「ホームレスにしかできない仕事」。街について誰よりも知っているホームレスが行う観光ツアーの魅力

Text: AMI TAKAGI

PHOTOGRAPHY: ©️SUPERTRAMPS

2018.3.16

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新たな街へ旅をするとき、準備の仕方は人それぞれ。天気予報を見て洋服を選ぶ。行きたい場所を全てノートにまとめ、携帯のグーグルマップに星をつける。どのフィルムカメラを持って行くか悩み、フィルムロールの数をチェックする。もしくは何も計画せずにその旅に身を任せる。準備の段階からその人の旅のスタイルが見えてくるかもしれない。しかし、旅する人全員が共感できることが一つある。それは、旅先の真の姿を経験したいという気持ち。

オーストリア、ウィーンには自分の街の「真の姿」を広めようとしている団体がある。それは、ホームレスが見せる街の素顔。

アル中。ヤク中。「ホームレス」という言葉から浮かぶイメージ

ホームレスについての世界的な調査をするのは簡単なことではない。誰をホームレスと定義するかが国ごとに違ううえ、各国の機関がすべてのホームレスを把握できていないのが現実である。2005年に世界中のホームレスの人口を調べる調査が国連によって行われ、その数は1億人*1といわれた。 (参照元:HOMELESSWORLDCUP)そして、日本では2015年に厚生労働省が調査した結果、6,541名と発表された。(参照元:Yahooニュース

(*1)国ごとが独自に調査を行い、それぞれの結果をまとめたものである。ここで考慮に入れなければならないのが国によってホームレスの定義が違うこと。

ホームレスの定義が決まっていないとはいえ、ホームレスに対する固定観念は国を超えて共通している。ホームレスを目にしたときや、言葉を聞くだけで思い浮かぶイメージ。

怠惰、薬物中毒者、アル中。ホームレスになった理由が何であろうと結局は、自業自得。

そういったイメージで人をくくることは、その人独自のストーリーを単純化し、悪質なイメージを植え付ける。それだけではなく、その自己責任論は、世間のあり方、誰にでも起こり得る人生の転換や挫折などの様々な理由を無視することとなる。だから私たちは一人ひとりのストーリーを聞き、理解する必要があるのではないだろうか。

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ホームレス・ツアーガイドが提供する新たな視点

SUPERTRAMPS(スーパートランプス)は2015年にオーストリアのウィーンでホームレス支援の活動をしていたKatharina Turnauer(カタリナ・トゥナー) によって設立された。この団体は、現在もしくは過去にホームレスだった人をツアーガイドとし観光客にツアーを提供している。ツアーガイドになりたいと立候補した人をトレーニングし、独自の経験とストーリーを基にその人ならではのツアーを制作する。もちろん、彼らにはツアーごとに給料を支払っている。

ツアーは予約形式であり、今現在活動中のツアーガイドは5人。団体は常に新たなツアーガイドを探している。

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スーパートランプスがホームレスの人をツアーガイドにするのは金銭的に困っている彼らにただお金を渡すことだけが目的ではない。様々な理由から世間に戻れなくなってしまった人に前へ進む最初のステップとなるチャンスを提供しているのだ。そのチャンスは過去の経験を隠すのではなく、尊重してこそあるもの。ホームレス生活という経験からしか知り得ない場所や知識、そして現実をツアーを通し伝えている。ガイドが自分自身の経験と想いからツアーを作成することで、ツアー参加者は街のホームレスに対する不十分な対策の現状が知れるだけでなく、そのパーソナルなストーリーに心動かされたり、共感が生まれたりする。

欲しいのはお金ではない

ガイドはツアーを通し世間とのつながりも作ることができる。ホームレスである以上、世間は手を差し伸べる前に指をさし全責任を押し付けるか、壁を作り入れさせないことが多い。スーパートランプスの活動はホームレスになってしまった人が次の一歩を踏み出す為に自尊心を持つきっかけとなる。そして、参加者はユニークなツアーを楽しめると同時にガイドとの結びつきが社会問題への認識を高めるきっかけとなる。ホームレスになるのは誰にでも起こり得る現実であるからこそ理解し、助け合う必要がある。

スーパートランプスのウェブサイトでは、ガイドを一人ひとりストーリーとともに紹介し、ツアーを通して彼らが伝えたいメッセージを掲載している。それを見て参加者は自身の興味に合わせて予約ができるのだ。

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Sandra(サンドラ)
ツアー名:My Center for Strong Women (私が見つけた強い女性の居場所)

自身の幼い頃の経験と女性ホームレスならではの苦労を話す。このツアーを通してサンドラは女性に強さと信じる心の大切さを伝えている。

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Ferdinand (フェルディナンド)
ツアー名:My Unexpected Hope (私の思いがけない希望)

3年半のホームレス生活で知った、タダで服や食べ物をもらえる場所、気づかれずお手洗いを使える場所などを自身の人生をディープに語りながらまわるツアー。法律とホームレス事情をどのような形で変えていけるか話し合うことを心がけている。

街とホームレスの共存

人は街にある仕事の数、そして職種の多さから都市に集まる。だが、世界の人口、そして街の人口密度が増えるにつれ、土地の価格が世界中で年々上がっている。今まで支払いが可能だった家賃が上がり、ホームレスにならざるを得ない人がいるという例は少なくない。

世界中の街では、ホームレスの人口が増えていくなかで「隠す」、「追い出す」が対策となっている。街に住む人もホームレスの姿を見ることに慣れてしまい、思いやりが薄まりつつあるかもしれない。だからこそ、スーパートランプスへの参加などを通して実際にホームレスの人と話し、わかり合う必要がある。そうすることで街の市民として「無視するべきではない」という責任が見えてくるだろう。ホームレスへの固定観念を捨て、新たな目で見るきっかけを生むスーパートランプスのような活動で、ホームレスと市民を差別化する街のあり方は変われるかもしれない。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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