まずは、性教育で特に欠けているセックスにおける「責任」や双方の「同意」などの分野を教えるティーンエージャーを育成する講座「Teen PEP」。ニュージャージー州とノースカロライナ州で行われている同講座は「レイプカルチャー*1」を問題視し、互いの意思が尊重される環境作りを目指している。
互いの同意がなければ恋人同士の間柄であったとしても、そのセックスはレイプ。セックスをしたくないときには断る権利があると教えることは、性感染症や避妊について教えるのと同様に重要だろう。(参照元:Teen PEP, Broadly ①)
(*1)被害者の心と体を傷つける性暴力が当たり前のように行われること、強引にセックスに誘うことはもちろんのこと、一方的にしつこくデートに誘ってくるなどの相手の意思を尊重しない行為全般を指す
次に、テキサス州の都市オースティンで行われている、ティーンエージャーたち自身が学びたい性の知識を学べるプログラム「Peer 2 Peer」。ここで重視されているのは学ぶ本人たちの声を反映させることだ。ただ知識を教わるだけでなく、性との健康的な付き合い方を重視する考え方を同世代のコミュニティ内で広げることが目指されている。(参照元:Austin Healthy Adolescent, Broadly ②)
最後に、アメリカの性の健康をサポートする機関「Planned Parenthood」(プランド・ペアレントフッド)のニューヨーク支部が行なうティーン向けのワークショップ。ここでもトレーニングを受けた若者たちが11〜21歳に向けてセーフセックスや性感染症、性の問題のサポートの受け方などを教えている。
また、サポーターを務める若者たちが性に関する相談を受けるコールセンターもある。ティーンエージャーに向けて「心配なことがあったら、同世代の自分たちが相談にのるよ」というメッセージを込め、カナダの人気歌手ドレイクの曲「Hotline bling」の替え歌ビデオを作るなどとフレンドリーなアプローチを心がけているようだ。
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性教育は、日本の教育でないがしろにされてきた。だが性教育はオプショナルではない。それは性について理解することで自分自身をレイプカルチャーや望まない妊娠、性感染症から守り、健康的な生活を送るのに必要だからだ。
今後の性教育を考える議論は日本でも行われており、結果的に大人たちが教えられないとしたらそれを情けないことだと感じる人もいるだろう。だが性の知識は年の離れた大人からただ教科書を読みながら教わるより、ティーンエージャーがティーンエージャーにあったアプローチで教えるほうが響きやすく、効果的だとしてもおかしくない。
「必要な性の知識を専門家に聞いて、自分たちで教える」というやり方を日本でも広く取り入れられたら、正しい性の知識を若者の間で広めるのはとても簡単なことなのかもしれない。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。