「あなたはうつです。軽度なのが幸いですが…」。
筆者が医者にそう言われたとき、意味がわからなかったことを今もよく覚えている。うつが厄介なのは、本人に必ずしも自覚があるわけではないという点にある。無自覚の原因は、うつへの理解不足だ。
単純な話、うつになったことがない人間が「これがうつなのか」と本当に理解するには、それを体験するしかない。実はうつが風邪のようにありふれている病気だと知らない人は多い。
そして意外なことに「健全な肉体と精神を鍛えるために」というお題目で語られるスポーツ界にも、うつが溢れている。
知られざる、メッシの闇。サッカーとストレスの語られない関係性。
米フォーブスが6月、「世界で最も稼ぐスポーツ選手」ベスト100を発表した。そのトップ3のうち2人はサッカー選手。クリスティアーノ・ロナウド(102億)とリオネル・メッシ(87億)だ。
彼らは人間離れした超絶技巧で富と名声を得てきた。その身1つで巨万を稼ぎ、浮名を流し、世界中の広告に起用されている。
特にメッシは、歴史上最高のフットボーラーであるという言説を、確固たるものにしつつある。ピッチで人々を熱狂させ、街を歩けば絶叫に似た歓声を浴びる。彼は華やかな世界をひた走っているように見える。
そんなメッシに最初に異常が確認されたのは今から6年前。ピッチの上や自宅でたびたび吐き気を訴え、試合中に嘔吐するシーンが目撃されるようになった。原因は不明だが、ストレスがその一因であることはよく指摘されている。(参照元:Mirror)世界から集まる羨望のまなざしは、同時にプレッシャーになって彼らを襲う。
このプレッシャーに押しつぶされてしまったのが、当時ドイツ代表のゴールキーパーとして活躍していたロベルト・エンケ。
2009年11月10日、彼は踏切に立ち入り、快速電車に身を委ね、自ら命を絶った。翌日、彼の妻が記者会見で明かしたところによると、エンケはうつに悩まされていたという。(参照元:BBC)
サッカーとストレス。あまり語られないテーマだが、「プロフットボーラーの3割がうつ。またはそれに準ずる精神的問題を抱えている」と、国際プロサッカー選手協会(FIFPro)が発表した2015年以降は、以前より議論がなされるようになってきた。
今、「うつ」への理解を深める意味。
世界保健機関(WHO)が、各国に保健医療の啓発を促すために毎年定める「世界保健デー」。今年のテーマはうつだった。彼らの発表によると、現在全世界で3億人以上、全人口の4%がうつに悩まされているという。
もはや全人類が抱える現代病ともいえるうつだが、私がかかった医者によると、うつ病者の半数が初診時、病に無自覚だったという。この恐ろしさといったらない。まるで健康だと思っていた自分の身体が、実は病理にむしばまれていたなどと誰が信じられるのか。いつの間にか取り返しのつかないところにまでいってしまっている。これがうつの本当の怖さである。
十人十色の症状が出るうつだが、共通するのは“虚脱感”、“疲労感”、“食欲減退”、”睡眠異常”などだ。具体的に言うと、“歩くことすらだるい”、“休日は寝てばかり”、“好きなものも食べる気がしない”、“最近感情が薄くなった”という人は注意してほしい。
専門医ですら、うつの多彩な症状に頭を悩ませるが、これらは典型的なそれである。うつへの理解を深めることは、自分はもちろん、大切な人を救うすべにもなる。ピッチの上では無敵に見えるサッカー選手であれ、一般人であれ、うつは等しく降りかかるのだから。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。