国や人種、宗教は関係なく「一人ひとりは個人でしかない」。マイカ ルブテが考える“本当の多様性”| #すべてをつくる 都市型フェス『M/ALL』への道 #004

Text: Reina Tashiro

Photography: Kotetsu Nakazato unless otherwise stated.

2018.5.16

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5月26日(土)に東京・渋谷で「音楽×アート×社会をつなぐ都市型フェス」が開催される。「Make All(すべてをつくる)」というメッセージ、そして「カルチャーの集まるショッピングモール(Mall)のような場所」という意味が二重に込められたイベント名は『M/ALL(モール)』。 クラウドファンディングが目標に達成し、すでに無料開催が決定している。

イベント開催に向けて『M/ALL』の運営メンバーや参加アーティストに取材をしていく連載の第4弾として、今回Be inspired!は、シンガーソングライター・トラックメーカーであるマイカ ルブテ(Maika Loubté)さんにインタビューを行なった。

日本人の母とフランス人の父を持つ今注目のアーティスト、マイカさんが語る多様性とはなにか。そして、分断された社会にもたらす音楽の喜びとは。

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世界には、個人しか存在していない

2017年3月にリリースしたEP『SKYDIVER』がJ-WAVE「TOKIO HOT 100」に選出されるなど、国内外で活躍の幅を広げているマイカさん。今回、「音楽とアート、社会をひとつにつなぐ」という『M/ALL』のコンセプトに共感し、出演を決めた。ただイベントでは「純粋に音楽を楽しんでほしい」と素直に話す。

M/ALLには、自分の考えを伝えるために出演するわけじゃないんです。音を楽しむ、音をつくることそのものが、私の音楽へのスタンス。だからイベントでは純粋に音楽を楽しんでほしい。私は小さい頃から引っ込み思案だったし、伝えたいメッセージが強くあるタイプではなくて。みんなそれぞれ違う人生を送っているんだから、色々なことを考えているのは当たり前。それでいいと思うんです。

そんな彼女の大らかなスタンスを形づくったのは、日本とフランスという文化の異なる二カ国で暮らし、教育を受けた経験だろう。フランスで過ごしたのは幼少期と、小学校高学年から中学校卒業までの計8年間。現地で通った学校は、フランス人も日本人もほとんどいないインターナショナルスクールだった。

それでもアイデンティティは自身が受けた日本の教育にあるという。今でこそ歌詞の中でも、日本語とフランス語、英語を自由に操ることができるが、彼女は当時を振り返り、「カオスを味わってきた」と表現した。

フランスに移り住んだときは、フランス語も英語も全然わからないし、孤立したことを覚えています。断絶感を味わったなあ。そんなときは、学校の音楽室でピアノを弾いて、何かある度に音楽に救われてきました。日本の学校って、よくも悪くも先生が生徒をすごいケアする。クラスのみんなで行事を頑張ろうみたいなのもあるし。でもフランスは個人主義。教室は授業ごとに移動だし、各自頑張ろうって感じで一見冷たいんだけど、個人を尊重するんです。

異文化の中で孤独と向き合い、彼女が気が付いたこと。それは「世界には結局“個人”しか存在しない」ということだった。アジア人だという理由から差別されたこともあったという。しかし、世界中のどこへ行っても差別的な人はいる。同じように、差別をしない温かい人もいる。社会で生きる人間はみんな、社会以前に自分自身でしかない唯一無二の“個人”なのだ。

世界にはさまざまな国や社会、言葉があって、一人ひとりは“個人”でしかないんです。だから、自分と違う考え方があるのは当たり前。だからこそ、私は目の前の人が何を考えているか知りたいと思います。

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「違いを受け入れる」ことが何よりも大事

国や人種、宗教の違いがあっても地球に存在する70億人は、それぞれ全く異なる人生を送っている個人にすぎない。生きるうえで、何よりもそのことを実感していたいとマイカさんは強調する。この考え方は、社会に対するスタンスでも一貫している。

人はよく「右」だとか「左」だとか、あの国の人はどうだとかカテゴライズしてしまう。言葉の持ってるイメージが先行している気がして。そうすると、世界の見方がとても狭くなる。どちらかを強く主張して対立するんじゃなくて、まずはそれぞれ考え方の違いを受け入れるだけでいいと思うんです。「違う」ということを恐れなくていい。それが多様性なんじゃないかな。

とはいえここ日本でも近年、ヘイトクライムやハラスメントの問題が紛糾し、どこか不寛容な雰囲気が漂っている。そんな時代に私たちの頭を悩ますのは、「不寛容にも寛容になるべきか?」「多様性を認めない人たちをも受け入れる多様性は必要なのか?」というとても難しい問題だ。

この質問を投げかけると、彼女はこう答えてくれた。

うーん、相手が違いを受け入れないときにどうするかということですよね。うまく語れないし、答えが出ない問題なのですが、やっぱり相手を見下すとか、自分たちの方が優れているとかは、ちがう。「違いを受け入れる」ことが共存するための大前提のルールかもしれないですね。

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今の政治は、人々に対して不誠実なことが多いと思う。でも「右翼だからダメ」「ヘイトするから人としても最低」みたいに単純なカテゴライズでジャッジしてしまうと、ただ分断しかもたらさない気がするんです。たとえば、「あの人のことは普段は支持してないけど、あのときのあの発言はいいよね」とか「政治的イシューは合わないけど面白い人だよね」とかそういう風に、人格否定じゃない仕方で相手を見たいなと私は思います。

思想とかスタンスは違っていても、みんないい未来に向かってほしいと願ってるはずだと思っていて。価値観の違う人を拒否するんじゃなくて、まずは話してみたらどうかな。

あいつ嫌いだけど、私の好きな曲で踊ってる!

多様な人間が同じ場所で生きるために大切なのは、自分の意見を誇示したり対立を煽ることではなく「他者と同じ部分を見つけること」である。そして、音楽にはその力がある。

世の中には、お互いが相容れないと思うような関係性もたくさんありますよね。でも、音楽を前にそれはまったく関係ない。私たちは価値観の違いを越えて、同じ音楽を噛みしめて踊ることができます。自分と誰かの間に同じ部分が見つかることも、音楽の楽しさだと思っています。「あいつ嫌いだけど、私の好きな曲で踊ってる!」っていうドキドキ。

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みんな違うけどみんな同じ」。私たちは、この平凡で当たり前の言葉を共有することから始めなくてはいけないのかもしれない。過度なカテゴライズが分断をもたらし、個人が埋没していくこの社会で他者と共に生き、価値観の相違や多様性を認め合うために。

そしてこんな時代にも、音楽は私たちのすぐ側で「一緒に聴こう」「一緒に踊ろう」と呼びかけ続けている。心を閉ざしていた学生時代のマイカさんが音楽室で救われたように、音楽が私たち人間に与える影響は計り知れない。言葉を介して、そして音楽を介して、私たちは一度断絶を感じた他者とも再びわかり合い、共に喜びを感じることができるのだ。

「ただずっとそこに溺れていたい」と語る彼女の言葉にも、音楽への愛が溢れていた。

人間死ぬから、最後は。みんなで生きてるということを引き受けて、なるべくハッピーな時間が多い方がいい。私は、自分が感動した音楽をそのまま人に渡せたらハッピーです。

マイカ ルブテ

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THE M/ALL

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「音楽」「アート」「社会」をひとつに繋ぐ”カルチャーのショッピングモール”、「THE M/ALL」が渋谷で初開催! 「MAKE ALL(すべてを作る)」のマインドで、この社会をいまより少しでもマシなものにするために。クラウドファンディングを通し本イベントの無料開催決定。

「音楽xアートx社会を再接続する」をテーマに、ミュージシャン&DJによるライブ、アートと社会問題について各分野の若手クリエイターや専門家が語り合うトークセッション、会期前日から会場に滞在するアーティストがその場で作品を作り上げていくアーティスト・イン・レジデンスなど、さまざまな企画が4つの会場(WWW、WWWX、 WWWβ、GALLERY X BY PARCO)をまたいで同時進行します。

<WWW / WWW X / WWWβ>

2018年5月26日(土)

OPEN 15:00 / START 16:00

<GALLERY X BY PARCO>

2018年5月26日(土)~5月27日(日)

OPEN 15:00 / START 16:00

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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