スケートボードというと1990年代に流行したストリートカルチャー発の遊びというイメージかもしれない。そんなスケボーが、中東の国アフガニスタンでは「平等の象徴」として貧困に苦しむ子供たちを笑顔にしているという。それはどういうことなのだろうか。
日本の1.7倍の国土を持つ、中東の国アフガニスタン。人口は約2,860万人(参照元:外務省①)であり、日本の人口の5分の1程度だ。1979年にソ連が内政に軍事介入してから続く内戦の影響で、この国はさまざまな問題を抱えている。国外に出て行く難民や食料不足などだ。(参照元:外務省②,③)
なかでも酷い現状は、子供たちが「子供でいられる時間」を奪ってしまう「児童労働」や「児童婚」などの問題。家族を養うために労働を強いられている7歳から14歳の子供たちは4人に1人程度いると推定(参照元:AFPBB News)される。
また、アフガニスタンの多くの国民が信仰しているイスラム教は「児童婚」を禁止しているのにも関わらず、女性の児童婚率は極めて高く、5人に約1人が15歳より前に結婚(参照元:日本ユニセフ協会, GOOD Sports)している。
児童労働や児童婚の背景には深刻な「貧困の問題」があり、悲しいことに家族が相手方から得られる「結婚持参金」を頼りに幼い娘を嫁に行かせるケースが多いのだ。(参照元:日本ユニセフ協会)
「スケボー」を使えば、「子供」がもっと「子供」でいられる
アフガニスタンには、「児童労働」や「児童婚」などを強いられている子供たちを支援する団体が数多く存在する。そのなかでもスケートボードを使ってクリエイティブワークやスポーツを中心とした教育活動を行なうユニークな団体がある。その名も「スケートイスタン(Skateistan)」。
彼らはアフガニスタンだけでなく、カンボジア、南アフリカで活動する非営利団体で、特徴的なのは「スケボー」を使った遊びを通して教育を行なうところにある。提供するプログラムはすべて無料だ。
アフガニスタンの首都カブールに暮らす12歳のナジブくんは、学校に行きながら、家族を養うために市場で買い物した人の荷物を運ぶ仕事を1日8時間もしている。
そのため友達と遊ぶ時間があまりない彼が、最も楽しみにしている時間は週に1度だけ参加するスケートイスタンで友達とスケボーをすることだという。稼ぎが減ってしまうため彼らのアクティビティに毎日は参加できないが、家族の理解があるおかげで通い続けられている。(参照元:GOOD Sports)
スケートイスタンは、彼のような事情を抱えた子供が「児童婚」や「児童労働」の問題から離れて、「子供でいられる時間」をなるべく持てるように働きかけている。スケートイスタンに参加している子供の半分以上が、ジェンダー格差により立場の弱い女の子か、道端で働かされている子供だ。
「クリエイティブな力」の持つ大きな意味
さらに、スケートイスタンはアフガニスタンの一般的な学校では教わることのできないクリエイティブワークを教えている。プログラムは大きくわけて3つ。①スケボー&クリエイト、②バック・トゥ・スクール(学校に通えていない子供の学習を助けるもの)、そして③ユース・リーダーシップ。
幼い子供も参加できる「スケボー&クリエイト」では、スケボーだけでなく、ペイントや彫刻、写真などのアートの体験の機会を提供し、人権や環境について教えている。(参照元:Skateistan)
このようなクリエイティブワークは、果たしてどのような教育的意味を持つのだろうか。クリエイティブな教育は、家族のために労働を強いられている子どもたちにとって必須なものではないという見方もあるかもしれない。
だが、そんな環境にいるからこそ、狭くなっている世界を広げてくれる「クリエイティブな思考」が必要なのではないだろうか。学ぶ楽しさを知ることで、発想力や物事の捉え方が広がり、将来の目標を幅広い選択肢から見つけられるようになるのだ。
スケボーがもたらす効果
今や、アフガニスタンの女性スケーター数を世界一にまで成長させたスケートイスタンは「スケボーは平等の象徴」だと考えている。例えば、宗教上、女性が自転車に乗ることは好ましくないが、スケボーは性別を問わず乗ることができるからだ(だが宗教に配慮して女性だけのクラスを設けている)。
そこでさまざまな人と関わりながら行なうスポーツやクリエイティブワークを通して芽生えるのは、自分に対する自信や、自らが次世代の「ロールモデル」となってやろうとする意識である。(参照元:Skateistan)
なかには、プログラムを通してスケートイスタンのボランティアになったり、子どもたちを指導する立場になる子たちが存在する。
現在13歳のラティファちゃんもそうだ。彼女はスケボー&クリエイトプログラムを経て、スケボーを教える役に選ばれ、スケートイスタンの運営を手伝ったり幼い子供たちの指導をする体験をしている。彼女がスケートイスタンに来るのは「好きで学びたいものがあるから」だという。(参照元:Skateistan)
このように、スケートイスタンはスケボーで、アフガニスタンの子供たちに「子供でいられる平和な時間」と「その後の人生に大きな変化をもたらす経験」を提供し、児童労働の問題に取り組んだのだ。
彼らの取り組みに習えば、世界の問題を解決しようとするとき、既存の方法にとらわれるのではなく、前例のないやり方で挑戦してみるのがいいのかもしれない。問題の解決だけではなく、驚くべきことに、アフガニスタンの女性スケーター数を世界一にまで成長させたのだから。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。