5月26日(土)に東京・渋谷で「音楽×アート×社会をつなぐ都市型フェス」が開催される。「Make All(すべてをつくる)」というメッセージ、そして「カルチャーの集まるショッピングモール(Mall)のような場所」という意味が二重に込められたイベント名は『M/ALL(モール)』。 クラウドファンディングが目標に達成し、すでに無料開催が決定している。
イベントに向け『M/ALL』の運営メンバーや参加アーティストに取材をしていく連載の第5弾として、今回Be inspired!は、韓国出身で大阪在住のラッパーMoment Joonさんにインタビューを行なった。
韓国、アメリカ、そして日本という多様な文化背景を持つMomentの歌詞は、現代社会で生きる上で避けられない葛藤や心情を包み隠さず表現している。その理由を「“自分に素直であろう”という芸術をやる以上の義務」とまで言い切るMoment。彼の音楽、そして社会に対する思いとはーー。
ーなぜ今回のイベント『M/ALL』に出演しようと思ったのですか?
社会的発言をタブー化したりあえて政治の領域だけに限ろうとしたりする日本で、こういうイベントがあることにすごい興味を感じてぜひ出演したいと思いました!
ー自己紹介もかねて、日本でラップを始めた理由を教えてください。
最初から音楽をやるつもりで日本に来たのではなく、 2010年に留学生として日本に来て、生活をしていくなかで自然に音楽するようになりましたね。途中で韓国に帰国して兵役についたり、帰って来てもっと活発に活動を続けてアルバムを出したりもしました。けど、やはり自分の音楽の根底にはいつも「外国人・留学生」というある意味で特殊で弱い立場から見えてくるもの・感じるものをどうしても表現したいという願望があったと思います。
留学生出身の社会人や他の外国人の知り合いを見ても、自分ほど日本社会に対して感じること・考えることを伝えられるプラットフォームを持っている人がいないので、最近はそういう人々の分まで頑張ってやっていかなきゃなと思いますね。日本や日本の常識だけが唯一ではなく、他の見方や生き方もあるんだよと。
ー曲作りで心がけていること、目指していることは何ですか?
芸術を使って具体的な事案について発言することは、すごく価値のあることだとは思いますが、下手うったらダサくてシュールになることが多くて、出来るだけ避けようとしています。ぐだぐだファクトや意見を並ベるだけだったら、音楽じゃなくてちゃんと論理を展開してる文章を読んだ方が良いでしょう。
なので僕は曲で時事問題などについてコメントすることは極力避けてますね。その代わりに、自分が感じたことを述べています。ただニュースで流れる時事問題としてではなく、実際に影響を受けて変わっていく自分の人生と心を歌って、お客さんにそれを一緒に感じてもらえれば、自分の役割を果たせていると思います。
ーラップの歌詞に盛り込んだ具体的なエピソードを教えてください。
①『Dog Tag』–SoundCloud
昔の曲ですが、徴兵されて韓国の軍にいた間に作った『Dog Tag』という曲があります。「Dog Tag」とは軍人たちの認識票のことですが、軍隊で経験した非人間的な待遇、自殺未遂の経験、射撃と武器の話など、日本では想像できないような軍隊の話について歌った曲です。
自分にとっては辛かった時期の証明写真みたいなものですが、日本のリスナーにとっては軍のいう組織、日本での徴兵制や平和憲法などについて考えるときの一つ参考になったら嬉しいと思って作りました。
②『Bathing Abe』– SoundCloud
『Bathing Abe』という曲はパロディです。SEALDsのデモの時に、自分も声を上げたかったのですが、単に真面目に批判したって面白くないしみんながやってることと変わらないと思って、こんだけ批判されてるのにそれを無視して「I don’t give a fuck」をする安倍首相ってある意味ヒップホップじゃないか?と思いついて。
もし安倍首相がラッパーならこんなこと言うんじゃないかなと考えて作った曲です。彼の祖父の岸信介の話や、戦争や過去に対する彼の態度、改憲に至るまで、彼ならこんなことを喜んで自慢するだろうなと思ったことを歌詞に取り込みました。
③『マジ卍』–Twitter
最近作った曲で『マジ卍』という曲があります。まだ正式には配信していませんが。三浦瑠璃のスリーパーセル発言から、今の日本が本当にやばいなと感じ、その時の最適の言葉って「マジ卍」じゃないかと思って。自分で腹立ってることを色々話して、皆を挑発してみたいと思った曲です。
ーなぜ社会的・政治的なことを歌詞に入れて歌うのでしょうか?
入れたいから入れるとか、入れようとして入れるとか、それ自体が変だと思います。逆に、みんななぜ社会や世界の出来事と離れた歌ばっかり作れるのか、不思議ですけどね。社会や世界に興味を持たなくても良い生活が出来るように頑張ってる政府のお陰か、それともみんな人が良すぎて順応することに対して何も感じないのか分かりませんが。
僕の場合、幸か不幸か、日々そういうものを感じてます。いや、その問題を「生きて」ます。わかりやすい差別だけではなくて、文化の違いから生じる人と人の心の溝、国家権力によって崩れる生活など、逃げたくも逃げられないものが自分の生活に入って僕を傷つけたり、泣かせたりします。
だから僕はそれについて歌うだけです。「自分に素直であろう」という芸術をやる以上の義務だと思います。
ー「素直である」ということは勇気のいることかもしれません。どこからその勇気は出てくるのですか?
実は勇気はないですが、「どうしてもこれを言わないと死にそう」という乾きと、それを言った時に、それを言いたくても言えない人々の顔を見ると、勇気なくてもやり続けるようになりますね。
ー日本ではSNSなどで「音楽に政治を持ち込むな」という批判的な文言をよく聞きますが、どう思いますか?
僕の歌詞ですけど、「大阪、池田、井口堂 グリーンハウスの25号」「文句あんなら会いに来い もんくあんなら会いに来い」。
THE M/ALL
「音楽」「アート」「社会」をひとつに繋ぐ”カルチャーのショッピングモール”、「THE M/ALL」が渋谷で初開催! 「MAKE ALL(すべてを作る)」のマインドで、この社会をいまより少しでもマシなものにするために。クラウドファンディングを通し本イベントの無料開催決定。
「音楽xアートx社会を再接続する」をテーマに、ミュージシャン&DJによるライブ、アートと社会問題について各分野の若手クリエイターや専門家が語り合うトークセッション、会期前日から会場に滞在するアーティストがその場で作品を作り上げていくアーティスト・イン・レジデンスなど、さまざまな企画が4つの会場(WWW、WWWX、 WWWβ、GALLERY X BY PARCO)をまたいで同時進行します。
<WWW / WWW X / WWWβ>
2018年5月26日(土)
OPEN 15:00 / START 16:00
<GALLERY X BY PARCO>
2018年5月26日(土)~5月27日(日)
OPEN 15:00 / START 16:00
※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。