「恋愛観や政治的な見解が合わない人も呼びたい」大学生2人が“壁のない”30時間イベントを開催する理由|#すべてをつくる 都市型フェス『M/ALL』への道 #002

Text: MAKOTO KIKUCHI

Photography: Daigo Yagishita “wooddy” unless otherwise stated.

2018.4.23

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音楽、アート、都市を繋ぐ新感覚都市型フェス『M/ALL』が5月26日(土)に東京・渋谷で開催される。同フェスにフィーチャーし、イベント運営メンバーと参加アーティストにインタビューをしていく企画、第2弾。今回取材をしたのは、イベント開催会場の一つ渋谷の「GALLERY X BY PARCO」でキュレーションを務める中川えりなさん、haru.さん。

二人は普段、それぞれのインディペンデントマガジン/イベントの運営をしている。中川えりなさんが立ち上げたMaking-Love Clubは「政治も愛もセックスも、カルチャーの最前線に」をテーマに掲げ、年4回、イベントの開催とマガジンの発行をしているクリエイティブ・コレクティヴである。haru.さんが編集長を務めるHIGH(er) magazineは、毎号多くの若手クリエーターとコラボレーションし、フェミニズムや政治といったトピックも包括的に取りあげているメディアだ。東京のユース達のなかでも一際アイコニックな存在として、度々メディアにも取り上げられる二人が、今回のイベントを通して私たちに見せてくれるものとは—。

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▶︎中川えりなさんのインタビュー記事はこちら
▶︎haru.さんのインタビュー記事はこちら

テーマは政治家にも恋愛の話を振れる「路上」

中川えりな(以下えりな):haru.が展示するアーティストのキュレーション、私がトークセッションのオーガナイズっていうふうに担当が分かれているんです。

haru.:フェスが開催されている30時間、GALLERY Xでは常に何かが生まれ続けている構造になっています。ライブ会場では、アーティストが演奏しては終わっていく、っていう連鎖だけど、ギャラリーでは常に何かが生まれ続ける。今回のGALLERY Xでの展示には「路上」というテーマを設けています。誰にでも開かれた場所で、垣根をまたいでいろいろなバックグラウンドを持つ人がトークや展示をしていく、そんな企画です。

えりな:トークでは、ジャンルをまたいでいろんな質問を関係のない職種の人に投げていきたいです。建築家やファッションに関わっている人に政治の話を振ったり、政治家に恋愛の話を振ったり。そこにある垣根をどうまたいでいくかっていうのは実は私がいつもMaking-Love Clubでやっていることなんですよね。関係ない話をしていても根幹が一つあると、どんどん枝分かれしていくトピックを拾っていける。具体的にはまだ決まっていないのですが、原発についての意見、それから最近の時事問題についても取りあげる予定です。アラーキー(荒木経惟)の #metoo問題*1が話題になっていますが、そのあたりも是非みなさんに聞いてみたいですね。

haru.:展示は「アーティスト・イン・レジデンス」と名付けています。私がキュレーションしたアーティスト5人くらいが、その「路上」にずっと住んでいて常に作品の制作を行っているというイメージです。

(*1)女性のヌード写真で知られる写真家・荒木経惟が2000年以降、自身の作家性に多分に影響を与えるモデル「ミューズ」として、これまでにもしばしば名前を挙げてきた一般女性・Kさんが、荒木氏から長年に渡り受けてきた精神的苦痛を女性の個人ブログにて告白した。女性は、同氏に呼ばれた撮影で、事前の説明もなくヌードになることを強要させられるなどしたという

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ーM/ALLのオフィシャルインスタグラムはえりなさんが担当されているとうかがいましたが、他国で起きている社会問題を取りあげたドキュメンタリーを投稿されていたのが印象的です。「世界と自分をどこまで接続するか」というのは、ご自身のイベント、Making-Love Clubでも取りあげていたトピックですよね。今回のプロジェクトとお二人の普段の活動は、やはり多かれ少なかれ連動してるのでしょうか?

haru.:今回のプロジェクトは、自分たちが普段やっていることの延長線上にあるんです。これまでHIGH(er) magazineが、多くのクリエーターと誌面上でコラボレーションをして、政治的・社会的なトピックを取り上げてきました。それが誌面から飛び出たみたいな感覚ですね。唐突じゃない。

駆け出しのクリエイターの参加で敷居を低く

ー今回たくさんのアーティストが参加しています。エンターテイメントの世界にいる人が自分の社会的、政治的な姿勢を表立って世間に示すのは、あまり日本では見かけないことですよね。これは最近の流れだと思いますか?

えりな:M/ALLの前身は、数年前からあるんです。2012年に「脱原発」をテーマにしたロック・フェスティバル「NO NUKES FES」が、坂本龍一さんの呼びかけで始まりました。だからこれまでになかった、というわけではないんですよね。

haru.:ただそういったビッグネームばかりが揃ってしまうと私たちみたいな駆け出しのクリエイターは参加しづらい雰囲気があって。私たち若手が積極的に参加しているのが見えたら、敷居を低くすることができるんじゃないかと思います。

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M/ALLの運営メンバーたちと

ー今回M/ALLは、イベントの無料開催を目指してクラウドファンディングを行っていますよね。インディペンデントメディアを運営する二人にとって、クラウドファンディングはどんな存在ですか?

えりな:Making-Love Clubは実はあえてクラウドファンディングをしていないんです。ただそれには、こういった社会的なメッセージを発信するメディアがビジネスとしても成立し得るんだということを(本当に利益を生んでいるかは別として)外にアピールしたかったから。私自身、周りにいる社会的なメッセージを訴えるクリエーターやアーティストにお金が集まっていないということがすごく気になっていて。「そういうところにお金は出ない」というイメージを作るのは良くないって思ったんです。ファッションだとか、消費行動を促す業界にいると、社会的な意識を持っていても行動に移すのがなかなか難しい。それは、簡単に消費文化に取り込まれてしまうから。だからそういう人たちが参加する手段の一つとしてメディアに広告を入れる「広告協賛」の選択肢があるっていうのは重要なんじゃないかな。

haru.:HIGH(er) magazineは二号目を作ったときにクラウドファンディングをしました。私も実際にクラウドファンディングをしている友達を支援することはよくあります。自分が実現したいと思えるものを、それをやっている人を支援することでそのことへ賛成を表明できる。直接じゃないけど、参加できるっていうメリットは大きいですよね。

えりな:私も、若い子がクラウドファンディングで資金を集められるということにはすごく賛成しています。それが基本になればいいなって。

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保守的な意見を言いづらい世の中が、良い世の中だとは思わない

ーえりなさんは以前、他媒体のインタビューにて、Making-Love Clubのトークセッションに招くゲストに「一緒に飲みたくはないけど議論はしたい人」も含めたいと話していましたよね。今回の企画のトークゲストには、「一緒に飲みたくはない人」も呼ぶ予定ですか?

えりな:たぶんそのときは、「自分とは反対の立場の人」っていう意味で話していたんじゃないかな。ラインには追加したくないけど話してみたい、みたいな。今は「何かで一緒だけど何かで違う人」をM/ALLに呼べたらいいなと思っています。根本的には同じだけど、例えば恋愛観や政治的な見解となると意見が分かれる人とか。別に、保守的な意見を言いづらい世の中が、良い世の中だとは思わないですし。アメリカでトランプ政権が誕生したことで“表面的なリベラル”が進んでいるのは目に見えていて…。私たちが目指すところはそこじゃないと思うんです。

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ーM/ALL全体のテーマ「消費を終わらせる」について、それぞれの見解をお聞かせください。

えりな:M/ALLの全体のテーマとして「消費を終わらせる」っていうのがあって。ドントラ*2で音楽イベントを開催したときは、「選挙に行こう」っていう本来のメッセージよりも、アーティストの人気が先行してしまったという印象がありました。例え社会的な意識を持っていたとしても、それを浸透させるためにはうまく消費に取り込むしかないっていうふうに思っている人がほとんどですよね。でも本当はそうじゃなくて、消費にとどまらずにきちんと文脈づくりみたいなものをすることができるんじゃないかと。M/ALLはその実験の場でもあるんです。

haru.:実際、私やえりなはメディアに出たり、大手企業の広告にモデルで起用されたり、消費の対象になっている部分もあって。でも、それで人に知ってもらうことで活動を後押ししてもらうきっかけにもなるから、消費自体を否定はしません。ただ、今後はバランスをとっていきたいなとは考えています。

えりな:一時は、路上も「消費」だったと思うんです。デモや街宣が自意識の矛先として機能していた。そこはSEALDsが変えた部分なんじゃないかな。「自分の言葉で話す」というのはSEALDsが最も重要視していたところ。フライヤーやプラカードのデザインにこだわったのは人に届けるためだったから、それがメディアの目について、確かに表面的には消費されていたように見えていたのかもしれないけれど…。M/ALLというタイトルにはショッピングモールという意味での“モール”も掛かっています。クリーンにしすぎるのではなくて、“消費”そのものの付加価値も認めていけたらいいんじゃないかな。

(*2)「DON’T TRASH YOUR VOTE」。2016年、SEALDsと12XUがコラボレーションしたキャンペーン

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「SNSを巧みに使いこなすネクストジェネレーション」「クリエイティブで発進力を持ったミレニアルズ」そんな耳障りの良い言葉を並べているうちに、メディアは若者を消費することに慣れてしまった 。その力は思ったよりも大きく、若く才能に溢れた彼らをほんの数年、数ヶ月の間で押し流してしまう。

そんななか、自らが立ち上げたメディアを介して、新たなストリームを作り上げたのがこの二人である。彼女達は知らず知らずのうちに周りの人を巻き込んで、誰も予想していなかった新しいコミュニティを作り上げてきた。5月26日、二人が“MAKE”するものは、私たちの期待を良い意味で裏切って、想像を軽やかに超えてくるだろう。その瞬間そこにいるあなたは、きっともう目撃者ではなくなっているはずだ。

THE M/ALL

クラウドファウンディング

「音楽」「アート」「社会」をひとつに繋ぐ”カルチャーのショッピングモール”、「THE M/ALL」が渋谷で初開催! 「MAKE ALL(すべてを作る)」のマインドで、この社会をいまより少しでもマシなものにするために。クラウドファンディングを通し本イベントの無料開催を目指します。

「音楽xアートx社会を再接続する」をテーマに、ミュージシャン&DJによるライブ、アートと社会問題について各分野の若手クリエイターや専門家が語り合うトークセッション、会期前日から会場に滞在するアーティストがその場で作品を作り上げていくアーティスト・イン・レジデンスなど、さまざまな企画が4つの会場(WWW、WWWX、 WWWβ、GALLERY X BY PARCO)をまたいで同時進行します。

<WWW / WWW X / WWWβ>

2018年5月26日(土)

OPEN 15:00 / START 16:00

<GALLERY X BY PARCO>

2018年5月26日(土)~5月27日(日)

OPEN 15:00 / START 16:00

【出演者】

<WWW / WWW X / WWWβ>

出演アーティスト

・コムアイ

・BudaMunk

・MOMENT JOON

・odd eyes

・行松陽介

・1017 Muney

・Gotch

・Awich

・田我流

・Yellow Fang

・テンテンコ

・Maika Loubté

・Bullsxxt

<GALLERY X BY PARCO>

出演アーティスト

・中川えりな(Making-Love Club)

・野村由芽(She is)

・桑原亮子(NeoL)

・haru.(HIGH(er) magazine )

・村田実莉(アーティスト)

・ヌケメ(ファッションデザイナー/アーティスト)

・歌代ニーナ(マルチクリエイター)

・JUN(Be inspired!)

・UMMMI.(映像作家)

・五野井郁夫(国際政治学者)

・奥田愛基(😉)

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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