アメリカ ノースダコタ州で先住民スタンディングロック・スー族の保留地の水源が汚染されるという理由から、抗議デモが続いていた石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設計画。「ダゴタ・アクセス・パイプライン」は、ノースダゴタ州からイリノイ州までつなぐ1886キロのパイプラインを建設するプロジェクト。しかしこのパイプの工事はこれまで何度も石油の流出事故により、多くの場所で水が汚染されていた。
アメリカの先住民スタンディングロック・スー族は、水源のミズーリ川、そして先祖から受け継いだ土地が汚染されことを懸念し抗議デモを続けていた。
そして12月4日、アメリカ陸軍省は水源となるミズーリ川をせき止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を許可しないと発表。
ダコタ・アクセス・パイプラインの建設中止のニュースは、数か月にわたって計画に抗議していた先住民や環境保護活動家たちにとって、この決定は歴史的な勝利となった。
200以上の部族代表、524人の聖職者が集結
このダコタ・アクセス・パイプラインの反対デモ活動(NoDAPL)は、ただの環境保護運動ではない、もっと根深い問題である。
アメリカ先住民たちは植民地時代から、白人の開拓者に土地を奪われ、暮らしを奪われ、子供達を奪われ、言語を奪われてきた。スタンディングロックは白人が保留地として、先住民との土地問題を解決すべく、彼らとの条約を結び住まわせた場所である。その保留地の法律は部族に任されているのだが、白人文化と同化させることも条件としている。
その保留地スタンディングロックで起こった今回のダコタ・アクセス・パイプラインの反対デモ隊は、なんと200以上の部族出身の代表者などが参加し、自ら「Water Protector(水の保護者)」と名乗り、その反対活動に加わった。
その活動はアメリカの先住民だけにとどまらず、南米エクアドルのアマゾンの先住民がスタンディングロックを訪れ、その抗議活動に加わるなど、同じ支配下に置かれた先住民として南北が共にあることを表明した。
そして11月にはアーヴォル・ルッキングホース族長の声に22種類の様々な信仰、宗教の聖職者たち524人がアメリカ各地からスタンディングロックを訪れ、警察の暴力行為に遭いながらも非武装の平和的な方法で先祖からの水を守ろうとする参加者たちをサポートした。
セレブリティ、政治家の参加で、広がったムーブメント!
この抗議の声はメディアでは大きく取り上げられなかったにも関わらず、アメリカ中、そして世界中に広まっていった。
その声は先住民や環境活動家だけでなく、セレブリティ、政治家、ミュージシャンたちにも届いた。
ハリウッドスターのシャイリーン・ウッドリーは、先住民や環境活動家と一緒にデモ活動に参加。しかしアメリカのホリデー「Indigenous Peoples’ Day (先住民の日)」である10月10日に、200人の「Water Protector (水の保護者)」と並んでデモ活動に参加していた時、不法侵入の罪と、活動に関与した罪で逮捕されることになる。
アメリカ人が先住民に敬意を表すべき『Indigenous Peoples’ Day(先住民の日)』に、私は逮捕されたの。たくさんの人が私と一緒に囚われたけど、多くは還してもらえたわ。でも私は知名度があることと、4万人のフォロワーがいることが原因で還してもらえなかった。いろんな色の肌の人が、この事実に気が付き、真実の一歩を踏み出さなければ、私たちの大切な自然を、土を、水を、極めて重要なものを守ることはできないわ。そして私たちは健康を失い、未来の世代にこの貴重な豊かな地球を継ぐことができなくなるわ。(参照元:TIME)
この抗議活動には多くのハリウッドスターやセレブ、ミュージシャン、政治家があらゆる形で賛同した。
ジル・スティン女史は当時大統領選に立候補していた緑の党の政治家。スタンディングロックを訪れていた彼女はブルトーザーに「“I approve this message(私はこのメッセージに賛同する)”」と赤いスプレーでペイントし、逮捕状を出されている。(参照元: The Gurdian)
逮捕者が相次ぐと、「警察はFacebookのチェックイン機能を使って、参加者の動向を確認している」という噂が出始めた。すると多くの支援サイトが、「スタンディングロック保留地のFacebookページにチェックインしよう!」と呼びかけた。するとなんと160万人もの人がサイトにチェックイン。
こうして著名人の活動やSNSなどを通して、その声は広がっていったのだ。
警察のひどい仕打ちと、アメリカの抱える先住民問題
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日本のデモ活動というのは、とても穏便に行われるが、アメリカのそれは全く違う。デモ活動は非武装で行われていたにも関わらず、デモ活動で不法侵入や活動に関与した罪で、400人以上が逮捕された。そして警官が威嚇のため犬を抗議者に攻撃させ、デモ参加者を流血させたりもしている。
それでも抗議者たちは力を緩めなかった。
…と、そこへ退役軍人が続々と現れ始めた。そしてその数は2千人となり、非武装の抗議活動者の保護として「人間の盾」を作ったのだ!その後も警察の暴力行為は続き、催涙スプレー、ビーンバッグ弾(殺傷能力のない散弾銃)、ゴム弾などが使われた。そしてその結果、たくさんの活動家が重軽傷を負った。21歳の若き女性参加者は腕を切断するという重症、また催涙スプレーによって失明の危機にさらされた者もいる。
その後、冬の氷点下の気温の中、放水による攻撃を受け、抗議者の団体の数百人は低体温症による治療を受けるなど、非武装の抗議活動に、当局は執拗に攻撃を続けた。そして食料の供給ラインを封鎖すると脅し、先住民の立ち退きを迫るが、彼らがそれに屈することはなかった。
これはアメリカ政府(主に開拓者のヨーロッパ人)がこれまで先住民をどのように扱ってきたのかを見せつける事件にもなった。アメリカはアメリカ人の国ではあるけれど、どんなに移民が増えたとしても、先住民の土地であることに変わりはない。
誤解を恐れずに言えば、アメリカ合衆国というのは、他国が「開拓」という名のもとに、その地を侵略し、その後政治を司り、先住民を大量虐殺し、文化や言葉や土地を奪い、絶滅の危機まで追い詰めた上に誕生した国である。その歴史は今も確実に続いていることを、今回の事件が明らかにしたのだ。
歴史的勝利!湧き上がる上がるスタンディングロック!
そして12月4日。奇跡は起きた。当局が「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設計画について、水源となるミズーリ川をせき止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表したのだ。
スタンディングロック保留地では歓声に包まれた。8月から続いていたこの長い抗議活動の末の歴史的な勝利。スタンディングロック・スー族の族長、デイブ・アーチャムボールトII世はこう声明している。
我々は当局の決定を心より支持する。これまでの歴史の誤りを正し、正しい行いに戻してくれたオバマ大統領、陸軍工兵隊、司法省、内務省の勇気ある行動を最高の感謝を持って褒め称えたい。(参照元:BuzzFeedNEWS)
祝賀パーティではこんな声もあった。
まだ終わったわけではありません。彼らが退去するまで、私たちはこの場所を離れません。いつでも嘘は存在し、以前にも嘘をつかれましたから。それでも今夜は祝います。(参照元:MailOnline)
その夜、スタンディングロック保留地では、パーティが開かれ、花火が上がり、この活動に関わった全ての人がこの奇跡に感謝し、喜んだ。
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地球と共に生きる先住民の暮らし
私たちは「開発」という名の下に、たくさんの自然をコンクリートで埋めたり、掘ったり、削ったり、汚染したりしてきた。そして都市を作り、仕事を作り暮らしてきた。それが私たちの社会形式である。
しかし、この地球上には今もたくさんの先住民が、昔からの伝統的な文化と社会形式で暮らしていることを、決して忘れてはいけない。彼らは自然の中で生き、自然と循環して暮らしている。その暮らしは現代の日本人の暮らしからすると、発展していないようにも見えるかもしれない。
しかしそれは価値観の違いである。彼らは今まで何千年も続いた暮らしを続け、何千年先の未来にも継続していける暮らしを大切にしているのだ。自然と共に暮らす彼らは、自然がなくなれば生きていけないことを知っている。
今回のスタンディンロックの抗議活動による大勝利は、自然と共に暮らすスー族の魂が起こした奇跡だった。それは終わりなき開発を行い、自然を顧みない現代社会に、スタンディングロック・スー族が警鐘を鳴らしたようにも聞こえたのである。
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。