「世界の大きさはどれくらい?」
そう聞かれたら、あなたはどう答えるだろうか?想像ができないくらい大きいと思う人もいるだろうし、そもそも想像したことのない人もいるだろう。しかしその規模を自ら確かめてみようとした少年がいた。イギリスに住む9歳のトビー君は、手紙というツールを使って、“世界とはどんなものであるのか”自分なりの答えを導き出したのだ。
世界193ヶ国、計1158通の手紙を出した「9歳の少年」
ニュージーランドに手紙を書いてみたい!
すべてはこの一言から始まった。当時5歳だったトビー君は、両親から「仕事が忙しく夏休みの休暇が取れない」と告げられ、家族での旅行を諦めていた。しかし彼はその事実にショックを受けるのでも、わがままを言って両親を困らせるのでもなく、代わりに「A Letter to New Zealand」という一冊の本を読むことにしたのだ。この本には、イギリスから出された一通の手紙がどのような“旅”を経てニュージーランドに届くのかについて書かれていた。トビー君はこの本に刺激を受け、すぐにニュージーランドに手紙を書くことを決意したのだ。(参照元:Writing to the World Facebook)
最初はニュージーランドに住む知り合いに手紙を送ったが、返事がすぐに来たことに嬉しくなり、他の国へも手紙を出してみたいと野望を抱く。そしてその気持ちに応えるべく、母のザビーネさんがFacebookを使って文通相手を募集し、今では国連加盟国の193ヶ国すべて、計1158通の手紙を出すことに成功した。(2017年6月現在)年齢性別問わず、9歳になる今でもほぼ毎日彼は手紙を送っている。(参照元:Writing To The World)
彼だけが知る「おいしいティラミスの作り方」や、「日本の特別な文化」
「僕が手紙を書く目的はとにかく世界を知りたいからだよ。彼らの歴史はどのようなものなのか、普段はどんなものを食べているのか、学校は楽しいのか…とにかく僕が知らない色々なことが知りたいんだ」
そうトビー君は話す。(引用元:Writing To The World)その好奇心に応えるかのような返信が彼のもとには日々届けられている。例えばアルジェリアに住む少年からは「僕の国にはこんな動物がいるよ」と絵付きの手紙が送られてきたり、イタリアのお菓子好きからは秘伝のおいしいティラミスのレシピが書かれた手紙が送られてきたり、日本に住む33歳の女性からは花見や温泉といった彼女の視点から見た日本独自の文化について書かれた手紙が送られてきた。もちろんトビー君も自分の街の歴史やおすすめ料理のレシピ、文化について綴り彼らに返事をした。
人々は互いを理解し合うことで、もっと世界を良くできると思ったよ。(引用元:Yahoo!オーストラリア)
これまでに受け取った手紙の中にはローマ法王やウィリアム王子からのものもある。もしかしたらトビー君はインターネットの検索では知り得ないリアルな情報を手にしているのかもしれない。
一通の手紙が知らせた「悲惨な世界」
実はすべての手紙がトビー君をわくわくさせるわけではない。アフリカの南スーダン共和国から受け取った手紙は衝撃的なものだった。その手紙の送り主は南スーダンで人道支援をしている人からで、ここに住む人々は切手を買うお金すらないため、郵便のシステム自体がないということが綴られていた。また他にも好きな食べ物を考える以前に、貧困のため食べること自体が難しい人々がいること、政府の支援が不安定なため洪水などの被害に苦しみ続けている人がいることを手紙により知ったのだ。そこでトビー君は彼らのためになにかできることはないかと考えた。その結果、食べ物やテントなど生活に必要なものが一式入った「シェルターボックス」という箱を買うための寄付活動を開始した。(参照元:JustGiving)
現在までに3040ポンド(約42万円)が集まり、これらのお金はシェルターボックスを買うための資金として全て慈善団体に寄付されている。
「トビーが多くのメディアに取り上げられることで世界の状況を知る人が増え、たくさんの人が寄付に協力をしてくれました」と、母ザビーネさんは語る。トビー君が興味を持って自ら動き、導き出したアイデアはこれまで知られているようで知られていなかった世界の問題にスポットライトを当てたのだろう。(引用元:Writing To The World)
世界の大きさを決めるのは、「あなた自身」
世界にはまだまだ自分の周りの状況を知ってもらいたいと思っている人がいるはずなんだよ。まだまだ“友達候補”はたくさんいるんだ。(引用元:Yahoo!オーストラリア)
そう語る彼は、手紙を書いていくことである大きな発見があったそう。それは、「世界は自分が想像するのと同じくらいの大きさで、実際にはそれほど大きなものではない」ということ。(引用元:The Telegraph)
これは世界の人と自らコミュニケーションをとるトビー君だからこそ言えることだろう。その言葉を言い換えると、私たちは自分の思い込みによって世界を小さくしたり、可能なことも不可能にしているということでもあるのかもしれない。インターネットや誰かからの情報ではなく、自らが動いて自らが知る。それによって自分なりの感じ方を得て、誰にも真似できない新たなアイデアが生まれるのだ。
今、トビー君は「他国からの手紙の内容が本当なのか」を確かめるために、手紙のやりとりがあった国々に訪れているそうだ。もちろん手紙を出すことも続けている。その手紙が届かなくとも返事を待ち、ボロボロになった手紙がトビー君のもとに到着したときには、その手紙がどれほどの人の手を経て届いたのか実感できるという。(参照元:The Telegraph)もしあなたが何かに興味を持っているのなら、彼のようにどんどん踏み出してみるべきなのだ。自分の可能性を広げられるのは誰でもない、自分自身なのだから。