とにかく人恋しい。そんな時、いつでも「知らない誰か」と話せる「ノープラン電話」が現代社会に必要なワケ

2016.11.30

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「とにかく誰かと話したい」。こんな時、あなたはどうしているだろうか?ついついSNS上でつぶやいて、だれかの返答を待ってはいないだろうか。そんなことをしなくても、いつでも話し相手が見つかる「とある番号」がある。その番号にかけるだけで必ず「誰か」と話せるのだ。

会話の最初は「もしもし、誰ですか?」

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(Photo by The Swedish Number)

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誰にでもある、人恋しい時や寂しい時。そんな人々の“なんとなくの虚しさ”を埋めるため、スウェーデン政府が面白いキャンペーンを実施した。それは、ある電話番号に電話をするだけでスウェーデンに住む「誰か」にランダムで繋がる『THE SWEDISH NUMBER』と名付けられたキャンペーンだ。実際に用意された番号は「+46 771 793 336(現在はストップ中)」で、スウェーデン政府によって幅広く告知された。

そしてここには世界のどこからでも掛けることが可能で、電話が繋がればその時初めて話す「誰か」と自由に会話を開始するのである。もちろんテーマなどはない。会話を作りあげていくのはあなたと「誰か」なのだ。その「誰か」となる話し相手は、ボランティアとして登録されているスウェーデン在住の幅広い世代の男女たち。彼らの職業も薬剤師、ダンサー、主婦な様々だ。もちろん、誰に繋がるかは掛けてみなければ分からない。(参照元:Adweek

「私は、スウェーデン大使です」も、ありえる話

この『THE SWEDISH NUMBER』は、今年4月に開始されて以来、瞬く間に世の中に知れ渡った。その数はこの番号が閉鎖された6月まででなんと約20万件にも上るという。(スウェーデンの政府観光局調べ)

もちろん何度もかけて来る人もいたし、ほとんどのボランティアスタッフが英語を話せることからアメリカやイギリス、オーストラリアをはじめとする海外からの架電も多かった。また、ボランティアスタッフの中には「スウェーデン大使」も参加しており、スウェーデン大使と繋がったラッキーな人は、気候のことやスポーツイベントのこと、さらには他では聞けないようなスウェーデンにまつわる面白い裏話で盛り上がったそうだ。(参照元:THE LOCAL se

政府がこのキャンペーンを行った理由は、今年はスウェーデン政府にとって、検閲を廃止し言論の自由を確立してから250周年にあたる年だからという。私たちは今、誰にも制限されずに思ったことを発言する「権利」を手にしている。そのすばらしさに改めて気づかされた人も多いようだ。

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「知らない人」は「危険」という妄想

この「見知らぬ人と話す」ことの大切さは多くの人が提唱している。たとえば、『TED』に登場したキオ・スタークは、知らない人と話すべき理由について、「自分がその社会のコミュニティの一員であることを認識するために必要なことである」と話す。知らない人と会話を交わすことで、自分の存在意義を確認し、自分が自分らしくなれる場合があるからだそうだ。(参照元:TED Talks)このことは科学的にも証明済で2014年にアメリカの旅行代理店『Egencia』行った研究によれば、知らない人と話すことはかえって精神を安定させ気持ちが明るくなることが分かった。(参照元:Inc.

私たちは知らない人と話すことは危険なことだと教えられて育つ。しかし、それは同時に自分の感覚を鈍らせることでもあるのかもしれない。しかし、「知らない人=危険な人」に即座に分類してしまうことで、人を見る目を養う機会を奪ってしまうのではないだろうか。本来ならば、相手を知るためには自分の感覚を使い、それを信用することが必要だ。その人の背景を勝手決めつけ、話すことを拒否してしまうことは「見る目」を失うことでもあるのかもしれない。

知らない「誰か」という、信頼できる選択肢

今年はスウェーデン政府にとって「言論の自由」を手にしてから250周年目であるというが、世界にはこの時代においてもまだその自由が認められていない国も多い。それは発展途上国のみならず、世界に影響を与えている中国までもそうである。実は日本でも、大日本帝国憲法(明治憲法)で初めてその自由が認められ、現在のように全く言論に制約がかからなくなってからは、まだ30年ほどと歴史が浅い。

もっと昔から言論の自由があるように感じるが、その権利を勝ち取るまでにはかなりの時間を要したのだ。しかし今、私たちは誰かに話す自由を手にしながらも、気軽に誰かに話しかけることのハードルが高い世の中にいる。だが、知らない人同士は互いの背景も知り得ないため、相手に多くの期待もしない。そのため、もしかしたら、近い友人や家族よりも心が通じ合えるのかもしれない。話をしたいとき、友人や家族のほかに「誰か」という選択肢があってもいいのかもしれない。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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