ミャンマーで拘束された久保田徹の早期解放を求めて。北千住BUoYで行われたイベントレポート

Text: Moe Nakata

Photography: 板倉勇人

2022.9.20

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 2022年7月30日、国軍が政権を握るミャンマーで国軍への抗議デモを撮影していたドキュメンタリー作家の久保田徹(くぼた とおる)が拘束された。彼の拘束から約1ヶ月が経った8月28日、北千住BUoYにて久保田の早期解放を求める活動として彼の過去作品の上映会が開催された。雨天のなか、BUoYには約54名が来場し、上映後には久保田の友人・仕事仲間・取材対象者などが登壇。彼の人柄や経歴、さらには「ドキュメンタリーの本質」について話すオープンディスカッションが開催された。
 主催は、以前NEUTで取材した20代のクリエイターたちが集まるコミュニティハウス「F/Actory(ファクトリー)」。久保田はファクトリーの立ち上げにも参加し、新宿区神楽坂で仲間と共にシェアハウス生活を送っていた。
 上映会では、森友学園問題や入管・難民問題に関して久保田が制作した作品が上映され、彼の活動の歩みを知るとともに、彼が今まで行ってきた取材の重要性や映像の価値と重みを感じる時間となった。

【実際に上映された久保田徹の作品】

All I want is the Truth:「森友学園問題」で夫を亡くした赤木雅子さんの今
共同製作者 : ドキュミーム

Adnan Lost in Korea

Memory of Ushiku
共同製作者 : ドキュミーム

 「久保田くんに出会ったことで、いろんな人と出会えるきっかけができた、生活が豊かになった」と上映後に語った赤木雅子(あかぎ まさこ)。「森友学園問題」で夫を亡くした彼女は取材対象者として久保田と出会い、プライベートでも会う間柄になったそうだ。彼は状況が変化したときだけでなく、普段の生活の視点から取材を行っていたそうだ。これには久保田の「一緒に作品を作っていく姿勢」や「社会問題と生活における問題に大小はない」という考え方が反映されている。
 久保田の大学時代の先輩として映像制作を行っていた家坂徳二(いえさか とくじ)は久保田の大学時代の活動からフリーのドキュメンタリー作家になるまでを語った。久保田は高校時代からミャンマーに関心を寄せていたようだ。大学時代、映像制作を始めてから今まで、彼は「遠い国のことを身近に感じてもらうにはどう伝えれば良いのか」という永遠の課題に向かって奮闘し続けていることが分かった。

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 “現場に行くことの意味”について私たちに語りかけたのは、久保田と同年代で同じくドキュメンタリー作家として活動している小西遊馬(こにし ゆうま)。彼は取材中、自身の無力感を取材対象者に相談すると「現場に来てくれたことで、世界において自分たちが忘れられていないことを知れただけで嬉しい」という言葉をかけられたそうだ。辛い生活のなかにいる子どもでも、ボランティアの人々が愛を持って接してくれた記憶があればそれが必ず未来を生きる糧になる。小西と同じような思いを持って、久保田も現場に通い続けているのだろう。参加者からは「現場で感じた強烈な感情や生々しさを作品として完成させる間に消えないようにするためにはどうすれば良いのか」といった制作側に関する質問も投げかけられた。
 最後のオープンディスカッションでは、昨年ミャンマーで拘束され1ヶ月後に解放されたジャーナリストの北角裕樹(きたずみ ゆうき)が登壇。実際にミャンマーで拘束されたときの生活環境や裁判の状況について語った。また、「久保田の解放を求めて世論が盛り上がることがどれだけ効果があるのか」という質問に対して「現実を分かってもらうことが大切。彼だけでなくミャンマーで残虐行為が起こっていることを世間の人に知ってもらって忘れないことが大切」と回答した。

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 上映会とオープンディスカッションに加えて、会場ではファクトリー代表の筒 | tsu-tsuによるドキュメンタリーアクティングが行われた。これはファクトリーで偶然録音されていた音源をもとにした作品で、筒 | tsu-tsuを含む3人の会話が進んでいく。筒 | tsu-tsuは彼自身を演じ、他2人の声は2つのスピーカーから流れる。彼がスピーカー2台と対話を行っていくような図ではあるが、会話の内容はとても日常的だ。このパフォーマンスにはシェアハウスに住んでいた久保田の音声も登場し、彼はお風呂の熱さに文句をつけている。ドキュメンタリー作家としての久保田とは異なる、プライベートの久保田を垣間見ることができるパフォーマンスとなっていた。

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 仕事とプライベートの2軸から久保田を知り、報道についても学ぶことができた同イベント。ニュースで流れる「久保田徹」ではなく、同じように生活を送っている一人間としての「久保田徹」を感じることのできる貴重で充実した空間となっていた。
 久保田の早期解放を求めるほかに私たちができることは、彼がミャンマーから伝えようとした現実をニュースで追うことだろう。さらに久保田が制作した作品もインターネット上で見ることができる。自ら調べ、それを人に伝えることで認知は広がり、彼の活動への貢献と繋がるのではないか。

現在も拘束が続いている久保田徹に関して、ファクトリーのアカウントからも情報を発信している。2回目のディスカッションイベントも10月中に行う予定。
https://www.instagram.com/factory_tokyo/

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